デバフネイチャはキラキラが欲しい   作:ジェームズ・リッチマン

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デバフネイチャはキラキラが欲しい

 ボクにとってナイスネイチャは、ただ同じクラスっていうだけの友達でしかなかった。

 同じ学年で、クラスで、寮で。だから話すっていうだけの、そういう関係でしかなかったんだ。

 

 何故なら彼女の走りは決して速くはなくて、その時のボクにとって、レースは速さの戦いでしかなかったから。

 

 そんな思い込みは若駒ステークスでナイスネイチャと一緒に走った時に覆されて。

 彼女の走りが持つ、あまりにも強い執念と熱意に、ちょっとだけ惹かれるようになってしまった。

 

 レースを走るために頑張る子は多い。いや、いくらでもいる。

 けど、走って勝つために文字通り“なんだってする”子は、ボクにとって初めてだった。

 

 ナイスネイチャは勝つためならなんだってやる。

 ルールの範囲でなら他人の邪魔も、翻弄することも……ボクにも、どんなことだって……。

 

 決して速いわけじゃないウマ娘が、ボクの背後に迫っている。

 常にボクを追い越そうと、本気の闘志を燃やしている。ボクの首に噛み付いて、ボクを組み伏せようとしている。

 

 ボクは、ナイスネイチャのそんな、勝負にかける溢れるほどの熱意が……好きなんだ。

 

 

 

「中継で見てたよ! 最初はレースがどうなるかと思ってハラハラしてさ……」

「うんうん! 私も見てた!」

「最後に一気に追い抜き返していったのすごかった! おめでとう、ナイスネイチャ!」

「いやー、あはは。ありがとみんな。まさか私がG1取っちゃうなんてねぇ……」

 

 菊花賞に勝ったナイスネイチャは、学園内では相変わらず人気者だ。

 学園では意地悪な雰囲気を抑えているけど、時々漏れる彼女の悪戯な仕草に夢中になってしまう子も多いんだって。

 ボクにもファンは多いけど、ナイスネイチャに近づくのはどっちかというとシリウスシンボリとか、そういう感じのファンに近い気がする。

 

 G1レースを勝ったおかげか学園の外でもファンが増えてるみたいで、ネットでは菊花賞の荒れた様子を詳しく検証したりする人も多くて盛り上がってるみたい。

 そんな調子でナイスネイチャが意地悪なだけじゃなくて、レースが上手なウマ娘なんだっていうことも広まっていけば、ボクとしても嬉しいかな。

 

 ま、それでもボクの方が強いんだけどね! 

 

「あ、テイオー。昨日返し忘れてたこれ、返しちゃうね」

「ん? 何?」

 

 ナイスネイチャが会話の輪から抜け出して、カバンを持ってボクにちかづいてくる。そして……。

 

「んっ……!?」

 

 誰も見ていない一瞬の隙を突いて、ボクの尻尾をするりと撫でてきた。

 ……声が、漏れそうだった。危ない……。

 

「見過ぎ、テイオー」

「う……そんなこと……」

「我慢できないなら、教室でもしてあげよっか……?」

 

 ……! ほ、本当にネイチャは意地悪になっちゃった。

 ボクのことをいつもからかって、翻弄して……。

 

「冗談だって。私もバレたくないしさ。あはは」

 

 ……彼女は菊花賞だけで満足したわけじゃない。

 次はまた別のレースで、今度はボクを倒そうと、新しい作戦を練っている。

 こうしてボクに意地悪なことをしてゆさぶっているのも、そのせいだ。

 

 ボクを、本気で……突き崩そうとしてくる。

 その熱すぎる想いにボクはいつも、やられそうになっている。

 

 ……でも、負けない。ボクはネイチャに勝ち続けてやる。

 

 だからやめないで、ナイスネイチャ。

 ……ボクのことを、これからも……。

 

「はい、席について! ホームルームを始めますよ!」

 

 って、うわ。もうこんな時間だ。

 

「またね」

「うん」

 

 ナイスネイチャとやり取りをしていると、すぐに時間が過ぎていく気がする。

 ……菊花賞のタイムが乱れたのも、こういうのがあったりするのかなぁ? 

 タイムを乱さないようにするトレーニングとかも、これから始めた方が良いのかも……。

 

 

 

「えー、まずはお知らせからです。生徒会から上申された企画として、今までと全く異なる新しい形のレースが試験的に開催される運びとなりました。そのことについて、説明しますね」

 

 ん? 新しいレース? 

 それに生徒会って、カイチョーが何か考えたのかな? 

 

「新しいレースってなんだろ?」

「トゥインクルシリーズとは違うのかな?」

「こら、静かに! ……これはトゥインクルシリーズとは別ですが、かつてURAが検討していたレースでもあります。日本のレースは基本的にそれぞれが1着を目指す個人技であるのに対し、海外における複数人でチームを組んで“チームの勝利”を目指すレース……この海外のレース形式を試験的に取り入れてみようというのが、今回の企画の目的、だそうです」

 

 チームのレース……? 

 

「その名も“チャンピオンズミーティング”! このレースでは参加するウマ娘は今いるチームとは別に三人一組の新たなチームを作り、チームでの勝利を目指します! 仮にチーム内の一人が最下位だとしても、チーム内の誰かが1着を取ればそれは勝利というわけです。皆さんには少々馴染みのないルールだと思いますが、URAはこういった新たなレース形態の導入に乗り気だそうですよ」

 

 チャンピオンズ、ミーティング……。

 三人一組。新たなチーム。それに、チーム内の誰かが勝てばいい。

 複雑だ。面白そうだけど、すごい難しそう。クラス内のみんなも考え込んだり、ざわついている。

 カイチョーがこんなレースを考えてたなんて……。

 

「……へー、楽しそうなレース」

 

 騒めく教室の中で、ナイスネイチャが不敵に笑った。

 思わず誰もが彼女の方を見てしまう。

 

「チーム内の誰かが勝てば、チームの勝利か。ふーん……なんだか色々、面白そうな作戦が立てられそうじゃない?」

 

 ……ああ、一対一なら。ボクも勝てると思ってる。

 でも、もしも勝たなきゃいけない相手が複数いて、ナイスネイチャが“自分一人の勝利を捨てても良い”とした上で作戦を立ててきたら……。

 

 ……そんなレースでボクは、彼女のチームに勝てるんだろうか? 

 

 クラスのみんなはきっと同じことを考え、戦慄している。

 楽しそうに微笑んでいるのはナイスネイチャただ一人だけ。

 

「トゥインクルシリーズも頑張るのは当然だけど。チャンピオンズミーティングも……結構、興味出てきちゃったなぁ」

 

 ……新しい形のチームレース。

 

 それはボクたちにとって、とんでもない波乱の幕開けになるのかもしれない。

 

 ナイスネイチャの眼は、妖しくキラキラと輝いていた。

 

 

 




おわり
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