ゼロの使い魔 ルートシエスタ   作:やまもとやま

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15、仲たがい

 翌朝、言われていたとおり、サイトはルイズについて帰省することになった。

 帰省先は、トリスタニアを代表する金持ちの名家「ヴァリエール家」

 

 ちょっと楽しみでもあったが、自分の扱いがどうなるかサイトは少し不安に感じていた。

 サイトのイメージでは、こういう金持ち名家は堅苦しい風習とかマナーとかがあって、必要以上に気を遣うものという感じだった。

 

「行くわよ、忘れ物はない?」

「ちっとは置いてけよ、荷物」

 

 サイトの荷物はデルフリンガーしかない。それよりもルイズの荷物が山ほどで、それを運ぶのはサイトの仕事だった。

 

「ダメよ。帰省中も勉強するんだから」

「筆記の勉強ばかりじゃなく、ちっとは実技のほうを何とかすりゃいいのに」

「なんか言った?」

「いいえ、何でもありません」

 

 サイトはあまりルイズを怒らせないように、黙ってたくさんの荷物を抱え上げた。

 ヴァリエール家までは、ここから150キロ以上の遠方。

 歩いていくわけにはいかないので、当然馬を使う。

 

「出たな、じゃじゃ馬」

 

 サイトはルイズの馬と対面した。サイトはルイズから馬の世話を頼まれていたからルイズの馬とはよく顔を合わせていた。

 馬は飼い主に似るという言葉がハルケギニアにはあるようだが、まさしくルイズの馬はルイズにそっくりだった。

 見た目は気品の高そうな馬。しかし、実際は人を平気で蹴飛ばすじゃじゃ馬だった。

 機嫌を損ねるとバックキックが飛んでくる。サイトはこれまでに何度も蹴飛ばされていた。

 

 それに引き換え、シエスタの馬はおとなしくて優しい。

 本当に飼い主に似るのだなとサイトは実感した。

 

「サンダーエクスプレス。馬車用意してもらったから重たくなるけど頑張ってね」

 

 ルイズはそう言って愛馬を撫でた。サンダーエクスプレス。たいそうな名前をつけたものだと思いながら、サイトは横眼で二人の様子を見た。

 

「こうして見てると、どっちも可愛いもんなんだがなぁ」

 

 サイトはつくづく思った。

 

「サイト、あんたちゃんと世話してたでしょうね? 餌を忘れたりしてない? 言われたエサの配合は守った?」

「ああ、牧場のおじさんが頑張ってくれたよ。おれは蹴飛ばされる役割でな」

「あんたがちゃんとしないから蹴飛ばされるのよ。馬は賢いのよ。一流の人間を蹴飛ばしたりしないわ。ね、サンダーエクスプレス」

「蹴飛ばすのはお前の馬だけだよ」

 

 サイトは暇なときに色々な馬と戯れていたが、一方的に蹴飛ばして来る馬はサンダーエクスプレスだけだった。

 

「ところで、なんでサンダーエクスプレスって名前なんだ?」

「私のあこがれの人がつけてくれたのよ。サンダーエクスプレス。素敵な名前でしょ」

 

 ルイズはそう言いながら、そのあこがれの人のことでも思い出したのか、嬉しそうに笑った。

 

 サイトはあこがれの人が少し気になった。

 

 ◇◇◇

 

 サイトとルイズを乗せた小さな馬車は、サンダーエクスプレスに引かれ走り出した。

 馬車と言っても屋根のない簡易的なものである。しかし、ルイズの荷物を積むには十分なスペースがあった。

 

「おー、はえーな、サンダーエクスプレス」

 

 サイトはいかずちのように走るサンダーエクスプレスの走りっぷりに感心した。

 この馬は風系統の魔力を持ったエレメンタルホースの一種である。ルイズがトリステイン魔法学院に入学したときに憧れのメイジにゆずってもらったのだという。

 ルイズはどこか乙女のような様子で憧れのメイジのことを話していたから、相当惚れこんでいる様子であった。

 

 別に自分の主が誰に憧れようが関係ないことだが、どうしても気になったので、サイトはその憧れのメイジについて尋ねてみた。

 しかし、ルイズは事前に予想できたような返答をした。

 

「あんたには関係ないのよ」

 

 ルイズはそう言って、それ以上は語らなかった。しかし、そのメイジのことを思い出すたびに、ツンツンした顔が丸くなるのがわかった。サイトはいずれ突き止めたいと思った。

 

「サイト、家につくまでに私の考えた設定を覚えてもらうわ。ちゃんと書いて来たから」

「設定? なんだよそれ」

「平民を召喚したなんて、家族に言いにくいでしょ。特にエレオノールお姉様にはね……絶対馬鹿にするもの」

「ルイズには姉がいるのか?」

「ともかく、それ相応の使い魔ということにしたいから、これ覚える。10秒以内」

 

