フラグは全て無視するッ!   作:ビタミンB

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息抜きついでにゆる〜く書いていきまーす。



さて始まりました。主人公はなんと僕が務めます。どうして。

 

 

 

「初めまして、篠宮(しのみや)星乃(ほしの)っていいます! クラスのみんなと仲良くなりたいなーって思ってるので、いっぱい話し掛けてくれると嬉しいです! 一年間よろしくお願いします!」

 

 元気溌溂なこの挨拶を聞いて、僕の頭には雷が落ちたような衝撃が走った。

 新たな生活が始まる高校一年生最初の自己紹介タイム。さっきまでは少しそわそわしながらクラスメイトの話に耳を傾けていたが、それも今は全く聞く気にならない。

 

 なぜなら僕は思い出してしまったからだ。いや、記憶が流れ込んで来たと表現した方が正しい。

 

 そう、ここがゲームの中の世界だということを。

 

『Loving Days.』。これは所謂(いわゆる)ギャルゲーと呼ばれるジャンルのもので、高校生の主人公がさまざまなヒロインを攻略して結ばれるまでの過程を楽しむ恋愛シミュレーションゲームだ。

 確か攻略対象は七人くらい。選択肢やフラグは多岐に渡り、日常の中のなんでもないような行動が思いがけないヒロインとの仲を深めるキッカケになったりする。好感度の上昇量も高くなく、地道な積み重ねがTRUE ENDに繋がる所謂良ゲー。

 記憶では実際にプレイした訳じゃなく実況動画で内容を知っている程度のようだが、まず一人目のヒロイン『篠宮星乃』の自己紹介は聞き間違えようがなかった。

 

(ってことは主人公がどっかにいるはず。どこだ?)

 

 最早クラスメイトの自己紹介など毛程も興味がない。

 冷静になった頭で周囲を見渡す。

 

 ……見渡す。

 

 …………見渡す。

 

 

 ──アレ、これ主人公の席にいんの僕じゃね? 

 

 

 瞬間、口が引き攣ったような弧を描いた。

 

 ……おいおい、おいおいおいおい。

 

 ちょっと待って、タイム。

 ってことはアレか? 僕が『Loving Days.』の主人公ポジで? これからヒロイン達の好感度稼いでイチャイチャ恋愛して? 紆余曲折して結ばれて人生ハッピーエンドすんの? 嘘だろ? マジで……? いやいや、そんなの──

 

 

 ──ふっざけんな冗談じゃねぇ! 

 

 

 僕は咄嗟に頭を抱えた。それはもう、ボールを抱えるように抱えた。大袈裟に抱えた。

 

 普通に考えて自分がギャルゲーの主人公とか人生勝ち組も勝ち組、残りの人生余すことなく幸せ満開ルートだが、僕にとってはそうじゃない。これはそういう問題じゃない。

 ここがゲームの中の世界ってことは、僕がヒロインに対して取れる行動はある程度プログラムで決まってるってことになる。つまり今後ゲーム通りにヒロインと関わる上で僕が抱くことになる感情も、相手が僕に向けてくる感情も全て偽物──単なるゲーム内の電気信号に過ぎないってことだ。

 一番危惧していることは、ズバリこういうのにありがちな"世界の修正力"とやらで嫌でもいずれかのヒロインと結ばれる結果になるということだ。これがなんともあり得そうでいい気がしない。

 

 い、嫌だ! 僕にだって一応今まで生きてきた中で生まれた自我があるんだ! ふざけんな! クソゲー乙! 

 

 どうせいつか誰かと結ばれるなら、その相手はゲームが決めたヒロインなんかじゃなくて僕自身が選んだ誰かであって欲しい。候補が決まってるなんてまっぴらごめんだ。そんなちっぽけな願いが僕の心を満たしていく。

 僕は僕だ。主人公なんかじゃないし、ゲームの筋書き通りにもなってやらない。

 

 よし、決めた。今決めた。僕は自分を曲げないぞ。

 

 はい、それでは今後の行動方針の発表までさーん、にーい、いーち、ドン! 

