偉大なる蛇をその身に宿して   作:ぬべし@助動詞

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第十話 地元じゃ負け知らず

 

 

 

 朝と昼の合間ぐらいの時間である11時頃。俺は八百万家で働く執事の運転する自動車に揺られながら雄英高校へと向かっていた。

 

「雄英高校までもうすぐですよ、坊ちゃま」

 

「分かりました、羊次郎さん。あと、坊ちゃまはやめて下さい。恵で良いって、いつも言ってるじゃないですか」

 

「ホッホッホ。最近、また物忘れが酷くなりましてな。次から気をつけますよ、坊ちゃま」

 

「揶揄わないで下さいよ」

 

「老ぼれの冗談はお気に召しませんでしたかな?()()()

 

 なんて、執事である羊次郎さんと話すこと数分。雄英高校の大きな校門が見えて来た。

 

 先程、病院にて担当医の先生から退院の許可を貰い、百の家に帰った後、学校の支度を済ませて車に乗り今に至る。

 

 何故、百の家に自身の荷物などがあるのかというと、それは昨日の事である。

 

 

────────────────────

 

 

 百に散々怒られた俺は、痺れた足に悶絶しながらベッドの上で百と雑談に花を咲かせていた。

 

 そんな折の事である。

 

「そういえば、恵さんに言わなければいけないことがあったのでしたわ」

 

 そう言う百に首を傾げながら続きを促すと、とんでもない事を口走りやがった。

 

「恵さんのお家の事なのですが、今まで使っていた部屋は解約しておきましたわ」

 

「……え?」

 

 突然、自身が住んでいた賃貸の部屋を解約されたと告げられた。いきなり顔面を殴られたかの様な衝撃に見舞われた気がした。

 

「ど、どう言う事だ?」

 

 流石に住む家がなくなるのはまずいだろう。というか、何故幼馴染みはこんなとんでもない事をいきなり言ってきたのであろうか。ましてや本人の承諾なく解約って酷いと思うのだ。

 

「そのままですわよ?今日から恵さんは私達と同じ家で暮らすことになるんですのよ」

 

「ですのよって……。荷物は?解約金は?どうせ解約予告なんて事してないんだろ?」

 

「今日中に荷物は全て家の部屋に運ばれますわ!解約金もしっかりと払っていますのでご安心ください!」

 

 色んな意味で痛くなってきた頭を抱えながら百に問いかけると、さも当たり前だと言うかの様に胸を張りドヤ顔をかます。

 

「最初からそう決めてましたのよ?一人暮らしは、恵さんが遠い中学校に通っているという理由からなのですから、同じ雄英高校に進学した以上マンションで暮らす必要もありませんでしょう?」

 

「確かに……」

 

 ぐうの音も出ない正論をくらい無理矢理に賃貸を解約された事を納得してしまう。

 

 結局、千蔵さん達も喜びそうだしそこまで文句がある訳でもないので、そのまま別の話題に変え雑談を楽しんだのだった。

 

 

────────────────────

 

 

 という事があり、俺の荷物は全て家に運ばれているというので、百の家に帰っていたのだった。

 

 昨日の事を思い出しているうちに雄英高校に到着したようで、校門の前で停車し扉が開く。羊次郎さんにお礼を言ってから別れ、靴を履いて相澤先生の下へと向かう。

 

 なんと驚くべきことに俺よりも酷い怪我を負っていたはずの相澤先生は既に退院しており、一足先に学校に戻り教師としての仕事をこなしていたらしい。プロとは凄いものだ。

 

 しばらく歩く事数分、職員室に到着する。

 

 朝のホームルームで色々と連絡事項があったらしく、その連絡と相澤先生から話したい事があると言われていたために、学校に来てすぐに相澤先生の下へと向かっていた訳である。連絡事項とやらは大体の予想はつくのだが、もう一つの話したい事というのが皆目見当も付かない。

 

 職員室の扉を開き、用のある相澤先生を呼び出す。

 

 すると奥の方に佇んでいたミイラの様な人物がこちらへと向かってくる。おそらくそのミイラが相澤先生なのだろう。

 

 それにしても、酷い状態である。ここまでの怪我を負っておりながら、後遺症が残らなかったのが救いといったところだろうか。

 

「ども、おはようございます」

 

「ああ、おはよう問題児2号(ふしぐろ)

 

 心なしか自身の名前を呼ぶ声に、何か不名誉な意味合いが込められていた様な気がしたが、特に気にせずに続ける。

 

「その、傷は大丈夫なんですか?そんな包帯でミイラみたいになってますけど…」

 

