まだパパが居た時。
パパは優しく笑いながら私の頭を撫でながらもこう言っていた。
『その目はほかの人とは確かに違う。でもね、それは強みなんだ。エレオラは特別だから...他の連中はやっかんで足を引っ張ってエレオラを折ろうとしてくる。でも、そんなどうしようもない奴らなんかには負けない、強い子になりなさい。』
ママはその言葉を聞いて、エレオラは女の子なんですから!とパパは怒ったが私はその言葉が胸に染み入るように入っていった。
そうだ、そんな奴になんか負けたくない。
私は強い子になるんだ。
パパが死んだという知らせが来た時、その思いははっきりと確固たる形を得た。
日頃明るく振舞っているけど、影で泣いていたママ。
その分、私が強い子にならないといけないんだ。
他の子たちは集まったりしているけど、あれは弱いから群れてるんだと自分に言い聞かせた。
他の子たちと遊ぶ暇があるなら、ママの手伝いをしなければいけない。
私はほかの子とは違って強い子だから。
だから.....。
「何無視してんだよこの目違いがよぉ!!!」
「っっ痛っ!!」
いつもの奴らに髪を引っ張られる。
何を言われても反応すれば喜ばせるだけ。
そう思って無視していたのに、痛みに声が出てしまった。
そんな私を見て、アイツらは笑みを浮かべた。
「ようやく声を出したぜ。」
「それで良いんだよ、目違いが俺たちを無視するなんて生意気だよなぁ?」
突き飛ばされる。
泥が服に就く。
嫌な感触に顔を歪めるも、腕を掴まれて髪を引っ張られていく。
振り払おうとしても髪が引かれる痛みや力の違いから振り払うことが出来ない。
「っっ..やめっ...痛い、やめて!」
「最初からそんな風に言ってればよかったんだぞ!」
「村を襲った魔物の末裔め!退治してやるぞ!!」
ただ、私は目の色が違っただけなのに。
こんな目になりたくてなったわけじゃないのに。
私は強い子だ。
だというのに、今何も出来ずにただみじめにやられるがままになっている。
私は、自分が思っているほどに強い子じゃ....なかったのかな?
泣かないって決めたのに、目の前が潤んでくる。
情けない。
もう居ないってわかってるのに、どうしても思ってしまう。
パパ....助けて。
私には友達が居ない。
いつも一人で、どんな時も一人ぼっちだった。
だから、今助けてくれる人なんか居ない。
そのはずなのに.....。
「背中がガラ空きだ、今すぐその掌を放せ。」
普段は訳の分からないこと言っている奴の癖に。
どうせ、すぐこの村からも居なくなる癖に。
碌に私と話したこともない....癖に。
あれほど、関わるなと言ったのにそいつは悠然と立っていた。
◇
「それで、修業はどんな感じなの?クリロス!」
村の外れ、久しぶりに会った彼女は目をキラキラと輝かせながら俺にそう聞いてくる。
俺の幼馴染であり持ち前の明るさで新天地であるここでも友人を多く作った少女、セレン。
修業が今日一日休みなので、久しぶりに彼女と会うとそのまま二人で村の外れの原っぱへと遊びに行っていたのだ。
「まぁ表向きは、それなりに.....いや全くもって我が叡智をもっても詠唱実数世界に無理矢理、虚数領域の法則を適用させる術教えてもらえない。だが、お前は俺を裏切った....(まぁ、それなりに.....いや全然詠唱魔法教えてもらえないけど....)」
「えぇっ!?う、裏切ったなんて....私何かしたかな.....?」
驚愕し、表情を曇らせる彼女。
いや、別に何もしていないけど.....。
こういうことがあるのでノムリッシュ君は許されない。
それなりって言ってるのに、表向きになってるしな。
原型がほぼないんよ。
言語活動において致命的だと再認識させられた。
しかし、その数秒後まるで伺うかのような表情でこちらに問いかける。
「その...もしかしてさ、私の勘違いじゃなければ...私が、他の子たちともよく喋っているから...とか?」
なんだろ....すげぇ反応に困る。
それも考えてた時もあったけど、今言ったのはそのつもりじゃないっていうか....。
「いや、もう…どうでもいい……、そう…いや、これは何者かが仕組んだ事件じゃない。運命の悪戯…偶然の産物さ――そこに理由なんて、ない。(いや、そうじゃない。)」
否定しろ。
もう意味の分かる言葉が出るとは期待しちゃいないから最低限否定してくれ。
どうしてそうじゃないって言葉がそんなはぐらかしに変わるんだよ。
逆に知りたいわ。
「ふ~ん...やきもち焼いたんだぁ~...。」
彼女は俺の言葉を聞いて、にやにやと笑っている。
いや、別にやきもちなんか焼いてませんしぃ?
