呪術廻戦にP5のジョーカーぶち込んでみた   作:全てのイシを拾イシ者

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#12

 7.

 

「──つまり、キミ達の親玉の目的は『今の人間』と『呪い』の立場を『入れ替え』る事……といった所かな?」

 

 ファミレスの席で、袈裟を着る男が独言する。

 注文の一つも取らず、ただ坦々と空想に話しかける様は、しかし周囲の人々には関心を寄せるには至らなかったようだ。皆友人やらと語り合っており、袈裟の男は意識どころか存在の認知すらされていなかった。

 

「……少し違うな」

 

 ──()人の『ナニカ』を除いて。

 否、四体と呼ぶべきだろうか。袈裟の男の左隣の席に座る、巨大な蛸のキャラクター。ゆるキャラと言っても過言ではないほど、つぶらな瞳が可愛らしい。時折、ぷふぅーぷふぅーと呼吸を繰り返している。

 その蛸たちの前に座る屈強なるそれは、左腕を布で覆い隠している。二メートルはあろうその身長の頂点、頭部を見ると、目からは『木』が空へと伸びている。口は剥き出しで、体は全体に掛けて黒の紋様が張り巡らされていた。

 袈裟の男の前に座る一ツ眼小僧のそれ。火山頭からは常に蒸気が発生している。フードの付いた斑柄のポンチョのような物を着るそれが、ずっと袈裟の男と会話していたのだ。

 その火山頭の隣に座るのは四体目。その容姿は、一言で『まっくろくろすけ』と呼称出来る。黒手袋を着用しており、それは二の腕を掴んでいる。スラックスの先の黒い革靴は、行儀という言葉を忘れたように机の上で組まれている。フードを深く被っているのにも関わらず布作面(ふさくめん)で顔を被っており、顔は分からない。

 ……いや、そもそも無いのかもしれない。良く見ると、手袋や靴下の隙間、頭巾の奥に見えるであろう『肌』が、どこにも見当たらないのだ。向こうの景色が見えるだけで、あるはずの肌がどこにも無かった。

 

「人間とは『嘘』だ。己の身から出る正の行動には、必ず負の感情が隠れている。

 だが憎悪、殺意から来る感情は、人間の持ち得る唯一の『真実』。そこから転じ生を受けた我らこそ──真の人間と呼ぶべき存在だ。

 贋物は、消えて然るべき……!」

 

 そう言い切る火山頭を、しかし袈裟の男は一蹴する。

 

「でも現状、戦ったとしても負けるのは君達の方だろう?」

「だから貴様に聞いているのだろうが。……で、我々はどうすれば呪術師に勝てる?」

「うん……三つ、条件を満たせば勝てるよ。

 一つ、現代最強と名高い呪術師、五条悟を戦闘不能にする事。

 二つ、五条悟を超える可能性のある呪術師、雨宮蓮も戦闘不能にする事。

 三つ、両面宿儺……虎杖悠仁を仲間に引き入れる事」

 

 それを聞いて、火山頭は訝しんだ。

 

「いや待て……五条悟はさて置くとして、宿儺の器である虎杖悠仁は死んだのだろう? 雨宮蓮も、現時点で既に戦闘不能だ。後は五条悟をどうにかするだけなのではないか?」

「さあ、どうかな」

 

 そう言う袈裟の男の表情は、愉楽に歪んでいた。

 回答をはぐらかす男の思惑が、己の思惑通りである事に漏瑚が気付くまで、あと──

 

 

 8.

 

「許可なく見上げるな。不愉快だ、小僧」

「なら降りてこい。思う存分見下してやっから」

 

 血の泥の上に、少年は立っている。組み立てられた牛頭骨の山の上に、少年と瓜二つの男が座っている。少年の名は虎杖悠仁、男の名は両面宿儺。だが宿儺の服装は、少年の制服と異なっていた。

 宿儺は現在、白い着物を着用している。右前に正しく着られるその着物は、袖と袂が男性用のそれよりも大きい。青い襟巻きを後ろに流している。組まれた足を見れば、黒い足袋(たび)と草履を履いていることが分かる。

 二人の間では、火花さえも散るかというほどに空気が切迫している。それもそのはず、虎杖悠仁は眼前の両面宿儺によって殺害されたのだから。

 

「ここどこだ……あの世か? まあどこでもいいや。死んだ後もテメエと一緒なのは癪だけど」

 

 現在虎杖悠仁は、見覚えのない空間にて辺りを見渡していた。

 まるでそこは地獄。天井に延々と掛かる巨大な肋骨の橋々は、生前に見た雨宮蓮の領域展開を想起させる。足元は血の泥で埋もれている。地面は、靴底から来る感触からして、土ほど柔らかくはないがコンクリートほど固くもない。

 だがそれだけだ。それら以外には何も無い。悠仁はその光景を気色悪いと吐き捨てた。

 

「随分と殺気立っているなァ、小僧」

「当たり前だろ! 蓮傷つけられた挙句テメエに殺されてんだぞ!」

「お前の腕も含め、雨宮蓮もあの後ちゃんと治してやったというのに。その恩を忘れたか?」

「傷つけてる時点で──赦せねえんだよッ!!」 

 

 落ちていた牛頭の骨を適当に掴み、宿儺へと投擲する。砲丸投げで世界記録を大いに超えるほどの膂力を持つ体は、一直線に宿儺へと向かう。

 だがそれを宿儺がわざわざ受けてやる道理はない。浮遊するように宙を舞い回避、一本の肋骨の上へと着地するが、その肋骨の橋を、物凄い勢いで駆け上がってくる獣が見えた。

 

