ゼロの使い魔 ルートシエスタ   作:やまもとやま

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11、因縁の再会

 シエスタは遠方のタルブの村から、トリステイン魔法学院まで馬でやってきた。

 ここトリステインでは、10歳を過ぎたころから乗馬を学ぶのが当たり前で、かよわいシエスタでも、いっぱしの馬乗りだった。

 

 トリステイン魔法学院では、生徒一人一人および、従業員に馬が一頭割り当てられている。シエスタもここで働くようになったころから、愛馬を授かっていた。

 ハルケギニアには、炎を纏った馬や、闇の力を放つ馬など、さまざまな馬がいる。これらの特別な馬を乗りこなせる者は、ハルケギニア全体を見渡しても数は限られる。

 

 シエスタは当然そうした馬ではなく、普通の馬に乗る。

 シエスタは牧場から愛馬を連れだした。

 

「これがシエスタの愛馬か」

「はい、夢ウララちゃんです」

 

 シエスタの愛馬は夢ウララと名付けられていた。

 シエスタは夢ウララにまたがると、サイトに指示を出した。

 

「サイトさん、私の後ろにどうぞ」

「普通にまたがっても大丈夫か?」

「ええ、体を前に倒して、どうぞ私の体にもたれかかってください」

 

 サイトは乗馬の経験がほとんどない。一応、コルベールの授業の一環で、仔馬にまたがってまったり遊んだことはあるが、夢ウララはもう成熟した立派な馬だった。

 サイトはシエスタの後ろにまたがると、初めての感覚にバランスを乱した。

 

 乗馬は簡単ではないと聞くが、実際にやってみるとただまたがっているだけでも体が左右に揺れた。

 

「うおっ、なんかすげえ不安定だ」

「私にしっかりと掴まっていてください」

「こんな感じでも大丈夫か?」

「ええ、でももっとしっかりと掴まっていたほうがいいかもしれません。どうぞ、遠慮なさらず」

 

 シエスタは快くそう言った。

 

「わ、悪いな、なんかべったりくっついてるみたいになっちまって」

「いいえ、遠慮なさらず。途中で落下してしまっては大けがになりますから」

 

 シエスタは特に嫌がるそぶりを見せず、それどころか嬉しそうにしていた。

 

 二人を乗せた夢ウララはゆっくりと走り出した。

 

 ◇◇◇

 

 夢ウララは時速40キロ超で走った。

 体が上下左右に揺れて、サイトは何度も落っこちそうになったが、シエスタの体がちょうどいい命綱になってくれた。

 シエスタはかよわい少女だが、こうして掴まっていると、盤石の大きな柱のような安心感があった。

 10分もすると、サイトも要領を掴んできて、シエスタに掴まっていることが前提だが、ようやく周りの景色を見る余裕が生まれて来た。

 

 トリステイン魔法学院を抜けると、小さな森が幾度となく続いた。ほとんどがあぜ道で人工的に舗装されたような道路はない。

 時折、レンガ造りのカラフルな建物が散見された。風車のようなものを見ることもできた。

 ヨーロッパの田舎風景のようで、サイトはその景色に感動した。

 

「サイトさんの住んでいた世界とはやはり違いますか?」

「いや、でもおれの住んでた世界のヨーロッパのほうに似ているかもな。さすがに東京の都市とはまったく別物だけど」

 

 ただ、サイトには自然意識のまったくない東京の都会風景より、こうした田舎風景のほうが親愛感があった。

 

「トリステインというところはずっとこんな田舎なのか?」

「トリステイン王室の城下町などは人の流れが途絶えないほどの都会ですよ。このあたりは開発が制限されているんです」

「そうだったのか」

「トリステインは平和な都ですが、貴族間の領土争いは昔から熾烈なものがあります。タルブの村もゲルマニアやガリアの富豪に多くの土地を買いたたかれてしまっていて、先住民のほうがよそ者扱いなんですよ」

「大変だな、そりゃ」

 

 金持ちがあらゆる場所を買い占めていく。どの世界でも人の行うことは同じようだった。

 

「私も地元で働くつもりだったのですが、まともな働き口はありません。よその貴族は若い女性を性奴隷として契約させるんです。それを拒んだらひどい嫌がらせを受けます。ですから、もう私の故郷はよその国のものなんです」

 

 シエスタがトリステイン魔法学院まで働きに来ている事情が何となく理解できた。

 

「一応、私の夢はタルブの村を取り戻すことなんです。私一人ではどうすることもできないかもしれませんが、おじいちゃんの意志を受け継ぎたいのです」

「おじいちゃんがいるのか?」

「昨年亡くなってしまいましたが、私のために色々と力になってくれた立派な祖父でした」

 

