デバフネイチャはキラキラが欲しい   作:ジェームズ・リッチマン

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ロイヤルビタージュースを飲み干して

 

 夏。それは夏バテの季節。

 ついつい暑さで食事が億劫になり、栄養バランスも崩れがちになる季節だ。

 

「にがっ……うぇ……」

 

 そんな夏のある日。

 最近流行っているらしい青汁を飲んでみたら、想像以上に不味かった。

 

「トレセン学園特製の新製品らしいので、効果は間違いないそうですが……味の方は不評らしいですね。僕は青汁といえばこういう味のイメージだったのであまり違和感は無いんですけど」

 

 持ってきてくれたトレーナーに罪はない。不味いって噂は前から聞いてたしね。

 けど青汁なんて美味しいものしかないじゃん? ケールも大麦若葉も不味いと思った事はそんなにないよ私は。

 けどこの青汁の不味さは隔絶してますわ。何をどうしたらこんなに不味くできるんですかねぇ。

 

「無理に飲む必要はないので、要らなければ残りは返品してきますが……」

「いや、飲むよ。体に良いのは間違いないからねぇ……不味いけど」

 

 いやほんとやる気下がるくらい不味いんだけど、これしきのことで体づくりを妥協したくはない。飲むと言ったら飲む。

 最強ムテキのネイチャさんにかかればメンタルだって調整利かせてやれますよ……へへ……。

 

「さすがです、ナイスネイチャさん。これからは一日一杯、カノープスにおける常飲ドリンクとしてキープしておきましょう」

 

 ちなみに真っ先に飲んだのはイクノディクタスだ。

 体調管理に関しては一家言ある彼女なので、飲む時もメガネの奥が全反射で見えなくなるだけで済んでいた。

 不味いものは不味いけど、それを受け入れる度量が彼女にはあるのだ。

 

「さて、ターボさん」

「嫌だ!」

「往生してください」

 

 そしてここに一人、そんな度量を持ってない子が一人います。

 カノープスの元気担当、ツインターボさんです。

 

 イクノディクタスに羽交締めにされ、目の前のテーブルには一口だけ唇をつけただけのほぼ完全に残ってる青汁が。

 

「覚悟決めなよ、ツインターボ」

「だって不味いんだもん!」

「良薬は口に苦しです。一息に飲み干せば問題ありませんよ」

「トレーナー助けて! イクノとネイチャがいじめるぅ!」

「ははは……」

 

 トレーナーも苦笑するだけである。この部室に今、ツインターボの味方はいなかった。

 

「まぁそんなに飲みたくないならいいけど……」

「ほんと!?」

「けどテイオーだったらそれ、普通に全部飲んじゃうと思うよ? 勝つためだったらあいつ、それくらいの事するだろうねー」

「うッ」

 

 テイオーを引き合いに出してやると、ツインターボは少し後ろめたさそうな顔をした。

 

「テイオー呆れちゃうよー? “ボクのライバルならこれくらいは出来ないと同じ土俵には立たないもんにぇー”って」

「あ、今の似てましたね」

「ぐあー! 飲むよぉ! 飲んでやるよぉー! 飲んでトウカイテイオーを倒してやるんだぁー!」

 

 おっ、一気に行った。よしよしそのまま飲み干してしまえ。

 途中で止めると苦味とえぐみでしんどいからねー。

 

「ぐぇほげほげほ! ぐあー! 不味ぃいい!」

「もう一杯いっとく?」

「やだぁ!」

 

 ちなみにここまで煽っといてなんだけど、トウカイテイオーはこんな不味い飲み物は飲みません。

 甘党だからね。

 

 ……いや。でもどうなんだろう? 

 今のトウカイテイオーは私以上に身体作りに配慮してるだろうし、案外苦いのを堪えて飲むのかもしれない。

 

 泣きそうな顔をしながらも飲んだりするのかな? 

