いつも通りの朝、6時30分にセットした目覚ましの音で目が覚める。二度寝したくなる欲求を抑えながら、枕周辺にある目覚まし時計のボタンを押して目覚ましを止める。
「…ねみぃ……」
あくびを噛み殺しながら、ベッドからゆらりと起き上がる。これといって物の無い簡素な部屋の中を歩いて洗面台へと向かう。
昨夜はしっかりと寝たはずなのだがあまり調子が良いとは言えない。さっさと顔を洗ってスッキリしたいところだ。……そういや今日って雄英高校の入学試験の日だったか?…まあ、時間もまだ有るし焦る程でも無いだろ。
そう考えながら、寝室を出てそのまま洗面所へと直行し、朝の準備を始める。洗面台にある水道の蛇口を捻り水を出す。それを横目に鏡に映る今では見慣れてしまった、十数年前までとは違う自分の顔を見つめる。
今でも時たま思い出す〝あの時〟。…あれは、そう。俺がちょうど4歳の時の事だ。
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その日〝僕〟は公園で姉である、つみきと共にボールを蹴って遊んでいた。
お姉ちゃんと僕は4つも歳が離れている。それだけ歳が離れていると一緒に遊ぶ姉弟はそこまで多くないらしい。それでも、優しいお姉ちゃんはいっつも僕と遊んでくれる。僕が怪我をしたらいつも手当てしてくれて、とっても頼りになる大好きなお姉ちゃんだ。
そんなお姉ちゃんといつもの様に公園で遊んでいた。
お姉ちゃんが蹴ったボールは僕が居るところから大きく逸れて飛んでいく。僕はそれを見て取りに行こうと思い、走って追いかける。
その時、ふと足元にある自分の影が蠢いた様な気がした。そして、次の瞬間には自身の影に足を取られて、派手に転んでしまう。身体も小さかった僕は受け身も取れず頭を盛大に地面にぶつけてしまう。
──瞬間。自身の脳内に溢れ出した、見覚えのない記憶。
──それは、自身の前世の記憶であった。
伏黒恵。それが今の自分に与えられた名前。
それの意味する事を他でもない〝俺〟自身が1番知っていた。
前世で大好きだった漫画である『呪術廻戦』に登場する伏黒恵と言う人物になっていたのである。
呪術廻戦とは、主人公である虎杖悠仁とその仲間達が、人の負の感情から産まれる呪霊という化物を呪術で以て倒していくという、週刊少年ジャンプにて連載されているダークファンタジー・バトル漫画である。
そんな漫画の登場人物の1人である伏黒恵。彼は主人公を支えるライバル的なキャラであり、俺の大好きなキャラでもあった。そんな彼は十種影法術という、影を媒体にして、式神を使役することが出来るという術式を持っていた。
そんな伏黒恵になってしまった俺はやはりあのカッコいい術式を所持しているのではないかとウキウキとしていた。だって名前や見た目まで一緒なのだ。そんなの誰だって期待してしまうだろう?
なんて考えている呑気な俺に、いつの間にか公園に来ていた両親が話しかけて来る。
「お、おい!恵!?大丈夫か!?…誰か分かるか?」
「お母さんとお父さんよ!?分かる!?」
(……う、うるさい。頭打ったからか、余計に両親の大きい声が響いて、頭痛がする)
「だ、だいじょうぶだよ。…あたまうったけど、へーきだよ?」
両親を落ち着かせる為になんとか言葉を発する。それを聞いて両親はへたり込むように、すぐ側に腰を下ろす。
「「「…良かったぁ〜」」」
姉も含めて3人の声が一致する。そこまで心配だったとは、少々過保護な気もする。
「取り敢えず、恵を病院まで連れて行こう!」
「そうしましょうか」
お母さんはそう言って俺を抱っこすると、すぐさま公園の横の道路脇に停車している車へと歩いていく。それに続く様に姉と父もついて来る。
全員で車に乗り込むと急いで病院へと向かうのであった。
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病院から家へと帰る途中、車の中で寝たふりをしながら色々とあり、混乱している今の状況を整理する。
俺が転んだ後の事なのだが、前世の記憶を思い出してワクワクとしている間に、姉が両親を呼び出していたらしく、急いで公園にやって来た両親達に連れられて俺は病院で個性検査なる物を行った。
