兎も角本編スタート!!
プレーオフ終了翌日…
今日は日曜日、僕も万智も対局は無く、明日のリーナの高校卒業式に備え、卒業&プロへの船出への祝いと激励を兼ねたパーティーの準備に追われていた。
因みに僕の家族はこの4年でまた増えた。
6年前の10月に双子の娘の万央・万実が産まれ、現在5歳・4月からは幼稚園3年目となり、来年にはもう小学生となる。
で、3年前の4月に三女の万彩(まや)が産まれ、今や5人家族の大黒柱となっていた僕であった…。
娘達にも少しずつ手伝って貰いながら準備を進めていると、昼近くに電話連絡が来た。
月光会長からだった…
「忙しい処申し訳無いが、急遽相談の必要があり連絡した次第です。急で悪いのですが明日、会館にお越し頂きたい。」
との話だったが、
「申し訳ありません、明日は完全に日程を押さえてあるので会長次第ではありますが、出来れば今日の内にお伺い致したく存じます。」
と答えた。
電話の後ろから男鹿さんが
「幾ら名人といえど会長の指示を…」
と言い掛けて会長に
「名人も突然の話ですから」
と何か宥められていた…
で、改めて時間を擦り合わせた結果、夕方6時に「ひな鶴」と深い関係のあの名門料亭で会談する運びとなった。
本当は僕1人で行く予定でいたのだが何か感じたのか、万智も急遽同行する事となった。
会長の了承を得て4人(会長、男鹿さん、僕、万智)での会談兼夕食となり、僕と万智はそこそこ呑めるのでビールを呑みながら、一方で会長と男鹿さんは下戸なので食事しながらの会談となった。
其処で出た会長の話とは…
プレーオフ終了直後の氷室先生の異常な申し出であり、過去に1度だけ行われた
『名人戦・時間無制限一番勝負』
を30年以上の刻を経て再び行おうと言う狂気の沙汰としか言えない申し出を受けるか受けざるかの選択を迫る物であった…
そして、この狂気の対局を知る1人としての月光聖市十七世名人の述懐が始まった…
ハッキリ酒で喉を湿さねば保ちそうにない狂気・地獄であった…
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〜side月光聖市〜
これは1993年、即ち平成5年に行われた第51期名人戦…
この期は上位が混戦気味で、残り1局で7勝1敗が先頃引退を発表した佐伯宗光永世竜王1人で、6勝2敗で追うのが氷室十六世名人と不肖・私であった。
すでに直接対決は終えており、全員東京・将棋会館で運命の1日に臨んだ…
結果…、佐伯氏と私が敗北、氷室氏のみが勝利し、氷室vs佐伯のプレーオフとなり、氷室氏が制した事で氷室氏が当期挑戦者となった。
その氷室氏を待ち構えていた当時の名人…
『滝川幸次』
が、その5連覇即ち永世名人を賭けた戦いに於いて、
「運命の一戦、唯一度で全てを尽くして決着したい。」
と望み、これを受け、挑戦者の氷室将介も同意し、前代未聞の名人戦一番勝負が開催される事となった。
場所は氷室指定の旅館で、氷室氏の祖父とも深き因縁ある決戦の場であった…
対局は1週間を超え、11日目…、氷室渾身の一手が繰り出され、勝利は氷室に大きく引き寄せられた…かと思ったのも束の間、滝川の次の一手は…、氷室瞬殺の再逆転の一手であった。
これで滝川十六世名人誕生…の筈だった…
ところが、首を差し出しつつももう一手を放った氷室氏に止めを刺す事無く、滝川名人は、その目から耳から口からも激しい出血が確認され、病院直行、依って滝川名人の棄権と認定され、氷室新名人の誕生となった…
以後の氷室十六世名人の活躍と突然の長期休場は多くの知る処であるが…
一方の滝川元名人は…
病院直行での療養以降はウンともスンとも細かい噂話すら伝わらない『神隠し』状態と化しており、現在の動向は誰も掴んでは居ない模様である…
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はぁ…、これは受けるしかないだろうな…
只、場所は全7局の予定場所では到底不可能だろうし…、他は…
あ、あった!!
