強いていえば、傭兵たちの生命反応が消えたことが気がかりだったが⋯⋯。
この森、夜には強い魔獣と呼ばれる存在が徘徊するらしいし⋯⋯その辺にでも食べられたのだろう。
「セリカちゃん! もう少しで王都に着くよ〜」
物思いにふけっていたところエイリさんが声をかけられる。
どうやら、この森林だらけの景色ともやっとオサラバできるようだ。
やれやれと思いつつ、僕はいつもの場所で骨董品を漁る。
エイリさんとの約束でこの中のうち好きな1つを貰うことになっているのだ。
何でも、命の恩人に恩を返しすぎる、なんて事はないらしく、僕にメイドになるという目標がなければ本気で自分の財産を与えるつもりだったらしい。
それはそうとして、
流石にそろそろどれを貰うか決めないと⋯⋯。
―――パン
何かが弾ける音がしたかと思えば魔道車が急にその動きを止めた。
―――敵襲?
「ん? パンクか。すまないねセリカちゃん。タイヤ交換するからちょっと待っててくれ」
―――ぱんく?
ぱんく、と言うのはよく分からないがエイリさんの口ぶりからするに、よくある事なのだろう。
物置からゴムの輪っかの様なものを取り出している。
「良かった⋯⋯敵じゃなかったんですね」
とりあえず、敵襲でなかったようで安堵する。
「ハハッ、セリカちゃんの実力なら恐れることもないと思うけどねぇ。」
冗談めいた声色でエイリさんが話しかけてくる。
ゴム輪っかを持ってドアを方へ向かっているところを見るに外で何か作業をするのだろう。
「まぁ⋯⋯そうかもしれないです⋯⋯エイリさん! そこから動かないで!」
僕は何かを感じた自分を信じて、エイリさんに静止を呼びかけた。
そう呼びかけた瞬間、上から押し潰されるような衝撃を受ける。
「なんだ、なんだ!」
エイリさんが叫ぶ。
「上から何か巨大な生物の襲撃を受けています。」
「上からだって?」
―――grrrrrrrrr
上からその生き物の鳴き声が聞こえる。
僕は聞いたことがなかったが、エイリさんは青ざめた顔をしているところから強い生物なのかもしれない。
「そんな⋯⋯ドラゴンだ」
「ドラゴン?」
どこかで聞いたことがあるその名前を思い出そうとする。
えーっと⋯⋯。
そうだ! 歴史書に書いてあった魔獣だ!
確か、大きな翼と炎を吐くことが特徴だったはず⋯⋯。
「セリカちゃん? セリカちゃんならドラゴン、倒せるかい?」
「倒せるか、倒せないかで言うと倒せると思います。」
「じゃあ!」
エイリさんの顔が希望に染まる。
「ただし、それは武器があればの話です。武器はありますか?」
今の僕は、なんの装備も持っていない。
歴史書によるとドラゴンは膨大な魔力による防壁を持っているらしい。
流石に武器が無いと勝つのは厳しいだろう。
「武器⋯⋯こっちだ!」
そう言ってエイリさんが案内した場所は、僕が知っているものとは違う骨董品の置いてある場所だった。
「ここなら沢山武器が保管してある。 まともな物が見つかるかもしれない。」
そう言ってエイリさんは骨董品を漁り出し、剣やら槍やらを取り出す。
僕もそれに習って漁ってみるが⋯⋯
「うーん⋯⋯これじゃあちょっと」
どれも武器としての質は良さそうだったが、古い物のため耐久性が無い。 正直言ってナマクラ揃いだ。
「ん? これは⋯⋯」
僕は、目に映った剣のようなものをとる。
コレからは何か魅力のようなものを感じるな。
「エイリさん⋯⋯これって?」
「あぁ⋯⋯それは、人魔大戦争の時に魔王が使っていた剣らしい。本人以外使い物にならないそうだ⋯⋯え?」
―――ピカッ!
僕がそれを握った瞬間、それは眩い光を放った。
光が引いた後、僕の手には1振の剣が握られていた。
「これは⋯⋯」
その剣、魔剣『
―――この剣ならいける。
僕はそう確信した。
そしてその剣を下げたまま、未だ僕を見つめたままのエイリさんを尻目に悠然とドアの方へと歩み寄った。
ドアを開け、僕達を捕食せんとする生物、ドラゴンを視界に捕える。
―――腹が減った。
同じく僕を睨みつけたドラゴンが、そのような目をしていた。
「悪いが加減はしない、思いきりいくぞ!」
人知れずそう呟き、ドラゴンに向かって攻撃を仕掛けんと動く。
―――スカッ
虚しく空を裂く音が聞こえる。
次の瞬間、僕はドラゴンに上空を取られていた。
―――gyyyaaaaaa!
咆哮と共にドラゴンの口から炎が放たれる。
「⋯⋯ちっ。」
舌打ちしながら、僕は回避に専念する。
遅まきながら誤算に気がついたのだ。
―――空を飛べない。
魔王の頃は、意識すれば羽を出すことが出来た。
しかし、今は人間、空を飛ぶすべがないのだ。
ただ、ドラゴンだって生物、無限に空を飛ぶことは不可能だ。
仮に翼に穴などを開けられれば、それだけで飛ぶことが出来なくなる。
―――だから今は耐えるしかない。
ドラゴンの放った炎が森に燃え移り被害が拡大する。
「クソっ!
水の精霊を召喚し、消火に専念させる。
このままでは埒が明かない。
まずは体制を整えないと⋯⋯。
「あまり人に知られたくはないが⋯⋯
魔王時代の
残念ながら人間の体では耐えられないため、相手の視界を封じ、その感覚で自分の視界に頼らずとも全体を把握できるようになる技、魔霧は展開できない。
できるだけ秘匿したい技だが、状況も状況だから仕方ない。
「これで準備ばんた⋯⋯くっ!」
準備を終え、構えようかとしたその時、一迅の風が僕の横を過ぎ、頬を大きく裂いた。
その痛みに思わず膝をついてしまう。
風の正体⋯⋯ドラゴンだ。
僕はもう1つの誤算に気がついた。
ドラゴンの知能が予想以上に高かったのだ。
相手の手の届かない上空で炎を吐き牽制、隙を見せたところで急降下し、鋭い爪で仕留める。
とても理にかなった戦い方だ。
そして今、ドラゴンは僕の周りを囲うように炎を吐き出す。
周囲に炎が立ち込め、視界が奪われる。
ここで仕留めるつもりだろう。
―――grrrrrrrrr!
ドラゴンの威嚇する声が聞こえる。
そちらの方を向くと、今度は背後から再び声が聞こえた。
「くっ⋯⋯小癪な!」
どこから来るか全く予想がつかない。
―――grrrrrrrrr!
突如、炎の檻の一角が口を開ける。
一迅の風が吹く。
その檻の中の僕に向けて、その鋭い爪が振るわれる。
―――しかし、その爪が僕を切り裂くことはなかった。
―――スパッ
何かを切り裂く音がした。
―――gyyyaaaaaa!
それまで低空飛行をしていたドラゴンが吠えたかと思うと翼に大きな穴を開け地に伏していた。
計画通り、と内心でほくそ笑む。
「さて、これで条件は対等だ。」
その
―――さぁ、反撃開始だ!
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