テンよし、中よし、終いよし 作:三木彬
書き溜めなんて物は私の辞書には存在しない
(意訳:行き当たりばったりで書いてますので不定期更新となりますがお付き合いいただけると幸いです)
なのでガビーちゃんが、当初の予定より二割増でクソ野郎になってしまいました。思ってたのと違う!てなったら申し訳ないです
1973年4月
世間では大井の怪物ハイセイコーが弥生賞とスプリングステークスを勝利し、クラシック三冠初戦の皐月賞への出走権を勝ち取って話題になっていた頃。
府中トレセン学園の校門の前に立っているウマ娘がいた。左耳にはピンクと緑のリボンをつけ、桜吹雪に烏羽色の髪をなびかせる。身長173cmというモデル体型も相まって、憎たらしいほど絵になっていた。
眼を瞑ればいつでも思い出せる憧れの舞台。幼き日に見たあのレース、そしてあのステージはテスコガビーの心を掴んで離さなかった。いつしか私もそこで輝くんだ、と両親に宣言し来る日も来る日もトレーニングに励んだ。春も、夏も、秋も、冬も、風が吹く日も、雨の降る日も、雪が降ろうとも、恋焦がれた景色を目指し走り続けた。
そして今日。
「・・・ついに来ましたね、この日が」
見続けた夢は明確な目標へと成った。後は進むだけ。
テスコガビーは夢への第一歩を力強く踏み出したのだった。
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しかし、テスコガビーの学園生活は最初からつまずく事となった。正確には始まる前からだが。
「度し難い、あ”ぁぁぁ度し難い!なんでこの私が栗東寮に入れないんですかねぇ!?神様私何か悪いことしましたか?!そんなバチ当たりな事はしてないと思うんですけどねぇ!?」
バチ当たりなのはその傲慢さだろうに、とツッコむ者が誰もいないのが彼女の一番の不幸である。
さて、なぜテスコガビーがこんなに激おこプンプン丸なのか順を追って説明しよう。
まず、彼女の言う栗東寮が何なのかと言えばトレセン学園敷地内にあるウマ娘専用の寮の事である。トレセン学園には全国から優秀なウマ娘が集まる。そうなると当然実家から通うのが不可能な者も出てくる。そんな彼女たちに用意された寮、それこそが栗東寮なのだ。
ウマ娘専用寮だけあって設備はあらゆる面でウマ娘ファーストとなっている。
部屋は空調設備が整っており、夏場でも快適に過ごせる、風呂場に行けば耳や尻尾用のシャンプーやリンスが置かれているし、最新のマッサージ機器が揃っている、などなど。レースに打ち込むのに最適な環境が用意されているのだ。
しかし近年、日本経済の成長は著しく裕福な家庭も増えてきた。今まで貴重な労働力だったウマ娘をトレセン学園に通わせる事ができる家庭が増えてきたのだ。
その結果、栗東寮だけでは全生徒を受け入れる事が出来なくなってしまったのだ。一応2年ほど前から新しい寮を建てる計画は進んでいるものの、まだ完成はしておらず、苦肉の策として学園近くにあるアパート数棟をURAと学園が丸々借りて生徒にはそこに住んでもらう形をとっている。
そしてこの住む寮については完全なくじ引きとなっており、当たれば栗東外せば外部となっているのだが、まあ端的に言えば、テスコガビーは外したのである。
さてさて、カンカンに怒っていたテスコガビーにあてがわれたのはトレセン学園から歩いて20分程度の三階建ての物件。そこの2階の角部屋だ。トレセン学園よりも東京レース場に近い謎立地のアパートである。
(まさかここまでオンボロとは・・・天下のトレセン学園もこの程度ですか・・・はぁ)
やはりと言うか元々民間用に建てられたアパートなので、オンボロというのは流石に言い過ぎだが、設備は圧倒的に栗東寮に劣る。
まず部屋の前に着くと出迎えてくれるのは洗濯機。まるでシーサーの如く鎮座するこいつは、最近流行りの二層式ではなく一世代前の一層式である。
扉を開ければ外観通りの狭い玄関がお出迎え。すれ違うのにも苦労しそうな廊下兼台所の先には六畳あるかないかの狭い部屋が見えてくる。元々一人暮らしを想定して作られていたのかとにかく部屋が狭く圧迫感がある。
床は畳で申し訳程度に設置されたちゃぶ台がなんとも言えない哀愁を誘っている。押し入れを開ければ布団セットが二人分。カビが生えていないのが救いだ。
そういえば、廊下に扉があったなと開いてみれば体感2畳程度のユニットバス。当然湯船は狭く足を伸ばす事は不可能だろう。
「どうだ?良い部屋だろう?前に住んでた子達が大事に使ってくれたから結構綺麗なんだ」
「ええまあはい、ソウデスネ、ソウオモイマス」
完全に目が死んでいるテスコガビーの横で自慢げに語る管理人のウマ娘は愛おしそうに壁を撫でているが、テスコガビーはそれを右耳から左耳へ流しつつ
