いつものように、小鳥のさえずりと共に目を覚ました僕は、勢いよくカーテンを開けて朝日を浴びる。
これが朝の慣習なのだが⋯⋯実に気持ちいい。
僕が小さく伸びをしていた折、近くから「ウーン」というサヤの呻き声が聞こえた。
しまった⋯⋯起こしてしまったか?
サーチェから部屋を与えられているはずなのに、サヤは僕の部屋に住み着いている。
お陰様で僕の部屋はぬいぐるみやアロマで飾られたとても可愛らしい部屋となっている⋯⋯本当に迷惑でしかない。
「ふぁわー! って⋯⋯ヴァイスくんもう行くの?」
「あぁ。 今日はエイリさんの店に用があってな」
「エイリさん⋯⋯。 あ! ヴァイスくんを助けてくれたあの人ね〜! 取って食われないように注意しなよ〜」
「はは。 まさか。 それに⋯⋯もしもの時はちゃんと倒すさ。 不安ならサヤも一緒に来るか?」
「い〜や。 折角のお誘いだけど私はい〜かな〜。 また後で会おうね〜」
そう言ってサヤは再び夢の世界へと旅立っていく。
今日はサーチェへの魔法訓練は休みらしい。
折角の休みだから早く起きて好きな事に時間を費やせばいいのに⋯⋯なんだかこのまま昼くらいまで寝ていそうな体たらくである。
「⋯⋯まぁいい。 僕には関係の無いことだ」
いつものようにメイド服へと着替えた僕は、最低限の身だしなみを整えて足早に部屋を出た。
テクテクと廊下を歩いていくと、同じように朝から仕事のある大臣やメイド達も忙しなく動いていた。
本当に皆よく働いてくれている。
ちなみにそれを統括する身分にあるサーチェは今現在夢の中である。
そんなところからか、もう少し国王としての自覚を持ってください、といつもライラに口うるさく注意されている。
実際のところ、それで国が上手く回っているのだから、現状維持が一番望ましいところなのだが。
「いち⋯⋯に⋯⋯さん⋯⋯!」
「⋯⋯おや?」
王城の玄関へと辿り着き、いよいよ外に出ようかとしたその時、カムラの大きな声が中庭の方から聞こえてきた。
素振りでもしているのだろうか?
邪魔をしないようにこっそりと声のした方を覗いてみると、やはりカムラが何やら見慣れぬ長い棒のような物を構えて、掛け声とともにその先を虚空へと向けていた。
「あれは⋯⋯一体?」
もう少し見ていたいとも思ったのだが、エイリさんを待たせすぎるのも良くないので、僕は後ろ髪を引かれる思いでその場から立ち去っていく。
そういえば、カムラも強い奴が好きだと以前口にしていた。
機会があれば、ぜひ一戦交えたいものだ。
そんなことを考えながら、僕は王都へと足を踏み入れていく。
「安いよ安いよー!」
「お! そこのお姉さん! 少しうちでアクセサリーを見て行きませんか?」
王都内は朝から盛んに商売が行われていた。
朝にも関わらず往来をゆく人々は多く、活気づいている。
皆が笑顔を浮かべて商売を楽しんでいる様子を見ると、平和のすばらしさを感じざるを得ない。
仮に僕が最終決戦に買っていたとして、このような世の中を作れていたのだろうか?
