デバフネイチャはキラキラが欲しい   作:ジェームズ・リッチマン

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恒星の如きキラキラ

 トレセン学園には授業がある。一般的な学園と比べて時間は短めだし、進級もそう難しいものではないけど、赤点なんて仕組みもちゃんと設定されている。

 私たちの本分はレースにある。が、学生の本懐というものも一応、ちゃんとあるわけでして。

 

「わけわかんないよー!」

 

 クラスの中ではこうして、テスト前に喚き始めるウマ娘も当然いるのだった。

 レースの才能と勉強の才能が一致するとは限らないからね。

 

「だから言ったじゃんテイオー。授業中にぼーっとしすぎだって」

「ううぅ……だってトレーニングの疲れで……」

「レースに力入れるのもわかるけどさぁー。さすがに授業中に寝続けるのもどうかと思いますよー? それじゃわかるものもわかんなくなるって」

 

 私は今、トウカイテイオーと喋っている。

 彼女とは次の若駒ステークスで戦う間柄だけど、普段の仲はそう悪くない。普通の友達として世間話をするくらいの関係だ。

 

「ネイチャは良いよね、頭良くてさ……普段からテストの点高いし」

「僻むな僻むな。ほらノート、見ておけばギリ明日までには間に合うんじゃない?」

「うわぁありがとうナイスネーチャン!」

「ナイスネイチャね」

 

 トウカイテイオーはなんというか、末っ子気質な感じがする子だ。

 甘え上手と言うべきかなんというか。頼まれるとついつい手を貸してあげたくなっちゃうんだよね。

 よく会長さんと一緒にいる姿を見かけるけど、あの人と並んでいるとまるで姉妹か親子のようにも見えてしまう。

 

 普段はそんな姿を見せているだけに、レースになった時のトウカイテイオーはまるで別人だ。

 

「うおおおっ! ここだぁっ!」

「無理ぃー!」

 

 午後の授業、クラスごとの体育枠として行われている合同練習にて。

 トウカイテイオーは自身の才能を遺憾なく発揮する。

 

 柔らかな体、しなやかな筋肉。走ることについて最高の性能を発揮する肉体は、まさしく走りの才能を体現していた。

 6人立てで行われるこの模擬レース、とはいえ手を抜いて走る者はいない。

 誰もが本気で駆け抜ける中で、トウカイテイオーはまさに抜きん出て速かった。

 

「へっへーん。どう? 900mだけどボクも結構速くなったでしょ」

「やるじゃんトウカイテイオー! さすがはターボのライバル!」

「ライバル? ボクと勝負するつもり? 負けないよ!」

 

 そう。天才という言葉を使うのであれば、トウカイテイオーはまさに天才だった。なにせ肉体のモノが違う。しかも本人にトレーニングの意欲があって走るのが楽しいときた。トドメにダンスや歌も上手い。嫉妬するのもバ鹿らしいくらいの完全無欠キラキラウマ娘だ。

 

「次、ナイスネイチャさんの番ですよ」

「おっと。うぃーっす、いきまーす」

 

 キラキラウマ娘はこの時点で既に色々なメディアに露出している。

 次の若駒ステークスの前評判でも話題はトウカイテイオーで持ちきりだ。私も多少は白星を重ねてきたけれど、それでも話題の全てはトウカイテイオーに掻っ攫われていた。まぁ、わかるけどね。あの子の走りは本当に美しいから。

 

「スタート!」

 

 意識外で告げられた開始の合図に、無意識下で準備していた脚が素早く動く。

 地面を蹴り込むよりも先に前に突き出した脚が重心を素早く手前に移動させ、誰よりも速いスタートへと踏み切らせる。

 

「はっ、はっ、はっ……!」

 

 距離は900。短距離だ。最初から最後まで全力を出しても問題ない距離。それだけに、駆け引きのしようもない。

 

 強いて言えば一つだけのコーナーでなんとか練習の成果を出せるかどうかってところか。それだって、手前の直線の終端で大体の格付けは終わっている。

 

「やった! 一着!」

 

 はい、これ私じゃないです。私の四つ前にいる子のセリフです。

 

「だっ、はぁ……! 無理無理……追いつけない……!」

 

 私は5着。手を抜いてると思うじゃん? 全力なんですよこれ。

 こんなもんなんですよ、私の実力なんてのは。

 

 ……いや、やろうと思えばそりゃできますよ? スタート前におしゃべりしたりだとか、揺さぶりかけたりとかは。

 でもさすがにここにいるのはクラスメイトだし? 模擬レースだし? そんなところでわざわざ手の内を晒した上で関係を悪くしちゃうのもどうかと思ったわけですよ。だから普通に走ったんですよ。

 まあもちろん、走りそのものは全力だったけど……はぁ。

 

「はいまた1着ー!」

「ぐぇ、ぐぇえ……ターボエンジンが……」

 

 私が現実に打ちのめされている間に、何故か二周目のレースを始めていたトウカイテイオーが再びゴールへとやってきた。

 そこそこ抜いて走っているんだろう。彼女は爽やかに汗をかいてはいても、息は荒れてはいなかった。

 ツインターボは……うん。お疲れ。

 

「ねえねえ、ナイスネイチャはどうだった? ボクは1着! 二回ともね!」

「ネイチャさんは5着ですよ。いやぁー……さすがトウカイテイオー、短い距離でも数バ身も差をつけるなんて、キラキラしてますなぁ」

「ふっふーん。ボクは次の若駒ステークスに出るからね! このくらいの距離はヨユーで2回分走れなくちゃ!」

 

 お、若駒ステークスの話か。やっぱり意識してくれてるのかな。

 

「そうだ。レースは来年だけどネイチャも見てくれる? ボクが1着取るところ!」

 

 ……ってオイオイ、テイオー。もしかして私が若駒ステークスに出るの知らないのか。知らない……んだろうなぁこの感じだと。

 まあ、出走登録は私が後だったから仕方ないんだろうけどさ……これはこれで眼中にない感が出てて、少し複雑だわ。

 

「……1着取るとこ、ね。いいじゃん、私もレース場に行くよ」

「ホントに!? テレビとかじゃなくて?」

「もちろん現地でね。他にも人はいるからテイオーが1着取れるとこを見れるかどうかはわからないけど……応援してるよ。テイオー」

「? ありがとう!」

 

 無邪気な笑顔。無邪気なお礼。

 

 ……ふぅー。

 

 なんだか私、やる気が出てきちゃったなぁ! 

 

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