ゼロの使い魔 ルートシエスタ   作:やまもとやま

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1話 憂鬱な使い魔

 サイトがハルケギニアにやってきてから1か月が経過した。

 突如、地球とは異なる世界に飛ばされ、しかも偉い名家の娘の使い魔になったときには、頭がどうにかなりそうだったが、ようやく落ち着きを取り戻してきた。

 この世界を冷静に見ることができるようになった。

 

 冷静になると、この世界はくだらない世界だと思うようになった。

 

「ちっ、やってらんねえ」

 

 サイトは洗濯物を放り投げた。

 主から洗濯を頼まれて水場にやってきたが、井戸水はすぐに止まってしまう。止まるたびに、重たいてこを動かさなければならなかった。

 てこは重たく、全体重をかけてようやく動くほどだ。持ち上げるときは持てるすべての背筋力をつぎ込まなければならない。

 最初のうちは一生懸命やれていたが、最近はこの世界にも慣れてきたので、さぼり癖が付き始めていた。

 

「はあ、異世界に来てもすみっこ暮らしか……」

 

 サイトは芝生に大の字に転がるとため息をついた。

 魔法のある世界。ドラゴンの住む世界。

 一度はあこがれたゲームの世界だが、たった2週間でその魅力は色あせてしまった。

 

 異世界に魅力を覚えたのは、かっこいい勇者が主人公だったからだ。

 

 しかし現実は厳しい。

 かっこいい勇者でもなく、知的な魔法使いでもなく、待っていたのは雑用だった。

 ここからシンデレラストーリーが始まる気もしない。

 サイトはもう一度ため息をついた。そして、右手の甲を見つめた。

 

「契約のルーンか……奴隷契約の契約書みたいなもんだな」

 

 サイトは自虐的にそう言った。

 

 サイトはヴァリエールというここトリステインで有名な名家のお嬢様の使い魔になった。主の名前はルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエール。たいそうな名前だと思った。

 最初はときめきもあった。魔法使いの美少女の使い魔という境遇に胸が高鳴った。

 しかし、ふたを開けてみると、待っていたのは掃除、洗濯、馬の世話。

 

 使い魔になったと言っても、特別なことは何もない。

 少し前までは、魔法に圧倒され、ドラゴンに圧倒され新発見の毎日だったが、ドラゴンも3日連続で見ていると、普通の存在になった。魔法使いも特別な存在には見えなくなった。

 あらゆる景色が地球のそれとあまり違わなくなった。

 

 すると、悪いところが目立ち始めた。

 この世界には身分制度があるようで、魔法も使えない、特別な仕事もできないサイトは最底辺の「平民」に属することになる。

 だから、ここの住民は総じてサイトに冷たかった。

 

 ここトリステイン魔法学院は将来有望なメイジ見習いが集まっている。

 生徒の半分はやんごとなき家のボンボンで、平民に対する風当たりは相当に厳しかった。

 まともに口をきいてもらえないばかりか、まるで汚物を見るような目で見られる。

 

 サイトの主もまた同じような目を向けて来た。

 ルイズはグリフィンやドラゴンを使い魔にすることを期待していた。しかし、いざ使い魔として現れたのがサイトだった。

 ただの平民が使い魔になるというのは前代未聞の珍事だったようである。

 期待が大きい分、落胆も大きかったようで、ルイズはしばらく落ち込んでいた。

 

 ようやく立ち直ったかと思うと、サイトにたいしての風当たりはとても強かった。

 

 掃除、洗濯、馬の世話などの雑用を一方的に押し付けられた。

 寝床は床に馬用の藁が敷き詰められたもの。

 食事は最低限。しかも夕食のみの1日1食。少食は世界を救うというが、サイトには不満だった。

 

 とはいえ、そうした物理的なペナルティを押し付けられるだけならまだマシだ。

 奴隷労働の毎日でも、精神的な支えがあれば耐えられる。

 

 しかし、ルイズはむしろ精神的な部分で最も厳しかった。

 この世界のことをろくに教えてくれないどころか、まともに口をきいてすらくれない。

 

 イエローモンキーだのなんだのぼろくそに誹謗中傷されるならマシだ。

 

 そんなものよりも、徹底的な不愛想、無視が一番苦しい。

 

 サイトはそのことをこの世界に来てよくわかった。

 異世界に来てしまったというだけでも不安なのに、毎日、無視され、誰も助けてくれない。そんな状況では、精神がおかしくなる。

 

 しかし、サイトがまだこうして冷静に過ごすことができているのは、支えてくれる人たちがいたからだ。

 もし、本当にすべての人がサイトに冷たければ、サイトの精神は壊れていたに違いない。

 

 サイトはこの世界に来て、どの世界にも優しい人はいるということを知った。

 

 サイトを支えてくれる人。一人はコルベール先生だ。

 コルベール先生はサイトのために、仕事が終わった後に、この世界のことを色々と教えてくれた。

 コルベールは魔法学院の教員として働くほか、魔法研究室で研究の仕事もしている。

 毎月、研究内容をトリステイン王室に報告しなければならないので、教員として仕事した後も3時間以上も研究室にこもって研究をしている。

 しかし、サイトがここにやってきてからは、その時間を削って、サイトのために個人授業をしてくれた。

 

 コルベール先生の授業のおかげで、サイトはこの世界のことをだいたい掴むことができた。

 魔法の種類や詠唱方法から、この世界に生息する生き物のことも多く知ることができた。

 サイトはコルベールから10冊以上も本を授かった。最近は、掃除や洗濯をさぼって、本を読むのが日課になっていた。

 コルベールはサイトの一番の支えになった。

 

 もう一人、サイトを支えてくれている重要人物がいる。

 

「シエスタの手伝いに行くか」

 

 サイトはそう言って、未完了の洗濯物のほうに目を向けた。

 主であるルイズの命令は絶対だ。しかし、サイトはこう思った。

 

 どれだけ一生懸命頑張ってもお礼の言葉すらもらえない洗濯よりも、シエスタの手伝いをしたほうがいい。

 

「よし、行くか」

 

 サイトは洗濯をさぼって、シエスタの手伝いに行くことにした。

 シエスタこそ、今日までサイトを支えてくれた女神だった。

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