呪術廻戦にP5のジョーカーぶち込んでみた   作:全てのイシを拾イシ者

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#13

 17.

 ありのまま今起こった事を話したい。

 虎杖悠仁は、五条悟にパーカーの襟を掴まれながらそう思った。

 

「呪術戦の極地、領域展開について教えてあげる」

 

 そう言われた一瞬後、悠仁は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 何を言っているのか分からないと思うが、悠仁にも何をされたのか分からなかった。頭がどうにかなりそうだった。催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなモノでは断じてない。もっと恐ろしいモノの片鱗を味わったのだ……。

 

「ほわーっっ!! ここどこぉ!!?」

「良いリアクションをありがとうっと」

 

 事の発端は、悟が特級呪霊の漏瑚に襲われたことにある。襲撃者の漏瑚の実力を測った悟は、漏瑚をボコボコにした後、10秒と経たずに悠仁を戦場である湖畔に連れてきたのだ。

 ちなみにどれくらいボコボコにしたかと言うと、漏瑚はもう心が折れててもおかしくない程度に圧倒的にタコ殴りにした。悟にはかすり傷一つすら付いていないのに対し、漏瑚は全身打撲、満身創痍。実力差はこれ以上無いほどに歴然だった。

 だが漏瑚は先の戦闘を忘れたかのように、驚愕にその単眼を見開いていた。

 

「(宿儺の器!? 夏油の言う通り、やはり生きていたのか……)

 ……何だそのガキは。盾か?」

「盾? いやいや、見学だよ。見学の、虎杖悠仁くんでーす☆」

「富士山じゃん!! 五条先生、あいつ頭が富士山だよ!!」

 

 きゃんきゃんと喚く悠仁をゆっくり下ろしてやると、悠仁は自身が湖の上に立っている事に驚愕している。右足を上げてみるとほんのりと水が跳ね、下ろすと波紋を生んだため、本当に水上を直立しているのが分かる。

 

「何で水の上に立ててるんだ!? ってか先生、俺らさっきまで高専にいたよね!? ドユコト!?」

「んー、飛んだの」

(あっ、説明する気無いな……)

 

 悠仁はそう悟った。

 

「今この子に色々と教えてる最中でさ。ま、キミは気にせず戦ってよ」

「(……計画のために虎杖は殺せんな)

 フン、自ら足手纏いを運んで来るとは、愚かだな」

 

 そう言いつつ呪力を練る。掌に溜まる膨大な熱エネルギーが爆発し、悟と悠仁を超熱量にて融解させんと言うところで──

 

 

「あはは、大丈夫でしょ〜。

 だってキミィ、弱いも〜ん♡」

 

 

 ──悟は、そんな漏瑚の地雷原をスキップしながら言い放った。

 

 

「嘗めるなよ小童!!! そのニヤケ面ごと呑み込んでくれるわァアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」

 

 

 激おこスティック・ファイナリアリティ・プンプンドリームな漏瑚。顳顬から無数の血管がはち切れんばかりに──切れてるものもあるが──浮かび上がり、火山は今世紀最大の超爆発。

 怒髪天を衝くどころか貫かん勢いの憤怒。それは留まる所を知らず、そして悠仁の意気を圧倒するには充分だった。

 

(弱い……? 弱いって、冗談でしょ先生……?

 コイツが弱いって……今まで会った化物が可愛く思えるくらいの、それほど格上の化物だぞ!?)

「──大丈夫、僕から離れないでね」

 

 悠仁の不安を取り払うかのように、悟はそう囁く。

 完全にブチ切れた漏瑚は、その怒りを呪力に変えて()()()()()

 

「領域展開!!!」

 

 両の人差し指と中指を組み、薬指は頂点を合わせ、小指は大きく離す。口元に持ってきた手は──まるで轟々と燃え盛る曼珠沙華。

 

 ──そうして、世界は漏瑚によって塗り替えられる。

 

 

 

 

 

 

 煮え滾る憤怒は(つち)を抜き、

 溢れ出づる憎悪は世を(おお)う。

 

 

「何──っだこれ!?」

 

 そこを一言で表すのならば、『地獄』が一番よく似合う。

 まるで活火山の中。周囲は溶岩と岩石で覆われ、一歩動くことも許さず敵を蒸発させる。泡沫に弾けたマグマが悠仁の側を掠め、爆熱が悠仁のパーカーを襲い、少し焦がした。

 ──だが、漏瑚の必中必殺の奥義《領域展開:蓋棺鉄囲山(がいかんてっちせん)》は、侵入者を焼失させる事は能わなかった。

 

(並の術師ならば、引き摺り込んだ時点で焼き切れるのだがな……)

「これが《領域展開》。自身の生得領域を、術式を付与して呪力で構築する奥義だよ。

 少年院で君達が経験したのは、術式の付与されていない未完成の領域だ。ちゃんとした領域だったら、一年全員死んでたよ。

 さて、領域を展開することで得られるメリットは主に二つ。一つは、環境要因による自身のステータス向上。心の中、つまり自分の得意に強制的に持ってくる訳だしね。ゲームの『バフ』みたいなモンだと思ってくれて構わないよ。

 そして二つ目。領域内で発動した術式は──」

 

 ──そう言いながら、真正面から飛来する巨岩を、悟は素手で難なく粉砕し塵とさせた。

 

「チッ」

「『絶対に』当たるんだ」

「絶対なの!?」

「ずぅえ〜ったい!

