──現代、それは超常が当たり前になった時代であり、世界総人口の約八割が何かしらの
事の発端は中国の軽慶市で『発光する赤子』が発見された事から始まる。数年のうちにそのような特殊な体質をした人々が生まれ始め、現代へと時は流れていく。
〝個性〟は現代において絶対普遍のルールである。個性の強大な者は周りから持て囃され、無個性の人間は無能と嘲られ、周りからは酷く疎まれる。
ヒーローとヴィランという二律背反な存在が日常の一部となり、世間はそんなヒーローに憧れを持ち、そんなヴィランを嫌悪する。
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──昔から悪人が嫌いだった。
更地みてぇな協調性と感受性で一丁前に息をしやがる。
──
そんな悪人を許してしまう。
許す事を格調高く捉えてる。
──世界が嫌いだった。
そんな奴らのせいで理不尽に遭う〝善人〟がいる。
──吐き気がする。
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俺は今、一人でかの雄英高校の校門の前に立っていた。
雄英高校ヒーロー科。そこは、プロヒーローとしては必須の資格取得を目的とする養成校である。全国の同科中最も人気で、最も難しく、その倍率は例年300を超える程である。現No.1ヒーローのオールマイトを筆頭に数々のプロヒーローを育て上げ、
今日は雄英高校ヒーロー科の一般入試の日である。全国から数多の受験者達がこの高校の数少ない席を狙って争う。そんな日である。漏れなく俺もその席を狙う者の一人であった。
(…思ったよりもでけぇな。案内の紙が無けりゃ間違いなく迷子になってんなコレ。…はぁ……。やべぇな、今更ながらに緊張して来た……。ここは深呼吸をして一旦落ち着こう)
二度ほど大きく深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。それから校門をくぐり抜け、その広大な校内へと入っていく。途中同じ中学の奴を何人か見かけたが、別のクラスだったのか殆ど知らない奴らだった。俺を見た瞬間に側から見ても分かるほどビクついて震えていたのはなんだったのだろうか。
しばらく歩いていると、試験会場である広い部屋へと到着する。そのまま、部屋に入ると入試番号を確認してそれに対応した席へと着席し、黙って時間を潰す。
ふと、前日に行った筆記試験を思い出す。あれは、中々に骨の折れるテストだった。
というのもこの高校、全国でも有数のヒーロー育成校であると同時に、全国トップレベルの学力を誇る学校でもある。その偏差値はなんと驚異の79である。なので筆記試験のレベルも相当な物である。問題量もそこそこにあるので時間いっぱいひたすら解き続けたのであった。
などと考えていると、遂に実技試験の説明会が開始された。
「今日は俺のライヴにようこそー!!エヴィバディセイヘイ!!!」
プロヒーローである、プレゼントマイクの呼び掛けに答える者はこの場には誰一人としていなかった。
(…うるさいな。耳がキーンってしてるぞ……。てか、周りの奴も誰か反応してやれよ。流石にこの静まり具合は心に来るものがあるだろ)
不安のある始まり方をした説明会もつつがなく終了した。途中、ちょっとした言い合いのようなものが起きたがそれは特に問題ないだろう。説明会が終了し、今は各々の試験会場へと向かっている。雄英高校は膨大な敷地面積を有しており、会場へはバスに乗って向かう。
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試験会場に着いて数分、俺は軽い運動着に着替え、試験開始に向けて軽くストレッチを行う。
ストレッチを終えそろそろ始まるなと思った瞬間──
「──ハイ、スタートー!」
──スタートの開始が宣言された。
他の生徒達が固まる中、俺は一人呪力で肉体を強化して、スタートダッシュを決める。
「どうしたぁー?!実戦にカウントなんざねぇーんだよぉ!!1人は既にスタートダッシュ決めちゃってんぞー!!」
他の奴らも数十秒後にプレゼントマイクからの煽りを受けて慌ててスタートする。
しばらく走ると前方に仮想ヴィランが現れる。
それを視認するとほぼ同時に個性を発動させ、右腕に影を纏わせようとする。しかし、腕に纏わりつく寸前で影が霧散し、失敗に終わる。
(…クッソ!……まただ。どうしても摩虎羅のあの高い能力を引き出そうと、影を扱うが、失敗しちまう…。分かんねぇ。どうすりゃいい?)
結局、〝あの時〟以来一度もまともに個性を引き出せてない。それに、影を纏おうとした時に感じる違和感の正体が分からない。根本的に〝影を纏う〟というのが違うのであろうか。疑問が募るばかりである。
(いや、そんな事今は切り替えて入試に集中しろ!)
