デバフネイチャはキラキラが欲しい   作:ジェームズ・リッチマン

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ネイチャの追い立て・テイオーの追い込み

 

△ ⑦ ☆ ⑦ △ ナイスネイチャ △ ⑦ ▲ ⑦ △

 

 

 スタートは上々だ。

 テイオーはまんまとスタートダッシュに失敗し、冷静さを失った。

 

 思った通り、テイオーは搦め手に弱い。というか、あまり慣れてない。今も遅れを取り戻そうと足を早めているけど、そんな精神状態にこそ付け入る隙ができるのだ。

 

「おっと、内には入らせないよ……!」

「くっ……!」

 

 私がテイオーの一つ内枠であったことが幸いした。小細工をするならこれほど理想的なポジションもそうそう無いだろう。

 ペースの速い逃げウマ娘に並びつつも、テイオーの左前に陣取ったまま、位置関係をキープ。内に入れさせない。

 後続は大本命のテイオーが近くにいることもあってか、私が仕向けなくとも彼女に強烈なマークを張っている。ありがたいね。

 

 理想はこのままコーナーにもつれ込むまでテイオーを内に入れないこと。

 その流れで私はコーナリングを決めて、有利を稼ぐ。

 

 京都レース場の坂は私にとって得意要素だ。今のところ運は悪くない! 

 

「テイオー相手に、そのくらいのリードで平気かなっ……?」

「っ……! る、さいっ……!」

 

 テイオーを意識しつつ、並走する逃げウマ娘にささやきかける。

 元々ペースは良かったものの、焦ったのか少しだけ掛かった。距離が離される。

 

 私はそのままペースをわずかに落とし、後ろのテイオーと先行組二人の針路の邪魔をする。相手は主にテイオーだ。テイオーの内入りが防げるなら最悪もう一人はスルーでいい。

 

 テイオーは苦しいというよりは苦々しいという表情。苛立ってるね。他のウマ娘たちも内に入れさせるつもりはないようで、結局コーナーにまで横並びは続いていった。

 

 が。

 

「! ここっ、だぁっ!」

「うぇ」

 

 徹底したマークも完全ではない。他のウマ娘達の隙間を見つけたテイオーが、ここぞとばかりに前に出た! 

 軽やかな足取り。低く、大きなストライド。速い。内に入られる。

 そのままテイオーはコーナーに差し掛かり、3番目につけた。やばいやばい。

 

「あーあ、やっぱり今日も、テイオーが勝つのかなっ……!?」

「! また、喋って……!」

 

 私はコーナーの内側を柵ギリギリのとこまで寄せるように走り、どうにかテイオーに追従する。他の先行組や差し組も位置的に離れてはいない。声は届く。

 

「なんてねっ……テイオーの無敗を終わらせるのは、この私だよっ!」

「……!」

 

 テイオーを睨み、寄せる。コーナーの内外差と私の全力でどうにかテイオーに並べているが、逆に言うとこれだけやって並べるだけ。本格的に才能の差を感じる。これじゃ直線勝負になったら勝ち目がない。どうにかしなきゃ。

 

 けど私の挑発と眼光にテイオーも焦ったようで、意固地になってペースを上げた。言い方は悪いけど結構チョロい。負けず嫌いなところは怖くもあるけど扱い易くもあるな。

 

 さてここからだ。

 向こう正面の直線に入ると私は息を入れるように速度を落とし、テイオーの横から離脱。代わりに後ろのウマ娘達に仕掛けることにした。

 

「皐月賞への切符、ここ以外だとキツそうだねッ……」

「はっ、はっ……!」

「けどテイオーなら、大差勝ちしそうだし……私らには、無理かな……っ」

「負け……るかぁっ!」

「させないっ……!」

 

 ささやく。煽る。急かす。

 若駒ステークスに出るウマ娘はみんな皐月賞を意識してる。

 テイオーとの実力差は当然わかっているだろう。けど、それでも彼女たちの諦めきれない気持ちだって大きいに違いない。

 

「くっ……!?」

 

 先頭の逃げウマ娘を捉えたテイオーが、私によって掛かったウマ娘たちに追われ、焦る。続けざまのスパートや追い越しはキツいだろう。

 散発的に追いたてる相手に、苦戦しているのがわかる。

 

 テイオーにスタミナはない。多分私よりも。それは肉体面で私が唯一優っている部分だ。

 若駒ステークスは距離2000。中距離。テイオーの得意なところだけど……それだって、テイオーは最初から最後まで全力疾走できるわけじゃないんだ。テイオーを疲れさせてやれば、勝機は見えてくるはず! 