 でも安心して、対処法もいくつかあるよ。まず、さっき僕がやったみたいに『呪術で受ける』。

 そして、まあこれは得策ではないけれど、『領域の外へ出る』。大抵ムリ。領域内は空間の作用が現実とは異なっているからね。壊そうと思って壊せるモンじゃないんだよ、内側からはね。

 後は──」

「貴様の術式、『無限』……それも、より濃い領域で中和してしまえば届くのだろう?」

「うん、届くよ」

「ん? 無限……?」

 

 訝しむ悠仁を無視して、悟は楽観的に続ける。既に触れている漏瑚の逆鱗の上で、更にタップダンスを披露するかのような物言い。それが更に、漏瑚の怒りを呼んだ。

 新たな人間(呪霊)としての矜持が、眼前の男を殺せと叫ぶ。

 それを悟は、鼻で嘲笑う。

 

「さて、領域に対する最も有効な手段……それは、『自分(こっち)も領域を展開する』ことだ。同時に領域が展開された時、より洗練された方がその場を制する。まあ、相性とか呪力量にもよるけどね」

 

 そう言いながら、悟は自身の視界を覆う黒い目隠しを外して行く。左手によって徐々に降ろされるアイバンドは、彼の美貌を明らかにしていく。

 

「灰すら遺さんぞ、五条悟ゥゥウウウウ!!」

 

 だが、それを看過出来るほど、漏瑚は人間に優しくない。強く意気込み、その意気を手助けしてやるかのように、地獄が悟らへと襲い来る──!!

 

「──領域展開」

 

 だが、その地獄さえも悟には届かない。

 余った右手の中指を人差し指に絡め、掌印が完成する。病魔呪怨を祓うべく、今『最強』の真髄が解き放たれる──。

 

 

 

 

 

 

 進化も無く、頽廃も無い、物質の存在を赦さぬ理想郷。

 ──この世界は、無限の『 』で出来ている。

 

 

『無』『有』『永』『瞬』『空』『絶』『全』『一』『生』『死』。

 種、生命、世界、宇宙……それら全てが帰依する根源。

 そこには何もかもがあり、何もかもが無い。

 ただ、永遠に、永劫に。

 見渡す限りの空白が広がっている。

 

(…………何だ……? 儂の領域が押し負けたのか……? これが奴の領域……?

 ……分からん。何も見えん……何も感じん…………いや、()()()()()()()()()()()()()! いつまでも情報が完結しない!!

 故に……何も……出来ん…………)

 

 だが、流石は特級呪霊と言ったところか。あるいは、悟が手加減しているのか。術師でもない者や低級の呪いであれば廃人と化すこの《無量空処(むりょうくうしょ)》において、漏瑚はまだ意識を保てていた。

 がし、という感覚が無限に連なる。頭を掴まれたのか、それとも既に自分は殺されてしまったのか。それすらも分からない。──その感覚に対して、漏瑚は何も行動を起こせない。

 

「ここは無下限の内側。『知覚』『伝達』……生きるという行為に、無限回の作業を強制させる。君は見えているんじゃない。見えているように感じているだけさ。

 その証拠に……ほら、僕に後ろを取られてるのに、君は何も出来ていない」

 

 左脇に悠仁を抱えながら悟は言う。《無量空処》は、自身の手で触れる者に対しては無効化出来る。故に悠仁は廃人にならずに済んでいた。

 

「皮肉だね。何もかもを与えられた者は、何も出来ず緩やかに死んでいく……でも君には聞きたいこともあるから、これくらいで勘弁してあげるよ」

 

 頭を握る力が強くなる。ぶちぶちぶちぶちという筋繊維が無理やり引きちぎられる音と共に、両者の領域は消滅した。

 勝者など、語るまでもない。

 さて、悠仁と頭だけとなった敗北者を連れ、悟は陸地へと上がる。木は冷たい闇を更に深くし、風の無い森は霧を生む。漏瑚を踏んづけている悟を見て、冷や汗を流しながら悠仁は直感する。

 

(これが、呪術師『最強』……生き物としての格が違う!!

 ……やっぱ凄えな、蓮は。こんな人を超えようとしてるんだ。──その背中に、俺も追いつきてえ……!!)

「さ〜て、誰に言われてここに来たのかナ?」

「誰が……言うかッ!」

 

 頭だけとなった漏瑚だが、しかし意思疎通は出来るようだった。メカニズムが意味不明だが、人間の負の感情から生まれた存在である以上、生命としての限界が人間とは大きく異なるのだろう。

 

「良いのかな、そんなこと言っちゃってェ〜。

 ホラ言えよ、どうせキミは死ぬんだしさ。キミのバックにいる奴も全員祓う(殺す)し、ここで頑張っても結局無駄だと思うよ?」

「ってか、呪霊って会話出来んだね。自然すぎてスルーしてたけど」

「あーまあ、コイツはレア──ん?」

 

 悠仁と駄弁る悟だったが、霧の立ち込める森の中で、その第六感が──というより六眼が、悟に違和感を抱かせた。

 悟の六眼は、微細な呪力の流れを読み取る事の出来る眼球だ。この六眼あってこそ、原子レベルの緻密な呪力操作を要する《無下限呪術》を扱える。また対象の呪力の流れを読む事で、相手の術式の看破も可能だ。

 だからこそ疑念が湧く。

 

(──この霧、()()()()()()()()……?)

 

 そしてこの霧は、漏瑚の術式によるものではない。

 それが分かった瞬間──悠仁を襲う疾風(はやて)に、悟は一瞬だけ身を硬直した。

 

「おわぁ────!?」

(新しい気配が二体……いや、悠仁の救助が最優先か)

 

 吹き荒れる大風に身を奪われ、呆気なく空中を舞う悠仁。一気に悟と距離を離され、あっという間に先の湖畔の上空三百メートルへと到達する。この高さから落ちれば、流石の悠仁も無事では済まない。

 クリフジャンプという競技がある。崖から海へと飛び降り、技の美しさを競うというものだ。その最大高度は二十八メートルであり、その道のプロでさえも怪我をする程度の、関節の脱臼で済めば良いレベルだ。最悪の場合死亡するケースもあり得る。

 であれば、凡そ三百メートルの高さから素人が水面に打ち付けられた者がどうなるか……想像に難くないだろう。

 

「ちょぉおおおぉぉおぉ!!? せんせー!! たーしーけーてー!!」

「はいよ〜」

「お゙ゔっ!!」

 

 救援信号を出した直後にやってきた悟による巨大なGの圧力に顔を青くした悠仁は、何とか嘔吐しようとするのを堪えるも、敢えなく虹色のGが口から溢れてしまう。およそ増殖するGもびっくりだ。

 

「おろろろろろ……」

「きぃっったね〜!」

 

