棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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やっぱりこういう推理系って難しい……;


推理せよ

宿の事件の報せを受けたのはクロームだけではなく、八本指の一網打尽作戦に加わろうという蒼の薔薇の内ガガーランとラキュースも件の宿屋の前に来ていた。

 

「おいラキュース、こいつは八本指の仕業なのか?」

 

「どうかしらね……」

 

包囲作戦の矢先にこの騒ぎ、無関係とは考えにくいが彼らの仕業にしてはいささか不自然な点も見受けられる。一体犯人の目的はなんだろうかと悩んでいると、後方の野次馬がにわかにざわめきだす。

二人の視線の先、群衆達よりも背の高い鎧兜が遠目からでもわかる巨体と威圧感を放ちこちらに近づいてきていたのだ。野次馬達は慌ててその人物の進む先を空けていく。男は近くで見ると一層大きく、仲間の中でも大柄なガガーランと同じくらいだろうか。傍らには対照的な雰囲気の薄桃色の美女が控えている。

 

「あ、あの……こちらは今封鎖されていて……」

 

独特の威圧感に縮み上がりながらも憲兵がなんとか前に出て男を引き留めるようとすると、

 

「すみません、通してください」

 

大男の後ろから人混みを掻き分けて、見知った人物が現れた。

 

「クローム公!?」

 

「どうしてこちらに……?」

 

思わぬ人物の来訪にラキュースのみならず憲兵達も驚愕する。

 

「先ほど部下から報告を受けまして、調度近場にいたもので様子を見にきたんです」

 

「なにもあんたが直接来ることはないだろうに」

 

「ですが、やはり自分の目と耳でちゃんと確認しておきたくて……。あ、決して皆さんを信頼していないわけではないんですよ?」

 

失言してしまったと慌ててフォローを入れるているようだが、ラキュース達はそんなことよりも気になることがある。

 

「まさか一人で来たのか?」

 

「ペシュリアン殿達は出払っていますが、一応護衛の方を急遽頼みまして」

 

チラリと傍らに立つ濃紺の鎧の大男と薄桃色の美女をクロームは見やる。

 

「ラキュース殿達もすでに耳にしておられると思いますが、こちらはつい最近アダマンタイトに昇格なされた『とむらいの鐘(トーテン・グロッケ)』のお二人です」

 

彼の口から明かされた二人の冒険者の名にざわっと野次馬達が騒ぐ。

 

「とむらいの鐘!?」

 

「エ・ランテルをアンデッドの軍勢から守ったあの!?」

 

「なんでここに!?」

 

 

 

「え、じゃあ貴方達が……!?」

 

言われてみれば確かに二人の容姿は噂で聞いた特徴と合致するし、その首から下がる冒険者プレートは自分達と同じアダマンタイトだ。

 

「ウルリクムミ殿、アルラウネ殿。こちらが王都を代表するアダマンタイト級冒険者、『蒼の薔薇』のお二人です」

 

クロームに紹介され、ラキュースはすぐさまピシリと背筋を伸ばす。

 

「『蒼の薔薇』のリーダーを勤めるラキュースです。お噂はかねがね聞いています」

 

「“巌凱”ウルリクムミだあああ、会えて光栄だラキュース殿おおお」

 

互いに固く握手を交わすことで、ウルリクムミが第一印象だけでも良識的な人柄だとラキュースにも理解できた。

 

「ガガーランだ、よろしくな」

 

「“架綻の片”アルラウネ……以後お見知りおきを?」

 

こちらも握手するが、ガガーランはアルラウネの耐久力を考慮してか彼女にしては優しく握る。

 

「でもちょうどよかったわ。これから現場検証をするところなんだけど、出来ればクローム公の意見も聞きたいの」

 

彼の頭脳ならば犯人の目的だけでもわかるかもしれないと、ラキュースはダメ元で懇願してみる。対するクロームは思わぬ申し出にしばし悩んだ様子だったが、少し宿屋を見上げてから控えめに頷いた。

 

「わたくしでよろしければ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宿の出入口はウルリクムミには小さすぎたので、彼だけは宿の前に待機してもらい、ラキュース達は部屋の惨状を一瞥してから眉をしかめる。

 

「………これはひどいわね」

 

