偉大なる蛇をその身に宿して   作:ぬべし@助動詞

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第五話 USJ襲撃事件─壱─

 

 

 

「すいませーん!そこの2人!オールマイトの授業を受けてみて、どう感じましたか?!」

 

 朝っぱらから騒がしいマスコミに囲まれてしまった。昨日は遅くまで呪力操作の訓練をしていて、睡眠時間が足りていないので朝からここまで騒がれるとストレスが溜まる。しかも、このうざったいマスコミ達は連日雄英高校の前に押し寄せて来ているのである。

 

「……チッ!」

 

 余りのウザさに大きめの舌打ちをしてしまう。

 

「舌打ちなんて失礼ですわよ、恵さん!」

 

(…そうだった、今日は百と一緒に登校しているんだった……)

 

 流石に百の前で舌打ちするのはミスだったか。だが、それも仕方のない事だろう。ここまで騒がしいと正直、寝不足じゃなくても耐えられない。

 

「すまん、ちょっとイラついてた…。気をつける」

 

 それだけ言うと人混みの中という事もあり、さっさと歩いて行く。歩調を早めた俺に百も急いで着いてくる。

 

「ちょっと!何か、思う所はなかったんですか!?あのオールマイトの授業ですよ!?!?」

 

「…………」

 

 どこの番組の記者かは知らないが、質問に答えることも無く無視を決め込む。相手側に視線を向ける事もせずに、そのまま校内へと入っていく。俺が完全に無視している事に気付いたのか、記者の女性はそのまま止まって此方に文句を言ってくる。

 

「なんなんですか!?こっちの質問に少しくらい答えてくれても良いじゃ無いですか!?!?」

 

 そんなヒステリックな発言を背に自身の下足箱に靴を入れ、上履きに履き替えるとさっさと教室へと向かう。

 

「…無視してしまって本当に良かったのでしょうか……」

 

「問題ないだろ。質問に答えてて遅れるよりかはマシだろ?」

 

「それは…、そうですけれど…」

 

 …いくら職業柄、色んな奴から話を聞かないといけないとはいえ、ここまで露骨に騒がれてはいい迷惑だ。あの記者の人には迷惑を掛けるが、一度質問に答えたら最後、捕まって数分動けなくなるのは目に見えてるので、仕方のない犠牲だ。申し訳ないな。

 

 なんて考えながら教室の扉を開けて中へと入る。自身の席につき時計に目をやると、時間は8時10分と朝のホームルーム開始までまだしばらくは時間があるようだった。その間に昨日の事をふと考える。

 

 

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 戦闘訓練が終わった後の夜、百の部屋で紅茶を飲みながら2人で話す。

 

「…帰りにお前に話したヤツってもう出来てるか?」

 

「帰りの時の物ならば既に出来ておりますわ!……それにしてもこんな武器を頼むなんて珍しいですわね?」

 

 そう言って百は部屋の奥のクローゼットから〝とある物〟を取り出しながら、此方へと訊ねてくる。

 

「新しい武器を扱える様にしたくてな。色んな武器を扱えた方が、さらに戦いの幅が広がるだろ?」

 

「なるほど。確かに手札を増やしておいて、困る事はありませんものね。訓練して多くの武器を扱えるようにするというのは大事だと思いますわ!しかし、訓練ばかりやり過ぎてはダメですよ?自分の体は労ってあげてくださいね?」

 

「……分かってるよ」

 

「…色々と、ありがとな」

 

 そう言って百から〝薙刀〟を受け取って影に入れておく。いつからかは知らないが俺が使う武器は大抵、百に作ってもらうか千蔵さんに買ってもらうようにしているのである。と言っても、百に作ってもらう事が大半なのだが。

 

 百の個性は創造である。どんな物でも作れるが、作り方などの詳細を知っていなければ作る事が出来ない。だからこそ、戦闘時のために百に武器を作らせて、知識を蓄える訓練にしているのである。

 

 そのせいで俺の影の中の武器やアイテムなどの約9割が百が個性で創造した物で埋め尽くされているのである。まあ、俺は武器をタダで手に入れられるし、百は個性の訓練が出来るしで、文句などあるはずが無いのだが。

