朱花と申します!
小鳥の囀りがどこからか聞こえてくる気持ちの良い朝。 思わず二度寝してしまいそうなほどポカポカとした、そんな気候の中僕は豪華に装飾されたとある扉の前に立っていた。
「失礼します!」
軽くノックしてドアを開ける。
目に映るのはシーツをぐちゃぐちゃにして眠っている男。その男に隠し持ったナイフが悟られないように近づき声をかけた。
「起きてください! ご主人様!」
僕は笑顔で、未だ起きることの無いご主人様に向けて隠したナイフを振り下ろすのであった。
―――
この世界には、二つの区域に分けられている。 一つは人間達が生活する『人間界』。 もう一つは僕達魔物が生活する『魔界』。
ここは、そんな魔界にある魔王城の最深部。
その最奥、玉座の間にて金属と金属とがぶつかり合う耳障りな音が鳴り響く。
『お任せ下さい! 闇を払え! 破邪の光!』
青髪の聖女が聖魔法を放つと、眩い雷鳴が迸り、僕を守護する闇のオーラを消していく。
『小癪な! 』
剣で聖女を牽制しながら叫ぶ。
僕は魔王、ゴブリンやスケルトンなどを統べる魔物の王。 彼らの庇護者である。
そして今、僕は魔王城に乗り込んだ勇者パーティと最終決戦に臨んでいる。
『炎獄よ! 舞踊れ! ファイアーグラウンド!』
防御の要、闇のオーラが消えた今が好機とばかりに桃色髪の魔法使いの払った炎の檻が動きを制約するように纒わり付く。
『
動きが制約され、動けない僕に金髪の少年が聖霧を纏った剣を振り下ろす。
守るのは不可能と判断し、得意技の影移動で少年の背後を取った。
『ちっ⋯⋯』
そのまま首を撥ねんと払った剣も聖霧によって阻まれる。
振り向いた少年が、剣を再び振り下ろす。
それも再び影移動で回避する⋯⋯
こんな状況がもう長く続いている。
『ええぃ! 魔王!いい加減に滅びやがれ! 』
痺れを切らしたのだろうか、その少年が声を荒らげて叫ぶ。
確か彼は自分のことを勇者と名乗っていた。
言葉通りかなり強い力を持ってはいるが、精神は子供のままである。
しかしながら⋯⋯。
何故こんな状況に陥っているか、僕には納得が行かなかった。
人間たちが言うには魔物(ぼくたち)が彼らのテリトリーを侵害したらしいが⋯⋯。
そんな事はありえない。僕の魔物たちの統率は完璧でトラブルを防ぐために魔界から人間界に渡るすべを制限し、人間界に渡った魔物も把握している。
それなのに人間たちはやって来た。
一方的に魔界の魔物たちを蹂躙し、魔領へ乗り込んできた。
無論、同胞を殺した人間たちを我らが許すはずがない。そうして、始まったのが魔物と人類の矜恃をかけた大戦争、『人魔大戦争』だ。
人類は基本的に、魔物に比べて生まれつきの魔力がほとんどない。その点で大きく勝っていた魔王軍は当初、優勢であった。
しかしある日を境に、形成は逆転した。 女神の寵愛を受けた人間がその力を借りて『聖法気』なるものを開発したのだ。『聖法気』は、僕たち魔物に対して最大の効力を発揮し毒となる。
その力を使った魔法『聖魔法』に対抗できず、魔王軍は一気に劣勢となり多くの屍が重ねられることとなった。
―――散っていった同胞達のためにも、僕は負ける訳にはいかないのだ。
『落ち着きなさい、ヴァーチェ。 頭に血が上ったままだと⋯⋯死ぬわよ?』
桃色髪の魔法使いがヴァーチェと呼ばれた勇者を諭す。余計なことを、と僕は思った。
勇者が冷静さを失ってくれることを狙っていたのだが⋯⋯どうやら読まれていたようだ。
そもそも、彼女さえいなければもっと楽に戦うことができたはずである。
彼女はおおよそ人間とは思えない程の魔力を持ち合わせている。その魔力での魔法で僕の動きを制約してくるのだ。
『でも、ヴァーチェさんのおっしゃることも分かります。 流石にそろそろ鬱陶しいです。 魔物は滅するべし、早くトドメを刺しましょう! 』
今度は青髪の聖女が呼びかけた。
彼女の目には明らかな憎悪の色が伺える。
しかし、彼らは玉座にたどり着くまで多くの戦いを乗り越えてきている。
だから既に満身創痍のはず⋯⋯このまま戦いが長引けば勝つのは僕である。
『おう! ハマルが言うならやってやる! おい魔王! 俺様と一騎打ちしやがれ!』
そう言ってヴァーチェが前に出る。本当に一騎打ちで決めるつもりなのだろうか。
なぜ⋯⋯⋯⋯その問いに対する答えはすぐに分かった。 勇者が思い切り剣を振れる状況を作りたいのだろう。
彼は仲間との連携が苦手なようで、先程から窮屈そうに戦っていた。
本気の彼と戦うのは多少リスクがあるが⋯⋯⋯⋯
これは、チャンスだ。
ヴァーチェという前衛を失えば残るは近接戦闘が苦手な女2人。
余裕で勝つことが出来る。
『いいだろう。僕が⋯⋯魔王ヴァイスが相手だ。 行くぞ!』
言うが早いか、僕は剣を抜き打った。
―――ギンッ!