そうやって自身の心を鎮める。呪力の操作において必要なのは如何に感情をコントロールできるかである。どんな感情でも大き過ぎる感情は、呪力を大量に消費してしまい、無駄を生むだけである。
「ヒョウテキホソク。…ブッ殺スッ」
「…まずは1ポイント」
先程の思考から切り替え、呪力を拳に集中させロボットを殴る。
そして、自身の右側から移動して来ていた2体目の仮想ヴィランを殴り飛ばす。呪力で強化しているのでそれなりの威力が出ており、ロボットの顔面が吹き飛んでいた。
殴った反動を利用して再び正面へと向きながら、影から黒剣*1を取り出す。それに呪力を込めながらどんどんと現れる仮想ヴィランを切り裂いて行く。
(思ったよりも脆く出来てるな…。そこまで身体能力の高くない人間でも、攻撃箇所によっては破壊出来そうだ。わざとそう作ってんのか?……まあ、いずれにせよそこまで警戒する程の物でもないな)
そう心の中で呟きながら左に現れたロボットの腕による振り払いを、上に跳んで躱す。そしてそのまま黒剣を上段から振り下ろし、ロボットを真っ二つにする。
(これで13体目ぐらいか?コイツらの動きにももう〝適応〟した。特段問題は無い。もうちょい、ペース上げてくか?いや、それだと呪力が切れた時が怖えな。…まあ、今暫くはこのままでいいだろ)
移動しながらロボットを倒していると背後から近づいてきているロボットに気づけていない奴がいた。
すぐに、そのサイドテールの女の背後へと、呪力で強化して黒剣を投擲する。瞬く間にそれは仮想ヴィランへと突き刺さり、行動を停止する。
その女の背後へと移動して、他のロボを黒剣で切り裂く。無事かを後ろの少女へと訊ねながら、周りを警戒する。
「おい、そこのサイドテールのアンタ大丈夫か!?」
「ありがとう!危うくやられるとこだったから助かったわ!!」
安否を尋ねると元気な声が返ってくる。一瞬その姿に姉の姿が脳を掠める。それに少し顔を顰めながらもお互い気をつけようと言って再びロボットを倒しにその場を後にする。
このぐらいのスピードならなんの障害にもなりはしないな。などと思考しながらも次々とロボットを破壊していく。
「……動きが鈍いんだよ。そんな速さじゃ障害にすらなりゃしねぇよ…」
愚鈍なロボットを呪力で強化した拳で殴り倒す。気づけば、そこそこの広さのある場所へと到着していた。前方に見える8体のロボットを視認すると、個性を発動して、影を広げる。仮想ヴィランの全員が影に足を取られ体勢を崩し倒れる。その隙に次々と破壊していく。
(呪力にはまだ結構余裕がある。しかし、最後になにかありそうで少し不安だな……)
「あの0ポイントのヤツが気になるな。試験終了まで気を抜かずにいくか…」
そう口にすると右手に持っていた剣を影に戻して、他の場所へと獲物を求めて走り始める。
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試験終了間際、ソイツは突然大きな地響きと音を伴って現れた。
0ポイントの仮想ヴィラン
ソイツはただ試験の妨害を行う為に作られた、超巨大なロボットだった。そんなロボットがその莫大な体積を誇る体で街中を進む。
それを見た受験生達は即座に逃げ出す。数秒もすれば逃げる受験生達で道が埋め尽くされる。
その受験生の川の流れに逆らうように一人の少年が歩いていた。その少年はキョロキョロと周りを見渡し何かを見つけるとすぐさま個性を発動させその少女の元へと向かう。
「おい、さっきのサイドテールのアンタ。…救助、手伝うぞ」
「お、さっきの人ありがとう。私の個性で瓦礫をどかすから下にいる人達をお願い」
「…分かった」
少年は少女と言葉を交わすと、全身に呪力を流し肉体を強化すると、瓦礫の下に居た生徒達を次々にその場から移動させて行く。
常人とは思えない速度で救助を行なっていく少年に、見た目とのギャップで少し固まってしまう少女。そんな少女へ横から突然、声が掛かる。
「…おい、あのでかいロボットは俺がどうにかする。アンタは他の奴らの避難を頼む」
「ちょ、ちょっと!1人でやるの?アンタ危険だよ?!」
そう言って心配する少女に少年は淡々と返事をする。
「策ならある。それに、周りに人が居ると気が散る。…下敷きにでもなられたら最悪だ。だから頼む」
「…はあ、分かったわよ。避難誘導は任せて」
「すまん、助かる」
少年は少女にお礼を言うと駆け出していく。
それから数十秒後。