「歯ァ食い縛れや!!」

「必要無い」

 

 獣の意気を、化物は嘲笑う。悠仁の拳を、宿儺は難なく往なし躱す。悠仁にとっての生死を分けた大喧嘩は、宿儺にとっては鼠の小競り合いでしかない。

 だからこそ、悠仁は宿儺の油断を突く。下方に往なされた右拳は、次なる一手のために引っ込めず、そのまま肋骨の橋へとブチ当てた。悠仁の怪力は、コンクリートさえも軽くブチ抜ける。

 果たして肋骨の橋は、流石の宿儺のバランスをも崩した。

 

最初(ハナ)から足場を……)

「バーカ! 引っかかってやんのォッ!」

 

 その隙を逃すほど悠仁は鈍感ではない。地を突く右拳を起点にして体を捻り、左踵にて一蹴する技──躰道(たいどう)における旋状蹴りを、宿儺へと見舞う。

 だが宿儺のフィジカルであれば、この程度の攻撃ならば簡単に避けられる事を悠仁は見て知っている。──だが、蹴りに体勢を崩している今、悠仁に出来る事はなく。

 

「……オマエ()詰まらんな」

「お゙うっ、ってあら〜〜〜!?」

 

 吐き捨てた宿儺にげし、と足蹴にされて、ひゅ〜〜〜、と地に落ちてしまう。

 

「ヘブっ! ぶはぁっ、ンのやぶぉっ!? ……おぶっ!」

「何だ、良い腰掛けではないか」

 

 着水、起き上がろうとするも降りてきた宿儺に足場にされドボン、そして椅子にされた事で三度目のぼちゃん。悠仁の今までの生の中で、一気に三度も溺れかけたのは初めてだった。それを意に介さず、宿儺は口を開く。

 

「ここはあの世ではない。俺の生得領域の中だ。心の中と置き換えても良い。つまりこうして会話出来ているという事は……我々はまだ死んでいないということだ。

 さて小僧、お前が俺の出す条件を飲むのであれば、お前の心臓を治してやろう。雨宮蓮を治した時のようにな。

 条件は二つだ。①:俺が『契闊(けいかつ)』と唱えたとき、お前は俺に一分間体を明け渡す。②:この約束をお前は忘れる。

 この二つを飲めば、お前の心臓は治すと約束しよう」

「お断りだね。何すんのかは知らんけど、今回でハッキリ分かった。テメエは『邪悪』だ。テメエの要求なんざ飲まねえし、そうまでして生き延びてえなら無条件で治せや、クソイキリ野郎」

「事情が変わったのだ。近々、面白いものが見れるぞ小僧」

「ハッ、さんざ息巻いといて結局日和ってんじゃねえかよ。死にたくねえならそう言えよ。……いや待て、それで蘇ったとして…………。

 ──テメエ、蓮で何するつもりだ!!」

「ほう」

 

 宿儺は初めて悠仁の勘に少し感嘆した。

 

「勘だけは鋭いな、仔犬風情が」

 

 だが、宿儺には蓮をどうこうしようというつもりはない。……いや、強敵として認めているので、より洗練された蓮と戦いたいとは思ってはいるが。勘違いしているのならそれでも構わない、むしろ好都合だと、宿儺は続ける。

 

「蓮から鍛えられたんでな。(主に頭を)……それはそうと質問に答えろ。

 ……いや、もう答えなくて良いぜ。大方、蓮のペルソナを使って完全復活とか企んでんだろ? 蓮のペルソナ能力は未知数だからな。どう使うのかは知らんけど、お決まりのパターンだもんなぁ、敵の能力を利用して逆転ってのは。

 ──させねえよ。ここで俺と死ぬか、無条件で俺を治すか、その二択から選びやがれ」

「……はー、うざ」

 

 今度は溜息を吐いた。

 

「ならその一分間は、誰も傷つけんし殺さんと約束する」

「信用できるか!」

「するしない以前に、これ(縛り)を破れば罰を受けるのは俺の方だ。利害による縛りは、呪術における重要な因子の一つ。お前も身を以って知っているはずだ」

「んなこた知った事じゃねー! 二度とテメエの好きには──」

「……はあ、ではこれはどうだ? 『これから俺とお前で殺し合い、勝った方の要求を飲む』」

 

 その言い草に、しかし悠仁は少し淀んだ。

 あの雨宮蓮を終始圧倒していた両面宿儺と戦う。それがどういう事なのかが分からない悠仁ではない。蓮と戦う宿儺を、宿儺の目を通して見ていた悠仁が分からない道理はないのだ。

 だが、今の悠仁は頭に血が上っている。怒髪天を衝くと言っても足りないほどだ。これ以上、友や罪の無い人々を、宿儺の好きにさせるつもりは無い。

 一瞬体を浮かせ、その一瞬の内に宿儺の尻による呪縛から解き放たれた悠仁は、宿儺から距離を取った。四つん這いの状態から立ち上がりつつ──

 

「『いいぜ』、ボコボ──」

 

 ──散、という音と共に、悠仁の意識はここで途切れ。

 ここで得た記憶は、悠仁の頭から永遠に失われた。

 

 

 9.