壁の至るところには焦げ跡が残り、扉には大きな爪痕が刻まれた挙げ句に切り裂かれた衝撃で外れかけ、下側の蝶番が一つしか繋がっていない。今にも千切れそうなギリギリの状態でブラリと揺れていた。

焦げているということは炎の魔法を使った可能性が高く、つまり犯人は魔法詠唱者かもしれない。

 

「では当時の状態を詳しくお聞かせくださいませんか」

 

しかし現場を見ただけではなんとも言えないので、クロームはまず宿の主人に事情聴取を行うことにした。

 

 

 

 

第一発見者は隣の部屋に止まっていた旅商人で、彼が部屋で金貨を数えていた時のことだったという。

最初の異変は扉を乱暴に開ける音が聞こえたのだが、ここには粗暴な冒険者もよく泊まるのでその時は然程気にとめるほどではなかった。

問題はそのあとで、木を斧で叩き割るような大きな音が響き、喧嘩かと思って部屋から扉を僅かに開けた商人がおそるおそる隣を覗けば、扉が破壊されていて、部屋を見ればこの有り様だったという。

 

ただの物取りならここまで痕跡を残すとは思えない。主人によれば宿泊者が外へ出ているところは見ていないそうなので、誘拐の線が強いとのことだ。

 

 

 

同意するラキュース達の一方でしかし、クロームだけは腑に落ちない面持ちで部屋の中と扉を何度か見比べている。

 

「………あの、最初に扉を開ける音はしたんですよね?」

 

「はい」

 

「それ以前に物音は?」

 

「いえ、しませんでしたが」

 

もう一度だけ商人の言葉を確認したクロームは、眉間に皺を寄せて首を傾げている。

 

「クローム公?」

 

「なにが気になるんだ?」

 

こういう時の彼は何か不審な点に気づいた場合であるとラキュース達は知っている。彼はしばし躊躇いがちに俯いていたが、意を決したのかラキュース達に向き直る。

 

「あの、あくまで私の見解なんですが……発見者の証言通りだとすると、部屋の状態に()()()()()がいくつか見受けられるんです」

 

クローム曰く、これだけ部屋が荒らされていたのなら、もっと騒がしくなっているはずなのだ。しかし証言から推測される音源は扉に刻まれた爪痕のみで、それ以外の物音はしなかった。

その点にずっと引っ掛かりを覚えていたらしい。

 

ましてやこの焦げ跡。

発見した時間から逆算した場合、発見者が扉を破壊する音を聞いたと同時に部屋の中を見たのだとしたら、まだ火が燃えていそうなものなのに消火されていた。明らかに部屋の惨状に対して目撃者の証言が矛盾している。つまり部屋に火が放たれたのは、大きな音よりもっと前ということになる。

 

「そうなると、犯人は実行の際に“沈黙”でもかけていたのかしら?」

 

「いえ、それでしたら最後まで物音が出ないと思われますが?」

 

アルラウネの指摘通り、単純に魔法で物音を消していただけだとしたら、最後の最後で詰めが甘いことになる。そんな音もなく忍び込めるスパイがこんなわかりやすいことをするだろうか?

 

なにか矛盾を解消する手がかりになりそうなものがないだろうかと再び部屋を見渡すクロームだったが、ふと床に視線を落とせば白地に緑と黄色の柄が入っている陶器製のコップの破片が散乱していたことに気づく。

 

(………?)

 

クロームはそれらの破片になぜか違和感を抱き、じっと欠片の一つ一つを観察していくとあることに気付いた。

 

そのコップは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「主人、つかぬことをお聞きしますが、こちらのコップは宿のものですか?」

 

「いえ、多分客の持参品ではないかと」

 

目線は破片に向けたまま、主人に再度確認するクロームはその場に腰を下ろす。

 

「………あの、宿泊者は一人だけなんですよね?」

 

「そのはずですが」

 

「クローム?」

 

「何か気になることでも?」

 

執拗に質問するクロームに戸惑うラキュース達を尻目に、彼はポケットから白い手袋を取り出して両手に嵌めると散らばる欠片を拾い集めだした。

 

「クローム公、何を!?」

 

破片で指を切るかもしれないからと止めようとするラキュースだったが、何かを察したアルラウネが彼女の肩を抑えて制止させる。

真剣な眼差しで、皹の形と柄の色ごとにまるでパズルのようにクロームは一心不乱に欠片を並べていく。ある程度動かすと平面的に並べられたそれらは、二組のコップの展開図のような形になった。