 空中を闊歩し、笑いながら元の場所へと戻っていく悟と、空から虹色の大汚雨を撒き散らす悠仁。側から見ると中々にカオスな絵面である。

 先の場所に到着したものの、漏瑚も加勢に来た二体も、姿はどこにも見えなかった。それが分かった瞬間、悠仁は土下座の体勢を取った。

 

「どーもスミマセンでした私のせいで逃げられてしまいましてでもここに連れてきたのは先生ですよね? ゆうじ」

「(逃げられちゃった。一体が霧で気を取り、吹き飛ばした悠仁を僕が救助に行くことを計って奪取。逃げはもう一体に任せたか。

 にしても、隠れる(気配を消す)のが上手いねぇ。火山頭よりもよっぽど不気味だ……)

 このレベルの呪霊が徒党を組んでいるのか。ますます楽しくなってきたね。

 悠仁……っていうか皆には、アレを倒せるくらいのレベルになって欲しいんだよね」

「アレにかぁ……」

「目標は高い方が良いでしょ? いや〜、連れてきて良かった〜!

 ま、それはそれとして。設定を組んだ以上、あとは目標のアレを倒せるように、映画観て僕と組手して、を繰り返そうか! 予定も繰り上げよう。一月後には、最低限キミを戦えるようにしてあげる」

「先生と組手かぁ……一ヶ月後、俺生きてるかなぁ」

 

 起き上がり立ちながら、悠仁は手をこまねいた。

 

「それでなんだけど……修行してる最中に蓮が起きたとして、悠仁はどうしたい? 僕も蓮と稽古の予定を組んでるから、一緒にやってくれたら助かるんだケド」

「それはむしろ大歓迎。早く強くなるに越した事ねぇし。……でも、何で蓮の事聞いてきたの?」

「だって交流会でド派手にサプライズしたいじゃん?『自分はこんなに強くなったんだぜ!』って具合で──」

「蓮の驚く顔が見たいだけでしょ?」

「当ったりィ〜!」

 

 満面の笑みでサムズアップする悟。蓮をして『殴りたい、この笑顔』と言わせた男は伊達ではないということか。

 

「ところで先生!」

「はい、何でしょう悠仁くん!」

「……交流会って何?」

「……アレ、言ってなかったっけ?」

 

 

 18.

 

「……なあ、ラヴェンツァ」

「ふんっ」

 

 ぷいっとそっぽを向く彼女は、見るからに怒っている。

 ここはベルベットルーム。精神と時の狭間。現実の雨宮蓮を縛る牢獄の首領、ラヴェンツァは激怒していた。哀れで愚かな囚人を叱らねばと決意した。

 だが蓮にも帰らねばならぬ現実がある。戦わねばならぬ理由がある。守らねばならぬ親友がいる。そして──親友を守れなかったがための、贖わねばならぬ罪がある。

 それらを置いて眠るなど、到底蓮には出来ない。蓮も我慢の限界だった。

 目を覚ましたのはおよそ五分ほど前だが、ここではその数分が一時間だったり、一時間が数分だったりする曖昧な場所。長居すべきではない牢獄なのだ。こうしている間に、刻一刻と時は過ぎていく。

 

「……なぜ怒ってるんだ?」

「なぜ? それすらも分からないと?」

「いや……うん、ごめん、本当は分かって──」

「ええ、ええ。トリックスターの事をこの世界で一番良く分かっているのは、私だけですもの。貴方が分からない事も手取り足取り教えてあげられましょうとも。貴方がここまであんぽんたんだとは思ってもみませんでしたっ」

 

 ……選択肢を間違ったようだ。

 

「…………私は、貴方が傷付くのを見たくない」

 

 ラヴェンツァはそう言うと、囚人服の蓮からはまだ目を逸らしながらもこちらを向く。彼女の声が震えているのが分かる。

 

「貴方は前世で、充分に抗い、戦った。傷付いた分を幸せにならなければ、報われない。まだあなたは、傷ついた分の精算が出来ていないんです。

 何のために戦ったのか……死んでしまっては、その思いすらも無為になる。だから私は……力を司る者としての権威を放棄する代わりに、貴方に幸せになって欲しい、第二の人生で今度こそ生き長らえて欲しいと、主人(あるじ)に願った。

 貴方にこうして務めを果たせているのは、主人が私に課した制約……『自己責任』のため。もし貴方がペルソナ(術式)に目覚めた時、そのサポートをするのは私一人だけだと。例えどのような結末になっても、貴方の最期を見届けなければならない。その結末の回避のために、口を出してはならない。そしてその結末に、文句は言わないと」

「──それ、は」

「何という事をしたのか、ですか?」

 

 それもある。だが、蓮にとっては『どうやって出来たのか』という疑問が大きい。

 呪術における『縛り』を持ってすれば、人智を超えた存在であるイゴールとラヴェンツァならば可能だろう。ラヴェンツァはこう見えて、蓮ですら敵わないペルソナ使いなのだ。

 戦った事は無いが、蓮には解る。常套の手段──真っ向勝負ではまず歯が立たない。仲間と道具、ジョーカーの《ワイルド》の素養と、状態異常に有効な属性の攻撃をすることで与えられる《TECHNICAL(テクニカル)》ダメージ、そしてペルソナの持つ《特性》という要素を持ってしてようやく勝てる相手だ。

 ……たった一人でラヴェンツァを完封出来るジョーカー(変態)も世界を探せばいるだろうが、このジョーカーはそのようなゴリゴリの変態ではなかった。

 閑話休題、そのような超常の存在の更に上位の主人(イゴール)とならば、力を犠牲にする『縛り』を組むことで人一人の転生は可能なのだろう。蓮がこうして第二の人生を送れているのがその証左なので、そうとしか言いようがない。

 だからこそ疑問なのだ。その『縛り』を、『いつ』、『どうやって』組んだのか。

 いつ、は大体察せる。雨宮蓮が███として最期を迎えた直後だろう。█の魂が完全に消えてしまう前に、呪術世界に移行させたのだ。

 

