長らく待たせてごめんなさい
「うぃー。 セリカ〜。 そこ、右に曲がれ〜」
「⋯⋯あの。 重いんでさっさと降りてくれませんか?」
僕の背中に背負われるサーチェは調子に乗って、三本ものワインを一人で飲み干したのだ。
サーチェはあまり酒に強くなかったようで、案の定酔っ払った彼は現在僕に背負われて住処へと向かっている最中だ。
というのも、彼が「⋯⋯お前は秘密基地に案内してやる」と半ば無理やりに決定してしまったのだ。
まぁ⋯⋯彼の口ぶりからも恐らく仲間がいるのだろう。 何せ国王暗殺なんて大それたことをやるのだからな。 それならば、やはり作戦前に面識のあった方がいいだろう。
ひと組の男女が、人々が寝静まった王都を歩いていくのであった。
「⋯⋯おーい。 セリカ〜そこで止まれー」
「⋯⋯ここ、ですか?」
サーチェが呼び止めた場所は王都にある、ゴミ箱が乱立する路地裏であった。
周囲を見回しても、視界に入るのはゴミを漁る野良猫のみで、棲家になりそうなところは見受けられなかった。
「⋯⋯何処ですか?」
「ここだ」
サーチェは僕の背から飛び降りた後、ゴミ箱を掻き分けてその下にある扉のようなものを指さした。
「⋯⋯地下ですか」
「そうだ。 カッコイイだろ?」
「あーはい。 そうですね。 ⋯⋯疲れたので早く休みたいのですが?」
「へいへーい。 ちょっと待ってろよー。 ⋯⋯ひっく!」
サーチェは赤い顔でフラフラと安定しない千鳥足で何とか立ちながらポケットを漁り、何かを探していた。
恐らくは鍵だろうな。 疲れているから早くして欲しいものである。
僕はそう思いながらサーチェを待っていたのだが⋯⋯
「⋯⋯どうしたのですか?」
「あはは⋯⋯あれ? おかしい⋯⋯確かにここに入れた筈なのに⋯⋯」
五分ほど待っても、彼が鍵を取り出す気配は一向になかった。
僕が問いかけると、彼は先程まで赤かった顔を真っ青に染めながらそう呟いていた。
「⋯⋯もしかして、無くしたのですか?」
「⋯⋯」
サーチェは黙って答えない。 しかし、その表情と彼の顔から滝のように流れ落ちる汗が、悠然と事実を語っていた。
―――彼が鍵を無くしたのだという事実を
「⋯⋯もういいです。 ここは私に任せてください」
眠い⋯⋯物凄く眠いから早くして欲しい。
その一心で、僕はサーチェを押しのけて扉の前に立った。
「ん? なんだセリカ、お前鍵開けが上手いの⋯⋯」
「えいっ!」
何やら見当はずれな見解を示すサーチェを気にすることなく、僕は全身の力を使って扉を力ずくでこじ開けた。
「ぎゃぁぁぁ! おいセリカ、てめぇ何やってくれてんだぁぁぁ!」
「⋯⋯うるさいです」
深夜であることを気にすることなく、サーチェは力の限り絶叫した。
耳を劈くその大声を苛立たしく思ったが疲れている僕は、扉の奥に続いていた地下階段を降りていく。
「⋯⋯ちょっ、おいセリカ! 待ちやがれ!」
サーチェが何かを言っていた気がしたが、気にしない。
(ここは⋯⋯ベッド⋯⋯か?)
やがて部屋らしきものに着いた僕は、明かりのない室内を手触りで確かめ、何かふわふわしたものを見つけた。
その正体は分からなかったが、とりあえず眠ることに決めたのだった。
―――
どこからか微かに小鳥の囀りのようなものが耳に届いた。
「うーん」
小さく呻きながら、僕は少しだけ目を開く。
(まだ⋯⋯眠い。 もう少しだけ⋯⋯ん?)
