桐山君は清滝家の長男坊?【本編完結済】   作:紫電海勝巳

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さてさて、瀬戸の五冠王がある意味鬼門の王座戦で又も緒戦敗退…、それもカモにしてる魔王の弟に逆にカモ認定される勢いで…

一方で名人戦ではその魔王に新・西の王子が一矢報い、これから先が楽しみな予感が…

で、棋聖戦では五冠王に中尉が挑むある意味ヲタク対決の様相を呈し…

叡王戦?王位戦?前者は新人王戦惨敗経験者で王位戦は白組優勝者が挑戦者となる感じが希薄としか…なんで、あまりジャイアントキリングの期待は出来なさそうな…


ま、そんな訳でまだ決まってない竜王戦挑戦者が誰になるかが今年の焦点みたいなもんで…



って訳で本編スタート!!


9月9日(桐山君視点)

9月9日…

 

今年もその日が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

僕にとって転機の日であり又、生涯最悪の忌わしき日でもある。

 

 

 

 

 

 

勿論、両親・妹の身内3人を1度に失った日であり、師匠と月光先生・桂香さんによって保護されなければ、あの父と同じ血を享けたとは到底考えられない叔母と称する畜生道に堕ちた化物に全てを支配され、僕は将棋処か「施設」という名の劣悪な環境に落とされ、先行きの見えない地獄の生を送りかねなかったのだ…。

だが、実の伯父・従姉である師匠、桂香さんに父の兄弟子にして父を最大限に評価してくれ又、その挫折を限りなく惜しんでくれた月光先生によって現在の充実し幸福な人生を歩めたのは僥倖以外の何物でも無い。

 

 

 

 

 

それだけじゃない…、最愛のパートナーである万智との出会いからしても月光先生からの依頼で出掛けた普及活動の一環である「山城小学生竜王戦」であったのだ。

 

それは僕がプロ入りして半年余り過ぎた08年6月の事であり、この大会の優勝者は優勝当年の夏に行われる奨励会入会試験で1次試験免除の特典が得られる事で小学生名人戦と並ぶ人気・評判を勝ち取っていた。

 

その大会、決勝戦は史上初にして現在でも唯一の女性同士の決勝であり、相対したのが万智と珠代さんであった(燎さんは準決勝で万智にひらひら躱され無理攻めして自滅して敗退)。

 

決勝は素質・実力差そのままに万智が無難に優勝したのだが(珠代さん的には当時の時点では不服だったらしい。実際僕に不満タラタラ噛み付いた位に荒れてたし。)、その万智、余りに気を良くし過ぎたのか、この日ゲスト解説で登場していた僕に、

「小学生プロどすか?こなたとて小学生どすが曲がりなりにも日本一を勝ち取った誇りがあるどすぇ。やけど流石に平手は失礼どすから香落ちでお頼み申します。」

と頼み、香落ちでのスペシャル対局を行った。

 

 

 

 

 

 

結果……、58手で僕の圧勝に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして閉会式も恙無く終わり、帰り支度を済ませ、最後に小用を済ませようとトイレに向かった所、トイレ前の階段で人知れず嗚咽していた万智を目撃した。

 

それを見た僕は思わず、

 

「大会優勝者がこんな所で何故打ちひしがれているの?」

 

と問うと、

 

「そらぁ打ちひしがれるどす。平手ならまだしも香落ちでこなたが先手……、それでも紛うこと無き惨敗…、幾ら天賦の才には及ばずと云え、超えられない壁をトラウマレベルで見せ付けられたなら絶望に打ちひしがれるなと言う方が無理押しってもんどす。」

 

としか咄嗟に返せなかった万智に僕はこう返した。

 

「超えられない壁?、少なくとも僕からすれば超えられる壁はまだまだ多数あるし。例えば月光名人も「名人」にしてもまだまだ極限には行き着いては居ない訳で。それだけ将棋には未知の未来が分布点在しているからね。だから君もこんな所で落ち込んでいる場合じゃない。次なるステージに進む為の薄壁と思えばいい。」

 

と。

 

 

 

いつしか嗚咽は止まっていた万智だが、やがてスッキリした顔で

 

