順位戦最終戦……
例えば最上位のA級なら、「将棋界で1番長い日」の形容詞が示す通り、名人挑戦権の行方及び、それ以上に注目されるのがA級陥落の2名に誰がなるのか果たして誰が残留するのかと言う事である。
そんなA級程の耳目を集めないまでもB級1組だと、A級に上がる2人が誰になるかとか、それなりに注目度は高い。
そんな中、我が清滝一門からも2人のプロ棋士が順位戦最終戦に臨む所となった。
まずC級2組の八一君、ここまで8勝1敗で勝てば文句なし、一方で負けたら他の結果待ちなので敗戦=昇級赤信号と言う事で勝利が絶対条件となる。相手は今期限りでの引退を明言し、正真正銘最後の対局となる関西将棋連盟総裁・蔵王達雄九段である。因みに蔵王先生はここまで3勝6敗で通常成績では降級点が付かず、来期も戦えるのだが、老齢と体力的問題を考え、早期引退を決めたらしい。そんな老将に八一君がどう戦うのかは個人的には興味深い。
一方、師匠はここまでB級2組で降級点1を持った状態で2勝7敗と負け即降級、勝っても当落線上にあるライバル次第では残留・降級ともに有り得る文字通りの綱渡りな戦いとなる。そして最終戦の相手が何とここまで9連勝でデビュー以来、順位戦で29連勝を記録している神鍋歩夢六段では、かなり厳しい戦いになるのは容易に想像出来た。
先立って行われたC級2組は大阪で八一君が蔵王先生と戦ったが、AIを上手く取り込んだ八一君に対し、蔵王先生はAI将棋の根本的弱点を巧みに突き、僕でも難解な状況に持ち込まれそうな状態に追い込み、八一君は信じられない顔で蒼白になりながら投了した。
気になって跡をそっとつけると、対局がないにも関わらず銀子ちゃんが会館内におり、打ちひしがれて泣いていた八一君をそっと抱き、膝枕してた。
ここは2人だけにするのがベストと思い、そっと踵を返した。
結局C級2組の昇級争いは、最終的に八一君のライバルだった鳩待五段がこれもプレッシャーからか、俄に信じ難い痛恨の二歩による反則負けで脱落し、最後の3枠目を八一君が滑り込みで拾う事となった。
1週間後に行われたB級2組最終戦は予想に反し、師匠が積極的に躍動感溢れる指し回しで歩夢君を攻め、一方の歩夢君はそんな師匠の攻め方に戸惑いながらも必死に食らいついていた。
全くこんな充実感たっぷりな師匠を見るのはいつ以来だろうか……少なくともA級から陥落して以降では今日が初めてではないだろうか……
そんな感慨に浸りながら久留野七段の大盤解説に目を向けると、流石に歩夢君、そうは簡単に主導権を握らせない。
そして佳境に入った所で僕も大盤解説に飛び入り参加をした。
その数分後、記者席にいた鵠さんが東京会場の結果を告げ、
「東京、結果出ました!神鍋昇級、清滝降級となります!」
途端に客席から嘆声が次々に出たが、会場内の対局はまだ終わってない。襖の向こうは他の結果は知らず、唯己の持てる限りの力を全て尽くして最後の踏ん張り所に突入した。
それから2時間程で歩夢君が無念の投了を告げ、今日の戦いは全て終わった。
観戦記者十数人程が対局室に群がり、歩夢君に昇級祝いの言葉を掛けていたが、神鍋歩夢新七段は半ば茫然とした表情を変えず、「我の指し回しに何の落ち度が……」と、必死に対局を振り返っていた。
一方師匠は、勝っても降級が決まった事で少し悔しそうな顔をしていたが、それでも会心の将棋だったからか、かなりスッキリしていた。
そして控室に戻った師匠を追うように僕、八一君、銀子ちゃん、桂香さん、あいちゃんも次々と控室に入っていった。
師匠は全員の顔を見て、「結果はこうやったけどな、儂、将棋が面白くなってきたわ!って訳で引退はまだまだ先や!何年かかるか知れんがまた零の名人に挑戦せなならんし、八一の竜王も奪わなならんし、いつまでもへこんでられんわなwww」
師匠、素面で完全復活宣言かましたよ(笑)
でも桂香さんは涙が止まらないし、八一君は気合い入れ直してるし、銀子ちゃんは表面的には表情は変わらないけど、何処か嬉しそうなのは僕には分かる。あいちゃんは「おじいちゃん先生、まだまだ頑張っている所を見たいです。」って激励してるしで、矢張り皆、師匠の現役続行を信じていたようだ。
その夜は、あの名門料亭で一門宴会と相成った。
名人戦ももうすぐだ…
A級順位戦最終戦…
今期は前例のない超大混戦となった。
1位→「名人」4勝4敗
2位→於鬼頭曜帝位5勝3敗
3位→佐伯宗光九段4勝4敗
4位→月光聖市九段4勝4敗
5位→後藤正宗九段3勝5敗
6位→山刀伐尽八段4勝4敗
7位→生石充玉将5勝3敗
8位→柳原朔太郎九段3勝5敗
9位→関崎勉八段3勝5敗
10位→櫻井岳人八段5勝3敗
最終戦組み合わせ
「名人」vs櫻井八段
於鬼頭帝位vs後藤九段
佐伯九段vs山刀伐八段
月光九段vs柳原九段
生石玉将vs関崎八段
結果
○「名人」(5勝4敗)−櫻井八段(5勝4敗)●
○後藤九段(4勝5敗)−於鬼頭帝位(5勝4敗)●
○山刀伐八段(5勝4敗)−佐伯九段(4勝5敗)●
○月光九段(5勝4敗)−柳原九段(3勝6敗)●
○関崎八段(4勝5敗)−生石玉将(5勝4敗)●
最上位成績5勝4敗が6人
降級者は関崎八段(今期9位4勝5敗)、柳原九段(今期8位3勝6敗)
プレーオフトーナメント
1回戦7位生石玉将vs10位櫻井八段
2回戦6位山刀伐八段vs1回戦勝者
3回戦4位月光九段vs2回戦勝者
準決勝2位於鬼頭帝位vs3回戦勝者
決勝1位「名人」vs準決勝勝者
の組み合わせとなり、
1回戦○櫻井八段−生石玉将●
2回戦○櫻井八段−山刀伐八段●
3回戦○櫻井八段−月光九段●
準決勝○櫻井八段−於鬼頭帝位●
決勝→○「名人」−櫻井八段●
という訳で次期名人戦は4年連続vs「名人」な組み合わせとなった。