 

 

 

 ──フラグは全て無視するッッッ! 

 

 

 

 ●○●○

 

 

 

 

 自己紹介を兼ねたオリエンテーションが終了すると休憩時間が訪れる。

 とりあえず僕は一人になるために足早に教室を出た。この学校もゲーム内のものと同じだというのなら話は早い。僕自身はまだ見慣れない校舎でも、大まかな構造は記憶が把握している。

 誰との接触も避ける為、僕は真っ先に男子トイレの個室に篭った。ゲーム開始直後にトイレ直行する主人公とか客観的に見るとシュールだな。まぁそんなことはどうでもいいか。

 

 まず、今のところ我がクラスにいる『Loving Days.』のヒロイン候補は三人だ。というのも、記憶通りにイベントが進むとしたら後から転校生が来るのだ。まぁそれは今は置いといて。

 

 一人目は僕が記憶を手に入れるキッカケになった張本人、篠宮星乃。

 

 透き通った金髪を肩口あたりで揃えている、性格までも明るいクラスの人気者ポジション。言ってしまえば無難なキャラだからプレイヤーの中での人気は中位あたりに位置していたような気がする。

 こいつは全体的に見たら攻略難易度が低めの、所謂「初心者向けヒロイン」として見られていた。日常的に主人公に挨拶を始めとしたコミュニケーションを持ち掛けてくるため、プレイヤーが行動を起こさない受け身のスタイルでも向こうから勝手にやってきて容易に好感度を稼ぐことができる。

 強いて難しい点を挙げるなら星乃が主人公へ抱く友情が恋情へと変わることになるイベントくらいだろう。正直僕のタイプではない。わはは。

 

 二人目はそんな篠宮星乃の友人ポジションとして登場するキャラ、白石(しらいし)(まい)

 

 篠宮星乃が髪も性格も明るいキャラクターなら、白石舞は対照的な黒髪のクールキャラだ。

 凛とした声が放つ言葉は落ち着いていて、口数が少ないわけではないが多くもない。自分は星乃のように明るくなれないと思っているため、それ故に星乃に少し劣等感を抱いているという一面があったりする。そんなところが多くのプレイヤーを惹きつけ、キャラ人気ではかなり上位に食い込んでいた。ちなみに見所は「星乃よりも自分がいい」と言い放つ主人公に舞が赤面して取り乱すシーンだ。あれ見たらみんな好きになるよねって思った。僕もあのシーンは好きだ。

 

 そして……三人目。この中で──いや、全ヒロインの中で僕が唯一危機感を覚えている人物がいる。

 ズバリそれが誰なのかというと……幼馴染の双葉(ふたば)(つむぎ)ってキャラです、ハイ。幼馴染です。ヤバいです。

 

 スラっとした容姿にセミロングくらいの長さの水色の髪、成績優秀、さらに品行方正。世間では幼馴染=負けヒロインのイメージが定着している節があるが、『Loving Days.』における幼馴染は馬鹿言えと言わんばかりに強キャラだった。まずエンカウント率とイベント発生率が他ヒロインに比べて明らかに高い。一応、主人公がヒロインを攻略するゲームだから初期好感度がぶっ飛んで高いわけじゃないが、途中からは最早どっちが攻略されてるのかわからなくなってくるレベルだ。

 

 僕は決めたのだ。ゲームで決められたヒロインと恋愛ごっこをする気はないと。そのためにフラグを全て無視し、極力関わらないようにすることで筋書きから外れた自由を手にするんだと。

 

(でもこればっかりは不安だ!)