 シエスタは懐かしそうに祖父のことを思い出した。

 

「おじいちゃんもサイトさんと同じように別の世界から来たと言っていたんです。みんな冗談半分で聞いていましたが、もしかしたらサイトさんと同じ世界から来たのかもしれません」

「本当か?」

「ええ、機会があれば、サイトさんも一度タルブの村にお越しください。私が招待しますので」

「ああ、行ってみたいな。シエスタの故郷」

 

 サイトはどことなくシエスタが自分と同じ流れを持っているような気がしていた。もしかしたら、シエスタは祖父の代から地球の遺伝子を引き継いでいたのかもしれない。

 

 ◇◇◇

 

 峠を越えて、トリステイン魔法学院からはるばる1時間半。

 シエスタとサイトを乗せた夢ウララは東トリステインの町にやってきた。

 

 ここはゲルマニア国境へ続く貿易の要衝として栄えた町である。

 遠くに高山を望むこともできる。まだ暖かい時期だが、その山は雪をかぶっていた。

 

 香辛料と魔石の貿易で栄えており、道にはたくさんの馬車が渋滞を作っていた。彼らは魔石や香辛料を売るためにゲルマニアからやってきている。

 トリスタニアとゲルマニアは歴史的に見ても、戦争を繰り返しているが、ここ最近は互恵関係が強まっていて、この東トリステインは二国間の互恵関係を象徴していた。

 

 魔石の多くは鍛冶職人に取引される。

 そのため、この町は武器のメッカでもある。

 有名な錬金魔術師を数多く輩出している。

 

 夢ウララは裏路地に出た。表路地は貿易に勤しむ馬車が溢れかえっていて、交通料を支払わなければならないので、一般人は裏路地を進むのが普通だった。

 白い壁の建物が軒根を連ねる風流な景観だった。

 

「なんかすげえ町だな」

「このあたりはトリスタニアでもかなり栄えています。グラモン家の治める町なんです」

「グラモン……七光のギーシュが偉そうにしていたのはそのためか」

 

 少し前、サイトとギーシュは喧嘩を繰り広げたが、そのギーシュが所属しているのがグラモン家である。

 もともと、グラモン家は偉大な錬金魔術師を輩出する名家であり、ギーシュの父親はトリスタニアでは指5本に入る錬金魔術師だった。

 そんな偉大な父親からギーシュみたいな子供が生まれたのは実に不思議なことに思えた。

 

 シエスタは夢ウララを牧場に預けた。

 駐車場に車を停めるのと同じように料金が発生する。

 

 馬を預けると、二人は並んで町を歩いた。

 人でにぎわう街の中枢には、大きなレストランから薬草売り場などさまざまなお店が並んでいた。

 サイトはどこかヨーロッパ旅行をしているような気分だった。

 シエスタのような可愛い女性を連れて町を歩くなんて、地球にいたころは一度もないことだった。それがこんな美しい異世界の町で実現したのだから、それはとても貴重な体験だった。

 

「あ、ここですね。グラモン家が経営するお店です」

 

 二人は小さな武器屋の前にやってきた。

 

「なんか小さなお店だな」

「そのぶん、量産ではない立派な武器が揃っていると思います。見てみましょう」

 

 量産されていない武器となれば、それだけ割高になるが、シエスタはあえてサイトに立派な剣をプレゼントするつもりだった。

 サイトは扉を開けて中を覗いた。

 

 店内に客の姿は見えなかった。

 

「おや、客か。ようこそ、グラモン・フランベルジュ店へ……って、お前は!」

「あー、お前は!」

 

 サイトと店員は顔を合わせるなり、お互いに驚きをあらわにした。

 店員をしていたのは、サイトのにっくき天敵ギーシュであった。

 ギーシュとの戦いの後、サイトは生死の境をさまよった。それだけ、ギーシュは忘れたくても忘れられない男だった。

 

 ギーシュはあの後、父親に不埒な結果が知れ渡り、父親から厳しくしつけられ、しばらく魔法学院を休学していた。

 

「こんなところでまた会うことになるとはな」

 

 サイトはギーシュをにらみつけた。

 

「おいおい、そんな怖い顔をするなよ。あのときのことは水に流そうではないか。僕も十分に反省している」

 

 ギーシュはそう言うと、例によって薔薇の花を口にくわえた。あまり反省しているそぶりはなさそうだった。

 

