メイドは主人を殺したい   作:朱花

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女神潜入

「⋯⋯一体何をしに来たんだ、サヤ」

「うん? いやいや、私言ったでしょ? すぐにそっちに行くって」

 

 長い黒髪をクルクルと弄るサヤは、何を当たり前のことをと言わんばかりの表情だ。

 

「⋯⋯聞いてはいたが、唐突すぎる。 もう少しどうにかならなかったのか?」

「ふ〜む。 それは難しいねぇ。 そもそもこんなに早く会うつもりは無かったし」

「そうなのか?」

「うん。 も〜ちょっと王都で有名になってからにするつもりだったんだけどねぇ。 ヴァイスくんが正体に勘づいたみたいだったから仕方なく、ね」

「そんな腑抜けた顔で言われても信憑性がないぞ」

 

 口角を緩ませてそんなことを言われたところで、全く申し訳なさが湧いてこない。

 

「え〜? ⋯⋯まぁいいや。 そんなことより、ヴァイスくんもメイドとしてちゃんと働いているようで感心だよ〜!」

「ん? まぁ⋯⋯な。 暗殺の方はさっぱりだが」

 

 メイドとして働いている、と言っても本職は護衛だから息抜き程度に手伝っているだけなのだが。

 

「まぁ⋯⋯僕のことはいいとして、だ。 わざわざ会いに来たってことは、僕を手伝ってくれるんだろ?」

「う〜ん? 仕方ないなぁ! 特別に私が手伝ってあげるよ〜」

「⋯⋯いや。 別に嫌だったら大丈夫だ。 悪かったな」

 

 そんなことより、早く王城に戻らなくては。

 余計なところで道草を食ってしまった自分に反省しながら、僕は振り返って足を踏み出す。

 

「ちょっと〜! ごめんって! 手伝わせてくださいお願いします〜」

 

 そんな僕の足を抱き締めて、離さないとばかりのサヤ。

 ふっ。 最初から素直に言えばいいものを。

 まぁ人手が足りないことは事実だから、協力者が多いに越したことはない。

 

「分かった。 そう言うことなら仕方ない。 ⋯⋯着いてくるんだ」

「わ〜い! ありがとう!」

 

 屈託のない笑顔を浮かべたサヤは、そう言ってピョンピョンと跳ねながら僕の後を着いてくるのだった。

 

 ―――

 

「⋯⋯さて。 入るぞ」

「⋯⋯え? こんなに堂々と入って大丈夫なの? ほら、あそこに衛兵さんいるし」

 

 王城の目の前にある城門に辿り着いたその時、今更ながら怖気付いたように青い顔で問うサヤ。

 

「⋯⋯まぁ見てろ」

「え? ちょっと?」

 

 答えることも煩わしく感じた僕は、黙ってサヤの手を握る。

 何を勘違いしているのか、彼女は顔を赤らめて「そんな急にされても心の準備が⋯⋯」と甘い吐息を吐きながら呟いていた。

 

 そんなどうでもいい事など気にせずに、僕は頭を動かして目当てのもの⋯⋯影を探す。

 ⋯⋯お! あれがいいな。

 僕は、城門に出来た影へと意識を集中させる。

 

「いくぞ、サヤ」

 

 僕は影移動を発動させ、始めに自分の下にできた影へと潜る。

 そのまま影の中を泳ぐようにして、先程狙いを定めた影へと移動する。

 

「でも⋯⋯ヴァイスくんがどうしてもって言うんなら⋯⋯って、え? 今なんて言ったのぉぉぉぉ!」

 

 慣れない影移動に奇怪な声をあげるサヤを無視して、僕は城門の上へと影移動を成功させた。

 

「⋯⋯これで侵入成功だ。 あと、少し黙ってろ」

「いやいや! だって前触れもなくいきな⋯⋯むぎゅっ!」

 

 僕の言葉を聞く素振りもないサヤの口元へと手を当てて強制的に黙らせた。

 そんな状態でも、ふごふごと忙しなく口を動かして何かを喋ろうとするサヤ。

 

「事情とか不平不満とかは後で聞くから、今はとりあえず僕の部屋を目指すぞ。 とりあえず、城門から降りよう」

 

 首を縦に動かして肯定の意を示すサヤ。

 僕はそれを確認した後に、安全性を考慮して、彼女を背中に抱えて近くにあった大木に向かって飛び込むことを決意する。

 影移動は、今の身体だとそこそこの魔力を使うから、あまり連発はできないのだ。

 

「ちょっとヴァイスくん! 危ないよ! 下に人がいたらどうするつもりなの?」

「大丈夫だ。 この時間、皆が仕事をしている時間。 平時でさえ殆ど人が訪れないこんな場所にいるはずがない」

 

 本当なら安全に木を伝って降りたいのだが、サヤを抱えた状態でそれは不可能だし、葉っぱが生い茂った大木の下を覗き込むことも難しい。

 まぁ⋯⋯サヤは恐らく聖魔法が使えるだろうし、最悪の場合は治療を任せることにしよう。

 

「⋯⋯いくぞ!」

 

 意を決した僕はそう小さく呟いて、離陸して宙を舞った。

 やがて大木の葉っぱに突入し、それがクッションとなって勢いを弱める。

 あとは地面に着地するだけ⋯⋯

 

 僕がそう思案した、その時であった。

 

「ん? お!? うぉぉぉ!」

 

 どこか聞き覚えのある間抜けな声が聞こえたような気がした。

 それについて考える余裕もなく、大きな音と砂埃を立てながら地面に着地する。

 

「おーい? 誰だよ⋯⋯こんな馬鹿な真似をしやがったのは⋯⋯ってお前かよ」

「⋯⋯ご主人様」

 

 砂埃が去って視界が晴れたその場所に立っていたのは、国王の正装を着崩した端正な顔立ちの青年。

 サーチェであった。

 

「⋯⋯ったく。 いいかセリカ。 幾らお前が俺を殺したいからっていつでも俺を襲っていい訳じゃ⋯⋯って誰だお前?」

「⋯⋯ギクッ」

 

 サヤを認識したサーチェが問いかける。

 ⋯⋯まずい。

 顔を真っ青にして言い訳を考えるサヤを尻目に、僕も必死で頭を働かせるのであった。

現在の推しキャラ(番外編の主人公に起用)

  • セリカ
  • サヤ
  • サーチェ
  • エイリ
  • カムラ
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