(管理人さん痩せてますね、もしかして給料安いんでしょうか、まぁこんなボロアパートしか用意できないトレセン学園が出す給料なんて猫の額よりも少ないんでしょうね、ええそうに決まってます)
となんともバチ当たりで腐りきった失礼極まりない思考回路を展開していた。
その後管理人のウマ娘から住む上での注意事項を適当に聞き流したテスコガビーは、管理人を見送ったあととりあえず荷解きを始めた。
が、やはりというか。
「あー実家帰りたい。あのフカフカのベットが恋しいです、暖炉付きの広いリビングに3Cすべてが揃った完璧な空間。それに比べてなんなんですかここは。黄ばんだ壁紙に時代遅れの畳、ガタガタゆれるちゃぶ台、ベッドじゃなくて布団(中略)大体何なんですか運営は無能なんですか?入学希望のウマ娘が増えるなんて猿でもわかるでしょうになんでもっと早い段階で寮の増設やら拡張を(ry
愚痴が止まらない止まらない。まさしく立板に水である。
テスコガビーの名誉の為に言っておくと、彼女の父は貿易商、母はイギリスの名家出身のエリートウマ娘という結構なブルジョワ家庭に産まれた彼女は、当然平均水準を軽く上回る生活してきたのだ。そんな彼女が果たしてこのギャップに耐えられるだろうか?想像に難くない。
そんなこんなで黄ばんだ壁に愚痴千本ノックをかましながらなんとか荷物の整理が終わったのは2時間後だった。
さてさてこれからどうしましょうかかと畳に寝転ぶと、急に甲高い音が部屋に響いた。聞き慣れない音に思わず身を硬直させたテスコガビーだが、すぐにそれが来客を告げるチャイムであると気づくとすぐに腰を上げ扉の方へ向かっていった。
「よう、さっきぶりだなテスコガビー」
「ああどうも、管理人さんでしたか。何の御用でしょうか?」
「ああ、プレゼントが二つほどあってな。まずはこれだ」
そういうと管理人は足元にあった箱を細い腕で掴むと、それをそのままテスコガビーに差し出した。
「これは・・・ラジオですか?」
「そうとも。以前より生徒間でこのアパートには娯楽が少ないという意見が多数あってな。一階にある共用スペースに一応カラーテレビがあるんだが、逆に言うとそれしか無かったんだ。流石にそれは可哀想だと思い、何年か前から学園に掛け合っていたら、今年一部屋に一つずつ配られる事になったんだ。新品でけっこう良い値段するから、未来の後輩たちのためにも大事に使えよ?」
箱に書いてある型番を見るにどうやら旧式ではなくちゃんとした現行モデルのラジオらしい。
(これを各部屋に配るとは、トレセン学園もなかなかやりますね)
テスコガビーの中での学園の評価が上がった。現金なヤツである。
「ありがとうございます。大切に使わせてもらいます。それで、もう一つのプレゼントと言うのは?」
「まあそう焦るなよ。でもそうだな、おそらくそのラジオよりも貴重なプレゼントだと思うぞ」
「・・・まさかカラーテレビ?」
「違う」
「メルセデス?」
「違う」
「クーラー?」
「今の即物的なお前に一番必要な物だな」
「裏をかいて小切手とかどうでしょう?」
「話聴いてたか?」
冗談ですよ半分は、とテスコガビーが笑うと管理人は何とも味のある顔になったかと思えば大きくため息をついた。
呆れた様子の管理人が扉の陰に視線をやると、一呼吸おいて扉の陰から学園の制服を着たウマ娘が現れた。赤褐色の髪に後方にきゅと絞られた耳。切長の目からは発せられる視線は鋭くテスコガビーを射抜いている。
が、それよりもテスコガビーが気になったのはその身長である。テスコガビーは大柄だが、それを差し引いても彼女は小さいように思える。体つきも貧相で叩いたら簡単に折れてしまいそうな華奢な雰囲気を出している。着ている制服は真新しいのでおそらく新入生なのだろう。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
(しかしなんなんでしょうかこのウマ娘は。さっきからじっと黙ってこちらを見ているだけです。確実に初対面のはずなのに何故かこちらにガンをとばしてやがります。メンチ切ってないでとっとと自己紹介の一つでもしたらどうなのでしょうか。
まあでも仕方がないですね。ここは寛大な私が一つ譲歩してあげましょう)
と、テスコガビーは心に折り合いをつけて相手に歩み寄る事にした。
「すいません、お名前はなんと言うんですか?」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
おおっと、いけない。
相手に名を尋ねるときはまず自分からですもんね。
「失礼しました。私はテスコガビーです。よろしくお願いしますね。それで貴方のお名前は?」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
あれ、聞こえなかったんでしょうか?