 

 正直ゲーム開始直後の今、僕はほぼ全てのヒロインとの接点はゼロと言っていい。つまり今後の僕の動き次第では完全に無干渉ルートを突っ走ることも不可能じゃないということになる。

 

 だが幼馴染、お前だけは別だ。

 

 事前に関わらないという手を使えない唯一の相手、双葉紬。高校入学の今に至るまでゲームの記憶がなかったせいで普通に関わっていたから、既にフラグが立ってしまっている可能性がある。大いにある。

 

 僕は紬に好意を抱いているわけじゃない。

 そりゃ小さい頃から一緒にいたから気心が知れてると言えば知れてるが、今の僕にとっては些事な話だ。僕は自由を愛する男なのだ。誰かの思い通りになるくらいなら積極的に幼馴染とも距離を置く。それにどうせゲームの中だしな。今まで何十何百人ものプレイヤーと結ばれて来たって考えたらその内の僕一人がガン無視したところで大したことないだろ。

 幸いここ一年は紬と疎遠気味になっている。ゲームでそんな設定あったっけ? と思わないこともないが、これはチャンスだ。このまま関係をフェードアウトしていき、いつの間にか「元幼馴染の双葉紬と僕」になってしまえばいい。

 

 じゃあ、僕だけの『Loving Days.〜チャプター1』を始めてみようか。

 

 ゆっくり拳を握りしめると、便座から立ち上がった。うん、早速締まらないね。

 

 

 

 ●○●○

 

 

 

 

 そんなこんなで教室に戻り授業を受ける。

 幸いなのかどうかは知らないが、僕の座席はヒロイン三人よりも後ろに位置していた。

 まぁ最初の席順なんて苗字的に決まってるようなもんだしな。ちなみに僕の苗字は「八束(やつか)」だ。ばっちり窓側後方の神席をゲットしたぜ。

 

 昼休みに入っても、もちろん教室で飯を食べるような真似はしない。

 ゲーム通りならこの時間に教室にいると星乃か紬と接触することになる。今の僕的に紬からの接触があるとは思えないが、星乃から来る可能性がある時点で逃げるのがベストだ。目標としては星乃から「そんな人もクラスにいたな〜」程度に思われることである。できるかな。できるといいな。

 

 ということで早速外にある非常用階段でささっと昼食を済ませる。トイレの個室も一瞬頭に浮かんだが、流石に悲しくなったからやめた。我、一応主人公ぞ。知らんけど。

 

 とはいえ、ゲーム内ではしょっちゅう誰かしらヒロインと交流してたイメージがあったが、いざ実際に過ごしてみると案外ただの学校生活だ。適当に授業を受けていればもう一日が終わっていた。後は帰宅してしまえば終わりである。

 なんだなんだ、結構チョロいじゃん。意外と何事もなくハッピーエンド迎えられるかもな、なんて鼻歌を歌う。ちなみにここでのバッドエンドはヒロインの誰かと結ばれる事だ。僕がこの世界に負けたことを意味する。

 

「ゆ、悠里(ゆうり)くん!」

 

 昇降口で靴を履き替えていると、不意に背後から名前を呼ばれた。咄嗟の事で自分でも驚くほど肩が跳ねた。それは、声色が女子のものだったからに他ならない。

 

 ──ど、どうする。無視して帰るか? 

 

 誰かは知らんがこれも何かしらのフラグに繋がってるかもしれない。幸い、僕はまだ声の方向に振り返ってない。よってまだセーフ。そう、セーフだ。先っちょだけ。3秒ルールは適用される。よし、帰ろう。

 

「ちょっと、ゆ、悠里くんってば!」

 

 焦ったような声と共に、それを無視してそそくさと帰ろうとする僕の制服の袖が摘まれる。

 流石に足を止めて振り返ると、そこには────アッ、終わった。何してんだよお前。僕の決意どこ行っちゃうの? 早くも幸先悪いんだけど。

 

 ゆっくり振り返った先。

 

 そこには、ぎこちない表情を作りながら僕を見る幼馴染──双葉紬が立っていた。

 

 

 

 

 どうして。

 

 

 

 

 ○●○●

 

 

 

 

「あ、えっと……その、久しぶりだね? 今日からまた三年間よろしく……!」

 

 あぁ、きっとぎこちない顔になってるんだろうな、なんて思いながら、私──双葉紬は久しぶりに幼馴染に声をかけていた。

 八束(やつか)悠里(ゆうり)。幼稚園の頃から家が近くて、お互いの両親の仲が良かったことからよく一緒に遊んでいた男の子だ。

 ……そして、最近疎遠気味の男の子でもある。

 

「あぁ……うん」

 