「さて、私も自分の仕事をこなさなきゃだな…」
少年の背中が見えなくなるまで見送った少女は少年の何か確信を持っていた瞳を思い出して、それに対してクスりと笑うと、個性を使い自分の掌を大きくし、避難誘導を開始する。
少年はロボットから十メートルほど離れた所で、全身を呪力で強化すると、近くのビルの屋上へと登っていく。
ビルへと登り終えると、前方へと視線をやりこちらへと向かってくる巨大なロボットを見据える。
「俺の個性の能力は未だに、俺自身よく分かってねぇ。それでだ、いつからか俺は肉体を何らかのエネルギーを使って強化する事が出来る。……俺はそのエネルギーを呪力と仮称している」
── 伏黒恵は最初、〝影を操る〟事と〝適応〟する事しか出来なかった。しかし、いつからか彼は、自身の中に流れる呪力*2という物を自覚する。そして、血の滲むような努力の末、それを影と同じように自在に扱う事が出来るようになる。
「………ハハッ、こんなの意思の無い機械に言っても意味ねぇか」
そう言うと少年は、ビルの壁を蹴って全速力で0ポイントヴィランへと肉迫する。そんな少年へとその巨大な拳を繰り出すロボット。しかし、それを難なくかわす。
「…言ったろ、動きが鈍いって。お前らロボットの動きは全部似てやがる。………既に適応は済んでんだよ!」
相手の腕を足場に使い、さらに加速して近づいて行く。勢いよく跳び上がると、少年はロボットの頭部に蹴りを放つ。そして、その反動を利用して上空へと跳び上がると、ロボットの巨大な頭部へと拳を繰り出す。
(…今日はなんだかいつもより景色が澄んで見える。入試への程よい緊張感が良いスパイスになってんのか?周りも避難が終わってて静かだ。……それにしても、アイツ意外と手際良いな…)
少年は周りの景色がとても遅いモノになっている事にも気づかずさらに思考を重ねていく。
スポーツ選手などには多い経験だが、人は極度の集中状態に入ると周りの景色が遅れて見えたり、急に視野が広がるといったものがある。それはゾーンやフローなどと呼ばれる事もあるもので、そして、少年が今、踏み入ろうとしているソレでもあった。
(……ああ、今ならイケるかもしれねぇな)
──『黒閃』
──打撃との誤差、僅か0.000001秒内に呪力が衝突した瞬間
──空間は歪み
──呪力は黒く光る
「──黒閃ッ!!」
黒い火花が受験会場の空で花開く。
黒き火花が散るその拳は何十階建てのビルよりも大きい0ポイントヴィランの頭部へと突き刺さり、その巨体に多大な衝撃をあたえる。
ロボットの巨大な頭部が大きく凹みその衝撃に後ろへと倒れ込む。少年はそれでも止まる事は無く、自身の影から巨大な鉄の棒を取り出す。
「──最後にダメ押しだ。まさかコレを使う事になるとはな…」
そう呟きながら鉄の棒を0ポイントヴィランに向けて蹴り飛ばす。重力と蹴りによる衝撃で加速し、その大きな頭部へと突き刺さる。
0ポイントヴィランの巨大な全身が、地面へと倒れた事による衝撃で煙が上がる。
煙が晴れると、頭部の中は核もろとも色々な部分が潰れた状態の0ポイントヴィランが完全に機能を停止して倒れていた。
会場内にプレゼントマイクの試験終了の合図が鳴り響く。
「試験、シューリョー!!!」
それを聞きながら、少年はそのまま肉体を呪力で強化し、近くにあった建物を蹴り、下への慣性を殺しながらアスレチックのように下へと降りて行き、スッと静かに着地を果たす。そして、何事もなかったかの様に個性を解くと、出口へと向かって歩いて行くのだった。
また、先程の合図を以て、雄英高校ヒーロー科一般入学試験の全日程が終了した。
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0ポイントの仮想ヴィランを倒した後、俺は黒閃を決めた事による全能感もそこそこに、受験会場の外でさっき助けたサイドテールの女ーー拳藤一佳と少し話し、お互いに受かってれば良いなと連絡先を交換して別れた。
家に帰って数日、体術の訓練や、呪力操作の練習をして過ごしていると、雄英高校からの合格発表が届いた。
早速、雄英高校からの便箋を開けてみると、何やら小型の機械が入っており、それを取り出すと映像が空中に投影された。
『私が投影されたッ!!』
そう言って明らかに画風の違う男──現No.1ヒーローのオールマイト──が画面に映る。
俺は驚きのあまり思わず機械を落としそうになる。
