転生したらノムリッシュ   作:胡椒こしょこしょ

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(オッドアイの少女)


神々の義眼の運命に翻弄されし純潔たる魂の器

森の中、俺はマッマと相対していた。

手に持っているのは、木製のねじ曲がった杖。

そして、その杖はかすかに緑の光を放っている。

 

意識を集中させる。

イメージは杖から取り込んだ魔力を体に一本の芯として通す感じ。

それを維持し続けて30分。

繰り返し繰り返しこの魔法を使用して、段々と時間を延ばしていく。

 

一応、俺には普段口に出す言語がノムリッシュ翻訳される代わりに、知っている魔法は全て万全に使うことが出来る。

しかし、ここまで長く同じ魔法を行使するのは初めてだ。

結構疲れる。

すると、不意にマッマがパチンと手を叩く。

そして、笑顔をこちらに向けた。

 

「はい、終わり!うん、よくできたね~初めてでここまで持つなんて母さんとても誇らしいわ。」

 

笑顔で俺を労う母さん。

しかし、俺はげんなりとしていた。

もう我慢の限界だった。

 

「無礼が許されるのなら強化魔導技術は良いから...ぬっ、もしかして君はモノラルなのか?.....ぬっ、もしかして君はモノラルなのか?そろそろ詠唱魔法教えて....(もう強化魔法は良いから....そろそろ詠唱魔法教えて....)」

 

モノラルとは何か?

自分の口から出た言葉に一瞬意識が持っていかれそうになるも、それよりも重要なことに意識を戻す。

村が燃えて、この村に厄介になってから数日。

マッマはもし俺が大人になってあんなことがあった時に、自衛できるようにと今までは渋っていた魔法を教えてくれるようになった。

 

その時は大手を振るって喜んだものだ。

マッマは白魔術師であるため、沢山の魔法を知っているはずだからだ。

色んな種類の魔法を知れば知るほどに、特典によって俺は強化されるからだ。

出生と特典の噛み合いによる自動レベリングかぁ~!!と息巻いていた。

しかし、現実はそう甘くはなかったのだ。

 

今回の鍛錬は強化魔法の持続時間の延長。

そして前回は強化魔法の強度の上昇。

前々回は強化の速度上昇、そしてその前は物の強化。

そう、なぜかマッマは執拗に強化魔法しか教えないのである。

強化魔法といえばこの世界で一番容易な魔法の一つである。

 

正直、俺は滅茶苦茶詠唱魔法とか知りたかったのでめっちゃじれったいのである。

しかし、マッマの方は別段前のように渋っているわけではなく....。

 

 

「ものらるさん?ってのはよく分からないけれど....でも、詠唱魔法とか確かにかっこよく見えるけど、実際のところはいちいち時間かけないといけないし、魔力も結構使うし、隙が大きいしで良いところなんてまるで何一つないのよ?それなら瞬間的に使える強化を磨いて、魔物をたくさん叩き殺した方が効率的だと母さん思うんだけど....。」

 

およそ魔法職の発言とは思えない脳筋発言なんですがそれは....。

俺の言葉に本当に不思議と言わんばかりの表情をする母さん。

めっちゃ詠唱魔法がぼろくそに言われてる....。

確かに魔物を倒すっことに関しては滅茶苦茶理にかなっているとは思う。

でも、そうじゃないんだよ!

だって魔法だよ?魔法使えるんだよ??

それならなんか難しい詠唱とか使ってやりたいじゃん。

 

しかし母さんは何度俺がそう訴えても理解は示してはくれない。

ノムリッシュのせいでもあるが、母さんがそれが一番正しいと信じて疑っていないのだ。

確かに正しくはあるのだが、どうにもロマンというものに理解はないようである。

てかなんで現地の人間であるはずのマッマの方が転生者の俺よりもRTAじみたこと言ってんだ?

先日の血まみれで勝鬨を上げる母親の姿とそれを中心に盛り上がる村人といった蛮族じみた光景を思い出して、また少し怖くなった。

なんだこの母さん、殺意の波動にでも目覚めてんのか...?

 

正直ここで執拗に駄々を捏ねてもいいが、それはあまり得策ではない。

なぜなら言語は全てノムリッシュに変換される以上は、伝えたい言葉が伝わるとは限らないからだ。

だが、俺もただ手をこまねていたわけじゃない。

ノムリッシュの干渉を受けずに、意思表示する方法。

それは.....。

 

「つーん.....。」

 

俺はそっぽ向いてむくれる。

まるで、教えてくれないことに怒っていますよ!と言うように。

俺が編み出した切り札。

それは....態度で表すことだ!!

