「⋯⋯っと。 こんなもんか」
作業を初めてからどれくらいの時間が経過したのだろうか?
日が当たることの無い資料室ではどうにも時間感覚が狂うな⋯⋯。
「おーいカムラ? もう入っていいぜ?」
いつの間に忍び込んだのかは知らないが、今朝一番に俺の前に現れた旧友の名を呼ぶ。
暫くしてガチャガチャと個室のドアを弄る音が聞こえ始めた。
「⋯⋯引き戸だぞ」
「え? ⋯⋯あぁ。 分かっていたさ」
数分ほど経過しても一向にドアを開ける様子のないカムラに痺れを切らし、俺は自分からドアを開けてやった。
どうやら本気で考えていたようで、額に汗を浮かべていたカムラは一瞬顔を赤くしたが、すぐに取り繕ってすまし顔を浮かべた。
ちなみにだが全く誤魔化せてはいない。
「⋯⋯うわっ。 汚ぇ」
「開口一番がそれかよ⋯⋯。 仕方ねぇだろ? ずっと作業してたんだから」
資料の山となった机を見つめて呟いたカムラにそう反論するが、その汚さは俺でも少し驚く程であった。
資料室の更に中にある個室であるのにも関わらず掃除が行き届いていて、充分綺麗であった部屋を一日も立たずにここまで汚せるとは⋯⋯自分のポテンシャルが恐ろしいぜ。
「まぁ座れよ。 わざわざやって来たってことは、何か話したい事でもあるんだろ?」
「座れって言われても⋯⋯どこにだ?」
「あ? そんなんどこでも良いんだよ。 ほら、さっさと座れ」
床にドサリと座り込んだ俺を訝しげに見つめていたカムラであったのだが、やがて観念したかのようにため息をついて座り込んだ。
つくづく几帳面なやつだな⋯⋯
「お前⋯⋯なんだか生きづらそうだな⋯⋯。 もっと肩の力抜けよな」
「サーチェ⋯⋯。 お前は良いよな、何と言うか生きやすそうだ」
「おうよ! 毎日が楽しいぜ?」
「⋯⋯馬鹿か。 皮肉で言ってんだよ」
再びのため息。
イライラしてるんならもっと小魚でも食ってろ。
「それは良いとして⋯⋯だ。 お前はここで何をしていたんだ? 正直な話、長い間お前を見てきたが、余程の目的がない限りこんなところに自発的にやって来る性格ではないだろ?」
何やら酷い認識をされていることを少し気になったが、カムラの言っていることはごもっともだ。
俺だってこんな紙しかない場所なんか、何にも楽しくない。
しかし、俺にはどうしても知りたいことがあったのだ。
「⋯⋯お前には昔話しただろ? 俺が国を追い出されたって話について」
「⋯⋯あぁ。 カイナ⋯⋯だったか? そいつがいきなり狂い出して⋯⋯国を乗っ取った」
「そうだ。俺が調べていたのは、その理由についてだ」
「⋯⋯その理由? 確か父親が何者かに殺されたことがきっかけだ、そう言っていなかったか?」
「あぁ。 俺もそう思っていた。 でも理由はそれだけじゃなかったんだ」
カムラの言う通り、カイナが狂い始めた一番の理由は父親が殺されたことだ。
訳あって若くして国王となった俺であるが、カイナの父親は、政治の面で大いに働いてくれた忠臣だったことを覚えている。
部下からも慕われていたそいつがどうして殺されたのか?