『初めまして伏黒少年、HAHAHAHAッ!とても驚いているね』
(…は?……なんでNo.1ヒーローが雄英の合格発表なんてやってんだ?どうなってんだ。色々とありすぎて思考が止まりそうだ……)
『なんで私が雄英の合格発表なんて事をしているか不思議で仕方がないって様子だな伏黒少年。……それはね、私が今年からこの学校で教師を務める事になったからさッ!』
とんでもない迫力でとんでもない事を言ってくる。そんなオールマイトに少々驚きつつも話を聞く。
『おっと、話が逸れてしまったね。入試成績だが、君は不思議に思わなかったかい?なんで天下の雄英高校ヒーロー科の入試で、わざわざお互いに妨害が出来るような内容にしたのか。いくら妨害などがご法度だのなんだのと言っても、やるヤツは平気でやってくるのにも関わらずにさ。疑問だったろ?……何故なら、私達審査員は敵を倒すだけではなく他の点も見ていたからさ!!………つまり、救助による加点も行っていたのさッ!』
もっともな話である。ヒーローを育てる学校が入試でわざわざお互いを争わせる様なものを作るのはおかしい話である。本人の資質を問うのであれば個人での試験でもやりようはある筈だ。
ヒーローは人を助けてなんぼの職業だ。入学前からその資質は皆が問われている。敵の排除だけでなく救助によっても加点されるのはおかしい事でもなんでもないのだ。
(確かに、理に叶ってるっちゃ理に叶ってるな……。でも、そんなの試験中に気付く奴なんかいんのか…?)
『それでは伏黒少年、君の入試結果を発表する。………ヴィランポイント51点、レスキューポイント25点の計76点に加え筆記も合わせて総合成績2位での合格だッ!!!おめでとう伏黒少年!!』
『──来いよ。今日からここが君の
そう締めくくり映像が終了した。まさか次席だったとは、あまり実感が湧かずしばらく呆然としてしまう。
(……でもこれで、やっと姉貴との〝約束〟を果たすための第一歩を踏み出せたな。結構不安だったが、合格していて何よりだ…)
なんて少しホッとしながら、無意識の内に携帯をポケットから取り出しており、気づけば自分を引き取り、生活の資金援助まで行ってくれている幼馴染みの両親へと連絡を入れていた。ボーッと、していると数分もせずに返信が返ってきた。
『合格おめでとう恵くん。百も喜んでいたよ。今度、2人の合格祝いのパーティーをするから後で連絡する日時に迎えを寄こそう。たまには私達家族に顔でも見せに来なさい。改めて合格おめでとう』
それに返信を送り訓練に戻ろうとすると、携帯が鳴る。どうやらメールアプリの通知のようだ。差出人は拳藤であった。
『あたしは合格だったけどアンタは!?』
どうやら拳藤の方も受かっていたらしい。先程届いたメールに合格したと返信する。
『お互い晴れて雄英生だね!ヒーロー目指して頑張ろ!!』
そんな元気なメールが返ってきた。やはりどうしてもあいつの姿が脳を過ってしまう。そんな事実に今更どうする事もできないだろと過去の自分を嫌悪しながらも携帯をしまって呪力操作の練習を再開した。
雄英高校の会議室内では教師陣がモニターに映し出された試験結果を見て合否の判断を行っていた。
「レスキューポイント0で1位とはねぇ…」
「仮想ヴィランは標的を感知し、接近して襲ってくる。それによって周囲にどんどんと集まってくる。だが、それを抜きにしてもこの結果は試験終了まで闘い続けた彼のタフネスの賜物だな」
そう零す2人の教師の言葉に他の教員が続く。
「対照的に8位の子はレスキューポイントだけで60点に加え、あの0ポイントヴィランをぶっ飛ばしやがった。もう1人ぶっ飛ばした奴がいたけど、こんな受験生久しぶりに見たよ」
ある審査官の発言に1人の者が自身の違和感を口にする。
自身の個性で身体を壊すなんて、そんなのまるで個性が発現したばかりの、幼子の様ではないか。と。
事実、その発言は的を射ているのだが、それに気づく者はこの場にはいなかった。
「…0ポイントヴィランをぶっ飛ばしたやつといえば、2位の子もだよな」
先の発言を聞き、1人がそう零すと、またもや審査官達は盛り上がる様に話し出す。
「この子の個性が全く測れない…。増強系の個性か、影を操る個性か、あるいはその両方か……。まあ、何よりもこの確固たる意志があるのだと言わんばかりの真っ直ぐな目ッ!良いねぇ、若いって!!」
その後もしばらく続く審査官達の会話と試験結果を後ろから眺める、目の隈の酷い男がいた。