 

「やはり……!」

 

クロームはそれらを一瞥して確信したように呟き、不思議そうに欠片を見比べるラキュース達に向き直る。

 

「これは一体……?」

 

「こちらは色だけを変えた二揃いの食器で、とある領地で夫婦や恋人、同性の友人同士がお互いの私物を揃えるという遊びが流行っていたという噂を耳にしたことがあります」

 

食器の破片の模様が合わず、一般的なコップの大きさに対していやに破片が多いことから、クロームはその秘密に気づいたらしい。

 

「それがなんだっていうんだ?」

 

「一人旅の者がわざわざ食器を二組所持するでしょうか?」

 

指摘されハッとする。

言われてみれば確かに、複数人ならばまだしも旅人が一人なら食器類は明らかにかさばる。

なのに二組あるということは…

 

「ここから考えられるのは、この宿泊客には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です」

 

「え、でも実際に宿泊したのは一人だけだったのよね?」

 

ラキュースがチラリと主人を見れば肯定の頷きで返す。宿泊していたのは質素な身なりのメイドで、そこそこ大きな荷物を背負っていただけで連れはいなかったという。

しかしクロームの推測通りなら、なぜそのメイドは一人だけで宿をとったというのだろうか。

 

「宿代をケチるためか?」

 

「いえ、その線はないでしょう」

 

いくらなんでも手間がかかりすぎるし、非合理的であるとクロームは否定する。

 

ならば何故?

 

 

 

 

「………あるいは、その連れが()()()()()()()()()だとしたら?」

 

「人前に出せない?」

 

扉に刻まれた爪痕を指でなぞるクロームに、ラキュース達は首を傾げる。

この爪痕は明らかに人間技ではなく、まるで大型の獣がつけたような鋭利さだ。極めつけは煤でついたであろう足跡で、靴跡にしてはなだらかで素足にしては指先も指紋もない。

 

「そう、例えば()()()()()()()()()()()()としたらどうでしょう?」

 

ここから導きだせる可能性、それこそがクロームが出した答えである。

クローム自身、突拍子もない考えだと自覚してはいるが、そうだと考えるといくつかの矛盾は消化される。

一部の魔具の中には悪魔を服従、あるいは召還させるものもあると聞いたことがある。そのメイドもなんらかのアイテムかタレントによって、この人外を従えていたとすれば辻褄は合う。

しかもわざわざ揃いの食器を購入するあたり、この両者はかなり親しい間柄であることが伺える。

 

「え~と、つまりどういうことだ?」

 

ガガーランは今一つ理解できていないようだが、ラキュースとアルラウネはクロームの言わんとしていることをおおよそ理解できたらしい。

 

「おそらくこの爪痕をつけた人物と、焦げ跡を残した人物は別人ではないでしょうか」

 

時間軸から考えるに爪痕の人物はなんらかの事情があってたまたま宿泊客と別行動をとっていて、そこを誘拐犯に点かれてしまったのではないだろうか。

宿泊客を連れ去ったのは先に侵入した焦げ跡の犯人で、おそらくこれらの惨状はわざと残したと思われる。いわば爪痕の人物を誘い出すためのメッセージだ。

 

しかしまだ疑問は残る。

 

「八本指の件があるのに、こんな悪目立ちする必要があるのかしら?」

 

ラキュースの指摘通り、ただでさえ王都は八本指拿捕のために警戒を強めている。そんな中、下手に騒動を起こせばすぐ捕まるのは明白だ。

 

(……いや、待てよ)

 

逆を言えば、犯人にとってこちらこそが優先すべき事態で、そちらが些末事だとしたら?

見方を変えると、実行犯はそれだけの戦力を有しているかもしれない…?