「⋯⋯さて。 ここを右に曲がって⋯⋯」
大通りから少し外れたところに、エイリさんの店はあった。
流石と言うべきか、何度見ても大きな店舗である。
「失礼します。 セリカで⋯⋯」
「ふむ⋯⋯そこを何とか⋯⋯できないかい?」
「申し訳ございません。 こちらにあるものが最高品質のもので⋯⋯」
おや? 何やらエイリさんが客と揉めているようだ。
美しい金髪をサイドテールにして肩へとかけているその女性は、豊かな胸のある懐に手を入れて、いくつかの金塊を取り出し「これでもかい?」と問いかけてくる。
「これはセリカさん! ようこそいらっしゃいました!」
「あぁ。 ⋯⋯おはようございますジーナさん。 何やら揉めている様子ですが⋯⋯」
その様子に呆気に取られていた僕に声をかけてきたのは、ひょこひょこと動く獣耳が可愛らしい女性。
エイリさんの妻であるジーナさんだ。
正直容姿はあまり宜しくないエイリさんが、どうやって射止めたのかが実に気になる程に美しい女性である。
「あのお客さんがね、簡単に壊れない武器が欲しいって来店されてね。 あの人も蔵から最高品質の骨董品とかを持ってきたんだけど⋯⋯あのお客さんは満足していないらしいのよ」
「ここの武器で、ですか? まさか⋯⋯」
マグノリアの大商人であるエイリさんはなかなかの目利きである。
そんな彼が仕入れる骨董品も勿論一流のものばかりだ。
対ドラゴンの時は、咄嗟のことでメンテナンスをする時間がなかったが、しっかりと鍛冶屋でメンテナンスしてもらえば、十二分に使うことが出来る一品だ。
「何か目安があればもう少し良いものが提供出来るやも知れぬのですが⋯⋯」
「⋯⋯なるほど。 そうだな⋯⋯これでどうだい?」
そう言って女性が取り出したのは、ひとつの扇。
とても武器には見えぬその代物だが、エイリさんはそれを受け取った途端、驚愕の表情を浮かべてすぐさまそれを落としてしまう。
すぐさま拾い上げようとするが、余程の重量があるのだろうか、なかなか持ち上がらない様子であった。
「おや? すまない。 普通の人には少々重すぎたかもしれないね」
苦しむエイリさんを見て、女性はすぐさまその扇を何事も無いように軽く持ち上げてみせた。
先程エイリさんが落とした場所には大きなへこみができていた。
「あの人は⋯⋯一体」
「まぁ⋯⋯端的に言えばこれくらい、重いものが欲しいのだが⋯⋯無いというのならしょうがない。 他のお客さんが来てしまったようだし、私はここでお暇するとしよう」
扇をしまい込んだ女性は立ち去る前に、一つだけ金塊を置いて「迷惑をかけたね。 謝礼だと思って受け取って欲しい」と言って出口へと向かっていく⋯⋯
「そこの君。 少しばかり質問に答えてくれないかな?」
その途中で、僕の前に立ってそう問いかけた。
「な⋯⋯なんでしょうか?」
「いやなに。 そう怖がることもない。 本当にただの質問さ。 この国の国王の名前を知っているかい? あとはそれに面会する方法も」
「⋯⋯国王様は、サーチェ=マグノリア。 面会する方法は⋯⋯知りません」
「おや? 嘘は感心しない。 本当のことを答えるんだ。 どうやら君は、サーチェと縁があるようだしね。 国王直属の配下のセリカ?」
「⋯⋯!」
女性の言葉に驚愕する。
嘘かどうかならともかくとして⋯⋯どうして⋯⋯名前まで分かったんだ!?
目の前の女性は⋯⋯一体?
僕が混乱して思考を巡らせていたところ、女性はクスリと笑いだした。
「はは。 いやすまない。 君を見ていると、昔の彼を思い出してね。 少しばかりからかわせて貰っただけさ。 サーチェへの面会の仕方も分かっている。 それでは私は、私はここで失礼しよう。 これは遊んでくれたお礼さ」
女性が投げた何かを、僕は受け取る。
それは、九本の剣が組み合わさった不思議な紋章が描かれた髪であった。
「さて⋯⋯それでは失礼。 近いうちにまた会おう」
ぺこり、と。
最後に優雅に一礼をして、女性は店を後にする。
僕は何も言えないまま、その姿を見送るのであった。
現在の推しキャラ(番外編の主人公に起用)
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セリカ
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サヤ
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サーチェ
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エイリ
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カムラ