デバフネイチャはキラキラが欲しい   作:ジェームズ・リッチマン

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二人の小休憩

 

 筋トレした後は部屋付きのシャワーを軽く浴びて、それから食堂でご飯。

 ネイチャとはたまに学園の食堂で一緒になることもあるけど、他のカノープスのみんなとは珍しい気がする。

 

「今日ね、砂浜でたくさん走ってみたけどねぇ……ターボはダートでも走れそうな気がする!」

「なるほど、芝だけでなく柔らかなダートコースを併用することで身体への負担を極力抑えつつトレーニング量を増やすということですか」

「砂浜もいいけどねぇターボ。あまり傾斜のついたところで走ると変な癖がつくかもよー?」

「ええっ! そうなの!?」

「嘘だけど」

「嘘じゃん!」

 

 夕食は合宿初日ということもあってかちょっと豪華。

 海鮮と、小鉢がいっぱい。……けど、味がよくわかんない。

 

 ボクの隣の席ではナイスネイチャがチームのみんなと談笑している。

 いつものように。……ボクは平静を装うだけで精一杯なのに。

 

 ……もしかして、ボクをからかってただけ? 

 今回、その……変なことをするって、言っただけなのかな。

 

 ……ナイスネイチャだし、あり得る。

 

 考えすぎだ。もうやめよう。ボクらしくもない。

 

 

 

 その後、カノープスの皆は別室でチームのミーティングを始めた。

 これからのレースの予定、それに合わせた合宿中のトレーニングの打ち合わせ。あと注意事項とか、色々。

 さすがにその場にボクがいるわけにはいかなかったから、先に部屋に戻らせてもらった。他のチームがどんな作戦を立ててるのか、気にはなるけどねー。

 

 部屋の明かりもつけないままベッドの上にうつ伏せに倒れ込んで、スマホを見る。

 ……みんなからメッセージ来てる。向こうはどんな感じか? って。

 

 スピカのみんなに料理と海の画像を送ると、羨ましそうにされたり、スピカの合宿場は大丈夫なのかと面白半分な反応が返ってきた。うん、全然違うよね……。ボクはあの古い旅館もそんなに悪くないと思ってるけどさ。

 

 でも、なんだか新鮮だなぁ。ボク一人だけこうして遠くから近況報告するなんて。

 海外遠征してるスズカもこんな気持ちなのかな? 

 

「あっ、そうだ。カイチョーにも送らなきゃ」

 

 ふと、トレーナーの言ってたことを思い出す。

 カイチョーがボクのことを心配してたって。……うん。最近あまりカイチョーと話せてなかったけど……。

 

 避けてちゃダメだよね。それはボクの弱気の表れだ。

 ボクの怪我は治る。治す。そうして、菊花賞でも勝つ。

 その意気込みを、カイチョーにも見せてあげないと。

 

「わっ、カイチョー早っ!」

 

 スピカの皆にも送った画像をカイチョーにも送信すると、ほとんど合間を開けずに通話がかかってきた。

 

「もしもし……」

『やあ、テイオー。そっちはいい景色だな。……ん? 随分と部屋が暗いな。何も見えないぞ?』

「あはは……電気消してるし、毛布被ってるからじゃないかなぁ。うん、カノープスの皆は優しいし、快適だよ。他のチームの練習風景を見学するのも、悪くないしね」

 

 カイチョーはもう学園を出て、帰り道を歩いているみたい。

 生徒会って大変だなぁ。カイチョーと一緒にいるのは好きだけど、生徒会に入るのは面倒くさいや。……そもそもボクだと入れてもらえなさそうな気もするけど。

 

『それは良かった。他人の走りを観察すると普段一緒に走る相手とは違った感触を得られる。他山之石……とは少し意味も違うが、自分に無い技術を積極的に取り入れてこそ、己を磨く事に繋がるものだ。これは時間がいくらあっても足りないからね。テイオーもそちらでは、見学に尽力すると良い』

 

 ……気遣われてる、んだろうなぁ。

 学ぶことは沢山あるから。だから大丈夫。そう励ましてくれている。

 

 ……やっぱりカイチョーは優しいや。

 

「あ、あのね。カイチョー。その……」

『ん? なんだい、テイオー』

 

 お礼を言わなきゃ。それから、今までそっけなくしてたことも謝らないと。

 でも、いざこうして面と向かって言うとなると、ちょっと恥ずかしさが……。声も尻すぼみして、なかなか出てこない。

 

「あのね……ボク……」

『うん』

 

 優しげな声。急かさず、嫌な顔もせずにボクを待ってくれている。

 

「ボクねっ……」

「なーんでテイオー、私のベッドで寝転がってるのかなぁー?」

「んひぃっ!?」

 

 その時。ボクの尻尾がギュッと、遠慮なく握られた。

 

『テ、テイオー? どうしたんだ?』

「あ、や、その……」

「こっちは私のベッドなのにさぁ……毛布に頭突っ込んで、なのにお尻だけ外に突き出して……これってさ。“お願いします”ってことだよねぇ?」

「違っ……!」

 

 ナイスネイチャだ……! 

 ボクの尻尾を握ったまま、ボクに覆いかぶさって来て……! 