 

(これは、まずいかもしれない)

 

部下達に言えば考えすぎだと一蹴されていたかもしれないが、元来神経質な彼はどうしてもその可能性を捨てきれない。

 

「すみません、私は浚われたメイドの捜索に当たってもよろしいでしょうか?」

 

もともとクロームがここへ来たのは自分の目で采配を確認したかっただけで、直接指揮するわけでない。別に彼が不在でも八本指拿捕には問題ないので、自由に動くことは可能なはずだ。

それに幸か不幸かアダマンタイト級冒険者である『とむらいの鐘』の二人もいる。彼らならば護衛としても十分な戦力になる。強いて懸念があるとすれば、ギルドを通さずに依頼してしまうことになるわけだが、状況が状況であるし非常事態でやむなしということにすればギルドも大目に見てくれるだろう。

 

「いや、別に構わないけどよ……」

 

しかしガガーランとラキュースは戸惑いがちに互いの顔を見合わせる。

いつものクロームならばこの程度の事件には必要最小限の戦力で抑えそうなものだが、なぜこの事件に対してそこまで拘るのかが理解できないのだ。

クローム自身も二人の反応は予想できていたのか、一度現場を見渡してから口を開く。

 

「あまりこういう言い方はしたくないのですが………『勘』とでも言えばいいのでしょうか」

 

それは臆病なほど慎重派な彼らしくない理由で、一同は唖然としてしまう。

しかしなぜかそうしなければいけない気がするのだと、クロームはなおも食い下がる。これはどうしても譲る気がしないと悟り、ここで先に賛同したのはアルラウネだった。

 

「わかりました……まず御大将とご相談してみても?」

 

「あ、そうでした! 私としたことが、ウルリクムミ殿のご意見を聞かずに勝手に話を進めて……!」

 

自身の見落としに気付きおたおたと慌てて、いつも通りの貴族らしからぬ謙虚さでペコペコと頭を下げて謝るクロームに、アルラウネはふふふと穏やかに微笑み返す。

 

しかしラキュース達はそのやり取りを見ておや?となる。

なんだかアルラウネとクロームが、初対面の割に随分打ち解けるのが早いような気がするのだ。というより、付き合いの長い自分達よりもなんだか親しくないだろうか。

 

 

まるで、長きに渡り肩を並べてきた、盟友のような………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけなのですが……ウルリクムミ殿はいかがいたしますか?」

 

一通り説明してからおずおずと顔色を伺うクローム。かつてと相変わらず謙虚な彼の仕草に、やれやれとヘルムの下で苦笑しつつウルリクムミはその肩を叩く。

 

「水くさいことを言うなあああ! 俺達の仲であろう宰相殿おおお」

 

「ありがとうございます…! ウルリクムミ殿がいてくだされば心強いです」

 

戦友の頼もしい承諾にクロームはホッと胸を撫で下ろす。

 

 

 

しかしウルリクムミとしても今回のクロームの決断は珍しいと思う。逆を言えばそう直感するほど王都の空気が変わっているということかもしれない。

となると早急にそのメイドを探さなくてはいけないだろうが、問題はどうやってそのメイドを探せばいいのかだ。

派手な破壊に反して現場には犯人の手がかりは一切残されておらず、せいぜい魔法詠唱者が関与しているということぐらいしかわからない。

 

せめて被害者の毛髪でも残っていれば、自在法で居場所を割り出せるかもしれないが、実際に現場を目撃したアルラウネ曰く、あれだけ荒らされていたのに部屋にはそれすらないのだという。わざわざ部屋を掃除してから破壊したということは、犯人は相当な手練れかもしれない。

あまり時間をかけたくないならば、『時を止める自在法』を使う必要もあるかもしれないが、まずクロームの意見を聞くべきかとウルリクムミは彼に振り向く。

しかしクロームは真剣な眼差しで腕を組んでしばし考えこんでいた。こういう時の彼はその頭脳で現状の分析をしている最中なので、思考を邪魔しないように二人は黙って見守る。

 

時間にして数分。

答えが出たのかクロームは顔を上げ、まず二人に頼んだ

 

「すみません。ただちに()()()()()を探してくださいませんか?」

 

 

 




その頃のエ・ランテル

遠話起動


アインザック「ええ!? 誘拐された女性の捜索!?」

クローム『ただでさえご迷惑をおかけしてしまった身で申し訳ありません! 後々私の方から皆様に謝罪しに参りますので、もうしばらくお二人の助力を頼みたいのです!』

アインザック「うむ………まあ緊急事態であるならば、私のほうから他の者達に説明しておきましょう」

クローム『ありがとうございます!』

ウルリクムミ『では行って参るぞおおお、アインザック殿おおお』

アインザック「ああ、気をつけてくれ」


………


アインザック「………びっくりした!! なにをどうすれば王国の高位貴族が直々に連絡してくるんだ!?;」
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