メイドは主人を殺したい   作:朱花

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「読心」を使わないの? という指摘を頂きました。

⋯⋯そうですね。 とりあえず、その疑問をそのまま持っておいてください(暗黒微笑)


作戦準備

「お前に国王の暗殺に協力して欲しい」

 青年は、真面目な顔でそう言った。

 ―――国王を殺したい?

 初めに思いついたのは、自分の本来の目的が悟られているのでは、という懸念だった。

 だから僕は⋯⋯

「えーっと⋯⋯どうしてです? 確かにここの国王は愚王のようですが⋯⋯私には関係ないのですよ?」

 何も知らないかのように白を切ることにした。

 その返答を聞いた青年の表情は途端に、先程までの面倒くさげな顔に変化した。

「えー。 頼むって! お前しかいないんだよー」

 唇を尖らせながら子どもの様に駄々をこね始めた。 大の大人が僕の服の端を引っ張りながら不平を述べるその姿に、周囲の人々からの痛々しい視線が容赦なく突き刺さった。

 

「分かりましたよ⋯⋯。 協力しましょう。 ただ、これ以上の話は、別の場所で」

 その羞恥に耐えかねて僕は渋々承諾し、場所の変更を提案した。 彼は依然、僕の服の裾を掴んだままで周囲を見回した。

「あーな。 そうするか⋯⋯で? どこに行く? 俺は、アンタについて行くぞ」

 ようやく状況を理解したようで、彼も僕の案に賛成した。

「こっちです」

「おいおい⋯⋯痛いって」

 僕は、小さく呻いている青年の手を乱暴に引きながらエイリさんとの約束の場所に向かうのであった。

 

「なぁ⋯⋯お前の名前なんて言うんだ?」

 向かう途中で青年が質問してきた。

「⋯⋯人に名前を聞く時は、自分から言うのが礼儀ですよ」

 僕は、彼のことを危険人物認定しているため自分から情報を明かすつもりは無い。

「おう。 確かにそうだな。 俺はサーチェ⋯⋯だ」

 ポンと手を叩いて青年―――サーチェは胸を張りながら宣言した。

 何やら言葉尻が濁っていたことが気になるが⋯⋯まぁいい。

 

「セリカ⋯⋯です」

 名乗られた以上、仕方ないのでボソッと呟いた。

「セリカ⋯⋯セリカな。⋯⋯あれ? なんだっけ?」

「⋯⋯」

 名乗って十秒後も経たないうちに彼は僕の名前を忘れてしまったようだ。 ジトーっとした目で彼を睨みつけるが、どうやら本当に忘れてしまったようだ。

 

「⋯⋯セリカです!」

 その体たらくに思わず叫んでしまった。

 それを見たサーチェは小さく笑って⋯⋯

「ははっ嘘だよ。 覚えてるから! セレナだな。 よろしく」

 そう言って頭を撫でられた。

 ⋯⋯堂々と僕の名前を間違えているのは、もはやわざとなのだろうか?

「だから⋯⋯セリカです!」

「うおっ! ちょっ! 痛い痛い痛い! やめろやめろ⋯⋯悪かったよ、セイナ!」

「セリカだぁぁぁぁ!」

 

 サーチェの頬を引きちぎらんばかりに引っ張る。 彼は涙目になりながら、何度も僕の間違った名前の数々を連呼していた。

 彼の体たらくに叫んでいた当時の僕は知らなかった。

 この男が⋯⋯どうしようもない、ろくでなしのサーチェとの関係が予想以上に長くなることを。

 

―――

 

 場所は変わって王都内屈指の高級料亭。

 その個室の一角にて⋯⋯

「⋯⋯という訳で、この人と協力することになりました。 不本意ですけど」

ほほひく(よろしく)

「あっあぁよろしく」

 僕は、エイリさんにこれまでの経緯を話した。

 紹介されたサーチェは、エイリさんの視線を気にすることなく食事に集中している。 おかげさまでエイリさんが困惑しているじゃないか⋯⋯

「それで⋯⋯国王を暗殺するのか」

 サーチェの食事がある程度終了したタイミングでエイリさんは真剣な目をして、彼に問いかけた。

「あぁ。 このクソみてぇな国を取り戻す」

 それにサーチェも真剣な目で答えた。

エイリさんは、それを聞いた後に顎に手を当てて少し考えるような素振りを見せる。 しばらくして、その顔を上げた。

 

「なるほど⋯⋯。 セリカちゃん。 悪いけど、少し外してくれないかな?」

 エイリさんは、僕に退出するよう促した。

 ⋯⋯同郷のもの同士で話したいことがあるのだろうか?

