デバフネイチャはキラキラが欲しい   作:ジェームズ・リッチマン

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新衣装ネイチャ実装記念


番外編:誰と一緒かは予約済み

 

 怪我の治ったトウカイテイオーは、リハビリではない本格的なトレーニングを再開した。

 菊花賞を見送って無念だろうけど、テイオーはテイオーで新たな目標を見定めていかなきゃいけないんだ。

 

 テイオーは長距離を逃したことに悔いがあるのか、次の大目標を天皇賞春に定めているみたい。

 長くても走れたんだってことを皆に証明したいんだろう。律儀なやっちゃで……。

 それはそれとして、実際テイオーとはいえ長距離はどうなんだろうって気もしてるけど。最後までスピード保ったまま走れるのかねえ。

 

 と、いうのがトゥインクルシリーズの話。

 

 競走ウマ娘にとっての晴れ舞台は確かにトゥインクルシリーズではあるけど、私たちはそれ以外にもレースの場を与えられているし、そういう戦場でも本気で望まなくちゃいけない。

 

 ついこの間発表されたチャンピオンズミーティングなんかがまさにそれだ。

 三人一組で走る特殊なチームレース。自分だけではなくチームの勝利のために走らなきゃいけないから、普通のレースとは大分勝手が違ってくるらしい。

 まずは何よりも一緒に組む相手を先に考えなきゃいけないのだ。

 

 誰と一緒に走ろうかなぁ。

 悪名高い私と組んでくれるかなぁと少しだけ悩んでいたんだけども。

 

「ナイスネイチャ! あのさ……私と一緒にチャンピオンズミーティング走ってくれない?」

「ねえお願い! ナイスネイチャがいれば私も上手く走れる気がするの!」

「並走してくれるだけでもいいから……」

「ごめんね、迷惑だったかな。迷惑だよね……いきなり、私なんかが……」

 

 私の思いに反して、めっちゃお誘いがたくさん来てくれました。

 ……なるほど。チームメンバーとしては力を発揮しそうだからってことか。お目が高いというか、私が思ってた以上にみんな目敏いなというか。

 菊花賞も勝っちゃったしなぁ私。もう普通のよわよわウマ娘とは誰も思ってくれないか。もっと油断してて欲しいもんだけど。

 

 けど、うん。

 実はもう既に先約がいたりするんだよね。

 

「あはは、ごめんねぇ。もう私チーム組む相手決めちゃってるから……」

「あ、そうだったんだ……」

「じゃあ仕方ないね」

「ねえ、同じチームの相手って……誰? 教えて欲しいな。……もしかして、トウカイテイオー?」

 

 まあトウカイテイオーとは仲良いからそう思われるかもしれないけど、違うんですわこれが。

 

 

 

「ちょっとネイチャ! もうチーム組んだってどういうこと!?」

 

 私が寮の自室で髪を結んでいると、いきなりトウカイテイオーがずかずかと上がり込んできた。

 慣れない髪型にしてるんだから集中させてよもう。

 

「チャンピオンズミーティングの話を聞いたその日のお昼には誘われてたんだよ。一応その時は保留にしてたけど、話がまとまったから“じゃあよろしくお願いしまーす”ってことにしたわけ」

「ボクも誘ってたのにぃ……!」

 

 そう、実はトウカイテイオーからのお誘いもあった。

 あったんだけど、トウカイテイオーと組むのは無しにした。トウカイテイオーの走りは知ってるから相性は良いと思うし、単純に速い人が居てくれたら有利だから最後の最後まで悩んではいたんだけどね。

 

「まぁまぁ立ち話もなんだし、座りなさいよ」

「ちゃんと聞かせてよね!」

「はいはい」

 

 同室のマーベラスサンデーはチームレースのメンバーと一緒にトレーニングに出ているらしい。

 マーベラスサンデーのチームメイトはマヤノトップガンとマチカネフクキタルだ。今日のトレーニングのためにどこかの山だか海だかに行っているそうだけど、詳しく聞いたはずなのに何をやろうとしているのかが全くわからないので謎である。外泊許可を取って三日間出かけるらしいけど本当に何をするつもりなんだろう……。

 

「……あれ、ネイチャその髪……」

「あーうん。たまにはちょっと変えてみようかなって。まぁ別に誰かに見せるわけじゃないけど、ほら、私も外で目立つのちょっとアレになってきたじゃん」

「菊花賞勝ったもんね……ってことはそれ、変装のつもり?」

「まあねー。変じゃない?」

「ううん、全然。とっても似合ってる」

「へへへ、どもども……」

 