「ならばその分厚くも硬く強靭な鋼壁、生涯を賭けて打ち砕く所存どす。」

 

と宣言していた。

 

 

 

尤も、その深淵な意味を当時の僕は何一つ理解していなかったのだが…………

実際、この時点で恋愛云々ってのは幾ら中身が成人でも見てくれは小学生なんだから余りにも無理押しが過ぎるってもので…

 

 

 

 

その後、玉座戦最終戦直前に京都の名門料亭に呼ばれて赴いた先で待ち構えていたのは何と万智であった…。

 

 

曰く、

 

 

「こなたを活かすも殺すも生殺与奪の権は全て零はんに委ねとるどす。拠って、親親族から勘当絶縁喰らおうともこなたの人生の伴侶は零はんしかおらんどす♥」

 

 

って、何でまた至極厄介なタイミングで告白染みた発言カマスんですか……

 

 

この時点では僕もまだ小学生だったから兎に角も時期尚早・肉体的にも成長途上って至極真っ当な理由でひとまず躱したと思っていたのだが…

 

 

それが大きな間違いであった事を間もなく体感する事となった…

 

 

 

 

 

竜王戦第1局…

ドイツ・ベルリンでの対局の前夜祭…

 

 

 

 

 

 

 

 

は?何でこの場に万智がいるんですか…?

 

 

 

 

 

 

で、対局者挨拶の後、部屋に戻ると何故か万智が先回りして待ち構えていた……

 

 

 

 

 

「あの〜、僕が明日明後日2日間の対局なのは供御飯さんも御承知の筈ですが…、何故学校サボってまで此処まで僕を追い掛けてきたんですかね?」

 

 

 

そんな僕の素朴な疑問に対し、

 

 

 

「学校で学べる事なんかたかが知れとるどす。そんな些事よりこなたは零はんの全てを研究し尽くす事こそ大事と思う訳で、こうして罷り越した訳どす♥」

 

 

 

って恋愛感情全開な満面の笑みで返してくれたのは流石に背筋が凍る思いだった…

 

そりゃそうだろう、10歳そこらの少女が幾ら家が資産家だとは云え、ほぼ単独に近い形で海外渡航してまで目当ての人を追い掛け回すシュールな図式…

 

しかもその対象がこれまた初の海外渡航となる小学生の少年な訳で…

 

 

 

「で、1万歩譲って渡航自体は銀子ちゃんも八一君もいるからまぁ呑み込めるけど、此処は君の宿泊部屋じゃないよね。此処はあくまで対局者たる僕の個室だから何故君が居るのか全く以って理解出来ないんですが」

 

 

って問うと、

 

 

「許嫁が将来の伴侶の許を訪ねる事に何の不都合があるんどすか?こなたは零はんを慕い助けたいだけどす♥」

 

 

って後先なしの回答してくれて……

 

 

 

結局、同行してた二海堂に頼んで山刀伐さんを呼んで貰い、別室に万智を引き剥がして貰ったのはなかなかインパクト強い思い出となった…。

まぁこれは今でも万智にはネタじみた軽い恨み言として聞かされる訳だが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、そんな僕の人生最悪の日もあれから20年経ち、数年前から移した京都の一角にある墓に命日のお参りに向かっていた。

 

 

本来なら唯一の遺族たる僕だけが墓参する筈だったのだが、万智も子供を連れて当然のように付いて来た。

うん、妻と子供なら嫁と孫なので別段不思議でもないのだが、面識自体は無いのでそこは素直に有難いと思う。

 

 

が、万智達だけなら兎も角、リーナと創多も参加していて、更には天衣と冬司までもが態々礼装してこの場に居たのは正直驚いた訳で…

挙句には桂香さんと神宮寺さん一家に二海堂一家(二海堂&珠代さんと1人息子の家康君)も親戚・友人として参加してくれていたのも僕からすれば驚きではあった。

 

実際、僕1人で地味に済ます予定だったので、これだけ訪れたのは正直驚きもだが嬉しくもあったのは此処だけって事で…

 

 

 

そして墓参と法要が終わり、会食となった時、更に予想外の人物まで顔を出したのには流石に頭が混乱しかかった。

 