言語が全てノムリッシュ翻訳される以上、言葉という手段は使いにくい。

だが意思疎通ではなく、相手に自分の感情を表す場合は非言語的コミュニケーションであれば余計な干渉なく感情を表現することが可能である。

これを発見した時には感涙にむせび泣いたものである。

ただ、普段の会話などの意思疎通においては使えないといった弱点を持っているが。

 

「困ったわね....詠唱魔法なんて無駄に魔力喰うだけの役立たず、教えるにはまだ早いと思うのだけれど....。」

 

さっきから詠唱魔法に対して辛辣である。

なんでだろう?詠唱魔法に親でも殺されたの?

俺が彼女を半目で見つめていると、不意に思い立ったのか手を叩いて口を開く。

 

「そうね、でも確かにいくら万能な魔法とはいえ強化魔法だけだと飽きるし、偏っちゃうわね!じゃあ....。」

 

おっ、どうやら何やら教えてくれるらしい。

良いぞ、やっぱ態度に出してみるもんだ。

やっぱ言葉なんかなくても僕たち家族は繋がってる。

ノムリッシュ冷えてるか~?

 

「....ならこの睡眠魔法を...手を翳して.....」

 

「時既に見た。(もう見た。)」

 

それは以前、戦闘に赴く際に俺を強制的に寝かせた魔法だった。

俺は魔法の存在さえ明確に知っていれば、特典で使えるのでその魔法は既に使うことが出来る。

それに、その魔法は詠唱魔法ではなく強化魔法と同じ部類の魔法だったはずだ。

 

俺は態度を変えずに別の魔法にせい!と言外に圧力をかけた。

すると、マッマはこれもダメか~と頬を掻いて困った顔をしながらも考え込んで口を開く。

 

「それなら風魔法とかどう?ほら、貴方の頭乾かすときによくやってあげてるでしょ?あれと砂塵魔法を組み合わせれば複数の目を潰せるから良い魔法よ?」

 

「かの魂も見たし、ツカ=インカトゥスが汚い。」

 

使い方がなんか人名みたいになってる....。

やはりと言うか何というかマッマは首を傾げているため、今度も態度で示す。

それからマッマは沢山魔法を提案するが、どれも一度見たものや強化魔法と同じく非詠唱のものばかり。

そしてどうにも彼女は非詠唱についてはよく使うから教えることは容易いが、詠唱魔法については使う必要もないのでもはや使い方もあやふやで教えるには勉強しなおさないといけないようだ。

やっぱりRTA走者じゃないかたまげたなぁ....。

 

「まぁ、とにかく今日の鍛錬はこのくらいにしておきましょう?明日は強化魔法を50分持続させるのを目標に頑張りろうね!」

 

マッマは頭を撫でながら微笑みかける。

しかし、俺の内心は憂鬱でしかない。

また、あの地味で疲れる強化魔法鍛錬が明日待っていると思うと、気が滅入るのだった。

 

 

 

 

 

 

鍛錬を終えると、森から村の方へと戻っていく。

俺たち子供など戦えない者たちを受け入れてくれた隣の村だ。

今は一時的ではあるが、ここで生活している。

そして向かうのは一つの民家。

そこの扉を開けると、一人の女性が慌ただしく料理の仕込みをしていた。

 

「あっ、二人ともお帰りなさい。今、料理の支度をしていますから。」

 

柔和に微笑む彼女。

しかし隣の母さんは彼女を見ると、弾かれたように慌てだした。

 

「あら、もうそんな時間だなんて...すいません!私も手伝わせてもらいます!」

 

「いやいや座って待っててください。お客さんなんですから.....。」

 

「お客様なんてとんでもないですよぉ~!居候させてもらってるのに本当すみません~。クリロスはエレオラちゃんと座って待ってなさい。」

 

二人はいやいやとお互いに言葉を掛けながらも一緒に料理に取り掛かる。

俺たちは村を失った。

これからは親戚の筋など伝手を辿って各々が移り住むことになるという。

まぁ大体の人たちは近くの都市に住むつもりらしいが。

多分、長い間同郷で育ってきた仲間と出来れば一緒に居たいということなのだろう。

 

俺のところはまだ決まっていない。

母さんがずっとどうするか考えていた。

まぁ俺の家はさておき、とにかくその準備が済むまではこの村で厄介になっている。

そして、俺たち家族は母さんと俺の二人。

男の居る家に居候させるのは何かと問題があるだろうという話になり、村で未亡人であるこの女性、マリナさんの家にお世話になっているのである。

どうにも気が合うらしく仲良く料理を作っている二人。

 