そんな子供には子供の付き合いがあるっていうか?
ただフラグなくなってるんちゃうかなって一瞬不安になっただけで、なくなってたらなくなってたで別に構わないしぃ?
....いや、強がり言うのはやめとこ。
普通にきっついわそれ。
なんとはなしににやつく彼女を見ると、恥ずかしくなって視線を逸らす。
すると、彼女は腕にひっついてくる
おっふ!....いや、別に何もないっすよ?
女児に引っ付かれたくらいでなんともないっすよ。
こちとら経験豊富な大人ですよ....いや経験なんかないけど。
「そんな心配する必要ないのに~、クリロスって案外可愛いところあるんだね!」
!!?!?!?!?
ニコニコと笑顔を浮かべる少女。
そんな彼女の顔を見て、胸が高鳴った。
いや、違うでしょ。
向こうにフラグが立っているのであって、俺が立てられる方じゃないから....。
普通転生者って逆だから。
子供に手玉に取られている精神年齢高校生が居るらしい。
はい、俺です。
「そっちは神話の時代どんな感じ‥その疑問が私の心を捉えて離そうとしないのである(そっちは最近どんな感じ?)」
滅茶苦茶かしこまった物言いになってるんが、まぁ意味合いは間違いじゃないからええか。
神話の時代ってなんだよ、紀元前か?
「神話.....?よくわかんないけど...まぁ元気だよ!色んな人とも仲良くなれたし...そうだ!クリロスも忙しくて話す暇がないだろうから私がクリロスの事周りの子たちに教えてあげたりしてたよ。」
「”それ”はマダガスカル.....。(それは助かる.....。)」
マダガスカル!?
ノムリッシュ君の言語野でもバグったのか?
どしたん?話聞こか?
まだ助かるまだ助かるマダガスカルってか?
やかましいわ。
「まだがすかる....なんだろ?語感がいいね!」
彼女は首を傾げる。
まぁこの世界にはマダガスカルという土地はないからな。
ただなんかいい感じの語感の言葉に聞こえるだろう。
「まぁそれは今は良いとして....。」
セレンは一言呟く。
そして彼女は笑顔をこちらに向ける。
しかし、その笑顔を見ているとなぜだか薄ら寒い感覚が背中を走った。
「それでさ今クリロスってさ、クライネさんの家にお世話になってるんだよね?」
俺は彼女の言葉に頷く。
口を開くと話がこじれることはわかっているからだ。
マリナさん達の姓名がクライネなのである。
しかし、よく知っているものだ。
そこらへん、女の子たちの間で情報が出回っているのだろうか?
それこそ....エレオラ関連で。
「それじゃあさ...あの、えれおらちゃん?って子とも一緒に住んでるんだよね?」
俺は再度頷く。
そりゃクライネさんのところの娘なのだからそうだろう。
なんだ、何が聞きたいんだ?
いや....まさか.....まさかこれは!!
「そっちはどうなの?女の子と二人なんだから色々やりづらいなぁとかあったりしたんじゃない?私、気になるなぁ.....。」
目を細める彼女。
これは....まさか!
まさか嫉妬か!?
嫉妬なんか!!!??
俺の勘が正しければ生前ではまったく縁のなかった女の子の嫉妬だ!!!
ほら、なんかフラグ立ってた感あったし...まだ立ってるっぽいし!!
ひゃ~!まさかこんなことになるなんて異世界転生万々歳ですわ。
言語がノムリッシュになっててもおつりが来るんじゃない?
実際全然そんなことないだろうけど、今だけはそんな風に思えるわ!!
テンション上がってるから!!!