その疑問をどうしても確かめたかったのだ。
そして⋯⋯その理由について、ある程度の憶測がついた。
「実はだな⋯⋯カイナは悪魔に乗っ取られていたんだ」
「悪魔に⋯⋯だと?」
「あぁ。 それでアイツの父親の死体分析を読み返してみたんだが⋯⋯悪魔に殺されたとなると不思議な箇所についても全て説明がついた。 つまり⋯⋯」
「父親を殺した悪魔に身体を乗っ取られた。 ⋯⋯そういう事か!」
「その通り。 そうしたらカイナが行っていた明らかに愚かすぎる政策にも説明がつくんだ」
悪魔が好むのは人々の負の感情。
国王という立場を利用し、奪う立場と奪われる立場を作ることによって人為的にそれを作り出していたのだ。
「そんな画策をするなんて⋯⋯やはり悪魔とは末恐ろしいな」
「同感だ。 んで⋯⋯もし今日この場にあいつがいたらそれを聞きたかったんだが⋯⋯どこにいるんだよ?」
「あいつ?」
「⋯⋯分かるだろ? ほら⋯⋯俺たちのクソ師匠のことだよ。 あの性悪女⋯⋯一体どこで油を売ってんだ?」
「レータの事か。 レータは《十戒》の仕事があるとか言ってどこかに消えたぞ? マグノリアに着くまでは一緒だったんだがな⋯⋯」
「ほーお。 お前の紋章でどうにか呼び出せないのか?」
「そんな事したら目も当てられない事態になるぞ? ただでさえ気分屋なんだから⋯⋯」
「そうだよな⋯⋯あいつのそういう所には困らされるぜ」
「⋯⋯その部分に関しては師弟そっくりだがな」
「あ? どういう意味だよ」
「そのままの意味だ」
カムラの発言についてしっかり問い詰めようとした俺だったが「あ。 ひとつ忘れていた。 セリカと言うメイドが先程やって来てな!」という言葉でそれを辞めた。
セリカが来ただと?
基本的に自分から来ることのないアイツがわざわざ俺に会いに来るとは一体⋯⋯惚れたか?
セリカの事を話題に出した途端、ギラギラと目を輝かせたカムラを見て、カムラの戦闘好きを再確認した。
「それで? なんだって?」
「何でもお前がこれから結ぼうとしている国交をやめるべきなんだと」
「⋯⋯は?」
予想だにしないその言葉に驚いた。
確かに国交を結ぼうと考えているし、それについてセリカの前で呟いたことも覚えている。
ただ、その時は「そうですか」と、いつものように興味なさげに返されたから⋯⋯てっきりどうでもいいのかと思い込んでいた。
どうやら伝言はそれだけのようだし、詳しくは後で本人の口から聞くとしよう。
「ところで⋯⋯どうだった? セリカのやつ」
「⋯⋯あぁ。聞いていた通り、異質だったな。 黒髪に黒目というだけでもまず珍しい容姿だが⋯⋯なんだよあの魔力の『質』は。 あんな奴がいるとはな⋯⋯」
「そうだろ? まだ本人は自覚していないようだが⋯⋯本当に理解したらどれだけ化けるのやら」
「本当に⋯⋯どれだけ強くなるかが楽しみだ」
互いに見つめ合いながら不敵な笑みを浮かべる俺とカムラであった。
―――
「⋯⋯さてと。 今日は色々あったな。 カムラに会って、気になっていた事も解決して、それと⋯⋯痛ぇ」
天蓋付きのベッドの上で、サーチェは頬に出来た真っ赤な腫れをさする。
伝言の件についてセリカに聞きに行こうと以前と大きく内装の変わっていたセリカの部屋に忍び込んだら、ちょうど入浴前だったようで下着姿のセリカと鉢合わせてしまったのだ。
結局、その内容について聞くことは出来なかったのだが⋯⋯眼福だったと、以外にもサーチェは満足している。
「あとは⋯⋯あれか」
サーチェは資料室から抜き取ってきた一枚の資料に再び目を通す。
《報告書》
◎犠牲者:ナーリア=マグノリア、ターニャ=マグノリア
◎概要:突如としてマグノリアを襲った『魔皇』と名乗る悪魔によって、いち早く迎え撃った国王と后が死亡。
◎備考:犠牲者二名の懸命な抵抗により市民全員に被害なし。 王都への被害は甚大。
「親父⋯⋯お袋⋯⋯見ていてくれ」
カイナに取り憑いていた悪魔も口にしていた『魔皇』という存在。
それに対する復讐神を燃やしながらサーチェは眠りにつくのであった。
《募集!》
近いうちに番外編と銘打って、ずっと書きたかった「セリカ達の休日」について書いてみたいと思っているのですが⋯⋯もし皆様が何かみたいシーンや登場キャラクターなどがありましたら、感想スペース等で教えていただけると幸いですm(_ _)m
現在の推しキャラ(番外編の主人公に起用)
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セリカ
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サヤ
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サーチェ
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エイリ
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カムラ