 唐突だが、雨宮蓮の両親は直毛だ。両親のそのまた両親、つまり蓮の祖父母にあたる人達も直毛だ。その祖父母曰く、曽祖父母達も直毛だったらしい。

 対して蓮は癖毛。蓮の家系図の人間に、癖毛の者はいない。であれば遺伝的に、蓮は直毛でなければおかしいのだが、DNA鑑定でも、蓮は正式に二人の血を受け継いでいる。正真正銘、蓮は雨宮家の末裔だ。

 この事から察するに、雨宮蓮の体が、███という人間の魂と意識に侵食された事により、直毛になるはずだった蓮の髪は癖毛となったのだ。

 そして雨宮蓮の体は、徐々に███に侵され始める。

 癖毛の次に、雨宮蓮の体には術式が刻み込まれた。齢四歳の頃である。当時幼稚園児だった雨宮蓮は、ある日突然呪霊を視認出来るようになった。

 だが、当時の雨宮蓮の精神年齢は成人男性のそれと同等。むしろ怖いもの知らずの《ライオンハート》の持ち主だ。呪霊に一切の恐怖さえも抱かなかった。そしてこれ(術式の発現)が、███が雨宮蓮の体に与えた二つ目の影響だった。

 ──そこで蓮は、最悪の事態を想定してしまった。

 ──雨宮蓮は生まれた時、死んでいた。魂は抜け、ただの殻となってしまっていた。

 ──その死体に、███の魂が乗り移ったとしたら?

 

「……けれど、本当はオレじゃなく、雨宮蓮が生きるはずだった。オレの魂が入り込む余地も無かった」

「貴方が気に病む必要はありません。本来の魂は、貴方という存在が乗り移る前に既に消滅していました。仮に貴方を転生させず、そして本来の雨宮蓮が真っ当に生きていたら、“雨宮蓮”は呪術師として活動する事もなかったでしょう。

 でも、そうはならなかった。生後間もなく”雨宮蓮”は死に、貴方は”雨宮蓮”に成り変わった……いえ、私が成り変わらせた。──貴方を、生かすために」

 

 どうやって、の部分も想像はつく。それは、別のペルソナ使いの可能性だ。

 蓮が███だった時(蓮は忘れているが)、過去のペルソナ使い達と蓮は出会っている。中には平行世界のペルソナ使いもいた。

 ペルソナ使いが呪術世界に存在し、ラヴェンツァと契約を交わしたならば、蓮とは別の《ワイルド》がいたならば、元からペルソナ世界と呪術世界の間に縁があったということ。であれば、呪術世界の法則を知っているラヴェンツァが『縛り』を組めるのにも説明がつく。

 力の放棄を条件(対価)に、イゴールに願った。そして、イゴールは███に第二の人生を与えた。よりにもよってこの呪術世界で。

 であれば考えられるのは、おそらく過去に、蓮とは別のペルソナ使いが存在し、そしてその人物は、█と関わりの深いイゴールかラヴェンツァと契約を結び、《ワイルド》の素養を得た。──蓮はそう結論付けた。

 

 だが──否、故に蓮は一つ見落としている。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。現にラヴェンツァは、正式に《ワイルド》の素養を与える契約を吾郎と結んだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だがそれをラヴェンツァは話す事はない。ラヴェンツァが主人であるイゴールから許されているのは、精々ペルソナの強化などでの支援のみ。蓮の旅に口を出す権利を持っていない。

 支援者でありながら、傍観者でもあるというジレンマを、ラヴェンツァではどうする事も出来ない。

 だから、何も言えない。言ってやれない。

 

「──────っ」

 

 蓮は絶句した。一人の赤子の死体の上で、自分はのうのうと生きていると知ってしまった。お前の代わりにこんなにも良い人生を送っているのだと、そう見せつけているのだ。夢の中だというのに、胃の中の物が込み上げてくる。

 

「それほどの事を私にさせたのは、貴方のせいですよ、マイ・トリックスター。享受すべき幸せの精算もせずに逝ってしまった貴方を想う(呪う)のは、当然のこと。

 私は私のした事に後悔はありません。貴方がこの件で私を軽蔑したとしても、それでも構わない」

「……人一人の命と尊厳を踏み躙ってもか」

()()

 

 ラヴェンツァは優しい。雨宮蓮の前世を知る唯一の人物だ。蓮の最期が、蓮自身満足のいくカタチではなかったことも、良く知っているのだ。

 だが、呪いでしか蓮に奉仕出来ないほどに不器用だ。蓮にとって転生は、そして人生は、呪いある物になってしまった。

 亡くなった本当の雨宮蓮の分を生きねばならない。そしてその人生で幸せになってはいけないと思う罪悪感と、前世で満足に生きることの出来なかった分幸せになりたいと願う本心との間からジレンマが生じた。

 けれど、それでも███に生きて欲しいと、歪んだ愛を捧ぐため、ラヴェンツァは願うのだ。

 

「沢山傷付いて、それなのに報われないなんて……そんなの、ふざけている。

 己の居場所を得んとすれば、己に固執してはならない。ときに他者のために己を投げ出す事で立つ瀬もある。そう信じ、貴方は進む。

 必死で踠き、地獄の鎖に繋がれても抗い、定められた運命に足掻き、望むべき未来を悪神より奪い去る。愚者のアルカナに定められた旅人……それが貴方というトリックスター。

 ……でも、貴方の役目は、もう終わったの。怪盗としてのかつてのトリックスターは死に、今、『雨宮蓮としての貴方』がある。貴方が切り札(ジョーカー)である義務なんて、もうどこにも無いんです」

「ラヴェンツァ……」

「私のした事は、人として決して許されることではありません。でも、それでも良い。貴方が望む事を手助け出来るのであれば、この身この命など、いくらでも差し出しましょう。

 そして、()()()()()()もまた、私と同じように、貴方のめいっぱいの幸せを望んでいます。──だって、貴方が皆を導き支え、愛したように、彼らもまた、貴方の事を愛しているのですから」

「……………………」

 

 ……見返りを求めていなかった、と言えば嘘になる。

 元々は利害関係、取引し合うだけの間柄だった。だが彼らの為人(ひととなり)や過去、そして悲痛な現実を知って、どうしても見過ごせなかったのだ。人と関わる度に、過去の己と重ねてしまった。

 だからこそ、《心の怪盗団》として、目の前の人を助けようと躍起になった。そうするうちに、███は取引し合う関係を昇華させ、『血盟の絆』を手にした。

 その『血盟の絆』が、█に力を与え、そして貸してくれた。その絆は絶えることなく、今もなお蓮と繋がっている。

 

「もう立ち止まっても良いんです。ここには貴方を責める人も、嘲る人もいない。貴方はここにいて良いんです。

 ……もう、逃げちゃいましょう?」

 

 ……だからこそ、█には分かる。ラヴェンツァの声は、███と絆を結んだ人達の声だ。同志達は、雨宮蓮となった彼の安寧を求める。█を襲った不幸を呪い、█に降り掛かった運命を──悪神を憎むのだ……。

 

 

 19.