 

「伊地知。僕はね、夢があるんだ」

 

 そうして伊地知潔高に語るのは、五条悟。検死室で、虎杖悠仁の遺体の前で、悟は己が夢を語り始める。

 

「保身馬鹿、世襲馬鹿、高慢馬鹿、ただの馬鹿……腐ったミカンのバーゲンセールだよ、今の呪術界上層部は。

 ──だから、リセットするんだ。

 僕らの代で、呪術界の悪習を終わらせる。上層部の玉座を叩き落とし、古典的な封建制度を取り替える。

 上の連中の鏖殺なんて赤子を殺すより簡単だよ。でもそれだけじゃ、首がすげ変わるだけで変革は起きない。そんなやり方じゃ、誰もついて来ないしね。──だから僕は、『教育』という手段を選んだんだ」

 

 若人の教育。強く聡い仲間を増やし、呪術界に多様性をもたらす事。それが悟の目指す未来であり、吾郎への真の(はなむけ)。吾郎が生きるはずだった未来を、誰もがもっと楽に呼吸出来るように。

 

「恵も、野薔薇も、蓮も……二年生も。三年の(はかり)も。皆強くなる。これからの呪術界を引っ張っていく、その代表者なんだよ。そして……」

 

 ……悠仁もその一人だった……!!

 

「……話はもう良いだろう。ほら、さっさと出なよ。解剖するとこも見てるつもりか?」

「しっかり役立てろよ」

「役立てるとも。──誰に言ってんの

 

 そう言う硝子の背中で──

 

 

うお、フル◯ンじゃん!

 

 

 別の誰かの声が聞こえた。

 明るめの少年の声。その声の主を悟は知っていた。そして、二度と聞けないと思っていた。

 自身が全裸である事に驚愕する少年は──

 

「ご──ご、ごごっ、ごご、ご! いき、いきいいいきいき!!」

「はは、伊地知うるさい」

 

 ──紛れもなく、()()()()()()()()()()

 心臓にポッカリと空いた空洞は無くなり、かつての肉と心臓を取り戻している。楽々と起き上がれたことから、後遺症も無いと推察できる。

 

「えー、ちょっと残念」

「あの……恥ずいんスけど……」

 

 しかしその目覚めは、ちょっと微妙と言わざるを得なかった。朴念仁を絵に描いたような悠仁でも、流石に自身の象徴さんを見られるのは恥ずかしかったようだ。

 硝子が取り敢えず水色のクラシコを用意している最中、悟は悠仁に近付き、手を掲げながら言い放つ。

 

「おかえり、悠仁」

「うん。ただいま、先生!」

 

 その手に、悠仁は笑顔と共に答えた。

 虎杖悠仁、帰還。完全復活。

 

 

 10.

 男はレストランのウェイターだ。

 男には義妹が四人おり、その四人の大学の学費を稼ぐため、日々バイトに精を出している。皆可愛い、自慢の義妹だ。その兄であるからこそ、男はバイトを辞めるわけにはいかなかった。それに何より、男は正義感が強かった。

 だが──

 

(ああ……ヤバい、ここにいると──死ぬ!!!)

 

 ──そんな男でさえも抗えない、生存本能。人間がとうに捨てたはずの獣の感覚が、男の全神経をプッシュした。

 足が震えているのが分かる。冷や汗が止めどなく溢れていくのが判る。あまりの恐怖に胃酸が込み上げてくるのが解る。

 その怖気は、袈裟の男が座る五番テーブルにある。

 男は詳細を知らない。そもそも男には、呪術の才能がある訳でもなければ、呪力を一定以上持っている訳でもない。だが、とても朧げにだが、嫌なモノの雰囲気くらいは掴める。

 その感覚が男を生かし、後に四人の義妹に再び会うことが出来た。

 

「つまり、儂らでは五条悟には敵わぬと?」

「雨宮蓮もね。ヒラヒラ逃げられるか、最悪の場合、君達は消される。『殺す』よりも『封じ』た方が良いと思うよ」

「封じる? その手立てはあるのか?」

「──特級呪物、《獄門彊(ごくもんきょう)》を使うのさ」

「何と──持っているのか、あの忌み物を!!!」

 

 ポッポー、と火山頭の溶岩が沸騰する。

 

「……漏瑚(じょうご)、興奮するな。暑くなる」

 

 袈裟の男はそれを揶揄する。だが、漏瑚の勢いが収まる事は無い。

 ──そしてここが、ウェイターの男の限界だった。

 

「すみません店長、俺辞めます!!」

「は!? いやちょ、おい!」

 

 財布と携帯といった貴重品は常にポケットに入れてある。服や鞄などはまた買えば良い。我慢の限界が来て、男は正面入口から制服姿のまま逃亡した。

 店長と呼ばれた唇の厚い男が頭を掻き、舌打ちをする。逃げ出した男の意味不明な行動によるのもあるが、店員がバイトをばっくれると風評が広がってしまえば、店の売上に直結してしまうためだ。

 

「あーもー何だってんだよ……、五番は注文取らねーし、バイトばっくれる奴が出て来やがるし……」

「店長、私注文聞きましょうか?」

「いや……もういいよ……」

 

 聞くくらいなら行けよ、と心中に罵声を留めながら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事に違和感を感じながらも、店長は男に注文を伺い──

 

「お客様、ご注文はいかがいたし──

 

 ──それが店長の遺言となった。

 一瞬にして男を男たらしめた要素が燃え尽き炭となってなお、火は焔々と盛る。ウェイターの叫び声が伝播して、座っていた客達が次々と立ち上がり、逃れようと必死になるが……

 

「あーあ、あまり騒ぎは起こしてほしくないんだけど」

「こうすれば良かろう」

 

 ……呆気なく燃え尽き、死んでいく。

 命が焼き切れていく。

 一体焼死した者共に、何の罪があろうか。老若男女も問わず、袈裟の男以外の人間の生命は、ここで焼け死んだ。女性のウェイターがやっとの思いで玄関に這いずり助けを乞うも……店内にて生きている人間はたった一人、袈裟の男のみとなってしまった。

 

「ケホッ……高い店にしなくてよかったよ」

 

 焼き焦げる人体の臭いに噎せ返りそうになりながら、男は周囲の光景を何とも思わないかのように紡いだ。お構いなしに漏瑚は問い掛ける。

 

()()──儂は宿儺の指何本分の強さだ?」

「うーん、甘く見積もっても八、九本かな」

「充分だ!! 夏油、《獄門彊》を儂にくれ!! 蒐集(しゅうしゅう)に加える……その代わりに」

 

 ──五条悟は、儂が殺す。

 

 

 11.