 

 

────────────────────

 

 

 やはり、長物は扱える様にしておいて損はないだろう。薙刀は初めて使うから、また独学で色々と学ぶ事になるだろう。しかし、〝適応〟のおかげで武具の訓練にあまり時間を取られないのが唯一の救いだろうか。

 

 チャイムと共に相澤先生が教室へと入って来て、朝のホームルームが始まる。それによって、考え事に耽っていた意識がコチラに戻ってくる。

 

「ホームルームの本題だ!今日は急で悪いが学級委員長を決めてもらう」

 

「「「学校ぽいのキタァーーー!!」」」

 

 そんな相澤先生の言葉を皮切りにどんどんと周りからやりたい!という声が上がる。学級委員長をこんなにも、みんながやりたがるというのは他の科では見られない珍しい事であろう。というのも、ヒーロー科の学級委員長は普通のモノとは違い他を牽引するというトップヒーローとしての素地を鍛えられる役という事で、大人気の役職なのである。

 

 しかし、ここまで全員が食いつくとは少々予想外でもある。この中であまり反応を示していないのは俺と緑谷ぐらいであろう。

 

 

 

 そんな喧騒からしばらく経ち、飯田の提案で投票を行う事となり、今はその結果発表の時であった。

 

 黒板にズラリと、名前とその横に票数が書かれている、1番上には緑谷という名前の横に、3票と書かれていた。どうやら緑谷が学級委員長になる事が決定したようだ。因みに副委員長は2票を獲得した百である。

 

「なんでデクに!?…誰が入れたんだよ?!?!」

 

「んまあ、お前に入れるよか分かるけどよ…」

 

 緑谷の3票獲得に驚く爆豪に対して瀬呂が言う。

 

(確かに、俺も爆豪に入れるくらいなら緑谷に入れるだろうな…。しかし、百が2票は思ったよりも少なかったな……。もうちょい入ると思って別の奴に入れたんだが、コレは後から何か言われそうだ。……めんどくせぇから黙っとくか)

 

 そんなこんなで緑谷が学級委員長になるのであった。因みに投票を提案した飯田は1票だけ獲得していた。

 

 

 

 そして昼休みに起こった食堂での騒動の後。他の委員決めの時に、緑谷が突然、突飛な提案をする

 

「──けど、その前に良いですか?」

 

「…委員長はやっぱり、飯田くんが良いと思います!!」

 

 緑谷の話を聞けば、あの食堂での騒ぎの時に、周りを纏め上げ落ち着かせた、飯田の行動を見て自身よりも飯田の方ががリーダーに向いていると思ったとの事であった。確かに、あの時の飯田の咄嗟の判断は目を見張る物があった。あれならば、リーダーとしては何かと頼りになるだろう。

 

 そんな緑谷の提案を他の食堂にいた奴らも賛成した事により結局、学級委員長は飯田、副委員長は百という事で最終的に決定した。

 

 

────────────────────

 

 

 それから日を跨いでの午後、ヒーロー基礎学の時間である。教卓の前に立つのは我らが担任の相澤先生である。

 

「今日のヒーロー基礎学だが…、俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見る事になった」

 

 …なった?急遽そう決まったのか?…理由はなんだろうか、昨日のマスコミの件だろうか。かなり引っ掛かる所ではあるが、それよりも今回の授業は何をするのだろうか?

 

「今回の訓練って何するんですか?」

 

 瀬呂が相澤先生に質問を投げかける。それに対して先生はRESCUEと書かれたカードを掲げると今回の授業についての説明を始める。

 

「災害、災難、何でもござれ──レスキュー訓練だ」

 

 レスキュー。一般人に「ヒーローの仕事といえば?」という質問をすれば、最も多く回答されるであろう物であり、ヒーローの本職と言っても過言ではない程にとても大切な活動である。

 

 そんな救助の中でも、特に有名な物はオールマイトのデビュー当時の救助活動であろうか?俺達がまだ産まれるよりも前に起こった大災害での救助活動であり、10分と経たずに殆どの市民を救い出すという、今尚語り継がれる伝説である。あの当時の映像等を見てヒーローという者達に憧れを抱き、目指すようになった者も少なくないだろう。