〈2018年7月8日〉

 油蝉が鳴いている。ただでさえ鬱陶しいくらいに暑苦しいのに、その上『五月蝿(うるさ)い』が加わるのだから、起きるやる気も起きなくなる。

 ジャージ姿の禪院真希、狗巻棘、パンダ先輩は、寮から高専への道を辿りながら雑談していた。そんな中、パンダは一つ疑問を抱く。

 

「あり、一年ズどこ行った?」

「飲み物買いに行かせてる」

「パシリ……」

「高菜……」

「大丈夫なのか?」

「何がだ?」

「姉妹校の学長との打ち合わせ、確か今日だっただろ?」

 

 思うところがあり、真希は眉をひくつかせた。

 

「特級案件なのに一年を派遣する異常事態……悟と仲悪い上層部が仕組んだって話じゃん。京都の学長もモロその上層部だし、鉢合わせでもしたらさァ、厄介な事になる事間違いないじゃん?」

「こんぶ?」

「でもターゲットだった虎杖悠仁は死んでる。恵達を今更どうこうするつもりも道理も無いだろ」

「『教員』はな」

 

 含みのある言い方に、真希は怪訝な顔を浮かべる。

 

「……『真依』が来てるっての?」

「憶測、可能性の域を出ないけど。でも──アイツら、嫌がらせ大好きじゃん」

 

 そんな不穏な空気も知らず、気分転換のために寄った高専校門付近の自動販売機に、釘崎野薔薇のお眼鏡に適う種類のドリンクは無かった。

 

「蓮の淹れたコーヒー飲んでから、自販機のコーヒーに満足出来なくなっちゃったのよね。いっそ蓮のコーヒー商品化しないかしら」

「同感」

「マジで何飲もっかな。種類少な過ぎない?」

「こういう学校だしな。入れる業者も少ねえし」

 

 そう雑談していると──二人分の足音を恵の鼓膜は感じ取った。

 見ると、入り口付近で二人の男女が立っている。一人は巨漢、もう一人は美人の二人だった。恵は巨漢の男を見た事は無いが、もう片方の女は知っていた。

 ショートボブの美麗なる彼女は、ノースリーブのワンピース型の制服を身に纏っている。スカートから覗く透き通るような、まるでパリコレのモデルのように長い脚部に存在する黒いガーターが、彼女の雰囲気をより艶かしく映す。

 豊満な双子山から流れる河の如きくびれは、彼女の女性としての美意識に拍車をかける。まさに、男性が理想とする女性の体型だった。

 長く、それでいて整えられた睫毛を持つ吊り目は、どことなく恵の先輩である禪院真希を彷彿とさせる。潤った桜色の唇は悦に上がっている。その真意は、意中の相手に会えたためか。

 まるで……ショートヘアにした禪院真希のような人だった。

 

「ぜん……真依先輩」

「あら、名前で呼んでくれるなんて嬉しい」

「ぜんまい先輩?」

禪院(ぜんいん)真依(まい)! 失礼ね!」

 

 彼女を知らぬ野薔薇をプリプリと怒る真依。一つ咳払いをして、恵は真依に問う。

 

「で、何しに来たんです?」

「姉妹校交流会の打ち合わせに着いて来たのよ。伏黒くんが心配でね」

「俺が?」

「ええ。聞いたわ、同級生が一人死んだって。辛かった? それとも……そうでも無かった?」

「……何が言いたいんです?」

「いいのよ、言いづらいこともあるでしょうし、私から言ってあげる。

 宿儺の『器』なんて聴こえは良いけれど、要は半分呪いの化け物でしょう? そんな(呪い)が隣で不躾に呪術師を名乗るなんて……耐えられなかったでしょう? 

 死んでせいせい──」

()()()()

 

 意気を強くして、恵は真依の苗字を呼ぶ。

 

「……もう、苗字で呼ばないでって──」

「口、閉じてくれませんか」

 

 珍しくもなく、恵は苛立っている。そのことに気付いた真依は、動揺にその口を止めていた。ピリ、と肌がざわめいているのが分かる。

 伏黒恵にとって、今現在の地雷は虎杖悠仁と雨宮蓮に関する事柄。そうとも知らず真依は、平然とその地雷を踏み抜いた。呪術師としては当然の発言を、恵は否定したのだ。

 

「何も知らねえアンタが、アイツを知った風に言ってんじゃねえよ」

 

 恵の鋭眼と放つ意気が、真依を貫かんと言わんばかりに、そう語っていた。

 真依はたじろいだ。意中の相手の機嫌を損ねた事もあるが、たかが一人の人間……しかも呪いと同等の存在に固執する恵を、今まで一度も見たことが無かったためでもあった。

 

「まあ術式使わないあたり、まだ冷静よね〜恵は」

「はぁ? 何言ってんの?」

「あ、意味分かんない?

