ゼロの使い魔 ルートシエスタ   作:やまもとやま

26 / 30
26、ラ・ロシェール

 当初は、ルイズとワルドの新婚旅行のようなものだったアルビオン旅行だが、それにサイトがついていくことが決まれば、すぐさま、ギーシュまでついてくるという団体旅行になった。

 

 一行はラ・ロシェールの港町を目指して、トリステイン魔法学院のゲートをくぐった。

 ワルドはルイズを乗せ、使い魔のグリフィンと共に華麗に門をくぐったのに対して、サイトとギーシュは巨大化したヴェルダンデに乗って、どしどしと上下に揺れながら門をくぐった。

 

「おい、揺れすぎだ。もうちっと静かに歩けないのか?」

「何言ってるんだい、地上ではこうでも、荒れ地の続く鉱山の中では、ジャイアントモグラは最高の交通手段なのだよ」

 

 ギーシュはそう言ったが、ヴェルダンデが前進するたびに、体がガタガタ揺れて、サイトにとっては感覚がおかしくなりそうだった。ヴェルダンデは地上を移動するための存在ではないだけに、1日移動するとなると、体への負担はかなりのものだった。

 

「あのな、おれたちは穴掘りに行くんじゃねえんだぞ」

「ラ・ロシェールはもともと鉱脈の地。錬金魔道士のメッカだよ。ヴェルダンデはその地にふさわしいのだよ」

 

 ギーシュはそう言うと、例によってバラの花をくわえた。ギーシュは乗馬にも、ヴェルダンデの背中にも慣れているようで、揺られることに抵抗感を覚えていなかった。

 

「鉱山を切り開き、開拓された港町がラ・ロシェールさ。その開拓には、何を隠そう我がグラモン家が中心になったのさ。フフフ」

 

 ギーシュは自分の手柄のように誇らしげに胸を張った。すごいのは、ギーシュではなく先代までのグラモン家である。

 

「しかし、そのラ・ロシェールもいまや風の町になった。錬金魔道士よりも風魔道士を数多く輩出するようになるとはアルビオンとの貿易の影響は計り知れないな」

 

 鉱山の町も、アルビオンとの間で貿易が進むと、ラ・ロシェールの経済圏はアルビオンに渡航する飛空艇ビジネスにとって代わって行った。

 飛空艇はいずれも風魔道士の手によって行われるので、かつて泥だらけで炭鉱を掘り進んでいた労働者たちも、風石を反応させてエネルギーを抽出するクリーンな仕事をするようになった。

 だが、その仕事からあぶれた底辺労働者たちによって、治安の悪い地域も多く、そのあたりの酒屋などでは、連日暴行事件が起こっていた。

 

 そうした底辺労働者もいまやいい仕事を得ていた。

 それがアルビオンレコンキスタの傭兵業務だ。

 底辺労働者はトリステイン政府に反感を覚えている。なので、彼らは積極的に国を裏切ってレコンキスタの味方となり、各地で盗賊行為を働くようになった。

 

 そんな治安の悪い状況での旅行だが、今回はワルドという優秀なメイジもついているし、ワルドのコネで安全な飛空艇を用意することもできる。

 

 しばらくはトリステインののどかな自然道が続いた。

 その道を歩くグリフィンとジャイアントモグラの一行は周囲には異質に映った。

 道を行く歩行人たちは例外なく、グリフィンとジャイアントモグラのほうに目を向けた。

 

 このあたりは治安もいいから盗賊が歩くこともない。また、トリステインの魔法衛士が駐屯兵として各地の見守りについている。

 ワルドは近くに見えた施設を指出して行った。

 

「あそこが兵士らの駐屯地だよ。僕も入隊してすぐはあそこで任務をこなしていたんだ」

 

 ワルドが指さした先には、森に囲まれた駐屯兵の連絡所が連なっており、末端の魔法衛士らが配属されていた。

 ルイズはその方角を見つめた。

 

「こんな田舎にも駐屯地があるのね」

「ああ、よく近場の酒場で喧嘩が起こって、そのたびに駆り出されたものだ。行ってみると、喧嘩してたのは同業者だってことも珍しくなかった」

 

