デバフネイチャはキラキラが欲しい 作:ジェームズ・リッチマン
合宿中はほぼ一日中、トレーニングのことに時間を費やせる。
勉強も遊びも学校行事も気にしなくていい。私はもとより勉強とかを苦にするタイプではなかったけど、やっぱり集中できるってのは違うね。
何よりコースをチームがほぼ独占して使えるっていうのが大きい。トレセン学園もたくさんのコースがあるけど、色々なチームが使う分時間を長くは取れないから。
「はっ、はっ、はっ……」
ここは良い。時間帯にもよるけどほとんどまるごと私たちのものだ。
長距離に向けたフォームの見直し作業も周りを気にしなくて良いのはすごい助かる。
「……テイオー、見てるなぁ」
そうして走っていると、テイオーがこっちをじっと見ているのがわかる。
観察してる。ダンベルを持って筋トレもしてるけど、同じくらい私のフォームを研究しているのがわかる。
レースの時のような、ヒリついた目。負けず嫌いなテイオーの執念は、骨が折れてもまだまだ健在だ。
彼女は脚を溜めている。走れるようになった時が楽しみでもあるけど、いやぁ、怖いね。
才能にものを言わせるタイプが時間をかけてじっくりと復帰してくるなんて、悪役モブにとっては悪魔そのものですよ。
……まあ。
そんな悪役だからこそ、普通じゃない手で主人公を陥れたくなるんですけどね。
「いやー良いお湯だった。走り抜いた体にお湯が沁みますわー」
「お、お疲れ、ナイスネイチャ。ボクもシャワー浴びたから……」
「そうなんだ? 私達と一緒に浴場来ればよかったのに……」
「あはは……また今度ね!」
夜。部屋に戻ると、既にテイオーはラフな格好になっていた。
薄着になるとますます華奢さが際立つ子だ。こんな小柄な体のどこに、あれだけの速力を封じ込めているのか……。
それにしても、テイオーは私と一緒にお風呂入るの避けてるなぁ。
少しショックだよ。別に変な事はしないのに……他に誰かがいるならだけど。
「テイオーはトレーニング見てて暇じゃない? 結構長いし、大変でしょ」
「ううん、そんなことないよ。……あっ」
テイオーの座るベッドの隣に腰を下ろす。それだけ。なのにテイオーは一瞬、身を強ばらせた。
「……ライバルの走りを見て、それと一緒にボクならどう走るか……どうコースを取るか……そういうのを考えていると、時間ってあっという間に過ぎてくよ」
「へえ……イメージトレーニングってやつ?」
「うん。ターフの上にイメージのボクを走らせてね。スピカでもずっとやってたんだ。……考えてると、走りたくてうずうずするけどね」
「あー、だろうねえ。考えてるだけっていうのは辛そうだわ。暇なのとは別の意味で……」
どうせなら見るより走りたくなるのがウマ娘という生き物だ。
テイオーは走るの大好きなタイプだろうに。よくずっと我慢できてるよ。
「そ、それにさ……この合宿、ボク……楽しいと思ってるよ」
「……ん? どういう意味で?」
「だから……ほら。ネイチャと一緒の部屋だし。退屈とかしないし……」
「へえ……」
少しだけ身を寄せて足同士を触れさせると、テイオーはぴくりと反応する。
横顔を見れば、彼女は既にあの時のような……しおらしい表情を見せている。
「テイオー、私と遊ぶの好きになっちゃったんだ?」
「んっ……!」
そっと尻尾に触れ、優しく撫でる。
暴れようとはしないし、嫌だとも言わない。黙って受け入れるだけ。
「私もね。テイオーとこうやって遊ぶの好き。トレーニングの疲れが吹き飛んで、なんか調子が良くなるくらい」
「……どうして、ボクの尻尾触ってそうなるの……」
「んー、尻尾じゃなくても良いんだけどね。テイオーがそういう顔とか、そういう反応をしてくれるなら良いっていうだけだし」
「ふっ、ううっ……!」
テイオーの尻尾の裏側はじっとりと汗ばんでいる。
軽く爪を立てて掻いてあげると、テイオーの身体は面白いくらい素直に反応する。
「あっ、やめ……ネイチャ、くすぐったいよ……!」
ああ、楽しいなぁ。本当に楽しい。
テイオーはどこまで染まってくれるんだろう。
どれだけ私に支配されてくれるんだろう。
……もっと試してみたいな。テイオーで、いろいろなことを。
「ねえ、テイオー……テイオーの尻尾さぁ。私にちょうだい?」
