ゼロの使い魔 ルートシエスタ   作:やまもとやま

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16、エレオノール

 サイトとルイズを乗せた馬車はようやくルイズの家にたどり着いた。

 ここまでたった一人で走り続けたサンダーエクスプレスだったが、まだまだ疲れたそぶりはなかった。たいした馬だった。

 

 実家に帰ってきたと言っても、サイトの感覚とはかけ離れている。

 ルイズの実家、すなわちヴァリエールの本家は巨大な屋敷をいくつも持っている。

 

 まるで湖のような大きな池に、まるで山のような森をあり、それ1つで1つの町と言えそうなほど広大な敷地だった。

 

「ここがおまえん家か? でけえな……」

 

 サイトは大きな屋敷を見上げて、その大きさに圧倒された。

 

「いいこと、私が指示するまで何もしゃべらないこと。あと、私の命令には従う。わかったわね?」

 

 ルイズはサイトに釘を刺すように言った。

 

「わかったよ」

「わかりました、ご主人様。もう一度」

「へいへい。わかりました、ご主人様」

 

 ルイズは見栄っ張りで、自分の使い魔を優秀な剣士として家族に紹介する魂胆だった。

 サイトは偽るのが嫌だったが、優秀な剣士を演じておくほうが得策と考えた。

 

 ヴァリエール家はかなり厳格な由緒ある名家ということである。ならば、無能であるよりも、それなりの剣士として通したほうがいいと考えた。

 

「えーっと、なんだったっけ、設定」

「道中にちゃんと覚えておきなさいって言ったでしょうが、まったく」

 

 ルイズはそう言って、くしゃくしゃになった紙をサイトの手に叩きつけるように渡した。

 

 設定1 使い魔はトリスタニアを渡り歩くさすらいの騎士。

 設定2 使い魔は寡黙でクールで剣の達人。

 設定3 使い魔は礼儀正しく、常に主のもとに跪き、主の命に忠実に従う。

 設定4 使い魔は知的。

 設定5 紳士で正義感が強く、主のためなら命をも投げ出すほど勇敢。

 

 相変わらず、自分とは真逆の男の存在がかかれている。ただし、がんヴァ―ルヴの力があるから、剣の達人ということだけはごまかすことができるだろう。

 しかし、ルイズは自分の家族にも、自分が虚無の使い手であることを示さないつもりだった。

 

 ヴァリエールの娘が虚無の力を持っているということが知れれば知れるほど、それを付け狙う者を助長してしまう。ルイズは自分の家族を巻き込みたくなかった。

 そこで、ルイズは風系統の性質が芽生えて、風系統の魔法剣が使えるさすらいの剣士を使い魔にしたということで家族には説明するつもりだった。

 

「じゃあ、行くわよ」

 

 サンダーエクスプレスはヴァリエールの門をくぐった。ここから、先はやんごとなき者たちの巣窟。サイトも少し緊張した。

 

 ◇◇◇

 

「これはこれはルイズお嬢様、お帰りなさいませ」

「爺、久しぶり」

 

 老齢だが、立派な杖を持ったメイジがルイズを迎えた。

 爺と呼ばれたメイジはルイズの顔を見たことで、そのしわだらけの顔をさらにくしゃくしゃにして喜んだ。

 

「爺はうれしい限りですぞ。あと何度ルイズお嬢様の顔を拝めることやらと。ありがたやありがたや」

 

 爺は心底ルイズを大切にしている。はたから見てもよくわかった。

 

「おーい、お前たち。ルイズお嬢様がお帰りになられたぞ」

 

 爺がそう言うと、ヴァリエール家の兵士が数人やってきた。

 いずれも背中に大きな剣を抱えていて、身長180センチ台のたくましい男たちばかりだった。サイトとはくらべものにならないほど戦う男の体つきだった。

 

「はっ、ルイズお嬢様。お帰りなさいませ」

 