 悠里くんは私と目も合わせずに呟いた。

 その態度から拒絶の意を感じ取って、胸がズキリと痛む。

 

 どうしてこうなっちゃったんだろう。

 

 昔の悠里くんはいつも元気で笑顔が絶えなかった。あまり周囲と馴染めていなかった私といつも一緒にいてくれて、私にとってそれがかけがえのない時間だった。いつも元気を貰っていた。

 

 そんな私と悠里くんの関係が変わってしまったのは、中学二年生の時──悠里くんの両親が突然事故で亡くなってしまった頃からだったように思う。

 

 今度は私が元気付けてあげたい。それが叶わなくても、せめて一緒にいてあげたい。一人は寂しいから。

 そう思っていたのに、悠里くんにはあまり変化が見られなかった。いや、()()()()()()()()()()()()()んだろう。学校での姿も、笑い方も、話し方も。全てが普段と同じように、何てことないんだと言うように。

 今までずっと一緒だった両親が突然いなくなってしまったのに、辛くない筈がない。傷つかない筈がない。なのに、悠里くんはそんな素振りを一切見せない。弱った姿を晒さない。

 そういえば私は悠里くんの涙を今まで一度も見たことがなかったと、その時初めて気が付いた。

 

 それからは私の方から少しずつ距離を置くようになっていった。

 

 悠里くんが私に向ける表情のその奥に悲しい本心が隠れているような気がして。

 私に向けて放つ言葉の裏に、誰にも見せない涙が滲んでいるような気がして。

 

 悠里くんと話していると自分が辛くなってくるように感じて、徐々に一緒にいる時間を減らしていった。

 

 別に悠里くんのことを嫌いになったわけではない。いや、嫌いになんてなれる筈がない。これは、ただ私が弱かったからだ。私が頼りなかったからだ。

 悠里くんの姿に心を痛めながらも、今までずっと一緒にいたんだから私にくらい本心を言ってくれてもいいのに、なんてことを思ってしまっていた。一番辛いのは悠里くんなのに、私は勝手に自分を傷つけていた。

 

 そんな日々が一年以上続いて、悠里くんと同じ高校への入学を果たした今日。

 奇跡なのか運命なのか、悠里くんと同じクラスになれた私は、久しぶりに目にした幼馴染の姿にまた心を痛めることになる。

 

『八束悠里です。よろしくお願いします』

 

 それだけ。

 一番最初のクラスのみんなに向けた自己紹介が、たったのそれだけ。

 

 ──どうして……? 

 

 それは、あまりに私が知っている悠里くんの姿とかけ離れていた。昔浮かべていた笑顔はどこにもない。楽しそうに言葉を紡いでいた唇が、同じように開かれることはない。

 

 もう強がることすらできないほど弱ってしまったんだと気付いた。私はいつも後から気付いてばっかりだった。

 

 休憩時間やお昼休みも何処かへ行ってしまい、誰かと話している様子はない。私の心の中を焦りだけが満たしていた。

 今の悠里くんをこのままにしちゃいけない。今度こそ私が悠里くんに寄り添ってあげるんだ。私はもう逃げない。だから──! 

 

「もしかして今から帰り? あの、もしよかったら一緒に帰らない……? ほ、ほら! 昔みたいに!」

 

 心臓がバクバクと煩い。今にも爆発しちゃいそうだ。

 私の言葉を聞いて、悠里くんの目が少し驚きで見開かれたように見えた。

 

 永遠にも感じる数瞬の中、悠里くんはその口を開いて──

 

「用事があるから」

 

 それだけ告げて、昇降口を出て行った。

 

 ぽつりとその場に残された私は、呆けながらその背中を見送ることしか出来ない。

 少し遅れて、心が一際大きくズキリと痛んだ。

 

 それは、拒絶されたからじゃない。

 それは、変わり果てた幼馴染を改めて間近で見たからじゃない。

 それは、一瞬交わった瞳の奥。

 

 

 

 悠里くんの目が、何の光も写していなかったからだった。

 

 

 





 息抜きなんで更新は不定期になります。御免ッ!
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