フラグは全て無視するッ!   作:ビタミンB

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アイテムにヒロイン避けのお守りとかないですか? ないですか。

 

 

 

 ハイ、ということでなんとか紬との再会イベントを切り抜けました。僕です。

 

 今回交わした言葉のキャッチボールの回数は二回。僕はたったの二手で逃げ将棋を制していた。あそこで一緒に帰ろうものなら次のイベントの布石になっていたに違いない。

 というかなんで紬は急に声掛けて来たんだ。なんもわからん (困惑)。

 

 不意打ちの出来事だったにも関わらずそこそこの切り抜け方をできたことに満足感を覚えなくもないが、僕の頭の中には一つ疑問が浮かんでいた。

 

 ──ゲームでこんなシーンなかったよな? 

 

 もうほんとなんもわからん (困惑)。

 そもそも、ゲームでは主人公と紬が疎遠気味って設定すらなかったように思う。

 

 何で疎遠だったんだっけ? と思い返してみれば、確か中学の頃に紬の方から僕を避け始めたような気がする。それまでよく登下校を共にしていたから、距離を空けられた時は多少驚いた記憶がある。あれか、思春期か。思春期だろうな。周りの多感な女子友達に揶揄われたりしたんだろうな。

 まぁ結果的にフラグが立ちづらい環境になったわけだから万々歳だ。全く、思春期は最高だぜ! 

 

 さっき僕は声のトーンを落としていたし、紬と目も合わせていない。お前ほんとに主人公かよと言われんばかりの所業だが、今後のことを考えるとアレは効果的な立ち振る舞いだったように思う。お前もそう思うだろ、ハム太郎。なぁ。

 

 そうこう考えながら帰路を辿っていると自宅に辿り着いた。

 玄関を開けて中に入ると、リビングの方からトットットッと軽快な足音が聞こえて来る。

 

「おかえり、兄さん」

「うん、ただいま」

 

 我が妹のお出迎えである。かわいいね。

 

 八束(やつか)莉緒(りお)。歳は僕の一つ下で今は中学三年生だ。華奢な体格に灰色のふわふわショートヘアー、整った顔と、紛うことなき美少女である。兄としてささやかな自慢だ。

 

「やっぱりいい感じだね、その制服」

「はいはい、朝も聞いたよ。で、どうだった? 新しいクラスは」

「知ってる子も何人かいるし大丈夫だよ。馴染めそう。それより兄さんはどうだったのさ。つむちゃんから聞いたよ? クラス同じだったんだってね」

「……耳が早いですね。まぁぼちぼちかな。強いて言えば新しい世界が広がった」

「ふふ、なにそれ」

 

 ニッと僕が笑うと莉緒も釣られて微笑を浮かべた。

 

 こうしてみると素直に育ったなぁ、なんて事を思う。別にワシが育てたってわけじゃないけど。

 

 僕ら兄妹には両親がいない。というのも、僕が中学二年、莉緒が中学一年の頃に事故死してしまったからだ。

 珍しく二人で旅行に行くなんて言い出すもんだから当時の僕は何事かと思っていたが、結果としてその後すぐに帰らぬ人になってしまった。トラックに突っ込まれてだいばくはつである。

 その事に対しては悲しみ、というより驚きの感情の方が強かったように思う。いまいち実感が湧かず、何故か心が平静で気味が悪かったのを覚えている。

 

 今思えばそれもこの時のための布石だったんですねって話になるんだけどね。あれはヒロインを家に連れ込みやすくするための環境作りだったわけだ。もちろん、ゲームの作中でも主人公には当然のように両親がいなかった。

 なんというか、人の命って軽いな、なんてことを漠然と思う。設定のために消えるんだもんね。罪深い文化だぜ、現世のゲームってやつは。

 

 そんな感じで僕は割とすぐに事実を受け入れて普段通りにしていたが、莉緒はかなりショックを受けているようだった。当たり前だね。

 当初はこのまま立ち直らなかったらどうしよう……と影ながら心配していたが、流石は出来た妹。なんとか受け入れて立ち直ってくれた。

 二人だけになってしまった家でこのまま生活を続けるか否かは話し合いになったが、結果として祖父や親戚からの助けを得てこのままになった。

 

 とまぁ、こんな感じの過去を経て今に至る。

 

 こうして振り返ると今までの人生全てが何かしら仕組まれたもので、偶然なんてものは一つもないんじゃないかと思えてくる。

 つまり僕が中学の頃に食らった嘘告白も今後明かされる重大な事実の伏線になってるかもしれないってことだ。いやー、味が出るな。物語に。ふざけんな。

 

「そうだ、夕御飯に何食べたいとかある?」

「う〜ん、何でもいいよ。兄さんが食べたいのでいい」

「ならカレーだ。決定」

「!」

「手伝いよろしく」

 

 困った時のカレー召喚。なんだかんだ莉緒の好物だからちょうどいいね。

 あからさまに喜ぶ姿を見て、またもや笑みが浮かんできた。自覚はなかったが、今日は気を張っていたようで案外疲れているらしい。今後学校では常にあんな感じになりそうだけど、この家でだけは気を抜くことができた。

 

 というのも、なんとこの『Loving Days.』。

 

 ──妹は攻略対象じゃないのであるッ……! 