 高専医療棟、渡り廊下にて、悟と硝子が歩いている。悟はウキウキと上機嫌だが、硝子はどこかどんよりとしていた。

 

「いや〜、良かった良かった!」

「はあ……報告書、書き直さなきゃ」

「いや、報告書はそのままにしておいてくれる? 上層部に、悠仁が生き返った事を知られたくない。記録上は、悠仁は死んだことにしといて」

「虎杖がっつり匿うの?」

「いや、交流会までには復学させるよ。でもまた狙われる前に、最低限力を付けさせたいからね」

 

 その回答に、硝子は重ねるようにして続ける。

 

「……その心は──」

 

『若人から青春を取り上げるなんて、許されてない』

 

「……だろう?」

「あっはっは、大正解〜!」

 

 学生時代からの付き合いだ。彼の性格の変わりようも間近で見てきた。これくらい、腐れ縁として何という事はない。だが──

 

「問題は雨宮か。起きたらどうするんだ? 虎杖隠したまま復学?」

「う〜ん、それが迷っててさ。最低でも、一時(いっとき)は硝子に預けたいんだよね」

「反転術式か」

「そそ。万が一という事もあるし、人体に詳しい硝子に医学教えてもらって、そんで反転術式の精度も上がってくれればな〜って。コツとか教えてあげてよ、論理的に」

「んなもん、ひゅーっとやってひょいっだろ」

「いや分かんねえよ」

「センス無えな〜」

 

 くつくつと笑いながら硝子は言う。

 悟は久々に、硝子が笑っている所を見た気がした。

 

「早く起きてくれないかなぁ」

「……雨宮次第だろうな」

 

 医者は万能の神ではない。治療に奇蹟は起こらない。病気や怪我を治すのは、それらを背負った者自身だ。

 覚醒するか、植物状態となるか、永遠に覚醒しないかは、蓮の体に託されている。硝子に出来るだけの処置は行った。後は蓮の体と気力を祈るだけ。神には、人を救わぬ神なんぞには、決して祈らない。

 アスクレピオスは存在しないのだ。そして人は、アスクレピオスには成れない。そう──五条悟以上の化け物でもなければ、決して。

 

 

 12.

〈2018年7月7日〉

〈午前〉

 蝉の音が五月蝿い。病室の窓は開放されており、靡くカーテンが薄く影を作る。蝉の声の他には、ピッ、ピッ、という規則的な電子音のみが、生命維持管理装置しか聞こえない。

 病室には、未だ目の覚めない男が横たわっている。栄養剤の点滴と鼻カニューレでどうにか生き延びている、雨宮蓮。それを見守るのは、暗い紺色のパーカーを着る虎杖悠仁である。

 なぜここにいるのか、などと聞くのは野暮だと思い、五条悟は病室のドアの少し隣に寄りかかりながら悠仁を待つ。悠仁の気が済むまで。

 

「…………蓮」

 

 呼びかけても、返事は来ない。

 ……蓮が眠ってから、二日が経過した。今はまだ健康体であるが、このまま目覚めないと、日が経つにつれて段々と筋肉や臓器の機能が低下していく。そうなれば、歩く走るなど到底不可能になり、自分で食事を取ることすらままならなくなってしまうだろう。

 

 ……俺のせいだ。

 

 蓮がこうした寝たきりの日々を過ごしているのは、他でもなく──虎杖悠仁のせいだ。己の弱さが、蓮を傷付けている。

 拳に力が入る。行き場のない怒りが、噛んだ唇から赤く溢れる。

 ……そんな事をしても、蓮は目覚めないと分かっているのに。

 そもそも事の発端は、虎杖悠仁の弱さが今回の任務で明らかになったことにある。両面宿儺に頼らざるを得なかった己自身の不甲斐なさが、今こうして蓮を寝たきりにさせている。

 まったく腹が立つ。何が『蓮の背中を守りたい』だ。実力の伴わない願望や夢は理想でしかないのに。

 強くなれたと思っていた。己は強いと驕っていた。その結果がこれだ。

 

「…………」

 

 積み重なった後悔は、確実に悠仁の精神と心を蝕んでいく。

 親友を、他でもない自身の手で殺めかけた記憶は、いつまでも脳裏にへばりついている。肚の奥底で、悪魔が悠仁を嘲笑う。

 

(珍しいな。あの悠仁がここまで落ち込むか)

 

 その風景を、悟はどうということはなくただ傍観していた。教師の立場である悟が出来る事に、慰めは入っている。だが今の悠仁に声を掛けるのは、得策ではないと判断した。

 

(……大事な人を喪う事の恐ろしさを憶えているんだ。彼なりに今、現実と向き合っている。

 今回はギリどっちも生きてるから良かったけれど……)