 

「──おい、まだ途中!…今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定する物もあるからな」

 

 自身の個性などに合わせて作った結果、特定の場所でしか使えない。なんていうコスチュームは結構多い。プロヒーローでもその様な物を着ているために、活動の幅を絞っている者も数多く存在するぐらいである。

 

「訓練場は少し離れた場所にあるから、バスに乗って行く。…以上、準備開始!」

 

 先生のその宣言と共に各自、自由に訓練への準備を進めて行く。

 

 前の訓練でコスチュームを着た時も思ったのだが、一体どんな素材で出来ているのだろうか。全くもって疑問だ。…まあ、着心地は良いし、軽いし動き易いしで、とても利便性が高いのでコチラとしてはとても助かるのだが。…それにしてもこの服を着ると何だかスイッチが入るというか、気が引き締まる気がする。これさえ着てれば負ける気がしないな……。

 

 などと下らない事を考えながら外で待っていると全員が揃ったのか、飯田が笛を鳴らして、番号順で並ぶ様に指示を出す。それに従いバスへと乗り込んで行く。因みにバスの座席の形は横向きシートとなっており、飯田の指示はあまり意味の無いものであった。……ガンバレ飯田くん、ドンマイである。

 

 

 

「──まぁ、派手で強えつったら、爆豪と、轟だよな!」

 

 そんな切島の言葉で外を眺めてボーッとしていた意識がそちらに向く。

 

 爆豪の爆発の個性も轟の氷の個性も、どちらも子供達が好きそうな派手で強力な個性だ。ヒーローとなる上ではとても大事な稀有な才能と言っても過言ではない。

 

「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそう…」

 

 確かに出なさそうではある。子供が、もし爆豪を見たら恐怖で泣いてしまいそうである。俺が子供なら号泣してるだろう。それぐらいの迫力が爆豪にはあるのである。

 

「んだとゴラッ!出すわ!!」

 

「この付き合いの浅さで、既にクソを下水で煮込んだ様な性格と認識されてるってスゲェよ」

 

「…フッ、クソを下水で煮込んだ様な性格(笑)……」

 

 上鳴の変なボキャブラリーに思わず笑ってしまう。

 

「テメェのボキャブラリーは何だコラ、殺すぞッ!!テメェ!!ウニ頭も笑ってんじゃねぇよ、クソが!!」

 

「爆発頭と大して変わんねぇよ」

 

 俺が爆豪に言い返すと、それに上鳴が爆笑し、更にキレる爆豪。そしてそれを注意する飯田。バスの中はもはや混沌としていた。そんな光景を見て幼馴染みは軽く引いていた。そうやって騒いでいると何かの建物が見え出した。

 

「もう着くぞ!良い加減にしとけ」

 

 相澤先生の鶴の一声により、そんな騒ぎは一瞬で収まるのであった。

 

 

 

 そして、目的の場所に着いた俺達を出迎えたのは今回担当する3人目の教師であった。

 

──スペースヒーロー、13号

 

 ブラックホールという物を吸い込み分解するという非常に強力な個性を使って、救助を行う紳士的なヒーロー。その登場に騒然となる。そして、彼に案内され建物の中に入れば、中は一種のテーマパークの様になっていた。

 

「水難事故、土砂災害、火災、暴風、etc(エトセトラ)あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。…その名も──」

 

()ソの()害や()故ルーム。…略してUSJ!!」

 

(((本当にUSJだった!?)))

