棺の織手と不死者の王   作:ペペック

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本家六腕と違い、この三人にはそこそこ戦ってもらいますよ。


三爪華

八本指拿捕に向け各々の持ち場に待機していた突入班達。

ラナー達の指示のもと、クライムも普段は真っ白な鎧を目立たないように暗い色相に染めながら、指定された拠点で待機していた。

 

 

「え、クローム様が?」

 

そんな中、憲兵からの報告にクライムは目を瞬かせる。なんでもとある宿屋で誘拐事件があったらしく、たまたま居合わせたクロームが自ら被害者の捜索を志願したという。

臆病な彼がわざわざ前線に立って指揮するとは珍しい。だったら三人のうちの誰かが護衛に着かなければならないだろうと考えるクライムだったが、

 

「その必要はないそうです」

 

「?」

 

憲兵はクライムの行動を予想していたのか、やんわりと首を振る。

 

「なんでも、居合わせた冒険者を護衛にするそうで」

 

「え…?」

 

その言葉にクライムは目を見開いてしまう。初対面の冒険者をその場で雇うなど心配性な彼らしくない行動だ。依頼を受けたのがどんな人物なのかと聞いてみれば、なんとあの話題のアダマンタイト級冒険者『とむらいの鐘(トーテン・グロッケ)』だという。

 

アダマンタイト級ならば強さは問題ないだろうが……

 

 

(そういえば彼らの名を聞いた時、クローム様は随分狼狽えていたような気がする)

 

しかも、もし彼らが王都に姿を見せたらすぐさま自分に報告するよう厳命していたくらいである。

一体クロームは何を考えて彼らを護衛に選んだのだろう?

何か考えがあってのことだろうか?

やや釈然としないながらも、クライムは持ち場に戻ろうとするが、

 

 

 

 

 

ゾクッ

 

 

突如、背筋を走る鋭い殺気に鳥肌が立つ。

 

「!?」

 

思わず振り返るもそこにいるのは、真剣な面持ちながらも冷静に準備するレエヴン公の私兵や冒険者達しかおらず、殺気を発したと思われる人物は見当たらなかった。

 

(な、なんだ今の殺気……?)

 

まるで巨大な獣に後ろから爪を突き立てられたような獰猛な殺意。自分に向けられたものではないとわかるが、それでもなお恐ろしい。

 

……きっと気のせいだろう。これから始まる大捕物に気を張っていたから、神経がすり減っただけなのだ。そう自分に言い聞かせてクライムは深呼吸し、気持ちを落ち着かせる。

 

 

 

 

 

 

自身の足元の影が波紋を揺らしていたのに、クライムが気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八本指の拠点から離れた場所に生えていた一本の木の根元、その影から黒い水が溢れるように現れ、人の形に変わる。

黒い水……チェルノボーグは影の周りの落ち葉を退けると、取っ手のついた鉄の扉を見つける。

取っ手を握り、ギギィと錆び付いた金属が擦れる音を響かせながら開いてみれば、その先には地下へと続く階段があった。

 

「………ここか」

 

手元の地図と見比べてから冷たい声で呟き、彼女はゆっくりと階段を下りていく。

 

その表情は『無』であり、一見すると何を考えているのかわからない。しかし彼女にとってそれは己の本心を押し隠すための仮面でしかなく、その下には筆舌しがたき怒りが渦巻いている。

すぐさま主犯をなぶり殺したい欲求はあるものの、最優先事項はツアレの救出だ。まずは彼女が無事かどうかを調べなければならない。

 

(………それにしても、さっきから雑音がうるさいな)

 

地下の音が反響でもしているのか、小さいながらも耳障りな音が鳴っている。

 

最初は本当に()()()()の違和感だった。

 

一歩一歩下りるごとに雑音は大きくなり、徐々に頭を金槌で何度も殴られるように痛くなってくる。

それでも額に手を当てて歯を食い縛り続け、ついに終点と思われる階層にたどり着く。

おそらくは倉庫だったのだろう。壁の蝋燭だけで照らされたカビ臭い地下通路は薄ら寒く、その奥に扉が一つだけある。

 

扉は全開になっており、悪趣味な音色はその向こうから聞こえてくる。

頭痛で考えがまとまらないものの、なんとかチェルノボーグは神経を集中させ忍び足でゆっくりと扉に近寄づいていく。

 

 

 

「よう、来やがったなネコ女」

 

扉までおよそ五歩まで迫った時に、向こうから女の声がかかる。どうやら向こうはすでにこちらに気づいているらしく、こうなってしまえばコソコソするのも無意味と判断しチェルノボーグは中に足を踏み入れた。

 

部屋にいたのは鞭を構えた品性の無さそうな女と、前身緑尽くめの男、竪琴を構えた生意気そうな少年の三人だ。

特にチェルノボーグはその中の少年の顔に見覚えがあった。先の襲撃でクズ共と一緒に始末した一人で、確かに首を落としたはずだがなぜ生きている?