 

 本当に喪ってしまった時……蓮が万が一死んでしまった時、悠仁は一体どうなってしまうのだろうか。

 ただでさえ、悟自身も壊れかけたというのに。

 ……今でも忘れられないのだ。遺体を目の当たりにした時の感情と、硝子に吾郎の死を伝え遺体を運んだ時の……全てに絶望してしまった硝子の目を。鼓膜を貫く、硝子の慟哭を。

 

(…………)

 

 悟が『最強』を名乗るのは、たった一人の友人さえ救えない『最強』という、自身の過去の戒めと皮肉だ。

 そして、決意でもある。二度と吾郎のように、誰一人として犬死させる事の無いように、能面に笑顔を貼り付けて悟は言うのだ。

 大丈夫、僕『最強』だから、と。

 

「……先生はさ」

「ん?」

 

 悠仁が背を向けたまま、唐突に悟へと問う。

 

「……人を助けられなかったことって、ある?」

「……あるよ。死ぬほど後悔したこともある。

 ──代わりに自分が死ねばよかった、とか」

 

 息を呑む音が聞こえた。悟の言い分に、悠仁は驚かざるを得なかったのだ。あの最強を持ってしても救えなかった人がいることに。

 

「でもね」

 

 一度、言葉を途切らせる。

 

「後悔や妄想を連ねても、返ってくるのは残響だけだった。いくら名前を呼んでも、いくら泣いても、死んだ人は生き返らない。蓮も、今は死んでるのと同じだと思いなよ。あの惨状は、キミ自身の能力不足が招いた結果なんだから」

「……っ」

「──悠仁の気持ちも良く分かる。確かに、遺された方は死ぬほどつらい。苦悩するし、眠れない夜を過ごす……あるいは任務で気を紛らわすか、その人の後を追いかけるか。

 ……でもね、死んでいった仲間は、遺してしまった者に託すんだよ。『繋げろ』、『打ち勝て』……ってね。

 結局さ、何も始まらないんだよ。後悔してるだけじゃあね。

 

 血に塗れた青春は終わりを告げ、烏は空高く飛び立って行った。

 その内に秘めたる叛逆の魂を託して。

 受け継がれる魂を胸に、悟は戦うのだ。

 真っ当に生きる事さえも許されなかった友を思って……。

 

「先生」

 

 目元を拭い、悠仁は()つ。

 

「俺、強くなりたい。蓮にも、宿儺にも負けないくらい。もう誰にも負けたくない。

 『最強』を教えてくれ。

 

 悠仁は悩む。悔やむ。苦しむ。人生を呪われた報われぬ少年は、敗北を噛み締め、友の傷つくを直視し、未だ罪悪感が心を押し潰している。少年院での無力さを悠仁は呪い、憎む。

 けれど、それももう終わりだ。

 蓮の目覚めがいつになるかは分からない。けれど、決して目覚めない事はないはずだ。蓮はきっと目覚める。そう信じて、悠仁は泣くの止める。

 彼の信じる、虎杖悠仁であるために。

 

 ──起ち上がる虎杖悠仁の眼には、焔が灯っていた。

 

 

 13.

 

「……真希先輩は、呪術師としてどんな人を助けたいですか」

「あー?」

 

 高専グラウンドには、一年と二年が全員集合している。黒をベースとするジャージを着る伏黒恵は、紫のジャージに白い短パンとタイツを履いた禪院真希へと問うていた。

 

「ンなモン知るか。私のおかげで誰が助かろーとどーでも良いっつーの」

「聞かなきゃ良かった……」

「ア゙ァ今なんつったコラ恵ィ!」

 

 声を荒げる真希を無視して、恵は目を細める。鍛錬に参加する前の事を思い出していた。

 

 ──いいの、謝らないで……息子が死んで悲しむのは、私だけですから……。

 

 岡崎正の母は、涙ながらにそう言った。

 ここに来る前に、恵は彼女の家を訪ねていた。ただ一切れの、息子だと判るそれを持って、謝罪していたのだ。その謝罪は、涙によって受け取られた。

 私のおかげで誰が助かろうがどうでもいい……と真希は言う。

 自己中心的な考え方だが、真希らしいと恵は思う。真希の叶えたい夢は、その言葉の裏に隠されているのだから。

 掴みたい物は砂粒のよう。伸ばした手は未だ届かない。それほどの夢を、真希は抱く。

 ならば恵の考えは間違っているのか。悪人よりも善人を助ける事に心血を注ぐ事は過ちなのだろうか。……否である。

 呪術師は正義の味方(ヒーロー)ではない。救う人間のトリアージを、いざというときにはしなければならないのだ。この思想が、恵は一層濃い。だからこそ、少年院のあの日、守るべき人間(悠仁と蓮と野薔薇)を選んだ。

 だが、救えなかった人に家族がいた。救いたくないと思っていた者に、その救いたくなかった者を愛し慈しむ者がいた。だからこそ、恵は今迷っているのだ。

 真に救うべき人間とは誰か。義姉である津美紀の次に救いたいと思うのは、やはり──

 

「クォラ恵! 面接対策みたいなやりとりしてんじゃねーよ! ってかもう無理交代! 可愛いジャージを買いに行かせろぉおおおお!!」

 

 ──と、ドップラー効果に則りながら聞こえてきたのは、いつもの制服を着る釘崎野薔薇の声だった。

 そしてドップラー効果を発生させている張本人……否、張本パンは、パンダ先輩であった。ジャイアントスイングで野薔薇をブン回すパンダ先輩が手を離し、野薔薇は宙を舞う……とは言い難く、宙に投げ出され地へとずどーんと落ちた。

「ツナツナー!」と言いながら投げ飛ばされる野薔薇を追う狗巻棘。落ちた野薔薇の状態を見て、「いくら」と呟き、パンダ先輩にサムズアップした。

 

「何してんですか……」

受け身の練習!