 ワルドは懐かしそうに当時のことを語った。

 

「もし、私が魔法衛士になったら、あそこで仕事をすることになるのかしら」

「どうかな。ああいう僻地に出されるのはノンキャリア組ばかり。名家出身の者はもっと立派なところで任務に当たれるんじゃないかな」

「でも、ヴァリエールの地位ってだけで特別扱いはされたくないわ。ワルドと同じように実力で前に進みたいもの」

「そうか。ルイズは立派だな。君の才能があれば、きっと立派な魔法衛士になれるさ」

 

 ワルドはそう言うと、優しくルイズの背中を抱きしめた。

 二人は仲良く会話をこなしたが、ルイズは何となく仲の良い友人程度の感覚で話していた。少し前まで、話すのも緊張していたが、いまは抱きしめられても、それほど大きなときめきを覚えなかった。

 

 ワルドらの後ろには、ヴェルダンデがついていた。ヴェルダンデはのそのそと歩いているが、一歩が大きいため、それなりのスピードが出ていた。歩くたびに上下に揺れたが、サイトもようやくその感覚に慣れて来た。

 

「なあ、サイト」

「あん?」

 

 ギーシュが珍しくシリアスな声を出した。

 

「君は実に幸運な平民だよ」

「何だよ急に」

「ルイズの使い魔になったというだけで、あのワルド子爵に面倒を見てもらえるのだから。すべてのメイジのあこがれであるワルド子爵から魔法を襲われるなんてこの上ない幸運だ。君はその意味を理解しているのかね?」

「まあな、たしかについてたよ。師匠は偉大なメイジだ」

「僕もいつか魔法衛士になって、ワルド子爵と同じ部隊でトリステインを守る仕事をしたい」

 

 ギーシュも心底ワルドに憧れているようだった。メイジを志すギーシュにとっても、ワルドという存在はあまりに大きい。神格化されるような存在だった。

 

「幸運と言えばルイズもだな。ヴァリエールの生まれというだけでワルド子爵と一緒になれるなんて、世の中不公平極まりない」

「お前もグラモン家生まれで十分恵まれてんだろ」

「むろん、グラモン家に生まれたことには感謝しているさ。しかし、二人が結婚するとヴァリエール家はますます力を持つ。我がグラモン家の存在感が一層低下することになってしまう」

 

 ギーシュは苦い顔をした。

 名家同士、交流もあればそれなりにライバル心もある。家同士の争いは歴史も深く、サイトにとっては想像もできないほど、その争いは複雑である。

 まだ国よりも、家が強かった時代、家同士は多くの戦争を繰り広げて来た。

 

 サイトも話として聞いたことがあった。

 例えば、キュルケ出身のゲルマニアは、ツェルプストー家が強く、ルイズのヴァリエール家とは長期にわたって戦争を繰り広げていた。

 しかも、その戦争の間にはたびたび、女性関係が絡んでおり、ツェルプストー家は数多くのヴァリエール家の婦人を寝取ってきた経緯がある。

 グラモン家も歴史が深いだけに、それなりの対立があったのかもしれない。

 

「ところでサイト。君はルイズとワルド子爵の結婚をどう見ているんだい?」

「どうって、いいんじゃねえの?」

「サイト、君は愚か者かね。たとえ、相手が偉大なるワルド子爵だとしても、男としてのプライドを感じないのかね?」

「どういうことだよ?」

「主人が自分ではない男と結婚するんだ。男として思うところはないのかね?」

「特にねえけど」

 

 サイトは淡々と答えた。サイトはワルドとルイズが結婚することを素直に祝福していた。

 別に、ルイズは恋人でも何でもない。ルイズを魅力的な女性と見ようと思えば見れなくもないが、それ以上の感情はなかった。

 

「サイト、君はそれでも男か? 例えば、我が愛しのヴェルダンデに仮に恋人ができたとしたら、僕はきっと悲しい気持ちになるだろう。僕の知らない遠くの世界に行ってしまうのだとね」

「モグラにそんな気持ちになるのか?」

「当たり前だ。それが使い魔と主の関係というものだ。それぐらい強い絆でつながっているのさ」

「でも、お前はあちこちの女に手を出してたじゃねえか」

「おほん、それはそれ、これはこれさ」

 

