ゼロの使い魔 ルートシエスタ   作:やまもとやま

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12、デルフリンガー

「改めて、僕のコレクションだ」

 

 ギーシュは今度こそ自作した剣をいくつか持ってきた。

 ろくでもないナマクラがやってくるのかと思ったが、それなりに様になった剣がいくつも並んだ。

 

「これ、お前が造ったのか?」

「正真正銘、僕のコレクションだ」

 

 ギーシュは薔薇の花をくわえて、胸を張った。

 まだ学生の身でこれだけの武器を造れるあたり、ギーシュには錬金魔道士の才能があるのかもしれない。

 しかし、先ほどの魔剣アイスブランドを見た後だと、相対的にギーシュの武器は地味に見えた。

 

 サイトはいくつかの剣を手に取って、使い心地を確かめた。剣を手に握り締めるたびに、ガンダールヴのルーンが光り輝いた。

 そのルーンの魔力がサイトにその剣の実力を教えてくれた。

 

「これは脆いな。すぐ折れちまうぞ」

「バカな、僕が丹精を込めて錬成したものだぞ。そう簡単に折れてたまるか」

「ここが急所だ」

 

 サイトは刃先のある部分に左手の人差し指を当てた。

 ガンダールヴとして覚醒している間、サイトは色々な魔法を使うことができた。

 サイトが指先から波動を送ると、その剣は無残にも砕けてしまった。

 

「あああああ、なんてことを」

「な、造りが甘いんだよ。実戦でこんなことになっちゃ、戦争に負けちまうぜ」

「弁償しろ、僕が120時間かけて造り上げた傑作だったんだぞ」

「弁償だぁ? 欠陥商品を売り物にしないようにしてやったんだ。感謝するのが筋じゃないのか?」

「それは認めよう。だが、この店では新金貨50枚で売りに出しているんだ。だから金を払え」

「だからさ、売りに出したあと苦情が出て店の信用が堕ちるのを阻止してやったんだから逆に感謝しろって」

 

 二人のやり取りを見ていたシエスタは懐から金貨の袋を取り出した。

 

「お二人とも、争わないでください。私が弁償いたしますので」

「おお、さすがは神聖なる女神、こんな野蛮な使い魔とは違い、世の道理をわかってらっしゃる」

 

 ギーシュはそう言うと、シエスタの肩に手を置いた。

 

「おい、ギーシュ。お前の家は金持ちなんだろ。ケチケチするなよ」

「金の問題ではない。芸術家が自らの作品の対価を受け取るという様式美の問題さ」

 

 ギーシュは自分の造った武器が金貨50枚で売れたことに快感を覚えているようだった。

 シエスタから金貨50枚を受け取ったギーシュは涙を流して喜んだ。

 

「おお、我が夢の1つが叶ったよ。僕は錬金魔道士として自らの作品が認められたのだ」

「ナマクラを押し売りしといてよく言うぜ。わ、悪いな、シエスタ」

「いいんです。それよりもサイトさんのほしいものをおっしゃってください」

 

 シエスタに言われて、サイトはギーシュのコレクションを眺めた。

 見た目はそれなりに見えるが、どれもこれもすぐに折れてしまいそうなナマクラばかりだった。

 

「ギーシュ」

「なんだね? 何でも好きなものを選びたまえ」

「お前のコレクションはもういいから、ちゃんとしたプロが造った武器を持ってきてくれねえか」

「な、なに?」

 

 ギーシュはその言葉に強いショックを受けたようで、その場に崩れ落ちた。

 地面にはギーシュの使い魔であるジャイアントモール「ヴェルダンデ」が退屈そうにしていた。

 

「おお、我が愛しのヴェルダンデよ。芸術魂を侮辱されること以上に辛いことはないよな」

 

 ギーシュはヴェルダンデを愛する恋人のように抱きしめてそう言った。

 しかし、ギーシュの切り替えはとても早かった。

 

「いや、しかし、天才錬金魔道士シュペー卿もその才能が認められるまでに30年以上かかったと言われている。大器晩成こそが天才の道」

 

 ギーシュはそう言うと、薔薇をくわえて再び胸を張った。

 

「サイト、いずれ僕の才能が開花した暁には、最強の剣の前に跪かせてやるから楽しみにしていたまえ」

「やっぱお前は変なやつだな」

 

 ◇◇◇

 

 ギーシュに代わって、店の主がおすすめの武器をいくつか持ってきた。

 

「こっちがモーニングスターです。うまく扱うには鍛錬が必要ですが、火系統の魔石がふんだんに使われていますので、戦場では大活躍できますよ」

「こ、これがあの有名なモーニングスターか」

 

 サイトは好奇心に駆り立てられて、モーニングスターを手に取った。

 ルーンが輝くと、サイトはその使い方を完全に把握した。

 

「すげえ、これにしようかな。シエスタ、いいか?」

「はい。こちら、おいくらですか?」

 

 シエスタは笑顔で店の主に尋ねた。

 

「そちら、偉大な錬金魔道士シュペー卿が1年以上かけて丁寧に造り上げたフレイム・ウェア・モーニングスター。世界に1つだけの超レア武器になっておりますが、大出血サービスで今なら、新金貨85000枚」

「85000枚……?」

 

 先ほどまで笑顔だったシエスタの目が丸くなった。シエスタの想定とは桁が1つ違っていた。

 

「も、申し訳ありません、サイトさん。お金が足りないようです」

「いやいや、さすがに85000枚のやつを買ってもらうつもりはないよ。気にするな。でも、欲しかったな……」

 

 サイトは渋々、モーニングスターを手放した。

 