「こんぶ!」

「お前らは近接弱っちいからなー。まずは私らから一本取ってみろ。話はそれからだ」

 

 長物を己の体の一部かのように操り、構える。この動作に、真希は〇.五秒すら要さない。

 

「言っときますけど、負けるつもりは無いですよ」

 

 少し、弱腰の自分に意地を張ってみる。

 真夏日の太陽が、恵達を燦々と照らしていた。

 そんな中で、恵は……蓮がいればより良い鍛錬が出来ただろうかと、柄にも無くそう思い、グラウンドへと降りる真希を追って行った。

 

 

 14.

 所変わって地下。悟と悠仁は、巨大な4Kテレビの前で立っていた。高専の地下室であるそこは修行施設。そうとは知らずに、悠仁は悟の説明に傾聴していた。

 

「悠仁はね、近接に関しては頭一つ抜けてるけど、問題は呪力の制御だね」

「呪力ってーと、あれでしょ? 何か超凄いパワー」

「アバウトだねぇ〜! まあ確かにそうだけど。

 てな訳で、あちらの二つの缶をご覧あれ!」

 

 そう勧められた方向を悠仁が見ると、台の上にオレンジジュースのアルミ缶が二つ置かれているのが見えた。一体何をするのだろうかと思い聞こうとした所で──バゴンという音とギャリリリリという音が重なり、アルミ缶は破壊された。

 ただし、二つの破壊された時の状況は異なる。バゴンという音を立てた方の缶は、缶の中央部分を凹ませて中身のジュースを溢れさせた。一方のギャリリリリという音を立てた方の缶は『捩れた』。

 

「違いは分かる?」

「破壊され方が違うね。……言い方合ってるかな」

「そそ。右は、ただ呪力を放出し当てただけ。左は、僕の術式に呪力を流し込み、発動した呪術を使った。呪力を『電気』、術式を『家電製品』と置き換えると分かりやすいかな?」

呪力(電気)がないと術式(家電)は使えないって訳ね。

 ──ああ! つまり今からチョベリグな術式を身につけるんだね!?」

「いや、悠仁は呪術使えないよ」

へ!?

 

 ガーン、という音が聞こえてくるかのように、悠仁はあからさまにショックを受けた。

 

「簡単な式神や結界術は別として、術式ってのは生まれながらに体に刻まれてるものなんだ。だから呪術師の実力は、才能が八割くらいを占める」

「はえ……はぁ〜〜〜…………」

 

 意気消沈して文字通りペラペラに倒れる悠仁。ガッカリという雰囲気が見てとれる。

 

「あ〜あ、霊丸とか卍解とか気功砲とかどどん波とか使いたかったな〜〜〜……」

(……()()使えないけれど、その内悠仁の体には宿儺の術式が刻まれる。意気消沈してるのも今のうちだよ)

 

 パンと手を叩き、気付けさせる悟。しかしながら悠仁はいまだ「あ〜」となっている。

 

「ほら起きな、出来ないことは無視しよう。

 さっきも言ったけど、悠仁は肉弾戦はピカイチだからね。そこに呪力が合わされば、悠仁の体術は更に磨きが掛かるよ。下手な呪術より、こういう基礎でゴリ押しされた方が僕は怖いナー?」

「ハッ!! でも先生! 俺それなら出来るぜ!」

「いや起きろよ」

 

 悟に励まされて復帰した悠仁は言う。ここはチョロいと言うべきか。

 

「少年院の時、結構コツは掴めた気がするんだよね。あん時は、確か……」

「ふーん……()ってみるかい?」

「もち!」

 

 そう言って掌を広げる悟に対し、悠仁は自分の世界に没頭している。あの日の感覚を思い出しているのだ。

 あの日、特級呪霊と相対した日。あの瞬間、虎杖悠仁は呪力を放出出来ていた。その時の感覚──敵を倒す事に集中して、それ以外には目が向かないようになっていた。

 それと同じものを拳に乗せる。敵意か、あるいは──殺意を。

 

「フンっ!」

「────へえ」

 

 果たしてその右拳は、赤い軌跡を宙へと残して悟の拳へと突き刺さる……と思いきや、悠仁はその拳に違和感を感じた。

 拳を当てたという感触というか、実感が無いのだ。よく見ると、拳は掌の前で静止しているのが分かった。

 

「(意外と飲み込みが早いな。それとも段違いの成長速度なのか。呪力操作はまだまだだし、呪力を練り上げるのも遅いけれど、今の時点でこれなら……『化ける』ぞ、この子)

 いや〜危なかった。術式使ってなかったら確実に骨にヒビいってたよ。やるね、悠仁」

「へへん、まあね! 『想像力の虎』は伊達じゃないってことよ!」

「ちょっとダサいね」

「言ってて俺も思った。何だよ『想像力の虎』って」

 

 にへへと言い合いながら二人は笑う。

 

「蓮さ、よく推理小説を読んでんだよ。ルパンとかホームズとか。怪盗なのに探偵ものも読んでてさ。確かホームズの言葉だったかな。『見るんじゃなく、良く観察することだ』……って言ってたの、思い出したんだよね。