 ──今ここで殺されなくてラッキーだったわねっつってンのよ、阿婆擦れ。」

 

 釘崎野薔薇にとっても、虎杖悠仁と雨宮蓮は地雷だ。

 生憎、釘と鎚は手持ちに無く術式は使えない。だが、この女は赦さないと魂に刻んだ。

 取り敢えず身ぐるみ剥がす──と意気込んだ所で、隣の巨漢が前に出る。

 ──デカい。身長は五条悟とほぼ同じか。猫背だったため明瞭な身長は分からなかったが、筋肉量から見ても只者では無いと二人は悟った。一言で言い著すのであれば、それらはもはやゴリラと言っても過言ではない程の隆々さであった。

 額から左眼を通じ頬にかけて傷を負っており、髪を後ろで纏めている。頭部はさながらパイナップルのように思えたが、恵は口に出すのを止しておいた。

 

「無駄な話はそこまでだ、真依。キャットファイトは他所でやってろ。

 俺はただ、コイツらが乙骨憂太の代わり足り得るのかが知りたい。

 伏黒……とか言ったな、そこの」

 

 ずんずんと二人に歩みを進める姿は、さながら獲物を見定める虎が如く。着ていた制服を脱ぎ捨て、シャツも破いた。威圧感を惜しみなく全面的に出しながら──

 

「──どんな女がタイプだ?

 

 ──葵は唐突にそう言い放った。

 

「……………………はい?」

 

 恵と野薔薇は首を傾げ、真依は頭を押さえた。事情を知っている真依はともかく、初対面の二人であれば当然だ。

 

「返答次第ではここで半殺しにして、乙骨憂太……最低でも三年は引き摺り出す。噂の一年の特級はどこだ? ソイツも引っ張り出してやろう」

「一年に特級なんていませんよ。何かの勘違いじゃないですか?(……まあ、特級でもおかしくない奴ならいるけど)」

「む? 乙骨よりも年少で登録された奴がいると聞いていたが……まあ良い。

 とにかくだ。性癖にはソイツの人格が表れる。女の趣味の詰まらん男は総じて詰まらん。俺は詰まらん奴が大嫌いだ」

「……いや、何で初対面のアンタと癖について語らないといけないんですか」

「そーよ、ムッツリにはハードル高いわよ」

「野薔薇も黙っててくれ頼むから」

「俺は三年の東堂(とうどう)(あおい)だ」

「ご丁寧にどうも東堂先輩。そのまま回れ右して帰って下さい」

ちなみに俺は、タッパとケツがデカい女がタイプです!!

「うるっっせえし話聞かねえし、マジ何なんだよこの人……」

()のタイプでも良いぞ!!」

(……はぁ、うッッッざ)

 

 溜息を吐きながら恵は強くそう思った。悟とは別のベクトルで鬱陶しいと感じながらも、取り敢えず何か言わなければと思い……義姉の津美紀の笑顔を思い出していた。

 

 ──人を許せないのは悪い事じゃないよ。それも恵の優しさでしょう?

 

「……別に、タイプとかは無いです。その人に揺るがない人間性があれば、それ以上は何も求めません」

「さっすが恵! 巨乳好きとか言ってたらカチ割ってたわ〜」

……何を?

 

 野薔薇の『カチ割る』を聞き流そうと真顔で必死になる恵。

 

「……やっぱりな。お前は退屈だよ、伏黒」

「──っ!!」

 

 そんな恵を、葵は失望に涙しながらラリアットした。

 顔面を両腕で庇っていなければ、間違いなく自分の顔面は潰されていた。そう思わせるほどの威力。腕からミシミシと嫌な音が伝導する。おそらく肉弾戦においては、雨宮蓮よりも格上。

 吹き飛ばされた体をどうにか捩り、足から着地する。ゆっくりとゴリラはこちらへとやってくる。

 

「雰囲気で既に分かっていた……けれど人を見た目で判断する事は良くないからな。だからこそ許せん。お前は俺の期待を裏切ったんだ」

「……っつ、マジ思考回路イカれてんだろ、パイナップル頭が」

 

 そう軽口を叩く恵だったが、しかし平静ではいられなかった。恵の頭の中で、東堂葵というキーワードが張り巡らされ、情報が捻出される。

 

「(東堂葵……去年のクリスマスイブに新宿と京都を襲った呪術テロ事件、『新宿京都百鬼夜行』……その京都側で、()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()と言われるあの東堂か!!)

 ……アンタ、術式使わないんだってな」

「んあ? それガセだぞ。特級には使った」

(一級には使ってねえって事じゃねえかよ化けモン……!)

 

 そう思いながら、恵は臨戦体勢を取る。葵をゴリゴリの筋力タイプと判断した恵は、中距離からの攻勢に徹する事にした。模る『鳥』と『蛙』で、【鵺】と【蝦蟇】の要素を掛け合わせた【不知井底(せいていしらず)】を五体顕現させた。

 

「やる気が」

 

 だが悲しいかな。

 

「まるで感じられん!!」

 

【不知井底】では東堂葵という男は止められない。巨体に見合わぬアジリティが、恵の反応を置き去りにした。

 

「薄いんだよ、体も、女の趣味も!!」

「なっ────く!」

 

 恵の腰を抱えるようにして、己の体の柔軟性を活かし、背中から砂利の地へと叩き付ける。葵の放ったジャーマンスープレックスが、恵の後頭部を重点的に破壊せんとした。

 だが恵も二級呪術師。これでくたばる程恵は柔ではない。クレーターとなった地から瞬発的に追撃を回避し、距離を取った。

 即座に葵の追撃が来る。防戦一方となるばかりで、恵には反撃の僅かな機会さえも与えられない。やがてギリギリの均衡が崩れ、恵は大きく弾かれた。

 

(負けてられねえ……んだよッ、クソが! ここで負けたら、アイツに顔向け出来ねえだろうが!)

 

 しかしこの反発を利用し、恵は【不知井底】を解除。こちらも近距離戦を展開する事に術式と呪力を廻す。インファイトは恵の得意ではないが、得意とする式神ならば存在する。

 

(──やってやるよ)

 

 良い加減、堪忍袋は限界だった。そのパイナップル頭と肝を冷やしてやると呪力を廻し──

 

 

 20.

