テンよし、中よし、終いよし   作:三木彬

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新たな怪物

大井からやってきた稀代のアイドルウマ娘

“怪物ちゃん”ことハイセイコー

 

地方出身ながら中央のライバルを次々と破っていくその姿に人々は大熱狂。それまでアングラなイメージが付き纏っていたウマ娘のレースだったが、彼女の走りがメディアに取り上げられると一転して一般大衆にも浸透し、第一次ウマ娘ブームと呼ばれる社会現象を巻き起こした。

その人気っぷりは止まることを知らず、ファンレターの送り先に

『東京 ハイセイコー様』

と書けば彼女のいる府中のトレセン学園に届いたという逸話が残るほどである。

 

 

しかし人気絶頂な彼女も今年からトゥインクル・シリーズからドリームトロフィーリーグ(DTL)へと移籍する事となった。

その知らせを聞き、ファンたちは当然喜んだ。DTLにはセントライトや、クリフジ、ハクチカラなど、URA黎明期を支えたレジェンド達が所属しており新世代の怪物が彼ら相手にどのようなレースをするのか楽しみなのである。

 

 

そう、楽しみなのだが、やはり誰もが心の中でスターの卒業に、少し寂しさを感じていた。

 

『もうあんなに凄いウマ娘は現れないんじゃないか』『もうあんな熱いレースは見れないかもしれない』『声を枯らしてまで応援するほど夢中になれるウマ娘は現れるのか』

 

そう誰もが思っていたに違いない。あの興奮を知るが故の諦観である。

スーパースターが沸騰させたトゥインクル・シリーズは余熱を残しながらも少しずつ確実に冷めていったのである。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「いよいよ本番ですねトレーナー。どうです?勝利後インタビューの台詞は考えて来ましたか?」

「・・・・・・」

「ちょっと?」

「あぁ、すまない、少し考えごとをね」

「気が緩んでますね。まったく度し難い。担当ウマ娘の一生に一度の晴れ舞台だというのに、他のことにうつつを抜かすなんて。ほら、この美人でグランマスな担当ウマ娘に何かないんです?」

「その調子なら大丈夫そうだな。よし、勝ってこい」

「えぇ〜、もうちょっと無いんですか。語彙力無いんですか?」

 

周囲の張り詰めた空気とは裏腹に、軽口を叩きながら歩くウマ娘。

身にまとうのは黄色と紫を基調とし、各所にスイスの伝統的な意匠を施したドレス。顔はさる事ながらその体つきも大変よろしく、何か危険な香りでも出てるのかと疑うばかりに艶やかな肉体を持っている。

彼女が首を少し振ればその烏羽色の髪が靡く。その絵をモデルに絵でも書けば10世紀は語り継がれる名画となるだろう。

 

「ほらこれぐらい言えないんですか?私とはもう2年近くの付き合いなんですから」

「そんなに流暢に自画自賛の詩は書けないね。いつもの事ながら脱帽するしかないよ」

「なに、簡単な事ですよ。事実を言うだけです」

「うわぁ・・・平常運転すぎて気が抜けそうだ」

「なんでそんなに引かれるのかいつも疑問なんですけど。まぁでもそうですね。普段通りなら勝てる相手です。えぇ、じゃあ、勝ってきます。十馬身にも収まらない大差で、勝ってきますとも」

 

ウィンクを一つ決めるとそのままくるりと体を反転させ、ターフへとつながる道を歩いていった。

大差勝ちの宣言。ハタから見れば不遜に写るかもしれない。しかし彼女の瞳に油断は無い。あるのは絶対的な自信のみ。

足取りは軽く、まったく緊張を感じさせないものだった。

がしかし、その背中からは確かな気迫と闘志が溢れていた。

 

 

 

1975年 4月6日

トリプルティアラ 第一戦 阪神 桜花賞 1600m

 

 

それは事件だった。

 

《十分貯金を溜め込んで、十分貯金を溜め込んで、先頭が今第四コーナーをカーブしました!》

 

最後の直線。群衆は先頭のウマ娘の勝ちを確信し、歓喜の声を上げる。

 

『先頭独走か、グングングングンと差が開く!》

 

残り200メートル地点。しかし群衆の歓喜の声は徐々に慄きへと変わる。

 

《後ろからは何も来ない》

 

八馬身

 

《後ろからは何にも来ない!》

 

九馬身

 

《後ろからはなぁんにも来ないっ!!》

 

十馬身

 

実況は三度叫ぶ。

その広がり続ける差にそれしか言うことが出来なかった。

 

 

《これは強いこれは強い!黄色の勝負服ただ一人っグングンゴールに向かうっ!!7番の()()()()()()、大楽勝だ!!!》

 

 

掲示板にはレコードタイム、着差は桜花賞史上過去最大となる大差の文字。

群衆は歓喜やら恐怖やら多幸感やら様々な思いを爆発させ、雄叫びのような歓声を上げた。

 

 

八大競走の大舞台で産み出された、マイル戦での大差勝ち。

 

この空前絶後の勝ち方に阪神レース場は、いやトゥインクルシリーズは再び熱狂することとなる。

新たなる怪物(テスコガビー)の誕生に人々はどこまでも夢を見るのである。

 




と、言うわけでトップバッターはテスコガビーを始めとしたクラシック75年世代です。当面はこの世代を中心に書いて行く予定です(まあ世代と言っておきながら中心的に書くのはテスコガビー含めて二人になりそうですが)

さて1975年、昭和50年と言えば何が思い浮かびますか?私はまだ生まれてなかったので試しに調べて見ると、アニメ『フランダースの犬』放送開始だとか、『およげ!たいやきくん』がブレイクしたそうで。

調べた事で一層遠く離れた物の様に感じました。そんな昔から競馬界を支え、今に伝えてくれる関係者様や諸先輩方には頭が上がりません。本当にありがとうございます。

今後とも競馬界に課金して参りますので、何卒、何卒、ほんとたまにでいいので、万馬券をくだ(殴
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