──雄英高校ヒーロー科。毎年全国から大多数の受験生がその学び舎へと訪れる。そして篩に掛けられ、最終的に入学を許される者は極小数である。推薦入学者4名に一般入学者36名の計40名、これが毎年の定員である。合格者40名はそれぞれ2つのクラスに分けられヒーローを目指す事となるのである。
入試の時にも使った電車に乗り、雄英高校へと向かう。本日は全国の高校が入学式を行うので、電車の中には学生服を着ている者も少なくないのだが、いかんせん雄英の制服を着ているだけでも周りの目を集めてしまうため、少しうざったい。その為、携帯へと集中して、気にしない様にする。今朝届いていた幼馴染みからのメールに適当に返信しつつ、目的の駅まで時間を潰す。
(…視線がウゼェ……。そろそろ、良い加減にして欲しいところである。いくらなんでもここまで露骨にジロジロと見られるとストレスが溜まってくる………)
しばらく周りの視線に耐えて、目的の駅で電車を降り、足早に学校へと向かう。
学校へ着くと、自身がこれから一年使う事になる教室である1-Aへと向かう。階段を登り、入り組んだ廊下を歩きしばらくすると目的の教室の扉が見えてくる。
巨大な扉を開く。異形系の個性を持っている子などもいるためなのか、扉はやけに大きかった。中を見回すとどうやら生徒は意外と揃っているらしい。
教卓の上に置かれた座席表を確認すると幼馴染みの隣の席だった。出席順だと思ったのだが違ったらしい。親しい者と近い席にしておくという学校側からの配慮だろうか。それならば余計なお節介である。
自身の席に着くと左隣に座る幼馴染みが話しかけてくる。
「おはようございますわ、恵さん」
「…ああ、おはよう」
幼馴染みである八百万百の挨拶にぶっきらぼうにそう返す。
「…あら?顔色があまり優れませんわね。…寝不足ですの?朝食はちゃんとお食べになられましたか?あまり疎かにすると体調を崩してしまいますわ」
「……別に、心配するほどの事じゃない」
そう言ってそっぽを向く。この、時々見せる
(…そういえばコイツは昔から変わってねぇな。いつも誰かに気を配って優しくして、初めて会った時も"あの時"もコイツは──)
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最初の出会いは俺がまだ幼稚園に通っていた頃にまで遡る。個性の能力が少しだけ分かり、前世の記憶を取り戻したこの頃の俺は、木陰などで1人で適当な本を読みながら影を操って個性の訓練をする事が多かった。そんなある日のこと。俺は
その日はいつも通り、周りの園児達はヒーローごっこを楽しみ、自分がヒーローだのなんだのと騒いでいる。前世の記憶の所為なのかヒーローと言ったものには全くと言っていい程興味など無く、あるのは今の家族と過ごす幸せな日々を想うだけであった。
そんな、騒がしく遊んでいた周りとは打って変わって俺は本を読みながら、折角手にした個性だからと影のコントロールを行なっていた。
「あの、ふしぐろくん。いつも1人だけれどみなさんとなじめませんの?……もしよろしければわたくしたちと、あそびませんか?」
そんな時に八百万百は俺に話しかけてきた。どうやらこの時から既にその善人さと周りに気を配る委員長気質は健在だった様で、いつも1人寂しく読書をする俺を気にして話しかけてくれたのだろうと思った。それに対して特に断る理由も無いからと、遊ぶ事にした。
遊んでみて分かったのだがどうやら彼女は習い事で姉と知り合ったらしく、その時に姉と喋っており、俺の事も色々と聞いていた様だった。曰く、子供のくせに達観しているだの、1人で本当はさびしがっているだの。姉のいらないお節介にため息が溢れた。
そこから俺達幼馴染みは良く遊ぶ様になった。実家がお金持ちだという八百万の家に行かせて貰ったり、公園で姉も加えて一緒に遊んだり。
そんな楽しい日々を送る事数年──
──俺が中学に上がる一月程前に俺以外の家族が死んだ。
ヴィランの襲撃を受けたのだ。たったの一夜にして俺にとっての幸福が全て奪われた。心の中は深い影に覆われていて、頭の中お花畑だった過去の自身を恨むこともあったし、理不尽なこの世を恨む事もあった。
家族の葬式には沢山の人が来た。皆両親や姉の友人などであり。みんながみんな家族の死を弔い、泣いていた。それを見て俺は気づけば泣いていた。
