ゼロの使い魔 ルートシエスタ   作:やまもとやま

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4、ガンダールヴ

 サイトは走馬灯のようなものを見ていた。

 色々な情報が脳に入ってきては出ていくような感じだった。

 入ってくる情報はそのほとんどが悲しみに満ちていた。

 

 一人の男が愛する人の亡骸を抱きしめていた。

 その男の顔は鬼のように威厳があり、その体つきはたくましかった。歴史に名を遺すようなサムライの風格があった。

 その鬼のようなサムライが悲しみに打ちひしがれていた。

 

 愛する人を守れなかったという己の無力さがサイトにも伝わってきた。

 胸が強烈に痛んだ。こんなに苦しい気持ちになったのは初めてのことだった。

 

 サイトはその男のそうした感情と同時に、その男が持つ剣術の心得までをも吸収していた。

 その男は悲しみをそっと胸の奥に閉じ込め、ゆっくりと日本刀を引き抜いた。

 

 目の前に、仇がいる。

 男は鬼の形相で剣を両手持ち上段に構えた。それが男の流派だったようである。

 

 サイトはその男の心得をすべて引き継いでいた。

 体が自然と動いた。

 男の心にとりつかれたように、サイトの表情が変化した。目が赤く輝き、異様なオーラを放ち始めた。

 

 周囲で見ていた者たちもみな異様さを感じていた。

 

「お、おい、あの平民様子がおかしいぞ。まるで人が変わったみたいだ」

 

 これまでサイトを馬鹿にしていた者たちも、いまは恐ろしい鬼を見るように怯えを感じ始めていた。

 

 サイトは握り締めた日本刀を上段に構えた。そのフォームは一流のサムライのそれと同じだった。さらに光り輝くルーンが血のように真っ赤に染まった。その輝きはサイトの全身を包み込んだ。

 

「う……」

 

 ギーシュの顔からは一瞬で血の気が引いた。自然と体が震え始めた。サイトの放つ気迫は人間離れしていた。

 

 誰もサイトには近づけなかった。

 ルイズとシエスタもただサイトを見ていることしかできなかった。

 

 サイトはゆっくりと前に足を運んだ。

 サイトが踏み出した地面の草花が一瞬で消え去った。明らかに異常な魔力に満たされていた。

 

「ワルキューレ!」

 

 ギーシュは狼狽した面持ちでワルキューレを前線に出すと、サイトに向かわせた。

 

 しかし。

 

 目にも留まらぬ居合一閃。

 

 サイトの一太刀が3体のワルキューレをまとめて両断した。

 両断された断面からはまるで血のようなものが溢れた。それは悲しみや憎悪に満ちた何かだった。

 

 ワルキューレはその悲しみか憎悪なる何かに呑み込まれ消滅してしまった。

 

「な、なんだ今の剣は……」

 

 周囲の者はさらなる畏怖を感じた。

 サイトは平民であり、魔法が使えないはずだ。しかし、サイトが繰り出した一撃はまぎれもなく魔法だった。

 

 サイトの一撃の破壊力に、ギーシュは完全に打ちのめされていた。

 

「ま、参った。僕の負けだ」

 

 そう言うギーシュに対して、サイトは容赦なく距離を詰めた。サイトの目は鬼のように鋭く、そして赤い眼光を放っていた。それは殺意に満ちた目だった。

 

「お、おい、聞いているのか?」

「……」

「ぼ、僕を殺すというのか?」

 

 サイトはそのおとおりだと言わんばかりに、ギーシュの近くに到達すると、ゆっくりと日本刀を上段に構えた。

 

「お、おい、誰か止めろよ。ギーシュが殺されちまうぞ」

「止めろって、ど、どうやって?」

 

 もはや誰も止めることはできなかった。サイトは鬼と化しており、ギーシュを斬るべき仇だと認識していた。

 

「た、頼む。助けてくれ。僕が悪かった」

 

 ギーシュの命乞いもサイトには届かなかった。

 サイトはギーシュにめがけて、日本刀を振り下ろそうとした。

 

 ギーシュは死を覚悟して目を閉じた。

 

 その時、突然の介入。

 

 シエスタはサイトの背中を抱きしめて言った。

 

「サイトさん、ダメです」

「……」

 

 サイトは振り下ろそうとした日本刀を止めた。

 最愛の人の声が男の狂気に安らぎを与えた。

 サイトの脳裏にとりついていた男の呪縛は、成仏するかのようにスッと消え去っていった。

 男の持っていた妖刀は粉々に砕け散り、鬼の形相は消えた。

 

 男は天を仰ぐと、そのまま安らかな光に包まれて消えてなくなった。

 