 

 これに関してはにわかに信じ難いが、紛れもない事実である。実況動画のコメント欄やゲームそのもののレビューでもさんざん書き込まれていたことだ。

 こんなに整った容姿をしているのに、ゲーム内での妹の役割はあくまでお助け役というか、主人公と各ヒロインとのワンクッションになったり、セーブ画面やロード画面で立ち絵があったりするキャラなのだ。

 トドメだと言わんばかりにありがちな「実は義妹」という設定も存在しない。正真正銘ただの妹で、最後まで二人が結ばれることはなかった。

 

 で、当然のように創作界隈が盛り上がったわけである。

 そりゃそうだ。公式が需要をちらつかせてるのに供給しないんだから、勝手にプレイヤー側が攻略するしかない。結果的にその創作勢のおかげで『Loving Days.』の人気にさらに火がついたと言えた。

 

「じゃあ僕先に荷物置いてくるよ」

「はーい、準備してるね」

 

 まぁその辺の回想はまた後で適当にやろう。

 とりあえず僕は部屋に向かうことにしてリビングを出た。

 

 

 

 

 ○●○●

 

 

 

 

 兄さんが部屋を出て行くと、私は台所に向かって早速夕御飯の準備を始めた。

 

 この家で食卓にカレーが並ぶことは少なくない。単純に料理を私と兄さんの二人でやっているから手間がかからずに済むという理由もあるが、それとは別にもう一つ、優しい理由があった。

 

 ──ふふっ。兄さん、私の好物がカレーだって思ってるからなぁ。

 

 二年前。お父さんとお母さんが死んじゃった時、私は中々立ち直れずに落ち込んでいた。

 心が空っぽになってしまったみたいで、うまくご飯が喉を通らなかった。

 そんな時に兄さんが作ってくれたのがカレーだった。ご飯は少しぱさぱさしているし具の形もバラバラ。所々焦げが浮いていて少し苦味を感じる、そんなカレー。

 

 それでも、私にとっては人生で一番おいしいものだった。

 兄さんが私のために頑張って作ってくれた。慣れない料理で指に絆創膏を貼りながら、自分は落ち込む素振りを見せずに口籠もりながら励ましの声を掛けてくれる。

 それがすごく温かくて、嬉しくて。その日を境に私は立ち直ることができた。

 

 私は特別カレーが好きなわけじゃない。ただ兄さんが作るものが好きなだけだ。だって、温かいから。

 ……ちょっとブラコンっぽくて恥ずかしい。違う、私はそんなのじゃない。

 

 変な思考を追い出すようにかぶりを振りながら野菜を洗っていると、傍に置いておいたスマートフォンが震えた。

 

 ──なんだろ? 

 

 双葉紬『莉緒ちゃん! 明日の放課後とか時間ある?』

 

「つむちゃん?」

 

 

 

 

 ○●○●

 

 

 

 

 オッハー! (激寒)

 

 お昼です。

 

 昨日の件のせいか妙に紬から視線を感じた気がした午前を乗り切り、高校生活二日目の昼休みの時間です。

 手作りの弁当をスクールバッグから取り出すと、絶好のご飯スポットと僕の中で名高い外の非常階段へ向かうべく席を立つ。

 が、直後。目の前に突然金髪が現れた。

 

 ・なんだこいつは! ゆうりは どうする? 

 

 ⇨にげる! 

 

 はい、ってことで速攻で立ち去りましょうね〜。許してください、気付かなかったんです。僕は悪くない。

 

 ・だめだ! まわりこまれた! どうする? 

 

 ⇨どうすんのこれ。

 

「こんちには八束くん。自己紹介でも言ったけど篠宮星乃です! 一年間よろしくね!」

「あぁ、うん」

 

 普通に逃げられなかった。何この距離の詰め方。やばいね。

 

 とはいえ、いつか来るだろうとは何となく思っていた。この辺はゲームと変わらない、序盤によくある半強制イベントみたいなもんだ。

 昼休み開始直後に教室外ダッシュ決めようとしてるやつを捕まえるとは、中々やるな。流石パッケージのセンターを飾っているキャラだけはある。やめてほしい。

 

 こんなにあからさまに声をかけられたら注目の的になるだろと思ったが、周囲に目を配ると「あぁ、またか」みたいな目をして自分の時間に戻っていった。どゆこと? 