僕が再び夢の世界へと意識を手放そうとしたその時、
「⋯⋯?」
不審に思いながら周囲を見回す。
まず目に飛び込んできたのは知らない天井であった。
真っ白に染め上げられたその天井には、眩い光を放つものが埋め込まれていた。
あれは確か⋯⋯魔照明と呼ばれる魔道具であったはずだ。
今はそんなことはどうでもいい。
一体その正体は⋯⋯
「!」
僕が自分の横に視線をやった時、それは見つかった。
「へへっ。 ⋯⋯良いではないか〜良いではないか〜」
その男⋯⋯サーチェは何故か僕と同じベッドの上でよく分からない寝言を呟きながら眠りこけていた。
「⋯⋯死ね、変態が」
「ほえ? ⋯⋯ひゃぁぁ!」
有無を言わずに僕はサーチェをベッドの上から突き落とす。
彼は奇妙な声を上げながら綺麗に床に激突した。
その大きな音が部屋中に響き渡っていく⋯⋯
「⋯⋯おいセリカ。 なーにしてくれてんだ?」
「何って⋯⋯変態を成敗しただけですが?」
頭を擦りながら恨めしげな視線を浴びせてくるサーチェを冷たく斬り捨てる。
彼は「仕方ないだろ⋯⋯お前が俺のベッドで寝てたんだから⋯⋯」という彼の呟きを聞くと、何とも言えない気持ちになった。
⋯⋯ふむ。 少し悪いことをしてしまったな。
「⋯⋯それはすいませんでした」
「あー。 ⋯⋯もういいよ、仕方ねぇからな。 俺も悪かったから」
サーチェは依然頭を擦りながらも、気丈に笑って見せた。
その器量に少し感心したのも束の間⋯⋯彼は指をピンと立てて「ただし、罰として今日の朝飯。 お前が作れよ」と小さく笑いながらそう言った。
「⋯⋯え? 私、料理作れませんよ?」
「⋯⋯は?」
僕の返答に気まずい沈黙が流れた後に⋯⋯サーチェが驚いたような顔を向けてくる。
仕方ないだろう。 僕は今まで料理なんて自分でしたことがないのだから。 旅の最中もエイリさんが色々と作ってくれて、僕はもっぱら狩り専門だったからな。
しかし、サーチェはそれが以外だったようで「嘘だろ?」と鬱陶しく何度も聞いてきた。
「⋯⋯他の仲間の方に頼んでください。 それ以外は手伝いますから」
少しぶっきらぼうにそう言うと、サーチェは何とも形容し難い表情を見せた後に「もう一回言ってくれ」と言う。
「ですからここにいる別の仲間の人に⋯⋯」
「別の仲間? いねぇぞそんなの。 ここにいるのは俺とお前だけだ」
「⋯⋯え?」
「え?」
再び沈黙が場を支配し、僕とサーチェは黙って見つめ合う。
非常に気まずい状況ではあるが、僕の頭にはそんな些細なことを気にする余裕はなかった。
「⋯⋯嘘、ですよね? まさか⋯⋯国王暗殺を企てているのに仲間が私以外にいないなんて⋯⋯」
「いいや、本当だぜ? 逆に、どこに居住する場所があるんだよ?」
サーチェにそう言われて周囲を見回す。
確かにこの秘密基地には僕たちが今いる部屋と台所、そして⋯⋯もうひとつの小部屋があるのみの小さな場所であった。
「⋯⋯」
そんな彼のどうしようもなさに呆れていたのも束の間、彼は「よいしょ!」と言って立ち上がった。
「⋯⋯ほら早く支度しろー」
「⋯⋯どちらへ?」
ベッドの横にあるクローゼットを開けた彼は何着もある昨日と同じコートを羽織るサーチェは「まぁ着いてこい」と言って足早に部屋を出ていってしまった。
(⋯⋯まぁここにいても埒が明かないから、着いていくか)
僕は既にかなり小さくなった彼の背を追いかけるのであった。
―――
ここは王都最大級の骨董品店。
そこを中心に、気持ちのいい朝を邪魔する無粋な音と大声が響き渡っていた。
「おーい! エーイーリー! いるだろー!」
「やめてください! なんですか! 朝っぱらから⋯⋯」
「⋯⋯おう。 なんか、お前の寝巻き凄いな」
扉をゴンゴンと叩くこと早三分。
三角帽子を被った以外にも可愛らしい寝巻きに身を包んだエイリさんがようやく現れた。
少し不機嫌そうなエイリさんは、どうやら僕が視界に入っていないようで、サーチェを見つめたまま目を離してしなかった。
「ふふっ。 お目が高いですな⋯⋯。 これは我が妻が結婚記念日にプレゼントしてくれた⋯⋯」
「あぁ。 そういうのいいからさ⋯⋯」
サーチェは無言で右手をエイリさんの前に突き出す。
何のことかと首を傾げるエイリさんに「金くれ。 飯食う金がねえ」と言い放った。
「朝っぱらから⋯⋯金の話ですか⋯⋯」
もはや怒りを通り越して呆れたようなエイリさんは一度店の中に入った後に、ジャラジャラとした音を立てる袋を持ってきた。
「⋯⋯とりあえずこれをお持ちください。 当面はこれで足りることでしょう」
「恩に着るぜ」
サーチェは渡された袋の中身を確認して、満面の笑みを浮かべながらそう言った。
「すいませんエイリさん。 ありがとうございます」
そう言って僕も礼を述べる。
「あれ? セリカちゃん。 いつからそこに?」
「⋯⋯最初からいましたが?」
僕の返答にエイリさんは「あ」と小さく呟いた後に、みるみるうちに顔を青くさせた。
⋯⋯その不審な挙動から何となく察してしまった。
「まぁセリカはちっこいからな。 見えなくても仕方ないぜ」
しかし、そんな空気を気にもとめずにサーチェが言った言葉で場が凍りついた。
彼は、僕が転生以来ずっと気にしていたコンプレックスを堂々と穿ち抜いたのだ。
しかし、当のサーチェはその自覚がないのか、嬉しそうに袋の中の金を数え始めていた。
「⋯⋯九十九、百! おいセリカ! すげぇぞ! これ金貨百枚も入って⋯⋯ぇぇぇぇ !」
僕は黙って彼の溝内に肘打ちを喰らわせた。
綺麗に攻撃を喰らった彼は崩れるようにその場に蹲る。
「⋯⋯やるじゃ⋯⋯ねぇか」
「さっさと立ってください。 朝ごはんを食べに行きますよ?」
未だ苦しそうに呻く彼を足蹴りしながら、気分の良くなった僕は朝食を食べる場所を探し始めるのであった。
えーっと。
現在たいあっぷというサイトで「メイドは主人を殺したい!」を公開しておりまして⋯⋯皆さんがポイントをくださると電子書籍化できるみたいなんですね。
挿絵もありますし、話も今出しているところよりも格段に進んでおりますので⋯⋯気が向いたら読んでやってください。
面白ければポイントも⋯⋯
現在の推しキャラ(番外編の主人公に起用)
-
セリカ
-
サヤ
-
サーチェ
-
エイリ
-
カムラ