 

「……ふぅむ、夜蛾はまだかのぅ」

 

 都立高専の応接室にて、(しわが)れた声でそう言ったのは、楽巌寺(がくがんじ)嘉伸(よしのぶ)。京都府立呪術高等専門学校の学長を勤めている、呪術界における大ベテランだ。

 白い着物と紫の袴に身を覆わせている。無骨な木製の杖を突いており、長すぎる眉と下顎の髭が伸びている。所々ピアスを開けているのもあって、まさにその容姿はまさに仙人と言うべきもの。実際には八十代なのだが、齢は百二十を超えているように見える。

 

「生い先短い年寄りの時間は高くつくぞ……」

 

 その入り口付近で姿勢正しく直立するのは、付き添いの三輪(みわ)(かすみ)。黒いパンツスーツにネクタイを締め、まるでOLのような雰囲気を醸し出しているが、歴とした府立高専の二年生だ。その証左として、ジャケットのボタンが高専仕様の渦巻きを模ったようなボタンになっている。

 人形のようにクリッとした目に、長い睫毛が更に彼女の魅力を引き出している。肩までかかるロングヘアで、左の額から右の眉に掛けて前髪を切り揃えている。化粧の類は見られないため、すっぴんでこの可憐さは、同年代の女子であれば嫉妬してしまうだろう。

 真剣な面持ちで、夜蛾正道学長を待つ二人であったが──しかし来訪して来たのは、全く別の人間であった。

 

「夜蛾学長はしばらく来ないよ〜。嘘のスケジュールを教えてあるからネ!(伊地知を脅して☆)」

「…………ほう」

 

 どすっと礼儀作法の『れ』の字も見せずに上座のソファに座る。

 

「よっと。その節はどうも」

「……はて、その節とは?」

「トボけんなよジジイ、虎杖悠仁の事だ。保守派筆頭のアンタも絡んでんだろ、ど──せ」

「全く、最近の若者は碌に敬語も使えんのかのぅ」

最初(ハナ)から敬う気のない相手に敬語を使うって無駄じゃん。最近の老害は主語がデカくって、まいっちんぐだよホント」

「ちょっと、これは問題行動ですよ。然るべき所に報告させていただきます」

 

 水を刺したのは霞であった。だが本人に報告する気は毛頭無く、むしろ……

 

(ヤッベ〜〜〜! 生の五条悟! 生五条だ! 本物! 初めて見たぁ〜〜〜!)

 

 ……ただのミーハーなだけであった。

 

「ご自由に。こっちも長話するつもりは無いからね」

「……そうですか(ウッワヤッベッ、しゃ〜べっちった! しゃべっちった! えへへ……)」

 

 手を組み、本題に入る悟。

 

「昨晩、未登録の特級三体に襲われた」

「ほう……それは災難だったの」

「勘違いすんな。僕にとっちゃ街中でアンケート取られたレベルのハプニングだ」

(くぅ〜〜〜! かっこよ……そんなセリフ私も言いてえ〜〜〜!!)

「ソイツらとは意思疎通が図れた。おそらく仲間はまだいるだろう。

 敵だけじゃない。三年の秤金次、乙骨憂太、そっちの東堂葵、そして第二のペルソナ使いである雨宮蓮……。生徒のレベルも近年急激に上がっている。

 加えて、去年の夏油傑が引き起こした『百鬼夜行』……そして唐突に現れた宿儺の器」

「……何が言いたいのかの?」

「分かんないかい?

 アンタらが下らない地位や伝統のために必死になって堰き止めていた力の波が、もうどうしようもない所まで迫って来てンだよ。この先は『特級』なんて物差しじゃ測れないよ?

 牙を剥くのが僕だけだと思ってんなら──痛い目見るよ、お爺ちゃん♡

……少し、お喋りが──」

 

 ──瞬間、三人を──否、高専を並々ならぬ呪力の波動が襲う。

 

(やば──何──!?)

「何だ、この気配はっ!?」

 

 ビリビリと肌を刺激する凶悪なる気配が霞と嘉伸に迫り、霞はその重圧に崩れ落ちてしまう。嘉伸はどうにか身を保っているが、隠せぬ恐怖心が冷や汗となって流れる。そして悟は──これ以上なく愉快に笑う。

 まるでその凶悪を、祝福しているかのように。

 

「っふふ、あっはっはっはっは!!

 そうかぁ、ふふ。()()()()()()()()()()()……!」

「知っておるのか!?」

 

 嘉伸が激しい形相で問うが悟は無視し、それどころか懸念の表情を浮かべる。

 

「……ン? あー、これちょっとヤバいかもね。お爺ちゃん、お宅の生徒が何かやらかしてない?」

「何の話を……!」

「いや彼ね、低血圧だか何だかで、寝起きがすんごい悪いの。それなのに、他校の生徒(知らない人)に友達が襲われてたら──怒るだろうねぇ。そりゃもう、すっごく。まあ最低でも高専(ここ)一帯は更地になるんじゃないかなぁ〜、あっはっは!

 ──な、言ったろ? 痛い目見るってさ」

 

 

 21.

 

「……ラヴェンツァ」

 

 ──だが、そのような偽りの安寧を、蓮は享受しない。

 

「今のままでは確実に、オレにとっても、悠仁にとっても、ハッピーエンドには成り得ないんだ。むしろ今も、バッドエンドのままでしかない。

 次はもっと上手くやる。だから……頼むよ。もう少しだけ、オレに戦う事を許して(をジョーカーでいさせて)くれないか」

 

 蓮も、前世の最期に納得はいっていない。やり直せるのならやり直したい。もっとあの世界で生きていたかった。

 だがもう、前世の自分は死んでしまった。もう終わった。生き永らえる事はできなかった。残酷な事に、███のお話は、あそこでお終いなのだ。

 そして蓮は、”雨宮蓮”という自分を、『今』を生きている。決して、その在り方を見失う事はない。

 雨宮蓮(███)は、自分の幸福よりも、他の誰かの幸福を願う。誰かの不条理を救いたいと足掻く。己が受けるべきそれを差し置いて。

 例えその道が茨の道であれど。

 雨宮蓮が止まる事はない。

 

「……どうして」

 

 ぽつり、とラヴェンツァは呟く。ぽたり、と瞼から哀しみが溢れていく。

 

「どうして、そこまで……」

 

 そんなの、忘れていても分かる。

 █がペルソナに目覚めたのは、悪神から意図的に与えられたからではあった。──だが、心の奥底にあったのは『願い』だったのだ。

 最初は諦めていた。変態教師に、後に親友となる隣人を殺されてしまえば、次に殺されるのは自分だと。そう達観して、どうしようもなくなって、現実から目を背けるように目を瞑った。