 兵士らはシャンと整列すると、ていねいに挨拶した。

 

「馬をお願い」

「かしこまりました」

 

 ルイズの一言で、屈強な男たちは馬を牧場に預ける仕事に取り掛かった。

 ルイズはまるで女王様そのものだった。

 

 強そうな兵士も立派なメイジも、あらゆる者がルイズの前にひれ伏し、ルイズの命令に絶対服従だった。

 

 サイトはなるほどと思った。

 なぜ、貴族が傲慢になるのかその理由を悟ることができた。

 

 幼いころから、周囲にこれだけ大切にされ、どんな時も自分の命令がすべてまかり通る世界に生きてきたら、傲慢にもなるだろう。

 ルイズもそうした世界に生きて来たのだろう。

 それが貴族の人格の本質だった。

 

「ルイズお嬢様、ただちに部屋を用意します。しばらくお休みください」

「そうするわ」

「ところで……」

 

 爺の目はルイズの後ろに控えているサイトに目を向けた。不思議なものを見るような目だった。

 

「こちらの少年はどちら様でございましょう?」

「あー、これは私の使い魔」

「使い魔? 彼が?」

「こう見えても、優秀な剣士なのよ。いかずちのごとき太刀を操ることができるのよ」

「この少年が……」

 

 爺は立派な自分の髭を触った。爺の目はサイトを歓迎するものではなかった。

 

「わかりました。では、使い魔の方も一緒にどうぞ。部屋を用意いたします」

「どうも」

 

 爺の態度が豹変した。先ほどまで、ルイズに会えたことを喜んでいたが、突然テンションが落ちた。

 悪く思われているのがまじまじとわかったので、サイトも少し居心地が悪かった。

 

 それでも一応、サイトはルイズに連れられて、ヴァリエール本家に足を踏み入れた。

 

「お帰りなさいませ、ルイズお嬢様」

 

 今度は、数人のメイドによるお出迎え。つくづく、ルイズは女王様のようだった。

 

「ルイズお嬢様、お飲み物は何になされますか?」

「ウンディーネハーブティー」

「かしこまりました。こちらのお部屋で少々お待ちください」

 

 メイドもまたルイズの命令には絶対服従だった。

 ルイズとサイトはとてつもなく広い客間に通された。

 

 目の前にはとてつもない値がしそうなソファーや机が置かれている。絨毯も立派なもので、足をつけるのが悪い気分になるほどだった。

 

「それではこちらにおかけください。お付きの方はこちらに」

 

 メイドは二人に席を用意すると、ていねいにお辞儀して部屋を後にした。

 

 サイトは圧倒的な広間を落ち着きなく見渡した。天上には立派なシャンデリアがあった。

 

「キョロキョロするんじゃないわよ、立派な剣士って設定なんだから、ジッとしてなさいよ」

「ちぇっ」

 

 サイトはそう言いながら、前を見た。

 それにしても、落ち着かない場所だった。高級というのもよし悪しだった。こうも広い部屋だと、居心地が逆に悪かった。

 

 しばらくして、一人の女性が客間にやってきた。

 メイドがハーブティーを持ってきたのかと思ったら、そうではなかった。

 

 やってきた女性は美しい金髪のメガネをかけた美女だった。

 一見美人に見えるが、よく見ると、ルイズに似た男勝りな目つきが気になって、女性としての温かみをまったく感じさせなかった。

 

「ルイズ、おかえり」

「え、エレオノールお姉様! あ、ありがとうございます」

 

 ルイズは金髪の美人を見るなり、スッと立ち上がった。

 苦手意識を持っているのか、ルイズの背中は萎縮していた。先ほどの爺やメイドらに対する態度とはまったく違っていた。

 

「爺から聞いたわ。サモンサーヴァントで剣士を召喚したって」

 