 ルイズはそう言うと、サイトに何枚かの紙を押し付けた。

 サイトはその紙に目を通した。

 

「……」

 

 設定1 使い魔はトリスタニアを渡り歩くさすらいの騎士。

 設定2 使い魔は寡黙でクールで剣の達人。

 設定3 使い魔は礼儀正しく、常に主のもとに跪き、主の命に忠実に従う。

 設定4 使い魔は知的。

 設定5 紳士で正義感が強く、主のためなら命をも投げ出すほど勇敢。

 

 ほかにも色々な設定が書かれていた。ガンダールヴの力によって剣の達人にはなれたが、その他の設定はすべてサイトの真逆の性質を表していた。

 

「おい、ルイズ。お前、遠まわしにおれのことを馬鹿にしてるだろ。全部、おれの真逆の性格じゃねえかよ」

「当たり前でしょ。誰があんたのことなんか好きになるもんですか。まあ、その設定を全部守れるなら、少しは評価してあげてもいいわね」

「すげえむかついた」

 

 サイトはそう言うと紙を丸めた。

 

「何するのよ」

「あいにく、この使い魔は知性のかけらもないので文字が読めないでございますです」

 

 サイトは皮肉にそう言った。

 

「はあ、やっぱりこれだから」

 

 ルイズは飽きれたようにサイトから目を背けた。その様子を見るところによると、ルイズはいまサイトと心の中の誰かを比べていた。

 憧れのメイジとサイトのことを比較して、その雲泥の差に呆れたのだろう。

 サイトはそれがくやしかった。別にルイズのことで腹を立てても仕方がなかったのだが、胸のイライラが治まってくれなかった。

 

「おれが嫌なんだったら憧れのメイジ様に新しい使い魔をプレゼントしてもらえよ。おれもせいせいするぜ」

「そうね、そうしてもらいたいところだわ。でも、あんたが路頭に迷うから、使い魔としていさせてあげてるんじゃないの。私の慈悲に少しは感謝してもらいたいところだわ」

「はっ、何が慈悲だよ。そんな堕天使みてえな慈悲、ありがたくもねえんだよ。天使の慈悲を持つシエスタとは大違いだぜ」

 

 サイトがシエスタの名前を出したので、ルイズも熱くなった。

 

「だったら、あのメイドと仲良く野垂れ死にすればいいわ」

「あーあ、やっぱシエスタと一緒にタルブの村に行けばよかったぜ」

「ふん」

「……」

 

 二人は結局仲たがいになり、顔を背け合った。

 それから、ルイズはどうして自分がこれほど熱くなっているのだろうかと冷静に考えた。

 

 サイトは平民の使い魔。見るからにダサくて頼りない。おまけに他の女にデレデレとしている。

 そんなサイトに比べ、ルイズの中にいる憧れのメイジは素晴らしかった。凛々しくて、ルイズに一途で、すべてにおいてサイトより立派。

 しかし、なぜか、あこがれのメイジのことを思い出しても、そこにサイトの姿が入り込んでくる。ただの平民だと切り捨てることができないほど、サイトの存在感は大きくなっていた。

 

 サイトもまたなぜルイズのことで熱くなっているのだろうかと考えた。

 ルイズの言うことなんて、「わかりました」とか「かしこまりました」と言って片付けておけばいい。

 サイトにはシエスタがいる。優しくて美しくて心が清らかなシエスタがいれば、ルイズのことはわがままな主とでも考えておけばいい。

 しかし、そのようには思えなかった。シエスタに好意を持っているのは間違いない。けれど、ルイズのことがなかなか頭から離れてくれなかった。

 

 二人が黙り込んでいる間にも、サンダーエクスプレスは歩みを進めた。

 サイトの背中で眠っていたデルフリンガーが柄から顔を出した。

 

「おい、相棒。痴話喧嘩が過ぎるぜ。うるさくて起きちまったよ」

「おう、デルフ。相変わらず寝坊助だな、お前は」

「おれは剣だぜ。いざというときに切れ味が悪けりゃどうしようもねえだろ。だから、よく寝て魔力を高めてるのさ」

「戦のときに寝てちゃ、意味ねえだろ」

「ところで相棒よ。あのメイドの女かこっちのブロンドのお嬢様か、相棒はどっちが本命なんだね?」

 

 デルフはサイトの耳元でささやいた。

 

「そんなもんシエスタに決まってんだろ。誰がこんなわがまま貴族のお嬢様を選ぶかよ」

 

 サイトはそう言ったが、それは本心ではない言葉だった。

 