「分かりました。 私はここで」

 このままゴネても仕方ないので、僕は、一礼して席を外すことにした。

 

―――

 

「これで、誰も聞いておりません。それで、どうしてこんなとこにおられるのですか? マグノリア様?」

 私は、黙ったままの青年に切り出した。

 青年は、少し驚いたような顔をして。

「おっと⋯⋯俺のことを知っているやつなんて、もう殆どいないと思っていたんだけどな。 能力(スキル)か?」

 サーチェは驚いたような顔をしてエイリを見た。

 

「さぁ? どうでしょうかね? それで⋯⋯どうしてこのような場所に? ⋯⋯王が変わられてから二年になりますが」

 上手く誑かしたエイリにサーチェは「ハハッ。 食えねえやつだ」と、グラスに並々と注がれたワインを一気に飲み干して笑った。

 

「あ? ⋯⋯この二年間、俺はとある師匠の元で修行しててな。 正直国なんかどうでもよかったんだが、同門のやつに諭されて、気が向いたからだ。 まぁ俺がやろうとしてることは本気だから⋯⋯あいつ、借りるぜ?」

 ニヤッと笑いながらサーチェがエイリさんを向いた。

 そこに、先程までの飄々とした空気はなく、至って真面目な顔であった。

 それに対して⋯⋯

「⋯⋯分かりました。 セリカちゃんが協力すると言うなら私は、全力でバックアップしますぞマグノリア様?」

 エイリも酒を飲み干し、ニヤッと笑って返すのであった。

 

―――

 

 冷たい夜風が肌を撫で、「くしゅんっ!」と小さくくしゃみをもらす。 しかし、その音は周囲の沈黙に呑まれて消えていくのであった。

  

「⋯⋯ふむ。 なかなか暗いな」

 既に当たりは暗く、闇に包まれていた。

「⋯⋯ん?」

 遠くの方からカチャカチャとした音がこちらに近づいてくる。 その方を注視してみるが、夜の闇のせいではっきりと見ることは叶わなかった。

 

 ―――そして、その正体が目の前に表れる。

 

「ん? お前は⋯⋯昼間の女じゃねぇか! へへっまた会えるとはなぁ。料理の後に、美味しくいただくとするか 」

 昼間の騎士であった。 あの時は子分らしき奴らを連れていたが、今は一人のようだな。 夜の巡回⋯⋯では無さそうだが、まぁいい。

 ⋯⋯どうやらか弱い少女だと思って油断しきっている様子だ。

(そうだ! ⋯⋯あれを試してみようか)

「貴方⋯⋯。 来ないでください」

 作戦の第一段階として僕は、騎士をキッと睨みつける。

 彼はそんな言葉に聞く耳も持たず、下卑た笑みを浮かべながら近づいてきた。

 あと少し⋯⋯あと少しで罠にかかる。

 

「へへっいいねぇ。 そういう奴がどんな風になるのか⋯⋯想像しただけでそそるぜ」

 男は剣を構えつつ、コチラに歩み寄ってくる。

 その手際の良さから、彼が何度もこのようなことをしている事が伺える。

 ―――武器を持っていない相手を武器で脅す。

 実にくだらない。 小者だな。

「消えろ」

 僕は、腰の災厄(ディザスター)を抜き打つ。

 殺さないようにかなり速度を抑えているため、普段なら絶対に防がれるような攻撃だが⋯⋯。

 

「ぐぇ」

 僕が武器を持っていないと油断しきっていた彼に対応出来るはずもなく、短い呻き声と共に男は遥か後方に吹き飛ばされるのであった。

(ふむ⋯⋯)

 相手が雑魚だったから断言は出来ないが、武器を見えなくする鞘の威力はなかなかに強大のようだ。

 

「そろそろ戻るか」

 思案もほどほどに、僕は男を常備している縄で縛り、料亭に戻るのであった。

 

―――

 

「セリカちゃん。 悪かったね」

「はい。 寒かったです」

「遅せぇよ、セリ⋯⋯カ」

「⋯⋯名前、ちゃんと覚えてくださいね?」

 戻ると、エイリさんとサーチェが変わらぬ様子で料理を食べていた。

 どうやら話し合いも終了したようだ。 サーチェも何とか僕の名前を覚えたようだし⋯⋯まぁいいだろう。

 

「セリカ」

「なんでしょう?」

 座席に腰掛けた僕に、いきなりサーチェが声をかける。

 サーチェの方を向くと、彼は不敵ににっこりと笑って⋯⋯

「一週間後、暗殺計画を決行する」

 そう高らかに宣言したのだった。

現在の推しキャラ(番外編の主人公に起用)

  • セリカ
  • サヤ
  • サーチェ
  • エイリ
  • カムラ
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