 エレオノールはサイトの前にやってきて、椅子に腰かけるサイトを見下ろした。その目は明らかにサイトを軽んじている感じだった。

 そういう目で見られることにサイトは慣れっこだったので、馬鹿にされても目をそらしたりはしなかった。

 

「あなたがルイズの使い魔?」

「そうです」

「優秀な剣士と聞いているけど、そうなの?」

「おれはさすらいの身。それ以下でもそれ以上でもありません」

 

 サイトはちょっとカッコつけてそう言ってみたが、自分にはまったく似つかないセリフだった。

 

 優秀な剣士とは程遠い見た目。体つきもヒョロヒョロと剣を振るうことができるとも思えない。

 歴戦の雰囲気も感じられない。

 エレオノールはサイトを無能だと考えたようだった。

 

「ルイズ、もうこの剣士とコントラクトしたの?」

「は、はい」

「だったらそろそろ潮時のようね。ちょうどいいタイミングじゃないの、魔法学院をやめる」

 

 エレオノールはルイズにそう言った。すると、ルイズの顔がキッとこわばった。

 エレオノールに相当な苦手意識があるようだったが、ルイズは抵抗するように言った。

 

「お言葉ですが、エレオノールお姉様。私は魔法学院をやめるつもりはございません」

「相変わらずの強情。カトレアとは大違い。誰に似たのやら」

 

 お前だろとサイトは思わず口にしそうになったがやめた。

 エレオノールはどことなくルイズの性格に似ていた。

 

「ルイズ、あんたがみっともない成績をさらしていると、ヴァリエール家の名誉に傷がつくのよ。あなた、その意味がわかってるの?」

「お、お言葉ですが、エレオノールお嬢様。私はトリステイン魔法学院で2番目の成績でございます。筆記では……」

 

 最後に付け加えた一言にルイズの苦しさが現れていた。

 

「あんた、魔法もろくに使えないで、卒業後どうするつもり? いくら筆記が良くったって、アカデミーには入れないわよ」

「アカデミーに進学する予定はございません。私の夢は魔法衛士になることですから」

「まだそんなこと言ってるの。あきれた。お母様を悲しませるだけの親不孝な妹で困ったわ」

 

 エレオノールは遠慮なく言いたい放題をルイズにぶつけた。

 あまりルイズに同情したくはなかったが、さすがに少しはルイズに同情せざるを得なかった。

 

「ともかくあんたが魔法衛士になるなんて無理。だいたい、女が戦場に出る必要なんてないのよ」

「そんな昔の秩序で縛り付けないでください」

「だったら、戦場でどうする気? 敵に囲まれて、いまのあなたに何ができるの?」

「そ、それは……」

 

 ルイズは反論できなくなった。

 魔法衛士はトリスタニアの国防の要である。敵国の侵略を受けると、率先して戦う身。

 魔法を軍事的に扱うことができなければ、魔法衛士になることはできない。ましてや、ルイズは軍事的以前に、普通の魔法すらできなかった。

 

「無茶なことばかり言ってないで、もっとヴァリエール家のことを考えた行動をなさい。ワルド子爵も明日家を訪問されるわ。あんた、ワルド子爵の言うことなら聞くみたいだから、ちょうどいいわ。ワルド子爵に厳しく言いつけてもらいましょう」

「ワルド……」

 

 ルイズの表情が変わった。

 

「まあ、久しぶりに再会したんだから、あんまり対立するのも良くないわね。でも、ちゃんと考えときなさい、あんたはもう子供じゃないんだから」

「……」

 

 エレオノールは言いたいだけ言いまくると、そのまま金髪をなびかせながら、部屋を後にした。

 

 嵐の後には静けさが広がった。

 ルイズはしばらくその場に立ち尽くしていた。

 

「今のがルイズの姉ちゃんか? なんか色々厳しそうな人だな」

 

 サイトはエレオノールからあまりいい印象を受けなかった。しかし、貴族なんてみんなそんなものなのだろうと思った。

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