葬式が終了し、これからどう生きていこうかと思っていると見覚えのある人達が近づいてくるのが分かった。それは、八百万達家族だった。
わざわざ両親の為にありがとうございます。そう言おうとする前に誰かに優しく抱きしめられた。どうやら八百万に抱きしめられたらしい。そう無駄に働く頭で考えていると、八百万の父である八百万千蔵*1さんはとある提案をした。
「……伏黒くん。良かったら私達の元で一緒に暮らさないかい?…こんな事を言うのは酷かも知らないが、君はもう家まで失ってしまっただろう?それに、君はまだ小さい……。誰かの手を借りて生きていかなくてはならないのではないかい?」
そう改めて言われて俺は派手にぶっ壊れた自身の家を思い出した。そして、まだ子供である俺にはどうする事も出来ないのだと悟り、千蔵さんの言葉に甘える事にした。
「…千蔵さん、ありがとうございます。……その…お言葉に甘えさせて頂きます」
「分かったよ。それじゃあ、養子と「──でも」し、て……」
千蔵さんの言葉に被せる様にして声を発する。
「でも、1つだけ。この苗字だけは変えたくないんです…。俺の
そんな我が儘を言う俺に千蔵さんは朗らかに微笑むと、俺の頭へと手を置いて優しく撫でながら俺の我儘を快諾してくれた。
「ああ。分かったよ。苗字は変えない、養子縁組の話は忘れてくれ。…でも、私達の事は本当の家族の様に頼って欲しい。……ごめんよ恵くん。私達にはこれぐらいしかしてやれないが許して欲しい」
こんな事だなんて思わなかった。これ程まで良くしてくれるのはきっとこの両親が相当なお人好しだからなのだろう。おそらく八百万の、あのお人好しはこの両親からの遺伝なのだろう。この親にしてこの子ありとはよく言ったものだ。
そんな事もあり、俺は八百万家の居候として幼馴染み一家と一緒に暮らす事となった。
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(……やっぱりあの時から何も変わってねぇんだな)
なんて過去の事を思い出しているとふと入り口が騒がしい事に気づく。
「今日って何するのかな?入学式とガイダンスだけなのかな?!」
そんな溌剌とした女子の声が聞こえて来た。友達と話でもしているのだろう。しかし、早く席に着かなくても良いのだろうかなんて思っていると、ボソボソとした覇気のない声が新たに聞こえてくる。
「…お友達ごっこしたいなら他所へ行け。ここはヒーロ科だぞ」
突然聞こえて来た第三者の声に、周りの声が次第に止んでいく。
「はい、静かになるまでに8秒かかりました。時間は有限、君達は合理性に欠くね」
そう言いながら教卓の前に立つ。隈の酷い男。
いきなり気配が現れた事の不気味さに思わず冷や汗をかく。…こんなのが教師かよ……。流石に最高峰は教師まで相当なレベルって事か?
「このクラスを担当する、相澤だ。早速だがコレ来て外に出ろ」
自己紹介を簡潔に終わらせると、寝袋から体操服を取り出してそう言い残す。そしてそのままさっさと外へ歩いて出て行ってしまった。
その時、クラスにいた全員の心の声が一致した。
(((こんな人が
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「「「個性把握テストォ!?!?」」」
今度は全員の声が揃う番であった。
どうやら俺達は入学式やらガイダンスやらをすっ飛ばして個性把握テストなるものを行うらしい。
「雄英は『自由な校風』が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り。お前達も中学の頃からやってるだろ?個性使用禁止の体力測定テスト」
体力測定にて行っていた全8種目が書かれた映像が投影された。
「確か入試一位は爆豪だったか…。中学生の時、ソフトボール投げの記録何メートルだった?」
「…67メートル」
「そんじゃ、個性使ってやってみろ」
爆豪とかいう肌色の髪がとんがったヤンキーみたいな奴が、入試一位という事でお手本を行う事になった。行う競技はボール投げのようだ。
「円から出なきゃ何しても良い。早よ、思いっきりな」
「そんじゃ、まぁ…」
爆豪が位置に着くと、ボールを持って構える。
「死ねや!!クソがぁッ!!!」
(なんで掛け声が死ねなんだよ…。今のが掛け声で良いのか?……つか、見た目からして凶暴過ぎないか?)