「なるほどね、だが、男ならそれでいい。おれもちと覚えてるぜ。始祖ブリミルもその使い魔も女癖が悪かった。4人、いや5人は愛人がいて毎日痴話喧嘩してたぜ。使い魔と女の取り合いをしているときもあったな」

「昔のことを思い出したのか?」

「痴話喧嘩してるところだけな」

「どうでもいいことばっか思い出しやがんのな、お前」

 

 デルフリンガーは自称だが、始祖ブリミルによって造られた魔剣ということになっている。

 しかし、ほとんどの記憶を忘れていて、いまやただの寂れた剣に過ぎなかった。

 

「しかし、このあたりはちっと見覚えがあるな。あの木もこの木もだ」

「木なんてどこでも生えてるだろ」

「そりゃあ、そうだがな。おっ、懐かしいにおいもするぜ。このにおいも懐かしいぜ」

「お前、においもわかんのかよ」

 

 なかなか良くできたインテリジェンスソードであった。

 

「うるさい剣ね、まったく。ちょっと読書するから黙らせときなさいよ」

 

 ルイズは文句を言いながら本を広げた。

 しかし、サイトはその命令に背いた。

 

「おい、見ろ、デルフ。牧場があるぞ。たくさんの牛がいるぞ。ヤッホー、おーい!」

 

 サイトはそう言ってはしゃぎ声をあげた。

 

「やっぱ牛はいいよな。どこぞの貧乳のわがままお嬢様よりずっと可愛げがあるぜ」

 

 サイトは遠まわしにルイズの悪口を言った。

 

「誰がわがままお嬢様よ」

 

 ルイズは反射的に反応していた。

 

「なんだよ? お前のことだなんて一言も言ってないだろ。そうか、ってことは自分で貧乳だと認めてるんだな。だよな、どこぞの立派なメイジ様も貧乳より巨乳のほうがいいって言うだろうしな。ぐふっ……」

 

 サイトがみなまで言う前に、ルイズはサイトの頭を数冊の本で叩きつけた。

 

 ◇◇◇

 

 サンダーエクスプレスの速足もあって、昼ごろにはヴァリエール領に入ることができた。しかし、ルイズの家まではまだまだ遠い。

 ヴァリエール領は1つの国と言えるほどの広さがあった。

 

 ヴァリエール領には風流な商業街がいくつかあり、その1つが見えて来た。

 青々とした自然景色に商店が点々としていた。このあたりはルイズの庭と言ってもよかった。あまりの広大な庭である。

 

「お腹空いたわね。サンダーエクスプレス、少し休憩しましょ」

 

 ルイズがそう言うと、サンダーエクスプレスは減速して、小さな牧場の前に止まった。

 それに気づいた牧場の主が出て来た。

 

「これはこれはルイズお嬢様。ようこそおいでくださいました」

「こんにちは、小父様。姫様のパレード期間中ですので、帰省してまいりました」

 

 ルイズはていねいにそう言うと、頭を下げた。

 

「そうでございましたか。実は昨日の今時分、エレオノール様もここに参られました。きっとエレオノール様もいまごろはお帰りになっていますことでしょう」

「ぐ……やっぱ帰ってきてたか、エレオノールお姉様……」

 

 ルイズは姉に苦手意識があるのか、嫌そうな顔をした。

 

「しばらく休憩していってください。十分なおもてなしはできませんが」

「お邪魔します」

 

 ルイズはそう言うと、サイトを放って馬車を降りた。

 

「おい、ルイズ、待てよ。おれは?」

「あんたはその辺の牧草でも食べたら? あんた牛のほうがいいんでしょ。せいぜい、どこかの牛と素敵な結婚式でも上げて来なさいよ」

 

 ルイズは仕返しができるチャンスに優越感に浸っていた。サイトにそう言うと、不敵に笑った。

 サイトは金を持ってきていないし、腹もかなり減っていた。喉も乾いていた。

 

「なに、おなかが空いたの? だったら四つん這いになってシッポでも振ってみなさいよ」

「ぐ、こいつ……」

 

 そんなことできるかと思ったが、空腹があるのと、牧場の先から肉が焼けるよいにおいがしてきたので、サイトはプライドを曲げることにした。

 

「お、お願いします」

 

 サイトは四つん這いになって頭を下げた。

 

「仕方ないわね、そこまでするなら、エサの1つでもあげるわ。ついてきなさいよ。四つん這いでね」

 

 サイトは心の中で思った。

 

 結婚相手にするなら、馬のほうが絶対マシだと。

 

 サイトは横眼でサンダーエクスプレスを見た。

 サンダーエクスプレスは珍獣でも見るような目、でサイトを見ていた。

 

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