只、これは僕個人では到底立ち行かないだろうから、供御飯当主たる義母の力が絶対不可欠となる。
早速義母に連絡を取り、京都市内の供御飯家御用達の名門料亭を1ヶ月分押さえて貰った。
これで改めて会長に条件了承を告げた上で、対局予定施設は全てキャンセル、一番勝負の会場は、京都有数の大名門料亭を押さえた事も同時に伝えた。
これは全て通り、4月中旬スタートで決まった。
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さて、名人戦迄まだ少し間があったので、当時を知る面々に話を伺う事にした。
〜byゴキゲンの湯〜
着くなりまずは料金を支払い、ひとっ風呂浴びた上で2階のゴキゲン道場に顔を出し、ジャズを弾いてた生石さんの前に顔を突き付けた。
生石さん、憮然とした顔で、
「A級滑った負け犬に何の用だ?」
とあからさまに今来られたく無いって態度だった…
けど、僕としてもあの狂気の対局の断片でも知りたいから退くに退け無かった。
お互い暫く無言であったが、やがて生石さんが漸く重い口を開いてくれた…
曰く、
「俺は現地に赴いた訳じゃねぇが、少なくとも画面越しから見ただけでも地獄絵図なのは確かだったぜ。ま、あの頃はしがない奨励会員だったから俺自身が何かを出来た訳じゃねぇがな。」
って外からの視線で語ってくれた。
この人、放浪癖あったり、酒癖の悪さも師匠並みだったり、何とも困った成分抱えているけど、一方で自前の弟子は居ないにも関わらず(飛鳥ちゃんは例外)、関西有望若手への面倒見とかフォローとかは結構行っており、総体的に言えば、天衣を更に拗らせたツンデレに近いお人なんだよな…
まぁ矢張り歴代でも大棋士の1人に数えられるだけはあるな。
〜by佐伯宗光〜
予定されていた講演の為、上京し、予定を恙無く終えると、打ち上げの宴会に参加し、その後、2次会を経て解散後、佐伯さんを誘って刈田先生御用達の料亭で酒を酌み交わした。
で、佐伯さん曰く、
「珍しいね、君が態々僕を誘うなんて。しかも此処は刈田先生行きつけの料亭…、刈田先生から何か示唆された?」
と問われ、
「えぇ、以前、刈田先生の御招待で此処で飲食した事はあります。その後も毎回ではありませんが上京の度に幾度か利用させて貰っています」
と答えた。
けど矢張り僕の狙いを見抜いていたようで、
「氷室さんと滝川先生の封印された地獄か…」
と少し間を置いてから徐に告げた。
「えぇ、その事で少しでも情報が有れば…と思いまして…」
と答えると、佐伯さん、
「最初に断って置くがあの対局、最も身近に体感したのは他の誰でも無い、君のお師匠にして身近な身内でもある清滝さんだ。経歴と段位だけなら当時でも既に若手でも注目株の1人だったのだが、あの名人戦、誰もが尻込みして記録係を拒絶する中、『なら儂に任せぃ!!』って突然名乗り出て結局10日余りの地獄を乗り切ったのだからあの人に聞いた方が余程早い。」
…なんかとんでもない大ヒントを貰った気が…
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〜by清滝鋼介〜
リーナちゃんの卒業式後、零の動きが何とも忙しない様だ…
そんな3月下旬、対局終了後若手を誘い、呑もうかと会館を出ようとした処でその零に出くわし、零が若手連中に断りを入れ、結局その夜は零と差し向かいで酒を酌み交わす事となった。
で、零が態々儂を訪ねたのは、あの伝説の地獄の事について少しでも知りたいからだった…ってのはそれなりに予測は出来ていた。
が、アレは体感処やない!