 本当は誰にも見せたくなかったんだけどね、このポニーテール。

 いつもと違うとなんかほら、やっぱ恥ずいし。

 けどテイオーはからかってる風でもないし、まあ、変じゃないなら良かったよ。

 

「……それで、ネイチャは誰と組んだのさ」

「ああその話ね」

「同じチームの子じゃないよね?」

「うん。私が組んだのはセイウンスカイとエアシャカールさんだよ」

「……?」

 

 ほらやっぱ不思議そうな顔してる。

 名前は知っててもなんでその人たち? って思うよね。私もこの話されるまでほとんど接点は無かったし気持ちはわかる。

 

 セイウンスカイは外で猫と遊んでる時にたまに一緒にいたりするくらいだし、エアシャカールさんに至ってはこの前までヤバいことしてる不良ウマ娘だと思ってたもん。でも話してみると普通に良い人でびっくりした。

 

「二人とも結構理詰めで走るタイプでねー、なんていうかこう、私とタイプが似てるっていうのかな?」

「あー、そういう……?」

「このメンバーでやれるとこまでやってみるのも面白いんじゃない? ってことで結成したわけなんですよ」

「……なんかバンド結成のノリみたいだね」

「正直なんとなくわかる」

 

 せっかくチームで組んで走るんだから、自分の持ち味を活かせる走りをしてみたい。

 私にとって重要なのは走っている最中でも考えられる思考力だ。

 セイウンスカイとエアシャカールさんとなら、そういう持ち味を活かせるのでは。そう思って、私も決断したわけですな。

 まあ、物凄く速い子を勝たせるために走ってみるのも悪くはないと思ってたんだけど。

 

 どうせなら面白いレースにしたいじゃない? 

 誘惑には勝てませんでしたわ。

 

「そっかぁ、決まってたのかぁ……」

「あ、なーにテイオー。もしかして私と一緒のチームになれなくて嫉妬してる?」

「や、別に、そういうわけじゃ……」

 

 テイオーの髪を撫で、纏められた髪を軽く掴む。

 こうするとそっぽ向こうとしても抵抗できない。テイオーの恥ずかしそうな顔が良く見えた。

 

「でもよく考えてみてよ、テイオー。私と一緒のチームだとさぁ……私に意地悪されないんだよ?」

「そ……それなら、無い方が良いじゃんか……」

「えー? テイオー意地悪されるの嫌いになっちゃった?」

「や、違くて……そうじゃないけどぉ……」

 

 最近、テイオーは優しく髪を引っ張られるのにも抵抗が無くなってきた。本当になんていうか……テイオーって、私を愉しませてくれるんだよね。

 

「はい、終わり」

「……え!?」

 

 けど、そういうことばかりしてもいられない。

 息抜きは努力の合間にするから良いのであって、そればっかりだとだらけちゃうから。

 

「私はこれから色々お勉強しなきゃいけないんだから、今日はもうダメ。もっと時間取れる時のが良いでしょ? テイオーも」

「……むう、わかったよ」

「だからはい、これ」

「? なにこれ、温泉……?」

 

 私は机の引き出しから一枚のチケットを取り出して、テイオーに渡した。

 

「最近までずっと忘れてたんだけど、夏の終わり頃かな? 会長さんに温泉旅行一泊二日のペアチケットを貰ってたのよ。落ち着いたら仲のいいテイオーと一緒にどうかってさ。慰安旅行の下見ってことらしいよ」

「カイチョーが? へー、そうなんだ……温泉旅行……」

「二人で予定合わせてさ、一緒に行こうよ。そこでならきっと……二人でゆっくりできるよ?」

「!」

 

 何を想像したのか、テイオーの顔が真っ赤に染まる。

 ……当日になって何をするかは……お楽しみ。

 

「あ、空いてる日は後でメッセージで伝えるからっ……! じゃあねっ!」

 

 あらあら行っちゃった。……でもきっと、そう遠くない日取りで決まりそうな気がするね。

 トウカイテイオーとの温泉旅行。ちょっと、いや、結構楽しみだ。

 

 ……そういえば温泉券もらった時に会長さんから“形式上、旅館での出来事についてはしっかりレポートとしてまとめて報告するように”って言われてたっけ。

 遊んでるだけじゃなくて、こういう下見もちゃんとやらなきゃいけないんだなぁ。生徒会も大変そう。

 

 

 


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