しかし、実際のところ俺は未だにエレオラとは馴染めていない。
なんなら関わるなとまで言われたのだ。
正直、この世界でもまともに話せる同年代の子は現状セレンだけである。
だから正直話せることなんか仲良くなれてないくらいの事しかない。
しかし、口を開くとまた話がこじれること請け合いであるので、俺はただ首を横に振るしかない。
強いられているんだ....。
「...言いたく、ないの?...私に....?」
なんだこのどんよりとした感じは....。
明らかにこれはバッドコミュニケーションだな....。
畜生、人間種が言葉を用いなくても意思疎通が出来るようになれば良いのに....。
こうなればやけだ。
このままにしておくのは、なんか本能的にいけない気がする。
俺は咄嗟に口を開いた。
「そういうわけじゃなきことが世界の理を間断なく破壊せんとしている。ただ、エレオラとは蜜月に支配されて変貌を遂げて…死なないで、あなたは誰にも触らせたくないくらい大事な人だからから話すことがないっていうか....。(そういうわけじゃない。ただ、エレオラとは仲良くなってないから話すことがないっていうか....。)」
なんか人の言葉すごい好き勝手訳してんなお前な。
なんならすげぇ恥ずかしいこと言わされてるような気がする。
そもそもこんな状況下で死ぬようなことないだろお前。
しかも蜜月に支配されて変貌を遂げて....って答えになってなくないか?
「そんな風に言ってくれるのは嬉しいけど...でも、そんな言葉じゃ誤魔化されないもん....。」
ジト目でこちらを見つめるセレン。
あぁ...本当になんてことはないのに、まさかこんな風に自分の首を絞めることになるなんて。
ノムリッシュさえなければ円滑に意思疎通できたのに...。
そもそもジェスチャーの方が円滑に話せるこの現状がヤバいんだよなぁ....。
そんなん人間のコミュニケーションちゃうやん。
「いや、本当に大したことじゃなかったのではなく、記憶の淵に閉じ込めていただけとは、皮肉なことじゃな…いうか......その、話聞いて授かってもいいすか?(いや、本当に大したことじゃないっていうか......その、話聞いてもらってもいいすか?)」
「つーん」
そっぽ向く彼女。
困ったな....。
どうにも機嫌を損ねてしまったようだ。
どうしたらいいんだ....。
ことコミュニケーションに至っては俺は完全に無力だ。
フラグが立っていればいいってわけでもないのか....。
コミュ力がノムリッシュに置き換わってしまっている俺には目の前の少女すらこませないというのか...。
なんとも情けない話である。
途方に暮れていると、微かに声が聞こえる。
なんだ....。
「地獄からの呼び声が聞こえないか?
――考えるな、感じろ。―(声が聞こえないか?)」
「...聞こえる。多分あっちから。」
顔を逸らしたまま、ぶっきらぼうに彼女は俺の言葉に賛同する。
あっ...ちゃんとお話しはしてくれるんですね....。
地獄からの呼び声ってなんかビジュアルバンドめいてんなぁ....。
それにしても声の主が何とはなしに気になるな。
聞いた感じでは獣ではないとは思うが....。
まだ村の敷地から出ていないだろうから、あんま魔物が居るとは思えないし....。
「あっ、どこ行くの!」
「なんか視界の端に捉えに行ってくる。(なんか見に行ってくる。)」
視界の端じゃなくてちゃんと見ろ。
自分の言葉にセルフ突っ込みを入れながらも、声がする方へ歩みを進めてみる。
後ろから彼女も付いてきているのが分かる。
歩みを進めて数歩。
昨日の雨のせいか地面がどこかぬかるんでいた。
転んだら服が汚れるだろうな。
そう思っている矢先に、それは目の前に現れた。
一人の少女を取り囲んでいる三人の少年。
その少女にはとても見覚えがあった。
あれは....。
「肉体を6分割したエレ・ディストピアオラ......(エレオラ......)」
エグゾディアかよ。
いやそれにしても一分割多いわ。
3人は少女ににやにやとした笑みを浮かべて声をかけるも、少女は取り合わない。
あんな場面を前にも一度見た。
彼女の目、それによって絡まれている所。
「あれって....えれおらちゃん...だよね。その、今のって嫌な事されてるんじゃ....」
さっきまでの不機嫌さが噓のように心配そうな声音で彼女を慮るセレン。
もしかしてエレオラの事情を知っているのだろうか?
いや、名前を知っていたくらいだ。
セレンは村の同年代と仲良くなっている。
だからこそ、そういう情報が耳に入っているのかもしれない。
「事象を預言書に記されてるのか...?(事情を知ってるのか...?)」
「よげんしょ....?よく分からないけど、どうしよう....。」
あ~~~!ほんま糞!!