 

 

 

 

で、その予想外の客人は…

 

 

月光先生と男鹿さんだった…。

 

 

 

 

実は月光先生は元々亡き父の兄弟子(師匠もだが)であり、父の退会を惜しみ且つその後を案じてあの事故まで頻繁に連絡を取り合っていた程に父との関係が深かったのだ…

師匠も妹(僕の母)の嫁ぎ先だったので折り毎に連絡は取り合っていたのだが、祖父(父方)の目がやたら厳し過ぎた影響で月光先生程には緊密に交流出来ては居なかったらしい…

 

 

 

で、隠遁生活に入ったばかりの月光先生に何故未だに男鹿さんが一緒に行動してるのか…と聞けば、

 

 

 

男鹿さん、月光先生の会長勇退&隠遁生活を決めるや否や直ちに連盟に退職届を提出し、神戸郊外の旧武家屋敷に独り隠遁を決め込んだ月光先生の許に乗り込んで今迄同様先生の手足になる事を直訴したそうな…

月光先生は男鹿さんの人生を考えて最初は拒絶したのだが(男鹿さんは僕からも僅かしか年長であるに過ぎない)、男鹿さんに取っては先生無しの人生は考えられないと強硬に喰い下がった結果、月光先生の方が根負けし、正式に婚姻はしてないけど、実質的には内縁関係に至っているとの事で…

 

 

 

 

 

その後の会食と懇談はなんだかんだと恙無く過ぎ、午後も日が傾きかけた頃、お開きとなり、それぞれ家路についた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運命の竜王戦まで残り1ヶ月…

 

 

 

 

 




両親・妹の21回忌となった今日…

予定以上に参加者が増えたのだがそれはいい。それだけ悼んでくれる人が居るのは僕も感謝しなくてはならないからだ。

が、幾つかの予想外もあり、1つは月光先生夫妻(実質的)のサプライズ参加であり、もう1つは僕も目が飛び出かねない仰天だったリーナご懐妊の知らせだった…。

まぁ僕からして準備不足の末に万智とデキ婚やらかしたのだからあまりキツくは言えないのだが、それでもリーナと創多はお互いまだ19の未成年な訳で…、つい、

「僕の事例もあるのになんでまた時期尚早な事をやらかした訳?」

と問い詰めてしまったのだが、リーナ曰く、

「私達ウマ娘は人間より身体能力は格段に上廻っているけど、その反動からか、寿命は人間の3分の2程度しか無いのは師匠も承知してますよね。ならば可能な限り早いうちに子供を儲けたいのは理解出来ると思いますが」

と返して来て、これで僕は撃沈…
万智は僕の懸念とは逆に大喜びで、他の参加者はと言えば…



桂香さん→「若夫婦なら周囲の面々が気を付けて目を配ればそんなに目くじら立てなくてもいいんじゃない?」

神宮寺さん→「俺や桐山よりはまだ健全だろ(僕と神宮寺さんはデキ婚である)、ってもお互いプロ棋士だから育児は十二分に話し合わなけりゃならんだろうがな」

二海堂→「フム、お互い若いだけに必要な時には経験者や年長者にアドバイスを頼む事も大事ではあるな。が、そうでもなければ自分たちの考えで育児してもさほど問題は無いとは思うが」

珠代さん→「私もだったけど、まずは自分たちでどれだけやれるか…、その上でキャパオーバーな分はハウスキーパーとか託児所等に一部委ねるとかの柔軟性を持たせる事も考えた方がいい」



と、4人がそれぞれ意見を交わしていたのだが、当の2人に一番響いたのは珠代さんの意見だったようだ。

って訳でリーナと創多の育児は珠代さんをベースに行う流れになりそうだ…




けど、そんな話し合いの中で天衣がボソっと呟いていたのが、

「これじゃ冬司には何の期待も出来ないわね。けど少なくとも私の伴侶たる身ならそれなりに自覚持って貰わなきゃ困るけど…」

だったのは何ともな…
ってか、2人、もう将来誓い合っているの?僕、弘天さんからまだ何も聞いてないんだけど…

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