 

「もっとじわじわと困らせてあげるつもりだったのに……こんなに期待して待ち構えられたらさ……応えてあげたくなっちゃうじゃん」

「あっ、やっ、だめっ……カリカリしないで……!」

 

 尻尾の裏側を爪で優しくカリカリされる。むず痒くて、熱くて、声が抑えられない。

 

『な……ナイスネイチャの声が、聞こえたが……一体、何を……』

「ち、違うの。なんでもないから……!」

 

 カイチョーにバレちゃダメ。聞かれたらダメ……。

 ダメなのに……ネイチャの爪が、優しく、ボクの尻尾を……! 

 

「ほらほら、なに声抑えてるのー? テイオー、我慢しないで出しちゃって良いんだよー?」

「や、やだ……今はっ……!」

『何をされて……テイオー、大丈夫なのかっ? そこで一体、ナイスネイチャと……』

「だ、大丈夫だからっ……大丈夫なのっ。ネイチャは……」

「反応悪くてつまんないなぁ……いつまでも意地張ってないで、素直になりな……よっ!」

「ん、ぁあっ!?」

 

 根本から一気に擦られ……! やだ、それ、ゾワッとしちゃう……! 

 

『テイオー……!?』

 

 も、もうダメ。もう通話なんてできない。

 ネイチャに意地悪されたら、ボクはもう、ボクじゃなくなっちゃう……! 

 

「はっ、はぁっ……カイチョー……ごめんね……」

『な……!』

「通話、切るね……あ、やぁっ……!」

 

 ゾワゾワする感覚に耐えながらなんとか通話を切る。

 すると……ボクを抑えていたものが、一気に決壊したような気がした。

 

「ぁあっ……! ネイチャ、尻尾はダメだってば! そこ触られて良いウマ娘なんて、いないのに……!」

「ああ、良いなぁその声……それだよテイオー、その声を聞かせて欲しかったの」

 

 毛布を剥ぎ取られ、ネイチャが覆いかぶさってくる。

 

「恥ずかしそうにしながら、必死で抵抗する時のテイオーの声……私、すごい好き」

「……!」

 

 ボクの顔のすぐそばでネイチャが囁く。

 尻尾をやわやわと握ったまま、遊びながら。

 

「でも、テイオーも“これ”好きだもんね……? 私に尻尾をいじられて、意地悪されて、恥ずかしくされちゃうの。前に言ってたもんね……?」

 

 動けない。脚を動かせないとか、そういうのじゃなくて。

 ネイチャに抑えつけられた場所で、逃げ出せない……。

 

「世間では王子様だなんて言われてるトウカイテイオーが、私に意地悪されて嬉しそうにしてるなんて……みんな信じないだろうなぁ。ね、どうしよっか? 合宿中にインタビューで、テレビの前のみんなに教えてあげちゃおっか? テイオーはそういうウマ娘なんですって」

「や、やだっ!? ダメ! そんなの絶対ダメ!」

「カメラの前で私に尻尾をいじられながらね、テイオーが嬉しそうにしちゃうの。みんなびっくりするよね……?」

「やだ、やだぁ……!」

「そっか、嫌かー……」

 

 ああ、意地悪なこと言われて、尻尾を弄られてっ……! 

 もう、頭がどうにかなっちゃいそう……! 

 

「じゃあみんなには内緒にするからさぁ……私の前でだけ、たくさん見せてよ。テイオーのそういう姿」

「はぁ、はぁっ……ナイスネイチャの前で……?」

「そう。私にだけ。だったら良いよね? テイオー。良いって言って?」

「あ……」

 

 ネイチャにささやかれる。

 ボクに拒否権なんてないのわかってるくせに。頼むような口ぶりで。

 

 なにより、ボク自身も……。

 

「う、ん……良いよ……ネイチャに、だけなら……」

 

 認めてしまう。受け入れてしまう。

 変なことなのに。絶対、普通のことじゃないはずなのに。

 

「……あは。テイオーってやっぱりマゾってやつだ」

「ちが、そんな……!」

「違くないよ。ほらっ、こうしてちょっと握るだけで……!」

「いっ……!?」

「テイオー、すごく嬉しそうな顔してるもん」

「え……や、やだ。顔見ないで!」

 

 思わず顔を背けてしまう。上から抑えつけられてたら、そんなのほとんど無意味なのに。

 

「それに枕の上、テイオーの涎ですごい濡れてる。うわぁー、まだ一日も寝てないのに汚しちゃって……」

「う、うぅ……! こんなの、おかしいのに……!」

「良いじゃんおかしくても。私とテイオーだけの秘密なんだからさぁ……今日は二人で一緒に、おかしくなろ?」

「あ……」

 

 ネイチャの低くて甘いささやきが、思考力を溶かす。

 彼女に支配されて、いじめられたいと思ってしまう。

 

「う、うん……もっと……お願い……」

「……ふふ」

「もっと痛くていいから……ボクのこと、意地悪して……!」

「ああ、すごい。とっても良い顔だよ、テイオー……」

 

 もう後戻りはできない。

 

 

 

 




シンボリルドルフは「片頭痛」になってしまった。
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