デバフネイチャはキラキラが欲しい   作:ジェームズ・リッチマン

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追い込みへの手立て

 

 副会長さんに気に入られたのか目をつけられたのか。

 まあ悪い方に考えなければ多分そのまま気に入られたんだと思うけど、それにしては厳しすぎるシゴキを受けています。ナイスネイチャです。

 

「タイムが落ちているぞ!」

「む、無理ぃー……!」

「無理ではない! 貴様ならばできる!」

「いやもうほんとこれ以上は……! ダメージが長過ぎるタイプの駄目な筋肉痛がくるやつですって……!」

「そこまで喋れるなら問題あるまい! さあ、追い込みいくぞ!」

「ひぃー!」

 

 エアグルーヴさんの課す特訓は、とにかく走り込むというものだった。

 走って走って、限界近くまで走ってそこから更に速度を上げる特訓である。しかもラストにはエアグルーヴさん自ら追い込み役として迫ってくるので、プレッシャーが凄い。

 

「うわぁ来てる来てる……!」

「抜かされるなッ、速度を上げろ!」

「無理無理無理ですって! これ以上は本当に無理!」

「……っ……息が続くのに、速度は出ない……難しいところだな……!」

 

 もう二週間ほどこんなトレーニングに付き合ってもらっている。

 私も、まあ……その、こういう基礎トレーニングをやらなきゃいけないってことはわかってたし、とてもありがたい。

 ありがたいんだけど、私の現実に突き合わせてしまう申し訳無さも同じくらいあるわけで。

 

 私は良いトレーニングになるよ? なりますとも、ええ。副会長さんはこういうトレーニングの補助に慣れているのか、一人で色々講じるよりもとっても充実してますとも。

 でも、エアグルーヴさんの方には……何の益にもなっていないんだろうなと、思ってしまうのだ。

 

「……ナイスネイチャ。今更ではあるが……このトレーニング中、“いつもの走り”をしていないな?」

「え? まあはい、そりゃ、まあ」

 

 トレーニングに付き合ってくれてる相手を翻弄するなんてできるわけもないですし。

 

「そうか……であれば、一度レースでやるように走ってみろ。私は後ろから追い上げる。目標ペースは各区画で一定を目指すとしよう」

「? はあ、わかりました。お願いします」

 

 小休憩を挟んでから、再び走り込みの開始。

 けど今度はいつものように。レース中、副会長さんの脚を引っ張るようにやっていく。

 

「では、始め」

 

 走り出しはいつものように加速。エアグルーヴさんとの距離を自分から突き放す。

 さあ、いつもは作戦を練ってから試合に臨むものだけど、ここからはアドリブだらけだな。

 でも基本理念は変わらない。相手の嫌がることをするだけだ。

 

「副会長さん、ラップタイムは何秒でしたっけ」

「む……」

 

 前の方で相手に聞こえるか聞こえないかの問いかけ。

 それなりの速度を出しながら、トレーニングに関係のありそうな言葉で話しかける。自然とエアグルーヴさんは仕方なしに速度を上げ、私のわざと小さく絞った声が聞こえる位置まで急いでくれた。

 

「今までと、変わらないが」

「ああ、じゃあ速度落としたほうが良いですよね?」

「そうだろうか? このままでも、いや……」

 

 そこまできて、ようやく副会長さんも気付いたようだ。

 はいそうです、もう既に邪魔してます。息を切らせるように話しかけ続け、相手のコースを邪魔して前を塞ぐ。コツは速度の波の中で前を取ることと、相手に文字数の少ない質問ばかりを投げかけることだ。

 

「なるほど、な……!」

「グルーヴさんは、喋れないですか?」

「なに、私くらいならば、この程度」

「まあ、得手不得手はありますからね……」

「……言うじゃないか。だが、この程度なら……ッ!?」

 

 言葉数多く吐き出して、相手の肺が振り絞られたその瞬間を見破り、加速する。

 

「……!」

 

 深い息を入れようとした寸前での急加速に、背後から慌てた気配が漂ってくる。

 まだまだ。これくらいでは終わらせない。このペースを保ったまま、前を塞ぎ続けて……!

 

「ふッ……!」

「ってうわぁー」

 

 と思ったら即抜かれました。

 後少しで前を譲らないまま勝てるかなーと思ったら、まあ最後の最後のスパートでやられましたとさ。……うーん、駄目だな。やっぱり地力の差が違う……。

 

「はぁ、はぁ……ナイスネイチャ。今のは……そうだな。私も初めて経験する、貴様の走りだったが……」

「……ひょっとして、不愉快でしたか」

「いや。感銘を受けたよ。なるほど。これは確かに“素質”だな。ただ黙々と走らせるよりもずっと可能性を感じるのも無理はない」

「あはは……基礎を疎かにしちゃいけないっていうのは、わかってるんですけどね……」

 

 副会長さんは息を切らしながら、スポーツドリンクに口をつけた。これで今日は終わりなのだろう。私も今日はしんどかった……。

 

 ……コースの外側に、ちらほらと学園生の姿が見える。エアグルーヴさんが走っているからか、ここ数日で遠巻きに見ている人が増えたのだろうか。

 

「学園内にも」

 

 私の隣で、ぽつりとそう語り始めた。

 

「……貴様の走り方について、とやかく言う者はいるだろう。きっとゼロではない」

「まあ、少しは。そうですよねぇ」

「こうして練習中に私の姿を見せることで何か変わればとも思うが……結局の所、結果は貴様自身がレースでもぎ取っていかなければならないものだ。邪魔をするだけではなく、その邪魔によって結果を出すウマ娘なのだと、まずは学園内に理解を広め、証明してこい。……三勝クラスは、レベルも高いぞ」

 

 できるのか?

 エアグルーヴさんはそう言いたげにニヤリと微笑んで、汗を拭った。

 

「はあ、もう。やりますよ。やったりますよー、もう。ここまでたくさん面倒見てもらったら、負けられないなー……」

「追い込みに対する動きは、今ので掴めただろう。私がアドバイスするまでもなかったかもしれんが……」

「いやいやそんな! 大きなヒントをもらえました。……すごい感謝してます。ありがとうございます、副会長さん」

「ふ。こちらこそ、なかなか経験できないやり取りを学べた。実りはあったぞ? だから、あまり卑屈になるんじゃない」

 

 うわっぷ。

 ……顔に新品のタオルを投げ込まれた。

 

「トレーニングがしたい時はまた呼べ。こちらも生徒会とチームの活動で忙しいが……可能な限り、時間は作ってやる」

「……本当に、ありがとうございました」

「なに。後進の育成は女帝の責務だ」

 

 女帝エアグルーヴ。

 ……積み上げた実績とか、就いてる役職とかじゃなく。

 やっぱり凄いウマ娘なんだなと、私は再確認した。

 

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