「はぁ、は……えっ、えっ!? だ、だめだよそんな、痛そう……」
「あはは、取らなくてもいいって。ただ……私が“出して”って言った時、私の手に尻尾を差し出してくれればそれで良いの」
「……尻尾を、差し出す……?」
「うん」
私は手のひらを差し出して見せた。
「いつでもどこでも、私が“出して”って言ったらテイオーは尻尾を出して、私に触らせるの。自分から差し出して、私にいじめられちゃうの……ね、良いでしょ?」
「そ、そんなの……そんなのおかしいよ……」
「良いじゃん。ほら、テイオーこれ嫌いじゃないんでしょ?」
「あっ、ああっ……!」
他人に尻尾を触られるのは耐え難いむず痒さがある。
なのにテイオーは私にそれをされると、嬉しそうな顔をしてしまう。
わかってるんだよ、テイオーの気持ち。
「ほらテイオー。尻尾私にちょうだい? 良いよね?」
「だめ、だめだよぉ……!」
「はいっ。手はここだよ。おいで、テイオー」
「……」
触るのをやめて、ベッドの上に手を置いた。
するとテイオーはもじもじと私の手を見て、しばらく葛藤する様に小さく唸り……。
……やがておずおずと、自分の尻尾を私の手のひらの上に差し出した。
「……今日からテイオーの尻尾は、私のだね?」
「う、ううっ……変だよ、変なのに……!」
「ありがとね、テイオー。テイオーの尻尾、これからずっと大事に可愛がってあげるからね……」
「ぁあ……!」
耳元に囁きかけながら、尻尾を優しく撫でる。
「……でもテイオーは優しくされるより、少し乱暴にされる方が好みかなぁ……? ねえ、どう思う?」
「い、ぎっ……! そ、そんな握り方したら、ダメ……!」
「ああ、その顔良いね……やっぱり優しくするのやめよっか……こっちのが良いもんね……」
刺激に耐えられずベッドに倒れるテイオーに、なんとも言えない気持ちが湧き上がってくる。
もっともっとテイオーをぐしゃぐしゃにして、折り目をつけてあげよう。
いつでもどこでも私の声ひとつで、また折れてぐしゃぐしゃになってしまうほど、取り返しのつかない痕をつけてあげよう。私に負ける癖をつけてあげよう。
そうすればきっとテイオーは、ターフでも同じようになっちゃうよね。
テイオーが何をどうしたって、私に勝てなくなる。
「ほら、テイオー。そのままだとまた枕がよだれでビショビショになっちゃうでしょ?」
「はぁ、はぁ……ふえ……?」
既に汗ばんで目も虚ろなテイオーに、一枚のタオルを投げ付ける。
「ほら、私のタオル。それ、顔の下に敷いててね」
「こ……これ、敷いて……どうするつもり……?」
「テイオーのこといじめてあげるの。ほら」
「あ……!」
テイオーの手首をリボンで縛る。
赤と緑の私色のリボン。その気になれば口を使って簡単に解ける蝶々結び。
「嫌だったらいつでも抜け出せるからね、テイオー。そのリボンを解いたら、今日は終わりにしてあげるから」
「……!」
「なのに……あは……テイオー、そのまま何もしないんだ……」
手首を束縛されているというのに、テイオーはベッドに転がったまま動こうとしない。
ただ恐れるような、縋るような……求めるような潤んだ瞳で、私のことを見つめるだけ。
……そんなに期待されちゃったら、ねえ?
「だったらテイオーのお願い、叶えてあげる」
「んぅっ!?」
テイオーの体に乗り、尻尾を掴む。後ろからテイオーのうなじに顔をよせ、優しく歯を立てる。
「あ、あ……! 噛ま、ないでぇ……」
「テイオーの匂いがする……ねえテイオー、そのタオルはどう? 私の匂いがするでしょ」
「ね、ネイチャの匂いっ……? あ……ああっ!」
「そのタオル、テイオーの唾液でベトベトにして良いからね? 私の匂いとテイオーの匂いを混ぜたらどうなるのか……ちょっと興味あるでしょ?」
「変っ……へ、変だよぉ……! こんなの、おかしくなっちゃう……!」
「あー良い顔……ねえテイオー、その顔撮って良い? 保存したいなぁ……」
「駄目、駄目ぇ……」
「そっかー……じゃあ保存しなくても覚えられるくらい、今日はその顔見させてもらうから……!」
タオルに顔を埋めるテイオーの曇った声と、嗅ぎ慣れない他人の唾液の匂い。
熱い体温と、触れ合うお互いの汗。
私は今夜もテイオーと同じベッドで寝て、彼女をたっぷり虐めて、愉しんだ。