 

(いや、今そんなことはどうでもいい)

 

彼らの後方の隅、床に転がされているツアレの姿を確認する。

彼女は後ろ手に縛られ、口を布で塞がれ、声を上げられないようにされていた。チェルノボーグに心配そうな眼差しを向けていることから意識を失っておらず、見る限り大きな怪我はしていないようでひとまず安堵する。

目の前の三人を殺したい気持ちは山々だが、まずすべきはツアレを外へ連れ出すこと。その為にもやつらより早く彼女の下へたどり着かなければならない。幸いにも数本の蝋燭に照らされたこの薄暗い地下室は、彼女の自在法『影浸』の真髄を最大限に発揮できる最高の条件下にある。

まずチェルノボーグが狙うのはツアレの背後の大きな影。あそこから素早く飛び出してツアレを回収し、一旦安全なところまで彼女を避難させてやる。なんなら近くにいた王国の兵士達に保護させればいいだろう。その後すぐさま戻り、奴らの首をかっ切る。

 

頭の中で大まかな流れを組み上げてから、チェルノボーグは自在法を使おうとするが……

 

 

「っ………!?」

 

 

なぜか“存在の力”が安定しない。

その事実に一瞬だけ動揺する彼女に向けて鞭が飛ぶも、寸でのところでチェルノボーグは回避する。

 

「チッ、外したか!」

 

レイジアが苛立たしげに舌打ちするのを余所にチェルノボーグは鋭い目で睨む。明らかに自在法の発動を阻害されているのだ。

 

「貴様ら………何をした?」

 

驚きはしたが元来徒手空拳に秀でたチェルノボーグにとって、自在法が使えないことなど大した枷になりえない。

 

「前は不覚を取ったけど、今度はそうはいかないよ」

 

舌なめずりして狂気的な笑顔を浮かべるボイスは竪琴の弦を弾く指を止めない。

 

対するチェルノボーグは壁や天井を飛び回り、彼らを翻弄していく。

敵の攻撃は動きや技巧こそ場数を踏んでいるからか

それなりに優れている。しかしチェルノボーグ自身の俊敏さと耐久性を考慮するに、攻撃が当たることはないだろうし当たったところで大したダメージにもならない。

しかしチェルノボーグは先ほどよりも頭痛がひどくなっていくのを感じ、耳障りな音に脳内をかきみだされて集中できず、自身の攻撃がなかなか彼らに当たらないでいるのだ。

それによってある種の膠着状態に陥り、互いに決定打を見いだせずに苛立ってしまう。

 

こんな雑魚、この雑音さえなければ瞬殺できるというのに。

 

(落ち着け……タンポポさえ救出できれば、こいつらに構う必要はない!)

 

恐らく術の起点となっているのがボイスであろうと当たりをつけたチェルノボーグは、レイジアの攻撃を躱すと同時に壁を蹴り、最短ルートでツアレの元へと駆け出す。

 

「!!」

 

瞬きの間に人質への接近を許してしまいボイス達は焦り、チェルノボーグは怯えた目で自身を見つめるツアレへ向けて手を伸ばした。

 

 

 

 

 

しかし指先がツアレの肩に触れようとした瞬間、見えない壁に阻まれてしまった。

 

(!?)

 

硬い壁というよりは薄い膜に阻まれたような質感、ボイス達の魔法だろうかと考えるチェルノボーグを邪魔するように、ルベアのナイフが首筋に迫りくるのを察し再び距離を取る。

ザラリと腕に()()()()()()()()()()()()()()に思わず手を振り払い、まだ何か奥の手を隠し持っているのかと警戒を強めるが、ふとチェルノボーグの脳裏にある疑問が過る。

 

 

 

(………いや待て、そもそも仲間はこいつらだけなのか?)

 

 

 

この暗闇の地下室内に、ほかに出入り口がある可能性はないだろうか?

四方の壁に隠し通路はあるか?

階段に異常はなかったか?

なぜ自分が、そんな単純なことに今の今まで気づかなかった?

 

(………この音か!?)

 

この音色が集中力を掻き乱すだけでなく、冷静な判断力を低下させる効果をもたらしているのか?

ここに来てチェルノボーグは己の失点にようやく気がついた。

雑音が聞こえた時点で警戒するべきだったのに、怒りに我を忘れて堂々と正面から殴り込むなど、かつて最強の暗殺者と呼ばれた自分がなんというざまだ。

 

(不、覚!!)

 

また私は同じ過ちを犯してしまったのかと、死んでも治らなかった自分の愚かさを呪う。

 

 

頭痛から表情を歪ませるチェルノボーグに、好機と見たルベアが眼前に迫るのを見て身構える。

 

 

 

 

しかし次の瞬間、彼の身体が吹っ飛ばされた。

 

 

 

 

『!?』

 

 

石壁を砕く音が室内に鳴り響き、突然のことに一同は目を見開く。見ればルベアの身体は壁にめり込み、右腕と左足があらぬ方向に折れ曲がっている。

 

(なんだ……?)

 

チェルノボーグの攻撃ではないし彼の仲間達のはずもない。

ふと視線を向ければ、先ほどチェルノボーグが入ってきた扉の向こうに何者かの気配がすることに気づいた。

 

部屋に足を踏み入れてきたその人影が蝋燭の明かりに照らされると、上等な執事服に身を包んだ老人の姿が現れる。

見知らぬ人物の登場に硬直してしまうレイジアとボイスをよそに、老人は地下室内を一瞥してから驚愕に目を見開くツアレを見つけた。

 

彼は胸に手を当て、気品ある佇まいで彼女に問う。

 

「………助けてほしいですか?」

 

 

 




ヒーローは遅れて登場します。
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