それとも無視ですか?
この私を?
そうだとしたら良い度胸ですねぇ。
「ええと、貴方のお名前は?」
「・・・・・・・・・・・・カブラヤオー」
「カブラヤオーさんですか。よろしくお願いします」
「・・・」
・・・うーん、なんでしょうこのジメジメした暗い感じ。
無性に腹がたってきました。
でも大丈夫。
私は気品溢れるウマ娘。
この程度の苛立ちは表に出さずに見せますとも。
「新入生ですよね?私もなんですよ」
「・・・」
大丈夫、私は気品溢れるウマ娘
「目標にしてるレースとかあります?やっぱりダービーですか?それとも有馬とか、天皇賞だったり?」
「・・・」
私は、きひんあふれるうまむすめ
「得意な事とかあったりします?これだけは誰にも負けないぞーみたいな。あ、私料理とか結構得意なんですよ!何か食べたい物あったら言って下さい!必ず胃袋掴んで見せますとも」
「・・・」
ワタシ、ハ、キヒンアフレル、ウマ、ムスメ
「・・・えぇ〜とぉ、ご出身はどこですかね?私は北の方なんですよ。えぇ雪とか降るとすごい大変で〜」
「・・・」
気品、キひん、キヒン、貴ひん、木品、気ひん、き貧
・・・っは?!
危ない危ない。我慢の限界で人格が歪む所でした。清廉潔白で気品溢れる私が歪むなどあってはならない事ですからね。
でもこれ以上こんなジメジメ野郎に付き合ってはいられません。テキトーに握手でもしてこんな不毛な時間を終わらせましょう
「・・・とにかく!ヨロシク、オネガイ、シマス!」
怒りを押し留めていた理性がもう限界だと叫んだ結果。握手に持ち込んで強引に話を切るのが最善だと判断したテスコガビーは右手をカブラヤオーの方へと伸ばした。
刹那
「触らないでっ!!」
バチィーンッ!!!
府中の住宅街の一角でとてつもない破裂音が響きわたった。
「・・・・・・ぁ」
「・・・は?」
何が起きたか分からないが、テスコガビーの脳は状況を冷静に確認していく。
弾かれた右手は紅葉の如く朱を帯びている。
目の前には右手を振り抜いたウマ娘。
そして耳に入った声
『触らないでっ!!』
間違いない。
私の握手は断られた。
その上ぶっ叩かれた。
目の前の
ふと、横に視線を向ければひどく狼狽えた様子の管理人がいた。
そんな彼女に私は尋ねた。
「は?」
「・・・あー、その、なんだ。テスコガビー、落ち着いてくれ」
「は?」
「気分を害している所すまないが、聴いてくれないか?」
「は?」
「・・・聴いてくれていると信じて話すぞ」
「は?」
「実はな。テスコガビー、君と、カブラヤオーは、その、なんだ、早い話、ルームメイトなんだよ」
「は?」
は?
というわけでテスコガビーと因縁浅からぬカブラヤオー登場です。当時西高東低と言われていた競馬界において、関東馬ながら関西馬に勝ちまくる2頭の姿はさぞ魅力的に写ったことでしょう。
ただしこの時空ではどうやら出会いは最悪な様です。さて、これからどうなって行くのやら。次回もお楽しみに。
以後蛇足
さて、今作品はなるべく競馬の歴史に沿うように物語を書くように心がけています。そこで今回鬼門になったのが寮です。
ウマ娘内に存在している寮は栗東寮と美浦寮ですが、由来は勿論日本にある二つの調教施設、滋賀県の栗東トレセン、茨城県の美浦トレセンからです。
トレセンというのはトレーニング・センターの略で競走馬の調教に特化した施設です。これができるまで競走馬は基本的に競馬場に併設された厩舎に所属し、そこで調教が行われていたようです。
ウマ娘ではおそらく実際の馬が所属していた厩舎がどちらのトレセンにあるかで入居している寮が決まっています。
例:スペシャルウィーク→白井寿昭(栗東)→栗東寮
さて。このトレセンですが実は栗東トレセンの方が先に完成してまして、開場は1969年です。一方の美浦トレセンはというと1978年です。
ではそれを踏まえてテスコガビーの所属厩舎を見てみると
テスコガビー 仲住芳雄(東京)
そうですこの馬、東京競馬場所属だったんですよ。ちなみにカブラヤオーも同じです。つまりこの2頭は関東馬だからと言って美浦寮に入れちゃダメなんです。本編のテスコガビーの扱いはその辺から考えました。
実はウマ娘ゲーム本編でも、ナウなヤングなウマ娘が同じ状況に置かれていて、彼女は近所に一人暮らししているそうな。
ホントウマ娘て細かいなぁと感じました。