「問題ないよ。それよりも色々話したいこともあるし、給湯室まで付いて来い」

 

 そう言って歩き出す相澤先生を眺めながらもしっかりとその後ろを付いて行く。

 

 何故か今日の相澤先生からは、チクチクと肌を刺すような威圧感を感じる。今からするのは相当真剣な話なのだろう。

 

(何かやらかしたか?全くわかんねぇな…)

 

 先程チラッと職員室にて時計を確認したところ、時間はそろそろ12時を回るところであった。あと40分とせずに昼休みに入る様な時間である。他の生徒達は4時間目の真っ最中であろう。

 

「…ここだな。まあ、そこのソファにでも腰掛けてくれ」

 

 そんな相澤先生の言葉で部屋に着いた事に気づく。見た感じ普通の休憩室のような場所である。2人掛けのソファが2つ向かい合う形で配置されており、その間に膝の高さ程のテーブルが設置されていた。

 

 相澤先生と対面する形で座り、目前の何を考えているのかイマイチ分からない担任へと目を向ける。

 

「さて、まずは一昨日にあった襲撃事件の話からするか」

 

 重い口を開くかのようにゆっくりと話し始める相澤先生。その言葉に意識を向ける。

 

「あの日、お前が俺を助けた後の事について詳しく聞きたいことがある」

 

 その言葉にゴクっと生唾を飲み込む。先程から威圧感が物凄いのだ。冷や汗もダラダラと流れている。今から本気の戦いでも起こりそうな勢いである。

 

「俺を助けてくれた事は凄く感謝してる。でも問題はその後の行動だ。……お前、なんで死のうとした?」

 

「それは……」

 

 思わず息を飲む。

 

 相澤先生のその言葉は本来なら何を言っているのか要領を得ないものだが、それが俺には分かってしまった。心当たりがあったからだ。もしかしなくても摩虎羅の事だろう。

 

「……百から聞いたんすね」

 

「悪いな。お前が個性届けに書いていない事だったし、八百万から聞かせてもらった。お前の過去の事も色々な。勿論言いふらすつもりはない」

 

「そうですか。………あの時、アレを使おうとしたのは、それが最善だと思ったからで、それ以上でもそれ以下でもありません」

 

「最善ね。結果的にオールマイトが間に合ったからお前は生きてるが、もしそのまま摩虎羅とやらが解き放たれてたらどうなってた?お前が死んだ後、残された奴らはどう思う?」

 

「…………」

 

 何も言えなかった。結局アレは自分が弱かったからこそ使わざるを得なかった技であり、アレが最善であるのかと改めて考えればそうとも限らない。

 

「その様子だと、反省点は理解してるようだな。俺から言うことがあるとすれば、そんな簡単に自分の命を手放そうとするな。お前と緑谷の問題児2人は、自分の命を勘定に入れてないだろ?」

 

 そう言うと、相澤先生はこちらへと身を乗り出しながら個性を発動させる。目が赤く染まり髪が逆立つ。ギラギラと赤光を放つその瞳の中に俺を捉えながら額にデコピンを放つ。

 

「いいか?命の価値を履き違えるな。お前がヒーローを目指すのなら、まずはお前自身を救え。自分自身の命を軽く扱うな。取り残された人間がどれ程辛い思いをするのか、それが分からないお前じゃないだろう?だからこそ、それができないのであれば俺はお前に退学処分を下す。ヒーローになりたいのなら死ぬ気で強くなれ」

 

 圧倒されていた。その言葉の重みが違った。今までの冷めたというか、あまり生徒に興味の無さそうに感じた立ち振る舞いとは打って変わり、まるで炎の様な熱を持った言葉。それが自身の脳内で響き続けていた。

 

「とまあ色々語ったが、まずは目先の出来事からだ」

 

「何か、あるんですか?」

 

 未だに先程の言葉を反芻している中で、相澤先生の言葉に相槌を打つ。

 

「雄英体育祭が例年通り開催される。ヴィランによる襲撃もあったが、雄英高校の対応は依然変わらない。そして、体育祭はプロのヒーローも多く見に来る。自己アピールの場としてはまたとない良い機会だ。まずはそれを乗り越えろ。『Plus Ultra!!』だ。気張れよ問題児(ふしぐろ)、俺達教師はいつだって生徒を見てる。次は無いと思えよ」

 

「うす」

 

「じゃあ、話はこれで終わりだ。そろそろ昼休みだろうからちゃんとクラスの奴らと話しておけよ。緑谷なんかはお前のこと結構心配してたからな」

 

「分かりました…」

 