 ギーシュはごまかした。

 

 サイトは前をゆくワルドとルイズのほうに目を向けた。

 特に男として、ワルドに嫉妬する気持ちは湧き上がってこなかった。ルイズはあくまでも主であり、自分にとって特別な異性ではない。

 これまでには、ルイズを好意的に見ていたこともあったかもしれない。最近、時折自分に見せる優しさには何か惹き付けられることがあったのも事実だ。しかし、それが得罰な感情につながることがなかった。

 

 サイトが異性を思うと、一番最初に思い浮かんでくるのは、シエスタの優しい笑顔だった。

 自分が一番苦しかった時に、誰よりも自分のことを思ってくれていたのがシエスタだった。サイトにとって、シエスタが特別な存在なのかもしれない。

 

 しかし、シエスタも含めて、女性を手中にするのはまだ早いという思いがあった。

 いまの未熟な実力ではまだ誰も守れない。ルイズも、シエスタも守れない。

 サイトはいまワルドのように強い存在となり、守りたいものを守れる存在になりたかった。ワルドという強き者に巡り合えた。サイトはそのワルドと肩を並べられるほど偉大な剣士になりたいという気持ちを一番に考えていた。

 

 ◇◇◇

 

 日が暮れ始めたころ、一行はラ・ロシェールの地域に差し掛かった。

 幅の大きな整備された道が現れ、大きな看板がかかっており、「ウェルカム、ラ・ロシェール」と書かれていた。

 

 サイトが見上げた先に、巨大な鉱山が連なっていた。まだこの地に入る前から、鉱山は見えていたが、近くに来ると、よりその迫力を感じることができた。鉱山のあちこちから煙がもくもくと上がっているのが見えた。

 

「煙が上がってるのはなんだ?」

「ああ、炎石を採集してるのさ。たいていドロドロに溶けているから、そのまま固まるまで、斜面に流してるんだ」

 

 炎石も魔石の一種で、炎系統の魔法を使ううえで貴重な鉱物となる。炎石はゲルマニアの火山が最大の採集場であるが、ラ・ロシェールでも発掘されていた。

 炎石の採集は難しく、炎石を掘っていると、突然高温の溶けた炎石のしぶきがかかってきて、それで失明する労働者も少なくない。

 

 ラ・ロシェールは大きな町で鉱山のふもとまでは、ところどころにレンガ造りの家が散らばっていたが、鉱山のふもとにやってくると、より大きな建物が増え、たくさんの人の賑わいが聞こえて来た。

 このあたりまで来ると、ヴェルダンデが異質ではなくなった。

 大きな通りの隣には、ヴェルダンデに似た巨大なモグラが鉱物を引っ張って、荒々しい音を立てて進んでいた。

 

「あれもヴェルダンデの仲間か?」

「あれはヴィクトリアモグラだ。で、あれがヴェルダンデと同じ種族だな。あっちのはスペンダーモグラだ」

 

 ギーシュはモグラ系統の魔物に詳しかった。

 モグラが多いのは、鉱山で採集された鉱物をそのまま錬金魔道士の勤める工場や鍛冶場に届けるためだった。

 

「いいね、この鉱物の香り。錬金魔術師の胸が高まる」

「お前、魔法衛士か錬金魔道士かどっちが目標なんだ?」

「その2つの夢は矛盾しないさ。魔法衛士兼錬金魔道士ってやつだ。魔法衛士になった暁には、この地で仕事をしたいものだ」

 

 ギーシュが言うように、ラ・ロシェールは多様な鉱物が採れる錬金魔道士のメッカと言えた。

 サイトもファンタジーらしい町の様子に胸の高鳴りを覚えた。おそらく、あらゆる建物が魔法によって造られている。それらの1つ1つに感動を覚えた。

 しかし、これらはラ・ロシェールの顔の1つでしかない。

 目の前にある巨大な鉱山を越えた高地には、空に浮かぶ大陸「アルビオン」が広がっている。ここからは見えないが、その景色はさらにファンタジー色が強い。サイトはそのアルビオンを楽しみに、鉱山のはるか先にまざなしを向けた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。