「まあいいや、で、なんで店のバイトなんてやってんだ?」

「バイトとは失敬な。僕は偉大な錬金術師として魔法衛士を志す身だよ。偉大な武器に身近に触れて勉強しているのだよ」

「魔法学院はやめるのか?」

「まさか、しばらく休学しているだけだよ。来月には戻るさ」

「ちぇっ、戻って来るのかよ」

「そう言うな。あの時のことは忘れて仲良くしようではないか。君があれほどの偉大な剣士とは僕も知らなかったのでな」

 

 ギーシュは調子のいいことを言った。父親のしつけ効果が出ているようで、前回みたいなあからさまに平民を馬鹿にするそぶりはなかった。

 

「そちらのレディもこの前はすまなかったね。僕の未熟な過ちをどうか許してほしい」

「いえ、私は気にしていませんので、お気になさらず」

「おお、なんという優しいレディか。僕は君のような美しい女性を手荒に扱ってしまった過去を消し去ってしまいたい」

 

 ギーシュはそんなことを言いながら、シエスタに大げさに媚びを売った。

 

「おい、ナンパ野郎。シエスタには手を出すな。だいたい、お前には恋人がいるんだろ。モンモロパンジーとかいう」

「モンモランシーだ。そんなことより、どうして君がそのことを知っているんだ?」

「マリコルヌがお前の秘密をすべて教えてくれたよ。お前、恋人がいるくせに下級生にも手を出してるらしいな」

「はははは、なんのことかな。マリコルヌはホラを風に乗せるタチの悪い少年だ。鵜呑みにしてはいけないよ」

 

 ギーシュはそう言ってごまかした。

 

「僕はモンモランシー一筋。そう神に誓ったのさ」

 

 ギーシュは開き直って薔薇を加えた。

 

「ところで君たち、僕の武器を買いに来たのかい?」

「アホ、学生見習いのお前の武器なんて買うかよ。立派な錬金術師が造った剣を買いに来たんだよ」

「君はわかっていないな。将来、僕が大魔道士になったときに後悔するぞ。あのとき、偉大なるギーシュ・ド・グラモンの武器を買っていればよかったと」

 

 ギーシュは自信満々にそう言った。

 

「いいだろう。そこまで言うなら、お前の造った剣とやらと偉大な錬金術師が造った武器を見比べてやるよ」

「良かろう。グラモン家の名を継承した僕の素晴らしいコレクションの数々をとくと見せてやるよ」

 

 ギーシュはそう言うと、店の奥から立派なケースを抱えて持ってきた。

 

「まずはこちらを見たまえ」

 

 ギーシュが自信満々にケースを開くと、サイトの顔に強い冷気が降りかかってきて、思わず目を閉じた。

 

「なんだこりゃ?」

「僕が趣味で作ったアイスブランドさ。氷の魔石を緻密に組み合わせ、スクエア級の錬金魔法でていねいにていねいに鍛錬した自信作さ」

 

 ギーシュはそう言うと、胸を張った。

 

「こ、こりゃあすげえぞ。ゲームの世界にあるみたいな剣だ……」

 

 サイトは目を輝かせた。

 目の前に現れた武器は刃先が約80センチ程度の騎士剣だった。片手で扱う剣だが、その特徴は、刃がいてついた冷気を放っていることだった。

 

「斬るものすべてを凍らせる。巨大なビヒモスでさえも氷漬けにしてしまうのさ」

「これ、お前が造ったのか?」

「もちろんさ、僕の才能にひれ伏すがいい」

 

 くやしいが、サイトはひれ伏したくなった。この剣を振るってみたいという強い衝動を抑えられなかった。

 

「ギーシュ……おれはお前のことをただの気障な野郎だと思っていたが、すげえやつだったんだな」

「ふははははは、ようやく気付いたか。僕の才能にかかればこのような魔剣を造ることなど造作もないことなのだよ」

 

 ギーシュはさらに胸を張った。ずいぶんと心地よさそうな表情だった。

 ところが……。

 

「坊ちゃん、ダメだよ。親父さんの作品を勝手に持ち出しちゃ。それは非売品だよ」

 

 店の奥から出て来たこの店の主と思われる者があっさりと種も仕掛けも明かしてしまった。

 

「おじさん、なんてことを」

「え? ともかくそのアイスブランドは親父さんから授かってるものだから、もとの場所に戻しておいてよ。来週には王室に納品しなくちゃいけないんだ」

 

 どうやら、見栄を張るために、父親が造った魔剣を自分の手柄にしようとする計画だったらしい。その計画はあっさりと打ち砕かれた。

 

「やはり、お前は最低最悪のキザ野郎だ」

「待ってくれ、僕はまだ学生。その才能が開花するのはこれからなんだ」

 

 シエスタは二人のやり取りを見ていて、クスッと苦笑した。

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