 冤罪であれど前科持ちとなった自分に生きる資格は無い。司法の判決に従って、罪人として真っ暗な人生を送るのだと思っていた。

 だが心の奥底にいたもう一人の自分は──本音の自分は違った。諦めたくないと、そう願った。

 罪を犯したとしても、あの日、オレは間違いなく正しい事をした。法律も友人も両親も、オレと親しかったはずの人達は、誰も認めはしなかったけれど。

 けれど、誰かを救うことが間違いな筈はない。

 

 もしも、あの時のそれを悪だと云うのなら──

 

オレがジョーカー(切り札)として生まれ、生きているからだ

 

 ──オレはずっと、悪でいい。

 

 己を縛る鎖も、己を阻む柵も、蓮にとってどうということはない。

 縛るなら、引き千切るまで。阻むなら、砕き進むまで。

 

 ジリリリリリ、とチャイムが鳴る。現実の蓮が目覚めようとしているようだ。それを察知して、ラヴェンツァは最後の一瞬だけ口ずさんだ。

 

「……私はあくまで傍観者。私も、同志達も、祈る事しか出来ないけれど……どうか。どうかせめて、今度は──」

 

 前よりはもっと、ずっと、長生きくらいはしてください。

 

 

 22.

 高専病棟一〇一号室にて、けたたましくサイレンが鳴る。異常事態発生のアラートを聞きつけやって来た、夜勤明けの家入硝子。舌打ちをしながら、ノックもせずに入る。

 ガラガラっと無造作に開ける硝子。しかし──

 

「……クソ、目ェ覚めたならナースコールしろっての……まだお前は患者だろうが、雨宮ぁ……!」

 

 パルスオキシメーターと鼻カニューレ、点滴の針の先……それらに繋がれているはずの彼は居なかった。

 ではどこにいるのか。硝子には見当が付かず、真っ先に悟にコールした。……だがいつまで経っても電話に出る気配が無く、苛立ちは増すばかりであった。

 だが、都立高専内にて()()だけ、彼の現在地を知る者がいる。

 

()()()()

 

 ──ドス黒い憎悪を体現したような声が、恵と葵の鼓膜を貫く。

 上方向。高専本堂の上階から声と重圧が降り掛かる。その重圧を、恵は頼もしく、そして懐かしく感じた。

 そうして視認する、重圧の主。太陽と重なり影を生む彼が、葵に無慈悲に告げる。

 

「失せろ」

「────────ッ!?」

 

 葵自身も驚くべき事だったのだが、その声が聞こえた瞬間、追撃せんと突撃しようとしていた葵は、恵から数メートルほど距離を空けていた。

 恵と葵の間に挟まるようにして、華麗に砂利の上に着地する黒い影。徐にその手を顔へと持って来ると、

 

「マーメイド、《ディアラマ》」

 

 人魚の名を呼び、彼女は吐息を恵に吹き掛ける。その吐息は優しく、温かく、それでいて朗らかで……そんな緑色のオーラが恵を覆っていく。果たしてたちまち、恵の頭部に負った傷は跡形もなく消え去った。

 翻るコートに赫い手袋、そして純白に煌めくドミノマスク。そこから覗く黒い鋭眼。しかし静かに、彼は怒る。

 ──誰の友に手を出したと思っているのか。貴様がどこの誰かは知らんが、その落とし前は付けさせると。

 その様を見て、恵は心で再確認する。

 ああ、そうだよな。これを見逃せる程、お前は気長じゃ無いもんな。

 

「遅えんだよ、()()()()()……!」

「すまない、寝坊した。──だが、間に合ったな」

 

 見紛うはずもない、我らの切り札。

 ジョーカー、完全復活。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガチャリ、とドアが開く音が響いた。視界に入る景色は、アパートのそれではなくビーチであった。海にはぷかぷかと、蛸のような呪霊が浮かんでいる。明らかにアパートの内装を無視したビーチには、パラソルの下でチェア転がり涼む一人の男。

 

 雲の巨人*1という本を読む彼に、ドアを開けた本人である夏油傑は問い掛ける。

 

「随分と穏やかな領域だね」

「漏瑚はどうしたんだい、夏油?」

「瀕死。まあ、花御(はなみ)昊噓(こうきょ)が助けに入ったから、問題無いと思うけどね」

「無責任だな、焚き付けたのは君だろう?」

「いやいや、行かない方が良いと……おや、噂をすれば」

 

 そう言う夏油に呼応するようにドアが開く。果たしてそこにいたのは、筋骨隆々の植物《花御》と、全身に真っ黒な服を身に纏う布作面の《昊噓》、そして花御が抱えるのは、首だけとなった漏瑚であった。労うように、彼は漏瑚に声を掛ける。

 

「やあ漏瑚、花御、昊噓。無事で何より」

「どこをどう見て言っている……!!」

「それで済んだだけマシだろ。

 ともあれ、分かっただろう? 五条悟は然るべき時に然るべき場所で、こちらのアドバンテージを確立した上で封印する。決行はハロウィン真っ只中の渋谷。いいね、《真人(まひと)》?」

 

 そう呼ばれた彼は本を閉じ起き上がる。やがてその全貌が露わになる。

 彼は、身体中が継ぎ接ぎだらけの人間と呼ぶべきのナニカであった。オッドアイで、右目は銀、左目は藍色。これらと呪霊である事を除けば、ただの好青年であった。

 黒いローブに身を包む真人は──

 

「──うん、異論無いよ。

 狡猾に行こう。呪い(人間)らしく、人間(呪い)らしくね」

 

 まるで子供のように、無邪気に嗤ってそう言った。

 

 

PERSONA5 in Jujutsu Kaisen

Let us start the game.

#13 The Ace's Awakening

*1
著:芥見(あくたみ)下々(げげ)




 復ッ 活ッ
 雨宮蓮復活ッッ
 雨宮蓮復活ッッ
 雨宮蓮復活ッッ
蓮「悠仁守護(まも)りてェ〜〜〜……」
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