お互い座るなり、早速氷室がその祖父・御神三吉譲りの端歩突きをブチかまして10日余りに及ぶ長く、緊張の解けない地獄が始まった…
一方の滝川さんは一見静かな様子ながらも、確実に獰猛に喉笛を掻き切る構えで指していた…
そして1週間…
両者全く盤前から離れず、故に儂も限界と格闘しながら記録を取り続けていた。
何せ食事は疎か、小用すら1度も無いままなのだからそれも当然やった…
そんな中、最初に限界が来たのは特別立会人を買って出た刈田先生…刈田升三実力制第四代名人やった…
只、ダウンして退いた訳や無く、この対局では採用されて居なかった副立会人相当の立会人補佐を新たに付ける事で何とか立会を継続出来たって訳や…
因みにその立会人補佐は、柳原朔太郎現永世棋帝(当時九段)が担ってくれた。
この時、当時の連盟会長始めとする理事幹部連中はと言えば、最悪対局中止・連盟預かりとして、対局無効を検討すらする程慌てふためいていた…
そして対局開始から11日目…
氷室が決定的一手を放った…と誰もが確信した直後の滝川さんの次の一手は当にこれ迄の全てを読み切った完璧な殺戮の手となった…
これで滝川十六世名人誕生と共に稀代の若き大棋士・滝川幸次の現役クライマックスとなる筈やった…
実はこの地獄の一番勝負を提案したのは誰でも無し…、滝川名人その人やった…
そして、氷室を葬るのを最後に現役に別れを告げる事も同時に公表しとったんや…
が、氷室が負けを認めて指した次の一手…
滝川さん…、微動だにせず、無表情のまま、眼から耳から口からさえも血が滴り落ち、最早対局不可能であるのは誰が見ても明らかやった…
結局、病院直行となった滝川さんの棄権負けと認定され、転がり込む形で氷室が新名人に就く事となった…
が、こんな譲られた恰好の名人にあの氷室が承服出来る筈も無く、直ぐ様奴は名人返上と現役引退を連盟に叩き付け、故郷の土佐・高知に隠遁しようとした…
が、それを止め、現役継続させたのは、当時駆け出しの観戦記者だった今の奥方やった…
で、月光さん・佐伯・「名人」と10年以上に渡り、『四強時代』を築いた訳やが、他には大して興味をそそられ無かったのか、2000年代に入って間もなく引退宣言をし、引退届は受理されずも文字通りの長期休場に入り、零と出会ってやっと再び火が付いたって訳や…
この話を聞いた零…
「氷室先生が僕に何を求めているかは未だ僕には答えを導き出せてはいませんが、生死を賭けた戦いになる事だけは改めて認識した次第です。ですが僕も座して死す訳には行きませんので、殺し合い上等、どちらが先に音を上げるか戦い抜くしか無いでしょう…」
と事も無げに告げおった…
これは32年振りに阿鼻叫喚の名人戦となるのは最早疑いないで…
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その後、柳原先生からも話を伺ったのだが、阿鼻叫喚の地獄以外の何物でもなし…としか答えが返って来なかった…
結論…、本気で遺言書かなきゃならなそうだな…
こんな地獄の対局、誰も担当したがらないのは目に見えてますがはてさて担当したがる奇特な棋士、三段奨励会員は居るのでしょうか?
下手すると、同門縛りすら…になりかねない勢いですな…
って訳でまた次回!!
桐山君の最終決戦のお相手は?
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西の魔王・九頭竜八一
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浪速の白雪姫・空銀子
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神戸のシンデレラ・夜叉神天衣
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神の子or悪魔の子・宗谷冬司
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風林火山・ニ海堂晴信
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盤上の探検者・土橋健司
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盤上の格闘家・隈倉健吾
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猖獗の大魔神・氷室将介
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新世代の申し子・椚創多
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ゴッドコルドレン・神鍋歩夢
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その他