 良く観察する(目を凝らす)と、今まで見えてなかった物が見えてくる──これが、呪力なんだ」

(……なるほどね。蓮の影響もあるのか)

 

 雨宮蓮の存在は、悠仁の性格や思想に少なからず影響を与えているようだ。悠仁の元々の観察眼が鋭いというのもあるのだろうが、蓮の存在が更にその鋭さに磨きを掛けるのだろう。

 

(ペルソナ使いの存在ってのは、ヒトの潜在的な能力も引き出せるのかな。あるいは吾郎と蓮が特別なのか。……おそらく後者だろう。吾郎も蓮も、人を導くカリスマと実力を持ち合わせている。

 ……やはり蓮、キミは──)

「ねー先生、修行せんの?」

「……ああごめんごめん、ぼーっとしてた。

 さてと、今見た限りだと、呪力の練り方は分かってるのかな?」

「何となくね。こう……怒ったり、ぶん殴ってやるって思うと出来る感じがしたんだ。恵も常にブチ切れてる感じだったし」

 

 

はっくち!

「何だそのくしゃみ可愛いかよ」

 

 

「うんうん、当たらずとも遠からずだね。常に切れてるわけじゃないけどね」

 

 呪力とは、負の感情から得られるエネルギー。負の感情を表に出したからこそ、微力ながらも呪力を拳に流し込めたのだ。だがそれでは、呪術師としては半人前だ。

 必要な時、必要な分の呪力を練り上げられる者こそ、呪術師としての戦闘的センスは比例して高い。

 だからこそ危惧すべきは、呪力の無駄遣い。悠仁のキャパシティはどれほどかは、六眼で確認できる。

 

「じゃあ今悠仁がやるべきは、呪力の生成をよりスムーズにする事と、呪力の無駄遣いをしないことだね。テレビっ子の君に打って付けかつ、とてもハードな修行をしようか」

「へへ、()()()()()()先生! この調子だと、すぐクリアしちゃうかんね!」

 

 ──その数分後、悠仁は(主に顔面に)地獄を見るのである。

 

 

〈午前〉→〈昼〉

 高専グラウンドにて、四人が休息をとっている。所々に滲む汗を拭うが、拭ったそばから溢れてくる。しかも棘はこの真夏日だというのにネックウォーマーを着用しているので、他の皆よりも暑さが身に染みているはずだ。

 ちなみに現在野薔薇はジャージを買うついでに道草を食いまくっていた。

 

「長物、結構さまになってたな」

「ありがとうございます」

 

 一足先に木陰に入っていたパンダ先輩から労われる恵。そういえば蓮は今いないんだっけ、と思いながら、緩くなってしまったミネラルウォーターを飲み込む。階段で腰を下ろし、口を開く。

 

「……確かに、得物を持つってのは賛成ですけど、俺の術式を活かすためには、両手はパッと広げられるようにしておきたいんですよね。

 真希先輩は呪具2個以上持つのもザラですよね。その時はどうしてるんですか?」

「パンダに持たせてる」

「聞かなきゃ良かったpart2……」

 

 上腕二頭筋を膨らませて(バックバイセップスをして)筋肉アピールをしたいのだろうが、いかんせんパンダ先輩には筋肉が存在しないので力強さがいまいち伝わらなかった。

 

「呪具を保管できる呪霊を飼ってる奴もいるよな」

「ツナ」

「それレアモンじゃねえか。飼い慣らすのに時間もかかるし、現実的じゃねえ。何より私が欲しいっつーの」

 

 見つけたら真っ先に私に教えろよ、と真希。

 じゃあカルパス一年分ね、とパンダ先輩。

 二人が仲良く談話する中で、恵はあの日の事を思い出していた。

 

 ──お前あの時、何故逃げた?

 

 未だに木霊するあの日の残響。己の心にしがみついて離れないあの声に、恵は思うのだ。

 

(……あの言い草だと、俺が特級相手に勝てると言ってるのと同じだ。そういう意味だったのか?)

 

 心の影に潜むあの声を頼りに、恵は今一度自身の術式を見直してみる。

 

(俺の《十種影法術(とくさのかげぼうじゅつ)》は、影を媒体に式神を召喚する術式……今までは式神を調伏する事だけに意識を向けていた。そうじゃなく──)

 

 ──どこまでも深い、淵のない闇……そう、()()()()()()()()()()()()()()()、孤独な影……。

 

 深く、深く。

 より、黒い色に消える。

 どこまでも底の無い、まるで沼のような影。

 そこから式神を出し入れ出来るのならば、もしもそれ以外も仕舞えるのなら──

 

「ツナマヨ」

「あん?」

 

 自然と口が笑顔に綻ぶ。《十種影法術》が『影』を主体とする術式ならば、そこから連想するのだ。利用できる物は何でも利用せよ。手指から伝わる影の冷たさを、恵は心底喜んだ。

 

「先輩、何とかなりそうです……!」

 

 

 15.

