メイドは主人を殺したい   作:朱花

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作戦開始

 サーチェと出会ってから早いもので、もう一週間が経過した。

 この一週間、僕たちは作戦成功のために修行を積んできた。

 目立たないように町娘が着るような服を買いに行ったり、武器を買う出費を抑えるために自炊の練習をして結局外で食べるよりも高くついたり⋯⋯思い返せば過酷なものばかりであった。

 

 ⋯⋯まぁ流石に遊んでいたばかりではなく、毎日サーチェと手合わせを続けてきた。

 一週間もの時を共にして、僕はサーチェの人となりをかなり理解出来たと思う。

 彼はどうしようもなく、ろくでなしだ。 栄養バランスの偏りしかない食事に加えて朝寝坊なんて当たり前で、酷い時には昼過ぎに起きてきたこともあった。

 

 ⋯⋯しかし、それを補ってもあまりあるほどに彼は強い。

 この一週間の手合わせで僕は彼に一撃すらも入れることが出来なかった。 未来予知にも近い完璧な読みと圧倒的な戦闘センス。

 災厄(ディザスター)を封じていたことに加えて得意技の影移動を封じていたとはいえ⋯⋯いや、それを使っても恐らく勝つことはできないだろう。

 平和な時代にはそぐわない⋯⋯彼はそれ程の化け物なのだ。

 

 これは余談だが、サーチェの師匠は彼以上の実力を持っていたらしい。

 最も、彼はそれを頑なに認めないため僕の憶測でしかないのだが。

 

「セリカ? 最終確認だ」

「⋯⋯分かりました」

 皆が寝静まったであろう王都の夜道を歩きながらサーチェが語りかけてくる。

「俺の分身体は既に大臣たちの救出に向かっている。 ⋯⋯だから、俺の今回使える力は五割分だ」

「ふん。 ⋯⋯私との戦いでも三割程しか出していなかったのでは?」

 サーチェが言う分身体というのは、彼の能力の『分身』のことだ。

 一度だけ見せてもらったことがあるのだが、分身にも実体があり攻撃が可能なのだ。 更にサーチェ曰く、分身を通じて状況の把握も可能らしい。

 強力無比な能力ではあるが、当然デメリットも存在する。 それこそが「使用者の力が半分になる」というものだ。

 ひとつの分身を出すと半分、もうひとつ出すとその半分⋯⋯といった塩梅で弱くなってしまうのだ。

 最も、サーチェは元々の力が半端では無いのであってないようなデメリットではあるのだが。

 兎に角、彼の能力は今回の任務でとても重要な役割を果たすのだ。

 それこそが、大臣たちの救出である。

 国王の暗殺の最中に、関係ない人物を巻き込むのはあまりに残虐だからな。

 

「⋯⋯あ? そんなことないぜ? ⋯⋯三割五分くらいだな」

 飄々と笑いながらそう言い放つサーチェからは一見微塵の緊張感も感じられない。

 しかし⋯⋯それは見かけ上の話である。

(ものすごい集中力⋯⋯だ)

 普段は眠そうに半開きの目を全開にしたサーチェは正しく極限の集中状態であった。

 

「んじゃ⋯⋯行くか。 ⋯⋯死ぬなよ?」

「ふふっ。 ⋯⋯私がそう簡単に死ぬとでも? 寧ろ、サーチェさんこそ変な罠にかからないでくださいね?」

「言ってくれるぜ。 ⋯⋯やるぞ。 エイリの犠牲を無駄にしないためにもな」

「⋯⋯えぇ」

 僕たちの装備や回復薬の仕入れによって総額267枚もの金貨を浪費することとなったエイリさんを思いながら、程よい緊張感で僕たちは深夜の王都を疾走するのであった。 

 

―――

 

「⋯⋯止まれ」

 ある程度進み、闇の中でも王城がはっきり見え始めたところで、サーチェがおもむろに立ち止まった。

「⋯⋯なんですか?」

 このまま、突っ切ればいいのに。 そう思ったのだが⋯⋯王城近くを巡回する騎士たちがいることに気がついた。

 こんな時間帯に彷徨いている僕たちなど、少なからず不審がられるだろう。

「アイツらを相手取るのはめんどくせぇな」

 僕も同意見だった。 騎士たちは、昨日までの三下共とは違う。 本当の実力者達だった。

 まぁ勝てなくはないが⋯⋯。 こんなところで無駄に力を浪費したくないのだ。

 

「でも⋯⋯どうしますか? あれだけの数の巡回を掻い 潜るのは至難の業ですよ」

「うーん⋯⋯上、いくか」

「⋯⋯は? ちょっ⋯⋯ちょっと!」

「うるせぇ。 ⋯⋯ちょっと黙ってろ」

 サーチェは僕の身体を横にして抱える。 一体何をしているのだろうか?