 そう言ってソファから立つと扉を開け、給湯室を後にするのだった。

 

(あの時、夢で見た過去の記憶。アレに摩虎羅の力を引き出すヒントがあった。体育祭まで残り僅かだ。それまでに少しは物にしたいな………)

 

 こっからだ。もう自分の命を犠牲に他の命を救うなんて自己犠牲はしない。これからは自分も周りも、俺は不平等に人を救けるだけだ。そのためにも強くならなければならない。自分の憧れた優しいヒーロー(あねき)との約束のためにも。

 

 課題は山積みだ。未だ摩虎羅の力を全くと言って良い程引き出せない自分には程遠い未来の姿。それを現実にするためにもここからさらに進化し続けなければ、適応し続けなければいけない。

 

 そう考えながらチャイムの音を背に教室に向かうのだった。

 

 

────────────────────

 

 

 午後の授業も終わり、迎えた放課後。

 

 昼休みは緑谷など、色んな奴から怪我などを心配されたりしながら喋って過ごし、午後のヒーロー基礎学などはしばらく安静のために見学し、今日の日程を片付けた。

 

 荷物の準備も終わりいざ帰ろうかとしたところで、廊下が騒がしい事に気づく。ふと廊下の方を見てみれば大量の生徒で埋め尽くされており、その生徒達は此方を好奇の目で見ていた。

 

「なんだありゃ……?」

 

「なんだよアレはよぉ!?出れねぇじゃねえかよ!!」

 

 そう言って抗議の声を上げる峰田の横を爆豪がさもなんでもない事かの様に歩いて人集りの方へと歩いていく。

 

「敵情視察だろ雑魚。ヴィランの襲撃を耐え抜いた連中だもんな」

 

 確かにそうだ。俺たち1年A組はヴィランによる襲撃を受けるも死者0人で耐え抜くという今までにない経験をした。それは他の者からしてみればそれは興味の対象だ。また、体育祭が近いのだから自然と警戒して情報が欲しくなるというものだ。身近にプロの世界を肌で味わった者達がいるのだからこうなるのも仕方ないのだろう。

 

「体育祭の前に見ときテェんだろ。そんな事しても意味ねぇから。どけモブ共!」

 

 さっさと帰りたいがために道を開きそうな爆豪の後ろへと着いていく。が、いきなり廊下の、群集から出てきた1人の生徒によって歩みを止める。

 

「おい、止まるなよ。後ろがつっかえる」

 

「ああ!?うっせぇわ、ウニ頭が。怪我人がでしゃばんなや!!」

 

「早く帰りたいだけだ」

 

「俺の前を歩こうとすんじゃねぇよ!!」

 

 それは理不尽過ぎないだろうか。流石にそんな事を言われたらどうしようもない。やはりこの男、理不尽と自尊心の塊の様な男だ。あと俺の名前を全然呼んでくれない。

 

 なんて話していると、その前に出てきていた紫色の髪を逆立たせて隈のある男が何かを言い出した。

 

「噂のA組。どんなもんかと見に来たら、随分と偉そうだな。ヒーロー科に在籍する奴はみんなこんななのかい?」

 

 そんな言葉にクラスの奴らが一斉に首を横に振り出す。流石に爆豪1人のせいでクラス全員がああだと思われるのは嫌らしい。ちなみに俺も嫌だ。

 

「こういうの見ちゃうと幻滅するなぁ。……普通科とか他の科ってヒーロー科落ちたから入ったって奴結構居るんだ、知ってた?…そんな俺らにも学校側はチャンスを残してくれてる。体育祭のリザルトによっちゃあ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然りらしいよ?」

 

 その言葉に何人かは驚いて固まっていた。

 

「敵情視察?少なくとも俺は、いくらヒーロー科だからって調子に乗ってっと足元掬っちゃうぞっていう宣戦布告しに来たつもり」

 

 普通科にも爆豪みたいな敵を作るタイプの人間はいたらしい。でも、どっちかっていうとこの普通科の奴は打算的な考えで敵を作っている様に感じられた。

 

 爆豪とその普通科の奴が睨み合いを続けること数秒、先に動いたのはそのどちらでもなく別の生徒だった。

 

 そいつは先程宣戦布告をした生徒に近づくと焦った表情で喋りだした。

 

「バカ、やばいって心操。なに伏黒さんに喧嘩売ってんだよ!?」

 

 その言葉が放たれた瞬間空気が凍りついた。

 

(((伏黒さん……?)))