「.....。」

 

そんな二人とは対照的に椅子に座る俺を仏頂面で見つめるオッドアイの少女。

マリナの娘であるエレオラ。

俺は未だに彼女と馴染めずに居た。

 

 

 

食卓。

4人で囲む食卓にも慣れたものだ。

お互いの母親はニコニコ笑い合っている。

 

「いやぁ、オリビアさんが来てから毎日本当に助かりますぅ~。この豆煮込みだってすごくおいしいんですけど、何かコツとかあるんですか?」

 

「ほんと大したことはしてないわ。そうねぇ...一度硬めに炊いてみてそれが結構おいしかったからそうしてるって感じかしらねぇ....。」

 

母親の方は、和気あいあいと話している。

逆に子供の方はお通夜雰囲気である。

なんだろうね、すごい睨まれているような気がするんですけどそれは.....。

いや、もしかしたら普通に目つきが悪いだけなのかもしれへんし.....。

 

エレオラは黙々と豆を食っている。

そして、目が合うとキッと細めるのだった。

そんな彼女に隣のマリナさんが笑顔で声をかける。

 

「エレオラは今日どうだったの?何か面白いことはあった?」

 

「...別に、いつも通り。」

 

彼女ははぐらかすように目を反らす。

そうっと寂しそうに笑うマリナさん。

反抗期であると思っているのだろうが、それが違うことを俺は知っている。

彼女がこんな様子なのは、その原因は.....彼女の目だ。

 

「....何?」

 

「な、万物預言書にない。(な、なんでもない。)」

 

「....なにそれ、意味わかんない。」

 

目つきを鋭くする彼女。

それにしても、自分でもそう思うけど人にこうはっきり言われると案外傷つくものだな....。

結構村のみんなはわからないなりに理解しようとしてくれていたから。

その予言書逆に何なら書いているんだよ.....。

 

「こら!エレオラ!!そんなこと言って.....!!」

 

「いや、大丈夫ですよ.....私もクリロスの言葉が分からないことがあるし.....。」

 

マリナさんがエレオラを咎める。

そんな二人を見兼ねてマッマはそうフォローを出した。

そのフォローが俺に突き刺さっているんですがそれは.....。

 

「...ご馳走様。」

 

「あっ、エレオラ!待ちなさい!!....本当、どうしちゃったのかしらあの子....。ごめんなさい、難しい年頃で....クリロス君もごめんね、気にしないでその喋り方、かっこいいわ。」

 

食べ終わると、弾かれたように机から自分の部屋へと行ってしまうエレオラ。

それを見て、溜息を吐くマリナ。

そして俺を励ましていた。

 

いや、別に意味不明なのはわかってるし....

逆にそんな風に気を遣われたら複雑な気持ちになっちゃうから!

 

「我らが主は笑って許してくださる……そうでございましょう?。神の意志とは異なり威光にしてお前はもう戦えない……戦う 目的がないだというのか……。(大丈夫です。別に気にしてないです。)」

 

なぜかクリスチャンになっていた。

別に戦ってないんだよなぁ....。

神の意志とか言い出してるし、俺ってば狂信者だったのか....。

 

「クリロス君は敬虔な信者なのね...。何か信じていらしているのですか?」

 

「えっ....、いや.....特に私もあの人もそういう信教はしていないはずなんですけど...。」

 

ほら、話がなんか拗れちゃってるよ....。

しかし、その話をした後に笑顔をマリナさんは見せる。

 

「そうですか...でも、それなら...これからもエレオラと仲良くしてくれたらうれしいわ。あの子には目の事があるから.....。」

 

「目....ですか?」

 

「えぇ、村の逸話で左右の目が違う魔物が出てくるものですから...ちょくちょくそのことで言われることがあるんです。...まぁ大半の人は優しいんですけど。」

 

「そう...ですか。」

 

マリナの話を聞いて、マッマは表情を曇らせる。

そうだ。

彼女の目は、この村の逸話に倣えば不吉な物であるらしい。

大人で明確に態度に出す人はいないものの、同年代くらいにそのことで何か言われてる姿は一度見かけたことがある。

まぁ、でしょうねと言った感じだ。

あんな一目見て分かる違いは俺の元居た世界でも普通に迫害の対象なりえた。

こんな村落で、しかも逸話において不吉の象徴と被るのであれば尚のことだ。

 

ただ俺にはどうも.....。

 

「あの子の目は不吉なんかじゃない。....探している人を見つけるための、素敵な瞳なんだって....そう教えてるんだけど.....。」

 