 

 まさかの名前に全員が驚く。まさか、某テーマパークと同じ略し方をするとは思いもよらず、微妙な顔になってしまう。

 

 そんな事はまあ良いとして、オールマイトの姿が見当たらない。何か急用でも出来たのだろう。今は教師をしているとは言え、依然No.1ヒーローである事には変わらない。その忙しさは相当な物なのであろう。

 

 などと考えて居ると、言葉に形容し難い胸騒ぎに襲われる。

 

(何だ?この感じ。…なんか見逃してんのか?なんでこんなに胸騒ぎがするんだ…。クッソ、よくわかんねぇな。とりあえず何も無いと良いんだが…)

 

「訓練を始める前に、お小言を1つ、2つ…3つ……4つ…」

 

「みなさんご存知だとは思いますが、僕の個性はブラックホール。どんな物でも吸い込んで塵にしてしまいます」

 

「その個性で、どんな災害からも人を救い上げるんですよね!」

 

 興奮しながら、そう言葉を発するヒーローオタクの緑谷。ここ2、3日で分かったのだが緑谷は重度のヒーローオタクである。しかし、莫大な研究によって蓄積された、その知識は侮れない物だ。

 

「ええ。…しかし、簡単に人を殺せる力でもあります。みなさんの中にもそういう個性の方がいるでしょう」

 

 そんな13号の言葉に全員がハッとさせられる。個性は人を救うための道具にも成れば、人を傷つけ簡単に殺めてしまう凶器にもなる。その事を俺達ヒーローを志す物達は忘れてはならないのだ。いくらヒーローであろうと、関係の無い人間を傷付けてしまえば、もはやヴィランと変わらないのである。

 

「超人社会は個性の使用を資格性にし、厳しく取り締まる事で一見成り立って居る様に見えます。…しかし、一歩間違えば容易に人を殺せる、行き過ぎた個性を持っていることを忘れないで下さい!」

 

 全員が13号先生の言葉に耳を傾けている。この言葉を茶化す者など、このヒーロー科には存在しない。みんなそれぞれがヒーローを本気で志し、日々励み合って居り、自身の先達の言葉の重みをしっかりと受け止め、自身の成長の糧としているのだから。

 

「この授業では、個性をどの様に使って行くのかを学んでいきましょう!君達の力は人を傷つけるためにあるのではない…。人を助けるためにあるのだという事を心得て帰って下さいな。……以上、ご静聴ありがとう御座いました」

 

 ブラボー!。と、大きな拍手と共に感嘆の声が上がる。些か過度ではあるが、まあその気持ちは分からないでも無い。それ程までに為になるお話であった。

 

 

 

「よーし、そんじゃまずは──」

 

 いよいよ訓練を始めようとしたその時であった。相澤先生の言葉を遮る様にして演習場の電気が消え、中央の噴水の前に何か黒いモヤの様な物が現れる。それを視界の端に捉え、咄嗟に背後へと顔をやる相澤先生。

 

 俺もそちらに意識を向ければ、その黒いモヤが突如広がり、中から次々と人が這い出て来る。

 

「何だありゃ?まーた入試みてぇな、もう始まってんぞパターンか?」

 

「…ありゃどう見ても違うだろ」

 

「一塊になって動くな!!…13号、生徒たちを守れ!」

 

 そんな俺たちに相澤先生が言外に訓練では無いと告げる。そう、これは訓練などでは無く、本当に俺達はヴィランからの襲撃を受けているのだと嫌でも理解させられる。そんな状況に周りの奴らへと、不安と焦りがまるで流行病かのようにどんどんと、伝染して行く。そんな間にもどんどんとモヤからヴィラン達が出てくる。

 

 その内の1人、脳味噌が露出しており、顔が人間からはかけ離れた見た目になっている黒い化け物が現れると同時に、その不気味さと異様さに背筋に寒気が走る。

 

(……一目見ただけで分かる。アイツはヤバい。…何だあの気配、まるで御伽噺に登場する化け物に出会った様な気分だ……。あの脳味噌野郎をどうにかしないと俺たちは──)

 

 

 

 

 

 

 

──死ぬ。

 

  

 

 

 

 

 

 3年程前の〝あの日〟以来に感じる、死ぬかもしれないという恐怖。それを俺は、奇しくも人の命を救うための訓練の時間に、痛感させられるのであった。

 

 

 

 1年A組、最初の試練(りふじん)が今、目の前に現れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の話も読んで下さりありがとうございます。
誤字報告やお気に入り登録ありがとうございます。
6話目はなるべく早く書ける様に頑張っていきたいです

以上、作者の後書きでした。
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