「おやじさん、もう少し安いやつをお願いできますか?」

「安いのねぇ、うちは基本的にブランド品しか扱ってないんだよね。一番安いのでも20000金貨以上だよ」

「それは入る店を間違えちまったな……」

 

 新聞配達のアルバイトの日当を受け取った少年が高級中華料理屋に入ったようなものだったらしい。

 

「サイト、やはり僕のコレクションにするか?」

 

 店の奥からギーシュが顔を出した。

 

「アホ、お前の武器なら、木の棒のほうがマシだ」

 

 ギーシュの趣味の雑貨を買っても仕方なかったので、店を変えることにした。

 高級店ではなく、チェーン店のような量産武器ならば、それなりのものでも安く買える。

 

「そいじゃ、シエスタ。他の店に行こうぜ」

「申し訳ありませんでした、サイトさん」

 

 二人がきびすを返したとき、店の主が声をかけた。

 

「ちょっと待った。ちょっとちょっと」

「え?」

「いやね、うちもなかなか客が来なくて、商売あがったりなのよ。やってきた客から金を取らずには返せねえのさ」

「金なら払っただろ。ガラクタに50金貨も」

「まあ、聞きなさい。君たちの予算はいくらかね?」

 

 サイトはシエスタのほうに顔を向けた。

 

「6000金貨しかございませんけど」

 

 シエスタはそう言ったが、平民が6000枚の新金貨を得るのは簡単なことではなかった。

 

「わかりました。では、うちの店に古くから伝わる妖刀でよろしければお譲りしますが、どうでしょう?」

「妖刀?」

「ええ、見たところ、あなた相当腕の立つ剣士だ。あなたならその妖刀を使いこなすことができるかもしれねえ」

 

 主は神妙な顔でそう言った。

 そう言われると興味があった。

 

「見せてもらっていいですか?」

「わかりました。少々お待ちください」

 

 主はそう言うと笑いながら店の奥に引っ込んだ。

 

「坊ちゃん、ちょっと芝居に協力してくんな」

「芝居? 何をするんです?」

 

 ギーシュは自分のコレクションをうっとりと眺めているところだった。

 

「あのガラクタを最強の妖刀として売りつけようと思いましてね。取り分は坊ちゃんに半分差し上げます。坊ちゃん、親父さんからお小遣いを0にされて困っているんでしょう?」

 

 主は声をひそめた。

 

「ふむ、それは面白い」

 

 ギーシュはそう言うと、立ち上がった。

 

「しかし、あの出来損ないのインテリジェンスソード、我々の思い通りに振舞ってくれますかね」

「そこはアドリブで何とかしよう。いやいや、あのガラクタは場所を取るだけでさっぱり売れず困り果ててたんだ。それが金貨6000枚に代わるならこの上ない儲けだ」

 

 主はそう言うと、倉庫の奥で誇りをかぶっていたケースを取り出してきた。

 

「ったく、入れ物だけは立派なんだから。親父は心底大事にしてたらしいけど、こんな出来損ないのインテリジェンスソードのどこが良かったのだろうか」

 

 主はそう言いながら、立派なケースを取り出してきた。ケースは立派だが、埃をかぶっていた。ずいぶんと長い間放置されているものだった。

 

「坊ちゃん、ちっときれいにしてくれるか?」

「お安いご用で」

 

 ギーシュが薔薇を小さく振ると、渦巻き状の風が発生して、ケースのからめとった。

 ギーシュは埃を取り込んだうずまきを窓から店外に追い出した。

 

 きれいになったそのケースは見た目には立派な輝きを放った。

 

「準備オッケー」

 

 主はニコニコ微笑んで、サイトの前に立派なケースを置いた。

 

「お待たせしました。これが伝家の宝剣、デルフリンガーです」

「デルフリンガー?」

 

 主がケースを開くと、そこには宝剣、デルフリンガーが顔を出した。

 

「……」

「……」

 

 サイトもシエスタもそれを見て意気を消沈させた。

 現れたデルフリンガーはとても地味なナマクラのような剣だった。

 

 茶色の刃先は見るからに、何も斬れそうにない。これではギーシュのガラクタのほうがはるかにマシと言えた。

 

「これがデルフリンガー? 妖刀?」

 

 サイトは妖刀村正のようなものを想像していたのだが、デルフリンガーは妖刀の風格の対極にあるような見た目だった。

 

「ふふふふ、たしかに見た目には地味。しかし、この剣は長くトリステインに伝わる宝剣なのですよ」

 

 主はそう言ったが、一応それは真実だった。

 この店はトリスタニアが創立したころからある老舗で、もともとこのあたりは始祖ブリミルがトリスタニア独立のために駐屯し、諸外国のメイジと戦っていたという歴史がある。

 町を歩くと、いくつも始祖ブリミルの像を見つけることができる。

 始祖ブリミルがこの地にいた時から、この店は存在していたのだ。その時代から長く受け継がれてきたのがデルフリンガーだった。

 

「ある言い伝えによると、デルフリンガーは始祖ブリミルの使い魔が扱った魔剣であり、ブリミルがこの店にデルフリンガーを封印したと言われているのです」

「ふーん、こんなぼろい剣がねえ」

 

 それは見るからにぼろい。しかし、言い方を変えると歴史を感じさせる武器だった。

 サイトはどこかその剣に魅力を感じていた。

 

「手に取ってみてもいいですか?」

「どうぞ」

 

 言われて、サイトはデルフリンガーに手を伸ばした。

 サイトの手が触れると同時に、手のルーンが反応した。ルーンからあふれた光はこれまでとは少し勝手の違うものだった。

 

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