「ふぅ⋯⋯これでいい⋯⋯のか?」
僕は一度自室へと戻り、クローゼットから私服を引っ張り出して着替えていた。
別にメイド服で行ってもいいのだが、サーチェ曰く流石に目立つからやめてくれとの事だ。
それを予見してかどうかは知らないが、サヤが勝手に僕の私服を見繕ってベッドの上に置いてくれていたのだが⋯⋯フリルが沢山使われた痛々しいデザインだったので速攻でサヤのベッドの上へとお返ししておいた。
実際にサヤはあんな服を普段着るのだろうか?
ふむ⋯⋯全く想像がつかないな。
というより、あの服のサイズはサヤには少し厳しいだろう。 その⋯⋯胸囲的な意味で。
「⋯⋯まぁいい。 邪魔なだけだ。 そう、邪魔なだけ⋯⋯」
チラリと自分のそれを見下ろして残念な気分に浸りつつ、僕はテキパキと準備を進める。
以前、エイリさんに買って貰ったお気に入りのサイフを鞄の中に入れ念の為護身用のナイフをいつも通り足の辺りに忍ばせておく。
まぁ⋯⋯こんなもんだろう。
「これは⋯⋯悪くないな」
準備が完了し、鏡の前で自分の姿を確認する。
悪くない⋯⋯というかなかなかに可愛らしい町娘ではないか。
男を惹き付けたい訳では無いが、容姿は良いに越したことはない。 それが自分ならば尚更だ。
最後に以前の騒動で黒焦げとなったサヤのぬいぐるみを丁寧に袋の中へと入れ、僕はこれからの時間に胸躍らせて勢いよく飛び出していくのであった。
―――
「⋯⋯おや? セリカちゃん! 今日は仕事は休みかい?」
「あ! エイリさん! お久しぶりです。 ええ。 今日は少しばかり用事がありまして⋯⋯」
少し早く着いてしまい、待ち合わせ場所でメイド長を待っていたところ、何やら大きな袋を抱えたエイリさんと偶然に出会った。
僕の返答を聞いて「おや? セリカちゃんにも男ができたのかな?」なんて冗談を飛ばしてくるあたり、もうすっかり慣れたようだ。
あちらがセリカとして接してくるのなら、僕だってセリカとしていつものように返答をした。
「さて。 私はここら辺でお暇するよ。 何やら待ち合わせをしているみたいだしね。 また暇があったら私の店にでも顔を覗かせてくれ」
「はい。 その時はお安くしておいて下さいね」
「はは。 セリカちゃん相手なら幾らでも安くしてしまうかもね。 それじゃあまた!」
そう言い残してエイリさんは去っていく。
安くして貰えるという言質はとったので、近いうちに王城で不足している薬草やらを買いに行くとしよう。
ふふっ。 エイリさんが驚く顔を見るのが今から楽しみだ。
「あ! セリカさん! 申し訳ないです、おまたせしましたか?」
僕がそんな思考に耽っていた折、メイド長が慌ただしくこちらに走ってきた。
ふむ⋯⋯やはりメイド長はスタイルがいい。
その美しい身体を包み込む服も、地味すぎず派手すぎず。 絶妙な塩梅でメイド長の美しさを際立たせていた。
「いえ。 私も今来たところですので。 それでは参りましょうか」
「あ! その⋯⋯ちょっと待ってください⋯⋯」
「⋯⋯何か?」
「その⋯⋯手を握って頂いてもよろしいでしょうか?」
「ええ。 構いませんが?」
何やら頬を赤らめてモジモジとするメイド長を不思議に思いながら、僕はメイド長の手を取る。
沢山水仕事をこなしているはずなのに、よく手入れしてあるのか綺麗な掌であった。
「⋯⋯顔が赤いですけど体調が優れないのですか? 」
「あ! いえ! そんなことは無いです! さぁ行きましょう!」
「⋯⋯? はい。 分かりました」
いきなり声を大きくして歩き出したメイド長に歩幅を合わせつつ、僕達は予約した店へと向かっていく。
今日食事をとる予定の店は、メイド長のお気に入りらしい。
曰く「ここ以上に美味しい料理屋さんはありません!」との事だ。 実に楽しみである。
商業施設が立ち並ぶ活気のある大通りを少し抜けたところに、その店はあった。
「ここ⋯⋯ですか?」
「ここです! 入りましょう!」
グイグイと手を引かれて半ば無理やりに入店させられたのだが、その店は普段の僕ならば絶対に行かないような場所であった。
ピンクを貴重とした外壁に、所狭しと並べられたぬいぐるみの数々。
その外装は明らかにサヤが好きそうな「可愛いもの」を集めてそのまま貼り付けたようなものであった。
「さて⋯⋯何を食べましょうか!」
「その⋯⋯本当にここで間違いないのですよね?」
「? ええ。 ここが一番です!」
「⋯⋯はぁ。 なるほど」
胸を張ってまで断言されてしまった以上、間違いは無さそうだ。
店内は同年代と見受けられる女性達で意外と賑わっており、各々の場所で会話が盛り上がっていた。
「いらっしゃいませ! ご注文は何に致しましょうか?」
「そうですね⋯⋯マグノリアパンケーキと⋯⋯パフェをお願いします!」
「かしこまりました! そちらの方は何にいたしましょうか?」
着席した僕たちの元に、メニューをじっくりと見る暇もなく注文が始まってしまった。
メイド長は慣れたようでスラスラと答えていたが、ここに来るのが初めての僕には到底不可能なことである。