 

「絶対負けないんだからっ……!」

 

 テイオーが他の娘に先頭を譲った。が、その子も無茶な加速でヘロヘロだ。きっと最後までは持たないだろう。それでもテイオーの走りを塞ぐことができれば紛れはあるかもしれない。みんなもそこに賭けているように思えた。その心理は利用できるか。

 

 テイオーは三番手。私はその少し後方で五番。

 全体に団子状態。誰が勝ってもおかしくない状況だ。

 しかし最後のコーナーに差し掛かると団子もひとまず崩され、隙が生じる。

 

 テイオーはここで仕掛けるだろう。崩れた団子の狭間を狙って抜け出し、一気に先頭へ躍り出るはず。そうなれば終わりだ。

 彼女が疲れ切っているかと思えば、現状そうでもない。バテは期待できない。自分の手札と勝ち筋が刻一刻と目減りする。

 

 だから。

 

 私は、仕掛けることにした。

 

 

 

◎ ⑧ ◎ ⑧ ◎ トウカイテイオー ◎ ⑧ ◎ ⑧ ◎

 

 

 なんて走り辛いレースなんだ。

 スタートした直後からそう思っていた。

 

 良馬場の2000ならいつも通りだと思ってた。けど全然違う。まるでいつものレースとは別。未知の戦いだった。

 原因はわかってる。ナイスネイチャだ。ナイスネイチャは常に誰かに喋りかけ、コースを塞ぎ、牽制し続けている。それが多分、レースを滅茶苦茶にしているんだ。

 

 コーナーもうまく曲がれないし追い抜いた後も何故か後ろから無茶な追い越しを仕掛けてくる。変なのがネイチャだけかと思えば、ネイチャのせいで他のみんなまで変になってるみたい。おかげでこっちは脚を溜める暇もない。荒れたレースだ。

 

 けど、それでもここまでボクは前をキープできた。

 本当はもう少し手前で先頭に出るつもりだったけど、このコーナーは仕掛けるチャンス。前は二人だけ。やりようはいくらでもある。ここから前に出て直線で一気に抜ければ、ボクの勝ちだ。

 

 無敗の三冠ウマ娘になる。他のみんなも必死だけど、ボクだって同じだ。

 負けるもんか。

 

 バテた逃げの子がヨレて、コースが生まれた。ここだっ! 

 

 踏み込むチャンス! 今……! 

 

「駄目だテイオー! まだ仕掛けるなッ!」

「!?」

 

 聞こえたのは、後ろ。歓声の中に紛れたカイチョーの切迫した声。

 

 どういうこと!? ここじゃない!? 何かの罠……!? 

 

「そこで仕掛けたらッ……私が勝てないからさぁッ!」

「……!」

 

 低かった声色が、その途中で甘やかに変わる。

 声の主人はすぐ後ろにいた。それは今まさに、真横に並んでいる。

 

 鋭い眼差し。悪そうな笑み。

 

 ナイスネイチャだ。

 

 ネイチャが……! 声真似で、騙したのか! このボクを! 

 

「くっ……!」

 

 コーナー終わり。あとは直線。なのに、今の一瞬で目の前にあったコースが塞がった! 横にずれようにも、そこはネイチャにがっしりマークされている……まずい、このままじゃ抜け出せない! 

 塞いだ前も沈んできてる。垂れてきたら防ぎようがない。スパートもできなくなる……! 

 

「皐月賞の切符、私が貰うよ、テイオー……!」

 

 ああ、すごいな。まんまとしてやられた。

 カイチョーから言われてたのにな。自分の走りをしろって。こういう事だったんだな……。

 

「あ、あれっ!? そんなに沈む……」

 

 脚を緩める。塞がれたインコースを諦め、大げさに脚を溜める。

 急激な減速にネイチャのマークも外れた。

 

 ……油断してないはずだったけど、認めるよ。ボクは油断してた。

 色々やられたし手のひらの上で転がされたことも、恥ずかしいけど認める。

 

 でもね。でもね、ナイスネイチャ。

 

「それでも勝つのは……ボクだぁっ!」

 

 直線から大外に回って、加速する! 

 最初からこうすれば良かったかもしれない。誰も邪魔しない外側につけて、自分の走りを貫く! これなら誰にも止められることはない! 

 

「さ、さすがにそれは無理ぃー!」

 

 ナイスネイチャを抜かす。逃げウマ娘を抜かす。最後で頑張っていた先行ウマ娘も追い越す。

 軽やかに、速やかに。誰も邪魔しない直線上で、一気に引き千切る! 

 

「やっ、たぁあああ!」

 

 そのままゴール! 

 終わってみれば1バ身のギリギリなところだったけど、どうにか最後に全員追い抜けた! 

 

「へへっ……ぶいっ!」

 

 大きな歓声が湧き上がる。みんながボクの勝利を祝福してくれている。

 見上げれば、ゴール前の二階席にカイチョーの姿が見えた。

 

 うんうん、そうだよね。やっぱりカイチョーはそこらへんにいるよね。へへへ。

 

「……もうっ! ネイチャ! カイチョー二階にいるじゃん! 何がコーナーの前なのさっ!」

「む、むりぃ……」

 

 結局ナイスネイチャは4着だった。

 最初から最後までレース全体を騒がせたくせに、終わってみればそんな順位。

 

 ……けど、久々にレースでヒヤっとしたのは事実。

 

 速いか遅いかでいうと遅いんだけど、ナイスネイチャ……ボクの記憶には、改めて深く残るウマ娘だった。

 

 

 

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