ボール投げの掛け声とは思えない様な暴言を吐いてボールを投げる爆豪。手の平で爆発が起こり、ボールの飛距離はグングンと伸びていく。
「まず、自分の最大限を知る。…それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
相澤先生が此方に結果の載った端末を此方へ向ける。それに視線を向ければ705.2メートルという驚きの記録が載っていた。
それを見た他の生徒が面白そうだ、などと騒ぎ始める。
「面白そう、か……。ヒーローになるための3年間、そんな腹積りで過ごす気でいるのかい?」
相澤先生の不穏な発言に、雲行きが怪しくなって来たな、なんて呑気に考える。
「…よし、8種目トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」
「「「ハァーーー?!?!」」」
まさかの理不尽な発言によって全員が驚きの声を上げる。
威圧感の増した凶悪な笑みを浮かべながら相澤先生は語る。
「生徒の如何は
(ホントになんでも教師の自由って訳か…。でもコレは流石に理不尽過ぎる気がする。もし、こんなのが続くのなら来年には半数以上が減ってんじゃないか?考えるだけでゾッとするな……)
「除籍処分って、入学初日ですよ?!そんなの、理不尽過ぎます!!」
そう抗議の声を上げたのは、先程教室の扉の前で喋っていた茶髪の女子だ。
「…理不尽、ね。自然災害、大事故、そして身勝手なヴィラン達──」
この世は理不尽に溢れている。大切な人を失った、なんて不幸はこの世に溢れていて、ありきたりなものだ。毎日世界の何処かで誰かが不幸になっている。それが今の世の中の現状だ。
「──いつ何処からやってくるか分からない厄災。日本は理不尽に塗れている」
相澤先生の発言に思わず顔を顰める。
「そういうピンチを覆していくのがヒーロー。放課後マックで談笑したかったのならお生憎、これから3年間、雄英は全力で君達に苦難を与え続ける。さらに向こうへ──Plus Ultra!さ。全力で乗り越えて来い」
凶悪な笑顔を浮かべながら語る相澤先生に、此方側の熱意がグンッと上がるのを感じた。みんな先程の発言でやる気になった様だ。かく言う俺もそうなのだが。
(……コレが雄英か。今の全力を測る丁度いい機会だ。……俺はヒーローにならなきゃいけないんだ。こんなとこで止まってなんて居られない。"アイツ"との約束を果たすためにも…)
──静かに心の中に火が灯る。
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最初の50メートル走から行っていくらしい。
(…未だに、摩虎羅の力を引き出す方法は不明だ。だからこそ、今は呪力の強化だけでの全力を知る!……イメージしろ、肉体は謂わば、呪力という水が流れる一本の水路だ。思い出せ、先日の入試で掴みかけた呪力の核心!)
スタート位置に着き、全身を呪力で強化する。
やはり、黒閃を経験したからか呪力の質が上がった様な気がする。試しに身体を少し動かしつつ、スタートの合図を待つ。
──スタートの合図が鳴る。
その合図と共に全力で駆け抜ける。
『──4秒08』
ゴール地点に置かれた機械から記録が読み上げられる。どうやら記録は4秒ほどであったようだ。このクラスの中では速い方なのではないだろうか?
(まあまあの記録だな…。この調子で他の競技もさっさと終わらせるか)
そう考えながら次の種目の場所へと歩いて移動していく。
すると赤髪のツンツン頭の男と、金髪のチャラ男が、次の競技に行こうとしている俺の所まで来ると話し掛けてくる。
「なあなあ!」
「んぁ?」
突然話しかけられた事に、少し驚きつつ声のした方へ向く。
「俺、切島鋭児郎っていうんだ。んでコッチの金髪が」
「上鳴電気だ!よろしくな」
「…ああ、伏黒恵だ。よろしくな」
挨拶を交わし、お互いに握手をする。それぞれ軽く自己紹介を済ませると、軽い雑談をはじめる。
「そんなヒョロそうな見た目して、50メートル走の記録凄かったな!増強系の個性かなんかなのか?」
意外とズカズカと聞いてくる上鳴だった。そんな2人に「まあ、そんな感じだ」と曖昧に答える。そんな感じで適当に喋りながら他の競技を終わらせていく。途中で肘からセロハンテープを出せる瀬呂範太って奴と、酸を出せる芦戸三奈も含めて5人で周る事となった。
俺がボール投げを終えて4人の所に向かうと全員がとある1人の──緑谷出久という緑髪の男子のボール投げを心配そうに見つめていた。
(確か最初にドアの前で女子と喋ってた奴だな…。それにしても、さっきからずっと平均的な記録しか出してねぇけど大丈夫なのかアイツ?)