 ―――メキリ

 そんな音がして下を見ると、サーチェの立っている辺りの煉瓦で作られた道が不自然に壊れていた。

(まさか⋯⋯)

「よっと!」

「⋯⋯は?」

 僕がその可能性に気がついたのも束の間⋯⋯跳躍した。

 掛け声こそ軽々しいものであったが、その距離は馬鹿げたもので、あっという間に城門すらも超えてあっさりと王城こ侵入に成功したのだった。

 

 

「⋯⋯俺! 参上!」

 サーチェは綺麗に着地しながら奇怪な叫び声を上げる。

「⋯⋯さっさと下ろしてください」

「へーへー。 分かったよ」

 彼はそう言って僕の身体から手を離した。

 全く⋯⋯彼の唐突すぎる行動も考えものである。

 

「「「敵襲だ!」」」

 

 そんなことを考えていた矢先、どこか遠くの方から大群が走ってくるような音が聞こえてきた。

 そちらの方に視線を向けると⋯⋯甲冑に身を纏った騎士たちがこちらに向かって来ていた。

「⋯⋯まじかよ」

 苦々しく呟くサーチェ。

 流石にあれほどの派手な動きをしたら悟られてしまう、か。

 

「⋯⋯サーチェさん。 ここは私に任せてください」

「⋯⋯は? いやいや、ここは一緒に倒した方が⋯⋯」

「ダメです」

 サーチェは驚いたような顔を僕に向ける。

「ここで時間を稼がれてしまっては国王に逃げられるかもしれないでしょう? 今回で成功させないとおそらく、次からは成功しません。 ⋯⋯だから行ってください」

「⋯⋯」

 サーチェは黙って答えない。

 しかし、その表情には明らかな迷いが伺える。

「⋯⋯分かった。死ぬなよ」

 とっくに騎士たちに包囲された中、サーチェが絞り出すように呟いた。

 ⋯⋯愚問だな。 僕を誰だと思っている?

「⋯⋯大丈夫ですよ。 ⋯⋯私ですから」

「ははっ。 そうかよ。 だったらお前に任せるぜ? セリカ」

「承りました」

 サーチェは再び脚に力を込めて跳躍する。 一直線に王城へと飛んで行った。

「⋯⋯ひとり逃げたぞ! 追えー!」

 そのサーチェを追いかけようと走り出す数名の騎士たち。

「⋯⋯ダメですよ? 私の相手をしてもらいます」

「⋯⋯ッ!」

 僕は彼らの行く先を炎の壁によって封鎖した。

 上手く止まることができずに、何人かの騎士が業火に焼かれて亡きものとなる。

 

「お前たち! 敵は女一人だ! 逃がすな!」

 数十名の騎士の中、馬に乗った一人の女騎士が号令を掛ける。 彼の号令に合わせてじわり⋯⋯またじわりと包囲網を詰めていく。

 騎士の得意な集団戦法である。

 しかし⋯⋯

 

「わざわざそんなものに乗ってやる義理はない」

 僕はすかさず影移動を発動させて一人の騎士の背後をとる。

 そして⋯⋯抜き放った災厄(ディザスター)の腹の部分で首元を思い切り叩く。

 

「ぐあっ⋯⋯」

 その騎士は思いもよらぬ角度からの攻撃に反応出来ず、意識を刈り取られた。

 僕はその近くにいる何人かの騎士も同じように気絶させていった。

 極力殺さないように注力する。 彼らは自分の仕事を果たしているだけ⋯⋯罪はないのだから。

 

「何人かやられているぞ!」

「馬鹿な⋯⋯どうやって⋯⋯」

「馬鹿者! 隊列を乱すな!」

 騎士たちに動揺が生じて包囲網が崩れ始める。

 こうなってしまえばもはや影移動を使うまでもない。

 

「⋯⋯狩り尽くす」

 そう小さく呟いて、僕は騎士たちに向かっていくのだった。




今朝、変なところを公開しておりました。
申し訳ないです

現在の推しキャラ(番外編の主人公に起用)

  • セリカ
  • サヤ
  • サーチェ
  • エイリ
  • カムラ
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