メイドは主人を殺したい   作:朱花

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国王と暗殺

「なぜ⋯⋯護衛に?」

 僕はサーチェの言ったことの意味がわからず、問い返した。

「だ・か・ら それがお互いの要望を限りなく果たした最高の案だからだよ」

 めんどくさそうにサーチェが言った。

 

「⋯⋯なぜ私を処分しないのです?」

 素直に疑問に思ったことを問うと、サーチェはニヤッと笑って。

 ―――女に手を挙げるのは紳士の恥だ。

 と真面目な顔で言い放つ。

「⋯⋯御託はいいので、真意をお伝えください」

 それを冷めた目で切り捨てて、再び問う。

 すると⋯⋯

「⋯⋯言ったろ? 俺はカイナのためにも国を興したいんだ。 その為には力強い協力者がいた方がいいだろ? 俺の護衛、というかメイドにセリカがなればお前はいつでも俺を狙える。 俺はお前を国興しに利用できる。 悪くないと思うんだが⋯⋯」

 サーチェは再び真面目な顔で僕に答える。

 そして⋯⋯

 

 ―――協力しないんなら、ここで処分するけどな。

 最後にそう呟いた。

(これは⋯⋯協力するしかない、か)

 まぁ⋯⋯元々はこうする予定だったから⋯⋯いいだろう。 それに殺されてしまっては元も子もない。

 

「分かりました。 よろしくお願いします。 サーチェ⋯⋯様?」

 僕は、渋々サーチェの案に乗った。

「あぁ、よろしくな。 セリカ。 あと、俺のことはご主人様と呼べ!」

 ニヤニヤと気持ち悪く笑いながらサーチェは手を差し出した。

「よろしくお願いします⋯⋯ご主人⋯⋯さ、ま」

 

 僕は、勇者をご主人様と呼ぶ屈辱に耐えながらその手をとった。

 そして⋯⋯

「おい! ちょっ! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い! 痛いって!」

 差し出された手を全力で握る。

 そうしてヴァイス、改めセリカは勇者の末裔のメイドとなったのであった。

 

―――

 

「起きてください!ご主人様!」

 渡されたメイド服に身を包みながら呼びかける。

 が、起きる気配はない。

(いける!)

 シーツをぐちゃぐちゃにして眠っているサーチェに向かって、僕は笑顔でナイフを振り下ろす。

 

 ―――スカッ!

 

(は?)

 虚しく空を裂く音がした。

 あろうことか彼は寝返りでその振り下ろしを避けた。

 

 そして⋯⋯

「セリカ〜! あと少し⋯⋯いや、一日ぐらい〜」

 変わらぬ気だるげな声を出した後、彼は再び夢の世界に飛び込んで行った。

(この! 勇者め!)

 

 僕はナイフを納め、腰にかけてある災厄(ディザスター)に手をかける。

 

 ―――斬り捨てる!

 

 確固たる意志を持って、僕は抜刀しようとしたのだが

「陛下! まだ起きていないのですか! セリカ殿! 早く起こしてやってください!」

(⋯⋯チッ! 邪魔が入った)

 内心で舌打ちをする。

 それを表情には出さず、僕は寝室から出てドアを開ける。

 

「おはようございます。 ライラ様」

 僕はその先にいた頭の毛がかなり寂しいことになっている男に挨拶をする。

 これでも彼は大臣なので無下にする訳にはいかない。

「そんな事はどうでもいいのですセリカ殿! もうすぐ始まってしまいます! 早く起こしてください」

 

 彼も忙しいようで、それだけ言って去っていった。

 僕は、それをやれやれといった様子で見送る。

 彼はサーチェが救出した大臣のひとりだ。

 なかなかに正義感の強い男のようで、混乱する政治を何とか上手く纏めてくれているらしい。

 

 彼らと出会ってから早いもので十日だが、何とか打ち解けて来たような気がする。

 初日なんて酷いものだった。元々カイナは騎士団長だったようで、騎士団への迫害が物凄いことになっていたのだ。

 それを沈めたのはサーチェで、彼は皆で新しい国を作り出す決意を伝えた。

 そして⋯⋯今回の件の責任を全て自分とカイナが背負うということも。

 そうして何とか纏まった王城内ではあったが、それでも課題は山積みであった。

 