 

「他のみんなには昨日の休み時間に挨拶したんだよね。八束くんだけどこにも見当たらなかったから、それで。どこかでご飯食べてるの?」

「あぁ、うん」

「そうなんだ! いやー、広いよねこの学校。私も今度いろんな場所に行ってみようかな。絶好のスポット見つけたり! なんてね」

「あぁ、うん」

 

 完全に話半分だ。

 

 星乃の話を右から左へ聞き流しながら、改めて間近で見るとすごい髪色だよなぁ、なんて思う。

 

 星乃の髪は根本からしっかり金色で、教室の明かりを受けて輝いて見える。

 星乃だけじゃない。今までは違和感すら抱かなかったが、普通に考えてこの世界の髪色はおかしいのだ。

 教室内だけでもそこかしこに色付きの髪を生やした生徒が見える。紬だって水色だし、他にも茶髪だの銀髪だのがいる。風紀どうなってんだよ。

 そのカラフルさたるや、同じクラスにいるヒロインの白石舞の黒髪が珍しく感じるほどだ。

 

 まぁそう言う僕だって紺色みたいな色してるんだけどね。妹の莉緒だって両親はばっちり日本人なのに灰色だし。もうこの世界の遺伝子配合わっかんねぇな。

 

「そうだ、八束くんは部活とか入る? 部活動紹介はまだだけど、聞く話によると面白そうな部活が多そうで今から悩んでるんだよね」

「あぁ、うん」

 

 家のことがあるから部活には入りません (鉄の意思)。

 

 流石に部活動までは把握してないが、入ったら学校にいなきゃいけない時間が増えてしまう。僕にとって家だけが安置なのだ。気楽に接することができるのは妹だけと言っても過言じゃない。よって却下。強いて言うなら帰宅部志望です。

 

 そういえば星乃は女子バスケ部とかに入るんだっけか。『Loving Days.』には確か最初から対象ヒロインのルートを行くか途中から入るかで部活やその他の役職が変わるシステムがあったが、星乃は放置しているとバスケを始めたはずだ。一応活発キャラだからね、こいつはなんやかんや大体運動部に入る。

 

「ところでそのお弁当ってもしかして手作りだったりする?」

「あぁ、うん」

「やっぱり! 個性的な袋に入ってるからズバリ! って思ったんだよね。八束くんって料理できるんだ。親孝行さんだね〜。私も自分で作ってみようかなぁ」

「あぁ、うん──ッ!?」

 

 何回目かの適当な返事をしようとすると、突然体の内側がドクンと脈打った。心臓が急に暴れ出し、脳が警鐘を鳴らす。そして、最後に僕を襲ってきたのは激しい圧迫感だった。

 

 な……なにごと……ッ! くっ……敵襲! 敵襲ゥーッ!

 

 あまりに唐突な状況に混乱するが、なんとか冷静なろうと思考を落ち着ける。

 

 そして理解した。迫っていたのだ。ヤツが。

 

「八束くん? だ、大丈夫?」

「アァ、ウン……ウン……」

 

 ──ウ◯コが……! 出そうにございます……ッ! 

 

 嫌な汗が滲んでくる。強烈な腹痛をなんとか我慢しようと表情を引き締めた。だ、だめだ……キツい!

 な、なんでこんなタイミングでぽんぽんぺいんが……!? 意味わからん。僕が何したって言うんですか? 変なものでも食べたんですか? 救ってもらっていいですか? あぁダメだ、思考がまとまらない。

 

「ごめ……ッ、僕もう行くから」

 

 トイレに。このままでは人生終わってしまいます。

 

 なんとか耐えて教室を出る。直前に紬と目が合った気がしたが、正直余裕がなさ過ぎて気にしてられない。

 僕は覚束ない足取りで廊下を進み、トイレに駆け込んだ。

 

 そして十分後。

 なんとか自分の中の荒ぶる神を鎮めることができた僕は、ほっと一息ついていた。

 

 成りました。開通です。

 

 一時はどうなることかと思ったが、治ってしまえばこっちのもんだ。結果として星乃の拘束から逃げることができたしな。僕はピンチをチャンスに変えられる男なんだぜ。フフ、怖いか? 

 

 しかし、そこで僕は一つの過ちに気付いた。

 

 ──はい、弁当箱教室に忘れました。

 

 ここで教室に戻ったら星乃はまた絡みに来るだろう。つまり取りに戻るという選択肢はない。終わった。

 高校生活二日目、早くもトイレで昼飯抜きが確定した瞬間だった。うーん、やっぱ締まらないね。

 

 

 

 

 

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