メイドは主人を殺したい   作:朱花

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エイリは苦労が止まらない!

「大丈夫ですか? エイリさん?」

 

 僕は女性が去ってすぐさま、エイリさんの元へと駆け寄った。

 見たところ外傷はないようだが⋯⋯何やら奇妙な目つきで僕のほうを見つめていた。

 

「⋯⋯何か?」

「⋯⋯いや。 先程渡されたものを見せてもらってもいいかい?」

「えぇ。 どうぞ」

 

 右手に持つ先程の紙をエイリさんに手渡した途端、エイリさんは神妙そうな顔向きで頷いた後、ジーナさんにもそれを見せて何かを確信したようにこちらを見つめてくる。

 あの良く分からない紋章は、何か有名なものなのだろうか?

 

「⋯⋯十戒」

「⋯⋯え?」

「これは十戒と呼ばれる武人たちの使う身分の証明書だ」

「⋯⋯はぁ。 ⋯⋯十戒?」

 

 聞き慣れない言葉に、オウム返しをするしかない。

 十戒とは⋯⋯一体?

 

「その十戒という人たちは何者なのですか?」

「この世界の頂に立つ者。 最強の武人を示す称号のことです」

 

 エイリさんに代わって僕の質問に答えたのはジーナさん。

 ジーナさんは何やら奥の方から古めかしい本を持って来て、とあるページを指さした。

 

「その名の通り、十戒に当てはまるのは十人の武人です。 そして⋯⋯この紋章で表されるのは⋯⋯十戒の九。 『真実』です」

「⋯⋯真実?」

「はい。 表舞台にあまり顔を出さない十戒の中でも『真実』は特に関わりを持たないことで有名です」

「それがどうしてエイリさんの店なんかに⋯⋯?」

「はは。 何かとは言ってくれるねぇセリカちゃん」

 

 ジト目で見つめてくるエイリさんだが、まるまると太ったおじさんにやられたところで何も嬉しくない。

 

「まさかとは思いますけど⋯⋯王都を強襲しよう⋯⋯とか?」

「まさか⋯⋯。 ありえない⋯⋯と断言は出来ませんが⋯⋯」

 

 ジーナさんの呟きが一瞬嫌なことを想起させるが⋯⋯もし王都を襲う気だとしたらなおさら、わざわざエイリさんの店に寄るなんて事は無いだろう。

 

「まぁ仮にご主人様が襲われたとしても⋯⋯結構強い護衛がいるから大丈夫だと思います」

「それなら大丈夫だけど⋯⋯。 まぁ何事も無いことを祈るしかないね」

 

 有事の時の責任をサヤへと丸投げしたことだし⋯⋯気を取り直して本来の目的を遂行するとしよう。

 

「エイリさん。 武器を作り直す方法をご存知ないですか?」

「武器を作り直す?」

「具体的に言うと剣を槍に作り替えるみたいな事は可能なのか、ということです」

「なるほど⋯⋯」

「ちなみにですが⋯⋯どうしてセリカさんは武器を作り直したいのですか?」

「⋯⋯自分の身体に合わない武器がありまして⋯⋯でも、その武器は捨てるには惜しい代物でして⋯⋯」

 

 ジーナさんの問いかけに素直に回答したところ、彼女はコクリと頷いて微笑んだ。

 

「分かりました。 後日再びこちらに来てください。 一つ確かめたいことがありますので」

「了解です。 ありがとうございます」

 

 これで目的を果たしたことだし⋯⋯早く戻るとするか。

 

「⋯⋯っと! これを忘れるところでした。 エイリさん!」

「ん? 何だいこの紙ぃぃぃ!?」

 

 ポケットから投げ飛ばしたメモを見て、エイリさんは大きく目を見開いて驚くような素振りを見せる。

 当然だろう。

 何せそこに書いてあるのは王城で使う薬草から調味料まで。

 とにかく必要なものを全て書いてあるのだから。

 

「ちょっ!? セリカちゃん? これは流石に⋯⋯」

「安くしてくださるとのことでしたので⋯⋯。 少々張り切ってしまいました。 それではよろしくお願いします」

「え? ねぇ? ちょっと!?」

 

 往生際悪く話しかけてくるエイリさんを無視して、僕は足早に店を出ていくのであった。

現在の推しキャラ(番外編の主人公に起用)

  • セリカ
  • サヤ
  • サーチェ
  • エイリ
  • カムラ

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