 

 一瞬の静寂の中クラスの殆ど全員の視線が此方に突き刺さる。あの爆豪ですらこっちを見ていた。

 

 一瞬の間を起き上鳴達が此方へと近づいてくる。件の普通科の生徒は相手が言っている事の意味が理解できないのか、要領を得ない返事をしていた。

 

 腕を引っ張られ周りを厄介な奴らに囲まれてしまう。

 

「へいへい、伏黒く〜ん。君、同級生にさん付けで呼ばれるって何したのよ〜??」

 

 そう言って此方に問い詰めてくる上鳴たち。

 

「中学生の頃かなぁ?それとももっと前からかなぁ?何してたのよ〜?」

 

 ここぞとばかりに聞いてくる。流石にこれをいうのは憚られる。先程野蛮な爆豪な普通科の奴に色々言われたばかりだ。それにこれは黒歴史の様なものだ。あまり人には言いたくない。

 

「伏黒くん、なんか他の何人かから怯えられてないかな?」

 

 緑谷が核心を突く一言を放つ。そう、入試の時にもそうだったが俺は中学の時の同級生から恐れられている。

 

「吐けぇ!吐くんだ、何をやらかした伏黒ォ!?」

 

 そのメンツに峰田まで乗ってくる。俺の周りは色々とカオスな事になっていた。正直このままでは解放されなさそうだったので仕方なく言うことにした。

 

「……ボコってた」

 

「よく聞こえないななぁ?伏黒くーん!?」

 

「中学生の頃、ヤンキーとか纏めて全員ボコってた………」

 

「「「……え?」」」

 

 俺のその言葉で今度こそ全員がフリーズした。

 

「これマジなの?」

 

 上鳴が先程からビビっている普通科の生徒に確認をとる。すると、その生徒は物凄い勢いで頷くと詳しく話し出した。

 

「俺らの中学、伏黒さんにヤンキーとか荒れてた生徒は全員ボコされてます……だから、正直怖くて関わりたくないっす……」

 

 黒歴史がバレたことにより恥ずかしくて他所の方を向いて俯く。俺は今、死にたくなるほどの羞恥心に襲われていた。忘れたくてたまらない黒歴史である。百にも黙っていたほどだ。

 

「爆豪よりヤバい奴がすぐ側に居たな」

 

 切島のその言葉に周りの奴らが一斉に顔を縦に振る。流石に今は変わっているからやめてほしいところだ。

 

「あの爆豪と一緒にするのはやめてくれ、流石に今はもうやってない」

 

「あぁん!?あのってなんだクソが!!」

 

「色々あって荒れてる時期だったんだよ、本当に黒歴史だからやめてくれ……」

 

 そう言って両手で顔を隠す。あまりの羞恥心に耐えられない。こんな辱めを受けるとは思ってもみなかった。

 

 だが、ここで俺は失念していたのだ。

 

「へぇ、恵さん。……アナタ、中学の頃そんな事してたんですのね?」

 

 すぐ側に鬼がいた事を。

 

 めきめきっと音が聞こえそうな程の力で肩を掴まれる。「振り返ってはいけない」と俺の本能が叫ぶ。それに従う様に俺は前を見続ける。

 

「さあ、恵さん。早く帰りましょうか?詳しい事はたっぷりと聞かせていただきますからね?家に帰ったら覚悟しておいて下さいね?」

 

 そう言って俺の腕を掴むと引き摺り歩き出す(もも)。他の奴らは、憐れみの目で此方を見ながら合掌して俺を見送っていた。

 

「みなさん、私はお先に失礼いたしますわ。それではまた明日。さようなら」

 

「「「さ、サヨウナラー」」」

 

 俺はこれから地獄へと向かう事となるのであった。

 

 

 

 その後、連日で百からこってりと叱られた俺は、とある教訓を胸に正座していた。

 

(学生時代の黒歴史はまともな事にならない。黒歴史は作らないようにしよう)

 

 黒歴史の危うさを知ったのであった。

 

「地元じゃ負け知らず、か……」

 

「何 か 言 い ま し た か ?」

 

「いえ、何も」

 

 

 

 

 

 

 

 





羊次郎さん:八百万の家で働く執事さん。もこもこした毛を体から発生させる『羊』の個性を持っている。細マッチョな優しいおじいさん。服とか色々作れる。元プロヒーローという噂があったりなかったり


今回も読んで頂きありがとうございます。
呪術廻戦の連載再開でテンション上がって書きました。
時間があまり確保できないから執筆はクソほど遅くなってます。ごめんなさい。それでも、ガス抜きにでも書いていくつもりです。
失踪はしたくないですね………。
お気に入り登録などありがとうございます。誠に感謝です。
以上、作者の後書きでした。


 
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