悲しそうに笑うマリナさん。

俺も同じだった。

多分部外者ゆえにそう感じるのかもしれない。

綺麗な目なのだから、なぜそんな窮屈な思いをしなければいけないのだろうと。

 

 

 

お客用の借りベッドから身を起こすと、リビングの方へと歩み出る。

喉が渇いたのだ。

トイレ行きてぇ....。

そう思ってゆっくりとリビングに出ると、一人の人影を認める。

 

そこに居るのは眼の色が違う少女、エレオラ。

水瓶から水をコップに注いで、呷っている。

喉の渇きから起きたのだろうか。

 

まぁでもトイレに行きてぇしなぁ....。

それに打ち解けていないし、話しても気まずいだけなのだ。

ここは何も言わずにトイレに向かうか....。

そう思って、一歩踏み出すと彼女がまるで弾かれたようにこちらを見る。

 

「....」

 

「....」

 

....なんだこの空気。

目が合っているんだからなんか言ってよ.....。

同年代との会話でここまで気まずくなったの初めてなんだけど.....。

俺から何か言った方がいい?

いや、でも口から飛び出してくるのノムリッシュだし.....。

 

こんな時、今は眠っているであろう同郷の少女が恋しくなる。

セレンは明るいしなぁ....。

この村でもその明るさは健在で、結構友人を作っているらしい。

あの村では同年代くらいの子が俺くらいだったからなぁ.....。

新しい環境にすぐ順応する彼女に安堵する一方、自分以外の同年代と接することになって立っていたフラグどっかに霧散していないかという懸念もあるのだが。

ほら....選択肢増えたら心変わりが起こりやすくなるから....。

最近は魔法の練習ばかりであの子にあんまり会っていないので、猶更だった。

 

「...お前さ、私がくだらない奴らに絡まれてるの。ママに言った?」

 

なんかすごい形相でこちらに睨みを利かせる少女。

でもこんな形相でもママとか言っているのでまだまだ子供なんだと再確認させられる。

....まぁ、こんな子供にビビり散らかしている男が居るらしいっすよ。

情けないンゴねぇ....。

 

「いや、言ってない、だからキマリは通さない…女を殺したくはないが…....。(いや、言ってないけど....。)」

 

「なにそれ、大声出すわよ。」

 

俺の言葉を聞いて、警戒心を露わに後ずさる少女。

まぁ物騒なこと言ってるし、多少はね?

でも大声だけはやめてもらって....僕はただ言わされただけなんです!

そんなつもりはないんですよ!!

エレオラは獣人だった....?

本編でもキャラ性能でも不遇そう。

 

「まぁ、言ってないならそれでいいし....今後も、そういう感じで。」

 

ウェーブのかかった髪を指で弄りながらもそう溢す彼女。

そして、不意に目を鋭くする。

 

「...一応前も言ったけど、私に関わらないで。...どうせ、あんたがここに居るのは一時なんだから。私はあんたの事を知ることはないし、あんたが私に関わることもない。良い?」

 

「あ、噂程にもない…ぐぁあ!?......…お話になりませぬな…そっち、全てはクリスタルの力を求むるがため話しかけてき、そして私を恨んでいるじゃん......。(あ、あぁ......いやそっちから話しかけてきてるじゃん......。)」

 

苦しみながらも、俺は言葉を紡いでいた。

相変わらず原型ないやん。

それにしても関わるなと言っておきながら自分から話しかけてくるのはどういう....?

 

「...別に、恨むんでないし。...でも、あんたいつも口を開けばオーバーでうざい。...おやすみ。」

 

彼女は俺の言葉を聞いて、視線を外すも再度しかめ面で目線を合わせて後ろを向く。

そして自らの部屋へと歩いて行った。

うざいって中々ストレートだなこの子....言葉のナイフはやめてくれぇ?

 

「お、私は思い出にはならないさ.....(お、おやすみ.....)」

 

返事をしたつもりがなんかノリが軽いセフィロスのようになってるんですけど....。

招待されていないのに乱闘に参加しそう。

ワイは片翼の天使だった!?

 

そんな馬鹿な事を考えながらも、自分の部屋へと戻る彼女の背中を見つめる。

彼女はよそ者である俺を拒絶している。

だから俺は、彼女の事情に深く踏み込むことに躊躇しているのだった。

心まで子供だったら、こんな風にいちいち考えることもなかったんだろうに....。

今だけは転生前からの自意識を保っていることを恨めしく思った。

 

あぁ....セレン、君が恋しいよ....。

まともにちゃんと話してくれる幼馴染の女の子の希少性を再認識したのだった。




女の子がもう一人!?
名有りの女の子が二人、来るぞクリロス!!
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