「アイツ大丈夫か?確か他の競技の記録、平均的だったよな?」
他の4人に近づきながら話し掛けると、上鳴と瀬呂から緑谷を心配した類の返事が返ってくる。
「このままじゃアイツ、ホントに除籍処分になっちまうぞ?!」
「なんか先生と喋ってっけど、何言われてんだろーな?」
1度目の投球を行った際に、相澤先生の『抹消』の個性によって、個性が発動出来なかった緑谷は相澤先生と何事か喋っていた様だった。そのまま2度目の記録に入った緑谷の顔付きを見ると先程までの不安と焦りを混ぜた様なモノから変わっていた。
「──スマーーッシュッッ!!!」
緑谷の指が酷く腫れ上がっていた。代わりにボールはとんでもない勢いで飛んでいく。緑谷は痛みで泣きそうになるのを我慢して拳を握ると、ぎこちない笑みを浮かべながらもまだやれるのだと宣言する。
「…なんだアイツ……イカれてる…」
それを見て思わず本音が口から溢れ落ちる。
(なんだこのとんでもないパワーは……?こんなのオールマイト並だぞ!?………それに、個性に体が耐えられていないのか…。なんつー個性だよ……)
クラスの奴らもその結果に酷く驚いていたり、興奮している者が殆どだった。
その後、爆豪が相澤先生に縛られたりと色々あったが、残りの競技を全て終わらせた。最終的な結果は百が1位で俺が3位だった。
「因みに除籍処分はウソね。君達の個性を最大限引き出す合理的虚偽!」
この先生の発言に周りは大層驚愕していたが百だけは当たり前だと言わんばかりだった。てか、実際に「当たり前ですわ」とか言っていた。
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個性把握テストが終了し、今は更衣室で、保健室に怪我の治癒に向かった緑谷以外の男子全員が着替えていた。
「なあなあ、伏黒ォ!さっき聞けなかったんだけどよぉ、朝喋ってたおっぱい大きい女子と仲良いいっぽかったけど、知り合いなのか?!?!」
上鳴のデリカシーの無い発言に周りの男子数名も此方を見て近づいてくる。
「オイラの名前は峰田な!なあなあ、オイラにもそれ聞かせてくれよ。てか紹介してくれよ!」
ぶどう頭の背の小さい奴が此方に近づいてくる。
(なんだコイツ?……まあ、特段隠す事でもねぇよな。それに、隠して余計疑われるのも面倒だな……。ここは普通に答えとくか…)
そう考えた後に口を開く。
「別に、ただの幼馴染みで、俺を引き取ってくれた恩人ってだけだ」
「「「「幼馴染みだぁーー!?!?」」」
あまりのうるささに顔を顰め、思わず耳を塞ぐ。なんで幼馴染みってだけでそんなに騒げるのだろうか。俺は不思議でならなかった。憂鬱さに思わず溜息が出そうだった。
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一方女子もまた、男子と同様に1人の生徒を囲んでの質問が行われていた。
「──それでそれで、朝教室で喋ってたけどさ!あの伏黒君とはどんな関係なの?!」
そう質問するのは芦戸三奈であった。周りを囲むのは勿論1年A組の女子生徒達。質問を受けたのは八百万百であった。
「私の幼馴染みですわ。昔から一緒にいて、ある時から居候として一緒に暮らしていますの。…べ、別に男女の仲などといったモノではありませんわよ?!?!?」
八百万の慌てた様な返答に爆発が起きたと錯覚するほどの声が上がる。
いくらヒーローを目指す若き金の卵達であっても、未だ未成年の多感な時期であり、他人の色恋にはスイーツ以上の食い付き様を見せる年齢だ。『幼馴染み』なんていう言葉や『一緒に暮らしている』なんて言葉が出てきてしまったら興奮して騒いでしまうのも必然であった。
なお、数人の女子は八百万と伏黒くっつけちゃおうぜ、なんて良からぬ事を考えている女子がいたとかいないとか。真実は神のみぞ知る事であろう。
そんなこんなで無事に、除籍者を誰一人として出す事もなく、雄英高校での初日を終えたのだった。
ここまで読んで下さり本当にありがとうございます。