デバフネイチャはキラキラが欲しい   作:ジェームズ・リッチマン

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栄光へのダブルジェット

 

 私はとにかく、たくさんのレースに出ることにした。

 

 朝起きて牛乳飲んで朝食食べて牛乳飲んで体操してレースしてお昼ごはん食べて牛乳飲んでレースして晩ごはん食べて赤マムシドリンク飲んでレースしてシャワー浴びて寝るという毎日の始まりである。

 

『セーフクラウン逃げる! セーフクラウン逃げる! しかし伸びない! ナイスネイチャ抜いた! ナイスネイチャ先頭に立った! 一バ身……差をつけてゴール!』

 

 何度も何度もレースに挑む。今はまだ重要なのは経験を積むことだと割り切って、それでもひとつひとつを本気で走る。

 強い人もいれば弱い人もいる。ただ、やっぱりテイオーほどのキラキラウマ娘とは出会わない。当たって砕けろな気概で挑んだわりには、私はなかなか悪くない勝率で連戦を駆け抜けていた。

 

『一着はナイスネイチャ! なんとも荒れたレースになりましたが、最終的に一着をもぎ取ったのはやはりこのウマ娘だった! ナイスネイチャの出るレースは荒れる! そしてナイスネイチャは荒れたレースで勝つ! ターフに波乱を呼ぶこのウマ娘、果たして次のレースでは何が起こるのかー!?』

 

 ……で、まあ勝利した時のお客さんの反応はというと……歓声はそーでもないって感じですねぇ。

 実況の人も正統派のウマ娘を褒めるというよりは、こう……ヒール感のある奴が勝ったーみたいな盛り上げ方だし。

 いや、いいんですけどね。むしろ反響は思っていたより大人しいくらいだと思ってる。

 

 

「ナイスネイチャが勝ったか……」

「どうして審議も点かないんだ?」

「絶対に何かやってるのになぁ」

「あれは反則ってわけじゃないんだろ」

 

 多分、もっと人気のウマ娘が出てくれば変わってくるんだろうな。

 今はまだオープン以下のレースばかり。再び大舞台に立てば、お客さんの反応も変わるはず。当然、一緒に走るウマ娘の強さも……。

 

 まー、次の小目標は小倉記念。八月のレースだ。時間はたっぷりある。

 焦らず急がず、私なりの速さを求めていくとしよう。

 

 

 

「考えてみれば当然なんだけどさー、やっぱ他の子にマークされてると速さは出し辛いよね」

「そうですね。こちらの動きを意識されると、途端に走り難くなります。強敵が多いという意味では少々複雑ではありますが、レース当日の人気が低ければより動きやすいかと」

「上手い人はレース展開も上手いけどね。まあでもスルーされるって意味じゃプラスかー」

 

 我々チームカノープスは総勢二名。

 リーダーである私ナイスネイチャと、副リーダーのイクノディクタスだ。

 トレーニングを終えた後は部室に籠もって作戦会議やレース鑑賞をするのが通例である。

 色々なヒントを貰えるので結構ためになる時間だ。

 二人きりのチームは静かだけど、お互い気が合うので悪くない。

 

「私達のトレーニングも、二人じゃなくて三人とか四人とか……もうちょっと張り合いのある人数がいいよねぇ」

「一応、チラシは掲示していますが……効果はないようですね」

 

 けどたまには、新しい部員が入ったらなーって思うこともあるけどね。

 その方が場所とか機材の申請が通りやすいっていうし。

 

「欲しいなあ、新メンバー」

「欲しいですね、新メンバー」

 

 でも私の風評がこのザマじゃなぁ……。

 トレーナーだってついてないし、人数少なすぎだし。

 

「なーんて、こんなチームに入ってくれるようなおバ鹿なんて居ないかぁー……ハハッ……」

「たのもー!」

 

 その時、バーンと大きな音がして、入り口が開け放たれた。

 立っていたのは小柄なウマ娘、ツインターボ。

 

「……えっと?」

「ターボ、カノープスに入る!」

 

 ……。

 

 私とイクノは顔を見合わせ、頷いた。

 

「待ってたよツインターボ! いやー、カノープスに入るとはお目が高い!」

「素晴らしいご慧眼です。歓迎いたします」

「ふっふっふん。ターボが来たからにはもう安心! チームカノープスの伝説は今日から始まるっ!」

 

 特に何の前触れもなく、カノープスに頼もしい大型新人が加入したのであった。

 

 

 

 ツインターボは私のクラスメイトだ。

 だからよく知ってるし、話すことも結構ある。

 もちろん模擬レースだって一緒に何度か走ったことがある。

 彼女が得意とするのはマイルの逃げ。でもそんなこと関係なしに色々なレースに挑む。中距離でも長距離でもお構いなしだ。

 

 けどそれ以上に特徴的なのが、ツインターボはただの逃げではなく大逃げをするウマ娘だということ。

 彼女はペース配分というものを知らないのか覚える気が無いのか、とにかく最初から全力で走る。だから最初の方はまるでヤバい速さのウマ娘が現れたように見える。

 けど半分くらいを過ぎるとだいたいいつもスタミナ切れを起こし、ゴール前では長距離マラソンでもやってたのかってくらい、見る影もなくヘロヘロになっている。

 たまーにターボのペースに呑まれて一緒にヘロヘロになっているウマ娘もいるけど、なかなか悲惨な光景が作られる。でも傍から見ている分には面白い。

 

「ネイチャ、またテイオーと勝負するんでしょ?」

「え? うー、うん? どうかな」

 

 とりあえずお茶とお茶菓子を出して歓迎したところ、ターボはそんなことを訊ねてきた。

 確かに一度負けたけど、もう一度勝負してみたいとは思っている。けど誰にも言ってないし予定があるわけでもないんだけど……。

 

「じゃあターボと一緒! チームカノープス、みんなでテイオーにリベンジだー!」

「おー」

「おーってイクノ、まだテイオーと戦ってなくない?」

「これからレースがかちあう日は来るでしょう。それに、目標は高くて悪いことはありません。良いではありませんか。打倒トウカイテイオー」

 

 んー……まぁそうだけど……そうかも……。

 

「よーっし! それじゃあ早速トレーニングを……あれ? ねえねえネイチャ、カノープスのトレーナー今どこにいるの?」

「この前死んだよ」

「えぇええええっ!?」

 

 ハハッ、めっちゃ驚いてる。

 

「それ嘘ですよ」

「なんだ嘘かぁ……」

「トレーナーは最初からいないのです。私とナイスネイチャさんがトレーナー業を並行して行っているので、現時点では特に必要としていないという感じですね。とはいえ、効率が良いとも言えないのですが」

「まー、色々な申請は大丈夫だから。任せてもらえるなら私らでやっちゃうよー。二人も三人も変わらないしねー」

「そーなの? 良かったー! ターボそういうの全然わからないから!」

 

 胸を張って言うことではないけど、うんうん。素直なのはいいことだぞターボ君。

 

「打倒トウカイテイオーかー……」

 

 となると、私の大目標はトウカイテイオーに勝つってことになるのかしらねぇ。

 ……うーん。大きな目標だ。けど、夢は大きいほうがやる気になるね。

 

 


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