 サイトも意識を取り戻した。

 

「おれはいったい何を……」

 

 正気を取り戻したサイトは全身に激痛を覚え、そのまま意識が遠のいた。

 

「サイトさん!」

 

 シエスタの声が遠くに聞こえる中、サイトの意識は沈んでいった。

 

 ◇◇◇

 

 トリステイン魔法学院の学院長のオールドオスマンは王室に提出する定期報告書を面倒くさそうに執筆していた。

 オスマンはトリステイン魔法学院が創立されたときから、この地で教鞭を振るっている。トリステイン魔法学院の歴史は130年にも及ぶから、オスマンの年齢もそれに相応する。

 オスマンはところどころ記憶を無くしており、自分の年齢も良く覚えていなかった。

 オスマンは机の上で木の実を齧っていた使い魔のモートソグニルを自分の手のひらに乗せた。

 

「まったく退屈であるな、モートソグニルや」

 

 モートソグニルはネズミである。しかし、ただのネズミではなく、高い知性と高い魔力を秘めている。オスマンに仕えて100年以上が経過している。

 モートソグニルも歳を取ったが、見た目には可愛らしいネズミであった。

 

「しかし、今回はいつも通り空白というわけではない。2年生のサモンサーヴァントがあったからな。とはいえじゃ……ワシの秘書のミスロングビルが優秀ゆえ、ワシが眠っている間にすべてやってくれていたようじゃ。これでは、ワシの仕事は何もないではないか。ワシはますますボケてしまうではないか」

 

 オスマンはそう言いながら、懐からキセルを取り出してくわえた。

 

「ワシの楽しみはこんなことしかないわい。モートソグニルや、火をつけてくれるか」

 

 オスマンがそう言うと、モートソグニルはしっぽから小さな炎を発生させ、それをオスマンのキセルに点火させた。

 

「うむ、今日も実に心地よい。さて、仕事も片付いたことじゃ。マルトーシェフの特別ランチに舌鼓と行こうか」

 

 オスマンがそう言って席を立とうとしたところで、学院長室がノックされた。

 

「入りたまえ」

「失礼します、オールドオスマン学院長」

「おー、ミスロングビルか。今日も実に美しいの。モートソグニル、いつもの確認を頼む」

 

 何やらオスマンの指示を受けたモートソグニルはそのまま姿を透明にした。モートソグニルはさまざまな魔力を扱えるネズミであり、自らの姿を透明にすることもできた。

 ロングビルはオスマンの秘書として学院で働いている。大変な美人であったということで、オスマンが直々に任命していた。

 

「オールドオスマン学院長、大変なことがあったようでして、報告させていただきます」

「大変なことじゃ? すべては小事じゃ」

「生徒同士で喧嘩があったようで、一人が意識不明の重体になったということです。話によると、ミスタグラモンとミスヴァリエールの使い魔であるヒラガサイトの間でいざこざがあったようです」

「意識不明の重体? かー、この平和な学院でなんでそんなことが起こるんじゃ」

「詳しいことはわかりませんが、使い魔のヒラガサイトが負傷したという話です」

「グラモン家のドラ息子か。まったく、我が学院の格を落としおって。して、ミスヴァリエールの使い魔は助かりそうなのか?」

「一刻を争う状況ということです」

「まったく学院内で傷害事件があったなどと王室に報告したら、ますます学院のイメージが悪くなってしまうわ」

 

 オスマンはキセルを吹かせた。

 

「わかった。ともかくミスヴァリエールの使い魔の回復に全力を注ぐように。あとでワシも確認しよう」

「お願いします」

 

 ロングビルはていねいに頭を下げると、学院長室を後にした。

 ロングビルがいなくなったのを確認すると、オスマンは手のひらに戻ってきていたモートソグニルに尋ねた。

 

「さて、どうじゃった?」

「チューチュー」

 

 透明状態から戻ったモートソグニルは何やら報告した。

 

「ほう白か。うーむ、ワシとしてはミスロングビルは黒が似合うんじゃないかと思うのじゃが……いでっ」

 

 突然、オスマンの上に投石。

 オスマンは頭を押さえてうずくまった。

 落下してきた石はやがて1枚の紙に変化した。これも魔法の力だった。

 

 紙には「次やったら、セクハラ行為を王室に報告します。 ロングビルより」と書かれていた。

 オスマンはモートソグニルを透明にして、ロングビルのスカートの下に忍ばせたが、残念ながらばれていたようであった。

 

「かー、ミスロングビルは秘書としての自覚がなっとらんようじゃ。いでっいででで」

 

 今度は小さな石がいくつも落石してきて、オスマンは再び頭を抱えた。

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