 

 ……ちょっと見てみたいかも。

 

 

 

「はい、テイオー」

「……なにそれ、ネイチャ」

 

 放課後、資料室でレースの本を読んでいたトウカイテイオーを見つけた私は、例のロイヤルビタージュースを手渡した。

 

「今学園で(悪い意味で)評判の青汁だよ。トレセン学園開発で、効果は普通の青汁の数倍なんだってさー」

「……知ってる。すごく不味いんでしょ。わざと飲ませようとしてるよねぇそれ?」

「ちぇっ、なんだ知ってたのか……」

 

 意識外からの苦味で悶絶する顔が見たかったのに、残念……。

 

「あ、あのぉ……ここは飲食禁止なので……ごめんなさい……」

「え? あ、すいませーん」

 

 と思ったら図書委員の子に怒られちゃいました。

 そういえば飲み物ダメだったね、うっかり。

 

 

 

 トウカイテイオーは読書も一区切りついていたらしいので、今日はもう一緒に帰ることにした。

 ついでに学園裏の花壇でも眺めようかと誘って、一緒に歩く。

 

 近づく夕暮れ。誰もいない裏庭。

 

「はい、じゃあこれ飲んで?」

「うわー! やっぱり! 絶対そうくると思った!」

 

 というわけでトウカイテイオーのロイヤルビタージュース、再チャレンジです。

 

「えー? 嫌なのー? テイオー」

「嫌に決まってるじゃん! なんでボクに飲ませようとするのさ!」

「ツインターボが飲んだのに飲めないの?」

「……関係ないじゃん!」

「えー、ターボかわいそー……ターボはトウカイテイオーなら飲むって思ったから、苦手なこれを飲み切ったのに……」

「ボク良く知らないけどさぁ。それも多分、ネイチャが焚き付けたんでしょ?」

「えっ? すごい、良くわかったね」

「ほらぁ!」

 

 他人を引き合いに出せばあらゆる人にこの青汁を飲ませることができるかもしれないと思ったけど、そう上手くはいかないか……。

 でもテイオー、私は諦めないよ。

 

「これを飲めば、テイオーの怪我の治りが早くなるかはあれだけど……間違いなく良い方向には向くだろうと思ったんだけどな……」

「うっ……」

「飲んでくれないのかぁ、テイオー……そっか……」

「……わかったよぉ」

 

 そういうと、トウカイテイオーはロイヤルビタージュースを受け取った。

 手に取ったらもうこっちのもの。まだ気の進まない顔をしてるけど、あと一押し。

 

「ちゃんと全部飲んでくれるんだ?」

「う……まぁ、それは……飲むからには……」

「じゃあゆっくり味わって飲んでくれる?」

「なんでぇ!?」

「その時のテイオーの顔、じっくり見てたいから」

「……意地悪」

 

 むすっとした顔のテイオー。

 でも、彼女の目が少しだけ、この状況を愉しんでいるようにも見えた。

 

「じゃあ、飲むから……」

「うん。一口ずつ飲んで」

「……うっ……」

 

 早速一口飲んでみて、テイオーが顔を顰めた。

 

「ほら、口離しちゃダメでしょ?」

「う……げほっ……苦いよ、これ……」

「私からのプレゼントなんだから。私の愛情だと思ってさ。ちゃんとじっくり味わってよ」

「……」

 

 ああ、飲んでる。少しずつ、一口ずつ喉を鳴らして。

 目に涙を浮かべながら、縋るように私を見つめて、トウカイテイオーがロイヤルビタージュースを飲んでいる。

 

「ほら、もう一口。まだ飲み込まないで、口に入れて……」

 

 すっごく不味いのにわざわざ口の中で転がして、その度にまた泣きそうになりながら……。

 

 うわぁ、良いなぁテイオー……。

 私のお願いだけで、そんな不味い物を味わって飲んじゃうんだね……。

 

「えほっえほっ! うぅ……まずいぃ……けど、飲んだよ、全部……」

 

 楽しい時間はあっという間に終わってしまう。

 テイオーにとっては短くなかっただろうけど、私にとってはすぐだった。惜しいなぁ。

 テイオーが涙をポロッと零すとこまで見たかったのに……。

 

「ひどいよ、ネイチャ……こんなの……」

「ふふ、ごめんねテイオー。でも良く全部飲めたよ。偉い偉い」

「……当たり前じゃん。ボクは、無敵のトウカイテイオーだもん……」

 

 そうだね。無敵のトウカイテイオー様はこんなこと楽勝だもんね。

 

「また今度、面白い飲み物あったら飲ませてあげるからね」

「うう……! せめて、体に良いやつだけにしてくれる……!?」

「はいはい」

 

 それでも嫌とは言わないあたり、本当に負けず嫌いなんだなって思った。

 

 

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