 

「いふぁい……」

「あはは、ウケる」

 

 ご存知、呪骸《ツカモト》。蓮が行なっていた修行を、悠仁もまた受けているのだ。

 4Kのテレビとブルーレイディスクレコーダーの前にて、悠仁は赤くなった頬を摩りながらも、ツカモトを潰さん勢いで握りながら映画を見ている。

 

「あー何だっけそれ、主人公がもう死んじゃってて最後成仏するってオチの映画?」

「いやさらっとネタバレしないぐぶぇっ!!」

 

 ──と、悟が茶々を入れて新たな殴打痕を生成させる。悠仁の顔は真っ赤っかだ。「んも゙ー!!」と吠えながらツカモトを床に投げ飛ばすが、跳ね返りの衝撃を利用した見事なアッパーカットを喰らってしまうのだった。

 

「こんなんを蓮はやってたの!?」

「やってたよ〜、十日ほどで完璧にマスターしたけど。ほらほら、怒ってても呪力は一定!」

 

 ぱんぱんと拍手して悠仁を気付ける。座禅や懸垂、木人拳も十日でマスター出来る蓮の器用さを甘く見てはいけない。そう言えば、と思い立ち、悟はそのまま口を開く。

 

「悠仁、死んでる時に宿儺と何か話さなかった?」

「えっ、何で?」

「蘇生するにあたって、何か条件や契約やらを言われなかったかい?」

「条件……あー、なんか言われた気するけど……思い出せねえんだよな」

「……そうか」

 

 懸念を残しながら、地上へと通じる階段を登りつつ、

 

「ちょっと出掛けてくるね。修行は続けること!」

 

 と絞り出すように陽気に言うと、

 

「うん、分かっぶぉあっ!!」

 

 余所見し油断した所をツカモトにブン殴られた。

 直後、階段の下から悠仁の怒号が鳴り響いたのは言うまでもない。

 

 

 16.

〈昼〉→〈夕方〉→〈放課後〉→〈夜〉

 夜の高速道路を、一台の黒塗のベンツが走っている。左を見ればコンクリート、右を見れば森。そんな夜道を、伊地知潔高は、五条悟を乗せてキリキリと運転している。……若干胃を痛めながら。

 

「学長との会談までまだ少し時間がありますが、どうしますか?」

「……たまには先に着いててあげよう」

(珍しっ。この人ってこんな事思えるんだなぁ。……普段から思っててくれないかなぁ!!)

 

 そんな失礼なことを思いながら、更に胃が痛んでいくのを感じる潔高。エンジン音をBGMにした野郎二人きりのドライブを、悟は無感情で倦怠そうに流す。

 やや半月から欠け始めた月を見て、月が綺麗ですねと言っておちょくってやろうか──と思った時だった。

 

「止めて」

「えっ、ここでですか?」

「良いから」

 

 急ブレーキの衝撃に、しかし悟はびくともしない。珍しく自分でドアを開けて外に出、潔高に言う。

 

「少し遅れる。先に行ってて」

「はっ? えっ……これ何か試されてるってわけじゃないですよね? 本当に先に行ったらビンタとかないですよね!?」

「……僕のこと何だと思ってんの?」

「はっ、はひィッ!」

 

 逃げ出すように車を飛ばす潔高を、その車ごと見えなくなるまで見送る。

 車を降りたのは、悟の嗅覚が異変を探知したためだ。車に爆発物が仕掛けられているのではなく(そもそも潔高にそんな真似が出来るとは到底思えないが)、何かを感じたのだ。

 嫌な気配だ。それも、生半可な気配ではない。だがこの気配には慣れている。この界隈にいれば、誰しもが通る道だ。当てられて失神する者と耐える者、何とも思わない者に別れるそれ。悟にとって一番後者に該当するそれ。

 ──そう、其れ即ち殺気である。

 

「キェエエエアアアッッ!!」

 

 上空から奇襲してくるソレ。気配に気付いていた悟は難なくそれを回避するが、ソレが着地した後の道路は、巨大なクレーターが残っていた。破壊力においては超一流というわけだ。

 一ツ眼小僧の火山頭。斑模様のポンチョを着る漏瑚の口は、ちょうど──今宵の偃月(えんげつ)の如く湾曲していた。

 

「キミィ……何者?」

「シャアッ!」

 

 悟の問いに、漏瑚は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ──轟音、のちに爆発。次々と溢れ出るマグマの濁流は、完全に悟を覆ってしまった。マグマの温度は外に出た時点で()()()()八〇〇度を超える。人間の肉体では到底耐えられるはずもない。

 

「……ハァ、存外に大した事は無かったな」

誰が

 

 溜息を吐き、任務を終え(五条悟を始末し)その場から去ろうとする漏瑚を、()()()()()が答えた。

 

大した事無いって?

 

 悟の半径一メートルに付着したマグマが、自ら剥がれ落ちるかのように、下方の森へと流れて行く。だが当の本人は全くの無疵であり、余裕綽々と言った具合だった。

 お互い、七メートル程度距離が空いている。だが二者は、この距離を詰めるのに〇.一秒も掛からない。

 

「フンッ、小童が」

「(……呪霊のくせに意思疎通がしっかり出来る。加えてこの呪力量……未登録の特級レベルか。おそらく、今の宿儺と蓮よりも強いね)

 あのさァ、特級って『特別な存在』だから特級なの。こうもポンポン出て来られると、調子狂っちゃうよ」

 

 ニタリ、と漏瑚のたった一つの巨大な眼球が、上弦の月の如く湾曲する。

 

「矜持が傷ついたか、人間?」

「いいや、楽しくなって来た」

 

 ニヒルな笑みを浮かべ、悟は返す。

 今宵の文月は長くなりそうだ。わざわざこちらに舞い込んできてくれたのだから。

 

 ──さぁて、どこまで楽しませてくれるかな?

 

 

PERSONA5 in Jujutsu Kaisen

Let us start the game.

#12 Rain, After Running Away




オリキャラ出しました。ビジュアルのデザインって考えるの凄く難しいですね。
マスターデュエル楽しいですね。作者は夢の中でもマスターデュエルしてました。

ところで二話もまともに喋ってない主人公がいるってマジ?
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