 特に酷かったのは⋯⋯王城内の掃除。

 一昨日にやっと終了したが、五日前に新しく募集したメイドたちのがやってくるまでは少人数で執り行っていたのだ。

 まぁ⋯⋯たくさんのメイドが採用されたようで僕の仕事も楽になって暗殺に専念できる⋯⋯。

 

 ―――しかし現実はそう甘くなかった。

 

 結論から言うと彼らは僕の暗殺に邪魔な存在なのだ。

 サーチェとの約束で、僕がサーチェに暗殺を仕掛けられるのは人目がない二人のみの場所、と決められている。

 メイドや衛兵、大臣など王城を常に彷徨いている彼等の目を掻い潜りサーチェに暗殺を仕掛けるのは至難の業なのだ。

(おっと⋯⋯そんなことより早くサーチェを起こさねば)

 

 思わず思考に耽っていた僕は自分の仕事を思い出し、振り向いた。

 しかし、そこにサーチェはいなかった。

 

 ―――どこに?

 周囲を見渡すが⋯⋯いない。

 

(⋯⋯!)

 その時、下から何か気配を察知した僕は下を向く。

「⋯⋯何を? されているのですか?」

 その視線の先には床に伏し、こちらの様子を伺っているサーチェがいた。

 

 ―――はぁぁぁ!

 その返答の代わりにサーチェは大きなため息をつく。

 

「何だよ⋯⋯タイツ履いてんのかよ。 前までは私服だから履いてるのは仕方なかったけど⋯⋯今は制服だろ? せっかく覗いてやろうと思って昨日から考えてた作戦だったのによぉ⋯⋯」

「⋯⋯死ね」

 僕は躊躇なく剣を抜き、サーチェに切りつけた。

 

障壁(バリア)っと。 危ねぇなァ。 そんなに怒ると折角の美しさが台無しだぜ?」

「⋯⋯早く準備してください。⋯⋯チッ」

 露骨に舌打ちをしながら剣を納め、部屋の外に出た。

(あの変態勇者め⋯⋯)

 僕はこれからずっと、タイツを履き続けることを固く決心したのであった。

 

―――

 

「セリカ殿。 そろそろですぞ!」

 

 ライラが呼びかける。

 そろそろ僕の出番か⋯⋯

 

 現在執り行われているのは、国王が変わったことを国民に伝えるための儀式―――

 平たく言えば、国王から国民への挨拶だ。

 

 サーチェは国民からの人気が高いようで、先程から歓声の嵐が止まない。

 まぁ⋯⋯彼が活動し始めたのは半年程前からで、それからはほぼ毎日市民を守るために戦っていたらしいしな。

 サーチェを見知っている人も少なくないのだろう。

「⋯⋯ここで、俺の王国奪取に協力してくれた頼もしい護衛を紹介するぜ! その名前は~セリカだ!」

 サーチェが国民を煽るだけ煽り、僕の登場の舞台を整える。

(⋯⋯行くか)

 やかましい歓声が僕の登場によって更に大きくなる。

 

「どうだ? なかなかの美人だろ! よし! コイツからも挨拶を貰おうか! 頼むぜ〜セリカ!」

 そう言ってサーチェが話を僕に振る。

 観衆の視線が僕に集まるのを感じた。

 僕は受け取った拡声魔道具を口元に当てて、ゆっくりと語り出す。

「えーっと⋯⋯初めまして、セリカと申します。 皆様! サーチェ様と一緒に再びマグノリアに栄華をもたらしましょう!」

 

 おぉ!っと僕の挨拶に観衆が湧く。

(我ながら中々にいい挨拶だ)

 どうだと言わんばかりにチラッとサーチェを見た。

 

 ―――合格点だな。

 サーチェが口の動きでそう伝えた。

 生意気なヤツめ。

 

「よーしお前ら! マグノリアの時代の幕開けだー!」

 

 サーチェがしばらく話した後国王変更の儀式は終了したのであった。

現在の推しキャラ(番外編の主人公に起用)

  • セリカ
  • サヤ
  • サーチェ
  • エイリ
  • カムラ
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