ゼロの使い魔 ルートシエスタ   作:やまもとやま

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5、ルイズとシエスタ

 サイトとギーシュの戦いはサイトの勝利に終わった。

 刀を握り締めたサイトは突如一流の魔法剣士に豹変した。ギーシュの召喚したゴーレムをいとも簡単に両断してしまった。

 魔法学院の生徒たちはその光景を見ていたから、サイトへの評価も変わったようである。

 

 しかし、そのサイトは大変な痛手を受けており、すぐに治療が行われた。

 学院に駐屯している治癒魔道士がサイトの治療に当たった。その治癒魔道士は老齢だが、熟練の魔道士だった。

 治癒魔道士は魔法の力で配合した薬を使ってサイトを治療した。

 地球では、点滴を用いて患者の血液に薬品を送り込むが、治癒魔道士は魔法の力でサイトの皮膚よりその内部に浸透させた。

 

 サイトは4か所を肋骨、傷も深く動脈を破損していた。

 しかし、魔法の薬品の力は絶大で、わずかな時間の間にサイトの傷は癒えていった。

 治癒魔道士が今回使った秘薬は自然治癒力を100倍以上に高める高価なものだった。

 

 治癒魔道士は治療にかかった秘薬の費用をサイトの主人であるルイズに請求した。

 

「まったく自分の使い魔を瀕死状態にさせるなど実にけしからん。おぬしはヴァリエールの娘なのじゃろう? 家の名誉に傷がつくことであるぞ」

「はい、申し訳ありません」

 

 ルイズは申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「しかし、ヴァリエールの者で良かったわい。とりっぱぐれがないからの」

 

 治癒魔道士は笑った。

 

「それで、使い魔の具合はどうなのでしょう?」

「もう問題ないわい。そのうち目を覚ますじゃろう。ワシの役目はこれで終わりじゃ。あとはお前さんが面倒を見てやんな。ほれ、目が覚めたら、この瓶の水を飲ませてやんな」

 

 治癒魔道士はルイズに魔法の水瓶を渡すと、そのまま差っていった。

 ルイズはそのままサイトが眠っている病室の中に入った。

 

 サイトの治療が完了したということを聞いて、ルイズはすぐに病室に向かったのだが、そんなルイズより早く病室に来ている者があった。

 ルイズが病室に入ると、サイトに付き添っていたシエスタは立ち上がり頭を下げた。

 

「お邪魔しております、ミスヴァリエール」

「あんた確かあのときの……」

 

 ルイズにとって、シエスタは赤の他人だ。ルイズがトリステイン魔法学院に入学するのと同じくしてシエスタもここにやってきていた。

 つまり、二人は同期であり1年以上も学院内で生活していることになる。しかし、ルイズはシエスタとはろくに会話をしたことがなかった。せいぜい、売店でやり取りをしたことがあるかどうかだった。

 

「シエスタと申します」

「どうも」

 

 ルイズは不愛想に答えた。シエスタが平民というのもあったが、それ以上にシエスタへの嫌悪感が沸いた。その理由はルイズ自身もよくわからなかった。

 

 サイトはベッドの上で眠っていた。まだ意識を取り戻してはいなかったが、呼吸は落ち着いていて、はたから見ていても命に別状はなさそうだった。

 

「サイトさん、まだ目を覚まされないのです。もう3日以上も眠り続けておられるのです」

 

 シエスタは心配そうな表情を浮かべながら、サイトの手を握り締めた。

 

「サイトさん、早く目覚めてください」

「……」

 

 ルイズはサイトの手を握り締めるシエスタを見下ろした。見ているだけでとても不快な気分になった。

 自分の使い魔に馴れ馴れしく触れているからなのか、もっと別の理由なのか、ルイズ自身もよくわからなかった。

 

「ちょっとどいてくれる?」

「あ、はい、すみません」

 

 シエスタは慌てて椅子から立ち上がると、ルイズに差し出した。しかし、ルイズはシエスタが座っていた椅子には座りたくなかった。

 ルイズはサイトのそばに腰を下ろすと、不満げな目を向けた。

 

「まったく、あんたは世話のかかる使い魔よ」

 

 ルイズはシエスタと違い優しい声をかけることはなかった。

 

「何の役にも立たないくせに問題行動は起こすんだから。これじゃ暴れん坊のインプを使い魔にしたのと変わらないわ。いえ、それ以下だわ」

 

 ルイズはまだ意識を取り戻さないサイトに対して、さんざんの言葉をかけた。

 それを見ていたシエスタはルイズの隣に腰を下ろした。

 

「それは違います、ミスヴァリエール」

「は?」

「サイトさんはとても優しく正義心に溢れる立派なナイトです。私にはわかるのです」

「……ふん、メイドの分際で私に意見するつもり?」

「申し訳ありません。ですが、それだけは訂正させてください。サイトさんは立派なナイトです」

 

 シエスタは強い目でルイズを見返した。

 貴族と平民では大きな身分差がある。本来、シエスタは貴族に意見することはできない身だ。

 しかし、シエスタはこれだけは譲れないという強い意志でルイズに意見した。

 

 その強い思いがルイズにも伝わった。だから、ルイズもこれ以上シエスタを咎めることができなかった。

 シエスタが示した強い思いの原点は、サイトを愛する想いだった。しかし、ルイズにはその感情をまだ理解することができなかった。

 