というのもどうやら、今世の世界は〝個性〟という異能力のようなモノが当たり前になった時代であるようで、その個性を発現した子供達は病院で検査を受けて、個性の調査を行うらしい。
しかし、俺の場合は違った。俺の診察を行った医者曰く、「君の個性は少々特殊であり、私達には調査の仕様がない…」との事であった。
本来、親から遺伝するはずの個性。それらを継ぐ事なく、全くの未知な個性を発現する者がごく僅かではあるが存在する。その様な者達は検査での個性の把握が難しく、はっきりと正確な物を判断する事は難しいのだそうだ。
俺はその突然変異であり、未知の個性を持って産まれたらしい。その個性は肉体にも現れていた様で、赤子の頃から背中に不思議な痣があったらしい。また、今日の診察で分かった事なのだが、肉体の能力が常人よりも少し頑丈らしい。
そして、その痣とやらが気になったので、見せて貰ったところ思い当たる物が一つだけあった。
そう、それは──
──八握剣*1の絵であった。
そうなのだ。俺の背中には八握剣の絵がタトゥーの様に黒く刻まれていたのだ。
見た目と名前が伏黒恵である事、背中に刻まれた痣が八握剣であった事。以上より、俺は自身の個性が
しかし、困った事に病院で試しに使ってみた所、影を動かす事は出来るのだが、八握剣や法輪などが出現する事は無かった。自身の個性が全く分からない……。もはや今の自身にはどうする事もできない、お手上げ状態である。
個性についてのアレコレは今の所、手の施し様が無い事なので置いておくとして、今度は今世の家族について考える。と言っても、これについては特に気にする程の事では無いだろう。前世を思い出す前の記憶もあり、とても良い人達なのであると分かっている。
記憶を思い出し、人格に少し変化が起きはしたが、それでも今の家族を大好きなのだという気持ちは1ミリたりとも変わってなどいない。
だからこそ、俺は今の
なんて齢4歳にして変な誓いを立てたのであった。
それから数日、俺は家族や周りと、前世の記憶を思い出した事によるトラブルなども一切無く、これといって変化のない幸せな日々を過ごしていた。
こんな幸せな日々がずっと続くのだと、この時のお気楽でバカな俺はそう思っていた。
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ビチャッ。と、音を立てて水道から流れ出た冷水が顔を覆う。朝の肌寒い気温と相まって、更に冷たく感じる。冷水で濡れた顔をタオルで拭う。
顔を洗った事によって、昔の事を思い出していた意識がフッと戻ってくる。
こうして時々あの時の事を思い出すが、いつもあの時の自身の愚かさに嫌悪で吐き気がする。
「…気持ち悪りぃッ………」
(…クソが。朝から最悪の気分だ。いつまで経ってもあの時の自分の愚かさが憎い。さっさと切り替えねぇとな……。こんな調子じゃ入試に支障をきたしそうだ)
自身を呪い殺しそうになるほどまでに暗い影に覆われた心を、深呼吸を行う事で鎮める。
ふと時計を見ると先程から時間が経過しており、そろそろ急がないといけない時間になっていた。
今日は雄英高校ヒーロー科の一般入試の日である。遅刻なんてしたら一生ショックから立ち直れない自信があるので遅刻しないようにさっさと準備を済まさなければならないのである。
考え事もそこそこに急いで歯を磨くと、キッチンへと向かう。そのまま昼食と朝食を作っていく。完成した昼食を弁当に詰め、鞄に入れる。
朝食を急いで食べると、昨日の夜に準備しておいた荷物を持ち、忘れ物が無いかを確認してから家を出て駅へと向かう。駅は今住んでいるマンションからは、結構近い位置にあるので何とか電車には間に合うだろう。
「………行ってきます」
「行ってらっしゃい」
行ってらっしゃい。そんな言葉が返って来る事は無かった。…ハッ、そりゃそうだ。この部屋には俺しか住んでいないんだから返事なんかある訳ないんだ。
ガチャン……。ドアが閉まる音が誰もいない部屋に響く。物寂しいリビングの机の上にポツンと置かれた、花瓶に生けられたオダマキからは、その優しい香りが漂っていた。
改稿した物です。新しい小説として投稿していきますが土台の部分や話の大筋は変わらないと思います。
ここまで読んで下さりありがとうございます。