こちとらセレンがエレオラの事情を知っているのか聴きたいのにこれじゃ碌に聞けねぇだろうが!!
彼女はこちらにどうするのか視線を向けてくる。
本来であれば止めるべきなのはわかっている。
しかし、あの時の彼女の言葉が頭を過った。
『私に関わらないで。』
それが一瞬一歩踏み出すのに躊躇させた。
彼女は自分がああなっているのを俺が見たのを知っていた。
それでなお、関わるなと言ったのだ。
しかし、躊躇った瞬間に連中は彼女の髪を引っ張り始める。
顔を一瞬歪ませる彼女。
それを見逃すことなく連中は調子づく。
そして....地面に倒した。
続けて髪を引っ張る。
それはもはや嫌事などの域を超えて、ただの蹂躙であった。
そして、何よりも。
あれほど気丈に振舞っていた彼女の瞳が潤んでいった。
駄目だ。
いくら何でもそれはダメだろ。
それは、子供同士の不和と見なすにはあまりにも行き過ぎている。
こんなのは....見逃せるはずがない。
これを見逃す奴は人間の屑か、臆病者だけだろう。
たとえ彼女自身が俺の介入を望んでいなかったとしても.....。
それに、なによりも...あんなに寄せ付けないような彼女が泣いている姿は。
なんというか見ていられなかった。
「クリロス!!?」
俺は駆け出す。
そして、ただ喉を振るわせて声を張り上げた。
「背中がガラ空きだ、今すぐその掌を放せ。(やめろ、今すぐその手を放せ。)」
おぉっ!?マジか....。
俺の言葉をノムリッシュが初めてかっこいい感じに訳してくれていた。
それが、なんというか...俺は今正しいことしていると神様が言っているように感じていた。
まぁ、実際はただの偶然なのだが。
彼女は視線をこちらに向けていた。
驚愕しているのか目を丸くしている。
そして、他の連中もこちらに目を向けている。
「はぁ?誰お前?」
「仲間に入りたいなら入れてやってもいいぜ。」
「つか、コイツよそ者じゃね?ほら、最近来た奴ら。」
3人は口々にそう言葉を述べている。
....さて、考えなしに突っ込んでいったのだがこれはどうしたものか。
実際、彼らはただの子供だ。
俺とは出発点が違う。
ボッコボコにすることは容易いだろう。
なんていったってマッマが強化魔法とかを教えてくれているからな。
しかし、どうだろうか?
他所から来た子が曲がりなりにも村の子供を傷害してきたとしたら。
だとすればマッマも含めて俺の村に人間が村で過ごしにくくなるだろう。
それに.....せっかく友達が沢山出来たセレンが嫌な思いをするかもしれない。
だとすれば...どうしようか....。
「じゃあさ、止めに来たんじゃねぇの?」
「なんだよ正義の味方気どりか?勘違いすんなよ?こいつは昔村を襲ったっていうアザトリプスと同じで目の色が違うんだ。魔物の生まれ変わりなんだよ!だから俺が正義ってわけ!!」
「つかコイツ顔は良いもんな、実はコイツの事好きなんじゃねぇの??」
にやにやと連中は言葉を言っているが、まぁクソガキの言うことなんでスルーでいいだろう。
大方自己正当化と嘲笑であることは想像に難くない。
精神衛生上無視安定だ。
強化がダメならどうする....燃やすか?