「えっと⋯⋯。 同じものでお願いします!」
「かしこまりました〜! 少々お待ちくださいませ〜!」
そう言い残して足早に去っていった店員。
まぁ⋯⋯慣れている様子のメイド長と同じものなら、多分間違いは無いだろう。
「⋯⋯さて。 メイド長。 少しお願いしたいことがあるのですが⋯⋯」
「はっ! はいいぃ! なんでございましょうか!」
「⋯⋯?」
同じテーブルで向き合った途端に、どこかを見つめて口数が少なくなったメイド長は声をかけるとビクッと肩を震わせながら、珍妙な返答をした。
「あっ! いや! ⋯⋯コホン。 なんでございましょうか? セリカさん」
「⋯⋯その。 このぬいぐるみを直していただきたいのですが⋯⋯」
そう言って僕は、黒焦げのぬいぐるみであるリチャード(サヤ命名)をテーブルの上に取り出す。
それを見た途端、メイド長は「触ってもよろしいでしょうか?」と訪ね、許可を出すと目付きを変えてリチャードを観察する。
店員によって給仕されたコーヒーを口に含みながら、その様子を見守っていたところ「むむむ⋯⋯」とメイド長が唸り始めた。
やがてゆっくりと顔を上げてこちらを見据えるメイド長。
「このぬいぐるみ⋯⋯直すことはできそうなのですが⋯⋯」
「何か問題が?」
「その⋯⋯私なんかが手を加えるのがおこがましいほど素晴らしい一品で⋯⋯」
「⋯⋯はぁ。 素晴らしい⋯⋯一品?」
僕には全くもってその価値が理解できないのだが、強く頷くメイド長を見るに本当のことのようだ。
「ちなみにですが⋯⋯これはセリカさんの?」
「違います。 私の知人のものです」
「なるほど⋯⋯どうしてこのような事に⋯⋯本来なら美術館にでも飾られていそうなものなのに⋯⋯」
「えぇ⋯⋯ちなみにどうしてですか?」
「これは⋯⋯全てが天界の衣と呼ばれる希少な繊維が使われているのです。 その価値は計り知れません⋯⋯」
「なっ⋯⋯!」
まさかそんなに大事なものだったとは思いもしなかった。
そういえばサヤも「お姉さんから貰った」と言っていたし、恐らく天界で作られたものなのだろう。
⋯⋯なんてことだ。
「直せる⋯⋯んですよね? 一応本人から許可も貰ってますし⋯⋯」
「善処する⋯⋯としか言えません。 ぬいぐるみ自体直すのは簡単ですが⋯⋯何せ恐れ多くて⋯⋯手元が狂うかもしれません」
「⋯⋯そうですか。 申し訳ないですが、よろしくお願いします」
「⋯⋯はい」
そんな具合に僕達が現状に意気消沈していたその時、店員が注文した料理を持ってきた。
砂糖とクリームがふんだんに使われた、見るだけで虫歯になりそうな甘そうな料理が運ばれてきた。
「⋯⋯おぉ。 ⋯⋯これは」
「さて! 話は終わりですね! それでは食べましょうか!」
その全貌に気圧された僕とは対照的に、メイド長は生き生きとしてフォークを手渡してきた。
それを僕が受け取るやいなや「食べろ」とはっきりと分かるほどの視線を感じた。
その視線に促されて、比較的甘そうなパンケーキから先に口に⋯⋯運ぶ。
「あ。 ⋯⋯美味しい」
「ふふん。 この国で⋯⋯いや、世界一と言っても過言ではない美味しさですよ! ささ。 こちらのパフェも!」
得意気な顔をうかべるメイド長に促されて、パフェを口に運ぶ。
「これは⋯⋯ちょっと甘すぎますが⋯⋯美味しいですね」
「そうでしょうそうでしょう! これをコーヒーと食べると格別に美味しいのですよ!」
促されるがままに僕はコーヒーとパフェを口に含む。
うん。 甘さがいい具合に中和されてすごく美味しいな。
「これは⋯⋯手が止まりませんね!」
「ふふっ。 少し気が早いですが、おかわりを頼んでおきましょうか。 今日は私の奢りですよ!」
「ありがとうございます。 それではお言葉に甘えて⋯⋯もう少しだけ」
「ふふっ! お好きなだけどうぞ!」
調子に乗って僕はパフェとパンケーキをもうひとつずつ注文し、あっという間にそれを平らげた。
とても美味しく、充実した時間だったといえよう。
後日砂糖の過剰摂取によって体重が増加することを、今の二人は知らないのであった。
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短編の内容は今のところ「クリスマス編」にしようかなと考えてます。
現在の推しキャラ(番外編の主人公に起用)
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セリカ
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サヤ
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サーチェ
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エイリ
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カムラ