それに反応したヴァーチェが立てた剣と僕の剣が噛み合い、喧しい音を立てる。
『甘いぜ! 喰らえ魔王!
一撃を防いだヴァーチェは今がチャンスとばかりに切り札の
ヴァーチェの周りに霧が立ち込めた。
この
あの霧にはそれぞれに魔を滅する効果がある。いくら魔王といえど、長く喰らえばその命はない。
『
負けじとこちらも切り札を切る。
辺りに闇のオーラが立ち込めた。
このオーラに長く触れていると、魔力の低い人間は滅びてしまうことであろう。
長く戦えば、まだ余力のある僕が勝つはずだ。
―――だからここでヴァーチェが取るのは⋯⋯
ヴァーチェは剣を水平に突き出す深めの構え、刺突の構えをとった。精神は子どもだが、勝負どころの嗅覚は持っているようだ。
その顔からも伺えるようにこれで決めるつもりだろう。
『どうした来ないのか? それとも臆したのか?』
僕は余裕の表情で勇者を挑発した。
言葉とは裏腹に油断なく愛剣、『
勇者の持つ『勇者の剣』は、女神の力によって作られた神剣だ。 普通の剣ならば、打ち合った瞬間に粉々に砕かれてしまうことだろう。
しかし、『
瞬間、ヴァーチェが動いた。
視認できない程の速さで、刺突が迫る。僕はヴァーチェの視線から読み取った刺突の場所から飛び退いた。
完全な回避は不可能で、聖霧によるダメージは食らったが関係ない。
ガラ空きとなったヴァーチェの背に向けて一刀を振るう⋯⋯それでも恐るべき反応速度でヴァーチェは防ごうと剣を背中へと回す。
―――かかった!
内心ほくそ笑んだ。これはフェイント、本命はこっちだ。
影移動でヴァーチェの背後を取る。
『さらばだ、勇者ヴァーチェ! 』
渾身の一撃をヴァイスの脳天目掛けて振り下ろす。
―――グシャ
耳に届くは、肉を切り裂く音。
それは、勇者の肉を切り裂いたものでは無い。
『なん⋯⋯だと⋯⋯』
僕の視界には、腹から生えた氷塊が映っている。
『ふぅ⋯⋯危なかったわね。 魔王。 あなた⋯⋯⋯⋯意外に素直な性格だったのね。 私たちが折角の数の有利を捨てるわけがないじゃない』
桃髪の魔法使いが歩み寄り、クスクスと笑う。
今更僕は、自分の失態を悟った。勇者の性格から、正々堂々来ると思い込んでいた。
勿論、油断していた訳ではない。
ただ、トドメを刺す瞬間に詰めを怠ったのだ。
『お⋯⋯のれ』
『あら? まだ息があったのね? まぁもう持たな⋯⋯』
上から突然の衝撃を加えられ魔法使いの声が途中で聞こえなくなった。
『さっさと滅びろ! 外道が! お前さえ⋯⋯お前さえいなければ!』
ハマルと呼ばれた聖女に踏みつけられる。
未だかつて向けられたことの無いような憎悪に、僕は久しく感じていなかった感情に出会った。
―――その名は、屈辱。
悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!
それなのに⋯⋯
何も出来ない自分の無力さにただ震えていた。
『あれ? もう諦めちゃうの?』
『⋯⋯!』
途端に声がした。女の声だ。
『聞こえてるんなら何か反応が欲しいね⋯⋯まぁいいや。君、ここで諦めるの? あんな少女にバカにされたまま終わっていいの?』
『⋯⋯ッ!』
『もし君が望むのなら、力を分けてあげても良いんだけどなぁ。』
女の声はどこか楽しそうだ。
どうやらこの状況を楽しんでいるらしい。
『もし生きたいと、彼らに復讐したいと願うなら私があげた力を使うといいよ。まぁその先にあるのは修羅の道だけど⋯⋯じゃね、魔王様♡』
不思議と身体中に力がみなぎった。
あの女が言っていたことは事実のようだ。
修羅の道? 知ったことか。
僕は奴らに復讐を果たす。
『⋯⋯ッ⋯⋯キャア!』
思うがままにハマルを吹き飛ばます。
憎まれる対象。 自分を見下す対象。
それさえいれば、僕は幾らでも強くなれる気がした。
『
僕は全身の力を振り絞り、何故かあらかじめ知っていた魔法を行使した。
『なっ⋯⋯コレは! この魔法は!』
魔法使いはその正体に気がついたようだが⋯⋯もう遅い。
『では、しばしの別れだ! 勇者どもよ! 』
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現在の推しキャラ(番外編の主人公に起用)
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