いや、それは殴る以上にアウトだな。
そう考えていると、あることを思いつく。
あるじゃないか....傷つけずに相手を無効かするお誂え向きの魔法。
瞬間的に出せて、ガキ相手なら問題なく起動する俺の魔法が。
「...てめぇも,.なに無視してきたんだ!!」
するとガキの一人がこちらに走って拳を振り上げる。
避けたりは...出来る気がしないな。
ならば、全身に強化魔法を行使。
そのまま相手の攻撃を受けた。
仰け反りはしない。
でも、痛い物は痛かった。
「クリロス!!」
後ろでセレンが声を上げる。
まぁ、強化しているのでまったく問題ない。
「へっへ、ざまぁみ...ろ.....?」
得意げに笑う彼。
しかし、その瞬間全身の力が抜けて、そのまま倒れこむ。
すると、さっきまでニヤついていた二人が表情を一変させる。
「テイラー!?お前、何したんだよ!?」
「このっ....!!」
二人は取り乱すと、エレオラの髪から手を放して二人がかりでこちらに殴りかかってくる。
まぁ、相手は俺が何もせずに仲間が倒れたように見えただろうからな。
実際はただ触れて睡眠魔法かけたってだけだが。
だから、別段人数が増えようが....。
二人がこちらに殺到する。
一人は蹴りで、一人は拳か。
別段多分特別な技能もない、普通の暴力。
とはいえ、俺自身も別段そんな徒手空拳の心得があるわけでもない普通の子供。
だからこそ、ここは魔法に頼らせてもらう。
「かてぇ....なんだよコイツ!!」
「蹴った足がいてぇ!!」
蹴られた脛と顔が痛む。
でも、強化をしているから損傷自体はないはずだ。
二人の腹に手を当てる。
そして、睡眠魔法を行使する。
「あっ...く..そ...急に...ねむ.....」
「いし...きが.....」
眠たげな表情に仰向けになって倒れこむ彼ら。
ヨシ!これで無力化は成功したはず。
なんだ、俺も結構やれるじゃん。
とりあえず強化は解除して、ちゃんとかかっているか確認を...。
「これで、おわ,,ると,,,思うなぁ.....!」
「クリロス!!」
仰向けに倒れこんでいた一人が足を最後の力を振り絞って蹴りだす。
ちょうどしゃがむ混んでいた俺の顔、鼻面を捉えていた。
痛みと共に、視界が横にブレる。
そして、痛みと共に鼻から何か流れ出ているような生暖かい感覚。
どことなく呼吸がしにくい。
手を当てると、そこには真っ赤な液体。
これ...鼻血か。
生前もこんな風に殴られて鼻血出すことはなかったな。
そして、魔法が完全に作用したのか蹴ってきた奴はそのまま眠り込んでしまう。
完全に油断していたな。
そもそも確認するなら強化魔法解除する必要はなかったな。
いや、まぁ正直ずっと魔法維持するの疲れるから解除したんだが。
「クリロス!大丈夫!?クリロス!!!」
後ろからセレンが歩み寄ってくる。
慌てた様子でこちらを心配する。
まぁ、痛いけどのたうち回るほどじゃないっていうか....。
昔足の骨が折れた時の方が痛いし....所詮子供の力で殴られただけだからそこまで重大じゃない。
「あぁ、全ては神の御心のままに僅かな犠牲が同胞の未来を築く。(あぁ、大丈夫大丈夫。)」
「そんな...大変、頭を蹴られたから....しっかりして!!」
彼女は深刻な顔で俺の頬を手で包む。
いや、いつも通りのノムリッシュだから。
僕は...正常だよ。
つか、顔近。
畜生、この子こうして見ると顔が良いなぁ.....。
見ていると、こっちが恥ずかしくなってくるよ。
まぁ、そんなことよりも....。
「神の御心のままに…か、奏でるか?(大丈夫か、立てるか?)」
何を?
相変わらず滅茶苦茶な翻訳である。
でもまぁ、手を差し出しているから立てるか的なこと聞かれてるのはわかるだろ、...分かるよね?
いや、それにしてもこれは所謂良いことに当たるんじゃないか?
これ、転生ものとかだったら普通にフラグ立つ奴でしょ。
いや~、つらいなぁ~。
幼馴染が居るだけでも恵まれているって感じなのに、まさか自分につっけんどんな子相手にも建っちゃうかもなんてなぁ....。
これ、フラグ建築士とか名乗っていいんじゃない?
かぁ~、一級建築士の道も遠くないってか!
そう浮足立つ俺。
しかし、そこまで現実は甘くないということか。
彼女は涙目のまま、こちらを上目遣いで見る。
そして、差し出した手を取ることなく立ち上がる。
....え?
困惑する俺を他所に、彼女はゆっくりと立ち上がると服についている砂埃を払うとこちらを睨みつけるような表情で見つめる。
そして、震える声で言葉を口にした。
「私は...助けてなんて...、言ってない。こんなことされたって...何も変わらないんだから。」
そう言ってそのまま走り去ってしまう。
予想外の出来事に俺はただ手を差し出した姿勢のまま、停止してしまう。
こんなことされても何も変わらない。
....まぁ、確かにそうだ。
俺たちはどうせこの村を去る。
もし連中が俺に対して仮に恐れを為しても、俺が居なくなれば元に戻るだろう。
もしかしたら、俺が居て出来なかった分、彼女にその鬱憤をぶつけるかもしれない。