 とはいえ、シエスタがサイトを偉大なナイトであると称したのにも一理ある。

 サイトがギーシュの用意した刀を握り締めたとたん、サイトは豹変した。

 ルイズにもそれはわかった。

 もしかしたら、サイトは本当に名の通ったナイトなのかもしれない。

 

 それを確かめるためにはサイトが目覚めるのを待つほかなかった。

 サイトはなかなか目を覚まさなかった。ルイズがここにやってきて1時間が経過したが、まだサイトは眠り続けていた。

 ルイズは待ちくたびれた様子になったが、シエスタはジーっとサイトの寝顔を見つめていた。その集中力はいつまでも変わらなかった。

 

 その時、病室を訪れる者がいた。

 

「はあはあ、くたびれた……この歳になると、ちょっと走るのもしんどいよ」

 

 息を切らしながらやってきたのはルイズの担任教師でもあるコルベールだった。

 ルイズは立ち上がってコルベールに会釈した。

 

「コルベール先生、出張でトリステイン王室に出られていたのではなかったのですか?」

「君の使い魔のサイト君が怪我をしたと伝令を受け取ってね、慌てて帰ってきたんだよ。教師たる者、教え子の問題が最優先。馬を走らせ帰ってきたわけだ」

 

 コルベールはまだ収まらない鼓動の中、汗をぬぐった。

 

「サイト君の様子は?」

「まだ目を覚ましてはいませんが、命に別状はないそうです」

「そうか……」

 

 コルベールはサイトの様子をその目で確かめた。

 

「しかし何があったのかね? ずいぶんと大きな怪我に見えるが」

「えっとそれは……」

 

 ルイズは口ごもった。ギーシュと喧嘩したなどと言うと、また色々面倒なことになりそうだったので正直には言いづらかった。

 しかし、嘘を言ってもいずればれること。ルイズは素直に白状した。

 

「ギーシュと喧嘩したそうです。平民だと馬鹿にされて逆上したのだと思います」

 

 ルイズはそう言ったが、シエスタはすぐに介入した。

 

「いえ、そうではありません。サイトさんは私を助けようとしてかばってくれたのです」

 

 シエスタはそれからより詳しい事情をコルベールに話した。

 コルベールもトリステイン魔法学院の教師、つまりは貴族の身分である。しかし、コルベールは身分に関係なく誰にもフレンドリーに接した。

 

「なるほど、そんなことが。それならば、ギーシュ君に問題があるな」

 

 コルベールははっきり言った。

 

「新王政が発足して身分制度はなくなったんだ。もはやトリステインに貴族も平民もない」

 

 コルベールは力説した。

 

 ここトリステインでは、新学期が始まるころアンリエッタがトリステインの女王として即位した。

 アンリエッタはいくつかの公約を掲げており、それらの公約は即位と同時に有効になった。

 

 アンリエッタの公約はトリステイン王政の左派のものが広く継承されており、グローバル経済、自由経済を軸に人種差別の廃絶などに関して大きく法改正するものだった。

 それゆえ、アンリエッタの公約は右派から猛反発を受けるものになった。

 これまでの法律では、貴族が平民を雇う際には、その賃金を雇い主が自由に決めて良かった。貴族を雇う際には1日あたり新金貨50枚の支払いが義務付けられているが、平民にはそういうものがなかった。

 アンリエッタ即位によって、平民を雇う際も新金貨50枚を最低限の日当として支払わなければならなくなった。

 シエスタもその恩恵を受けて、いまは新金貨58枚を受け取って生活している。

 

 アンリエッタの公約には平民と貴族の法的平等があり、法的には平民と貴族の差は完全になくなった。

 しかし、法的にそうなっても、人々の中に植え付けられた風習は簡単には変わらなかった。

 今でも平民を差別する名残があった。

 

 コルベールはいわゆる左派であり、何年も前から貴族と平民の法的平等を訴えていた。

 

「ルイズ君」

「はい」

「君もサイト君の面倒をきちんと見てあげなければいけない。使い魔の問題は主人の問題でもあるのだからな」

「私はちゃんと面倒見ています。私が授業を受けている間に使い魔が勝手をやったんです」

「そうかな、サイト君からいくつか相談を受けていたよ。非人道的な仕打ちを受けていると」

「それは……」

「ともかくこれを機に、もっとサイト君の身になってあげるんだ。わかったね?」

「はい」

 

 ルイズは頭を下げた。

 続いて、病室に一匹のふくろうが飛んでやってきた。

 ふくろうは病室の扉の前でホーホーと鳴き声を上げた。

 

「伝令か。ちょっと待ってくれ」

 

 コルベールは扉を開けて、ふくろうを自分の腕にとめた。

 

「ホーホーホーホー」

「学院長がすぐ来るようにと? わかった。すぐに行こう」

 

 コルベールはふくろうの言葉を理解することができた。これも魔法である。

 ふくろうは用件を伝えるとどこかへ飛び去って行った。

 

 このふくろうはトリステインに生息する悪魔の一種であり、特殊な音波を操ることができる。

 古来から伝令に使用されてきた。

 特殊な音波を使い分けることで、秘密裏に情報を受け渡すことができる。伝えたい相手にだけ聞こえる音波を使うことで、周りにスパイがいてもその情報を理解することができない。

 先ほどのふくろうもコルベールにだけわかる音波で伝言を伝えていた。

 

「僕はこれから学院長室に行かなければならない。ルイズ君はサイト君が目を覚ますまでそばにいてあげなさい」

「わかりました」

 

 コルベールは学院長室に向けて走った。

 

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