呪術廻戦にP5のジョーカーぶち込んでみた   作:全てのイシを拾イシ者

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#15

 起きないとなあ

 食べないとなあ

 治さないとなあ

 会いたいなあ

 

 

 25.

〈2018年7月8日〉

〈昼〉

 二人の男女が医務室にて、席に座っている。女が座る席の机には、ペンやらカルテやらが無造作に散らかっている。薬品の匂いが、男の鼻腔を突き刺す。

 男は上裸だ。女は上裸の体に優しく触れている。ガラスを扱うかのように、あるいは艶髪を撫でるように。あるいは、恥部を愛撫するかのように。

 ツー……、と肌を這う指先。やがてそれが離れ──

 

「ハイ、検診終わり」

 

 ──その手の持ち主は、ややぶっきらぼうに言い放った。

 

「後遺症無し。まあアレだけ派手に暴れてんのに後遺症なんてある訳ないか」

 

 男は我らが雨宮蓮、女は呪術師最高のヒーラー家入硝子であった。

 東堂葵との闘いと禪院真依の見送りを終え、まだ時はそれほど経ってはいない。同級生二人への積もる話や、二年の先輩方への挨拶もあったが、それは突如現れた五条悟によって阻まれる。

 硝子のお怒りの電話を右から左に聞き流しながら、保健室に辿り着いた蓮。蓮が戸を開く前に硝子が戸を開き、一言「脱げ」と言われ、身ぐるみを剥がされるのだった。

 

 ちなみに、三輪霞は悟とのセルフィーを撮れなかった。

 ほら、足元を見てごらん。これが霞の悔し泣き。

 ほら、前を見てごらん。あれが霞の哀愁漂う丸背中。

 

「申し訳ないとは思っています」

「そういう時はな」

 

 す、と手を蓮の額に差し出す。中指の爪を親指で抑え、

 

「あいてっ」

「もっとすまなそうな顔しろっての」

 

 ぱちんっ、と強烈なデコピンをかました。

 

「で、要件は検診だけじゃないだろ?」

「はい。反転術式について、もっと知りたくて」

 

 そう言って体勢を立て直す蓮。おでこはひりひりと赤くなっている。

 

「まあとりあえずやってみせなよ。話はそれからだ」

「はい」

 

 言われるがまま、蓮は両手を胸前に持っていく。

 かつて呪骸【ツカモト】を握り潰──もとい、呪力を込めようとしていた頃をイメージする。ただ呪力を込めるのではなく、癒しのエネルギーに変換するイメージを携えて。

 

「……」

「……」

「…………」

「…………」

「………………」

「………………?」

 

 しかし、いざと意気を込めてみるも、一向に呪力が反転術式に至る様子はない。試行錯誤を繰り返し、まるでナルトが螺旋丸を習得する際の修行のように、やたらめったらに手に呪力を込めていた。

 

「……なるほど、大体わかった。雨宮お前、『お前単体での反転術式が出来ない』な?」

「……みたいです」

 

 だが悲しいかな。蓮は結局、自力のみでの反転術式の発動には至らなかった。

 かつての呪骸を用いた呪力操作訓練では、蓮は反転術式での操作訓練も独自で行っていた。ツカモトに呪力を込めると、それをツカモトは余す所なく吸い取っていく。

 それこそ、ツカモトに殴られていない事で、呪力やら反転術式を放出出来ている証明であると思わせるほどに。

 

 つまり蓮は、己自身も反転術式が出来ると思っていたのだ。己の半身であるペルソナに出来て、己が出来ない事はないという考えの下であったが、どうやら現実はそう甘くないらしい。

 

「これはあくまで私の推察だが、お前が反転術式で治癒出来るのは、ペルソナが治癒のための呪力をお前から貰い、介することによって反転術式へと変換するから。

 つまり、ペルソナの技量とお前の技量は比例しないんだろう」

 

 そも、蓮の《認知操作》には明確なデメリットが存在する。それは、術式発動時のバカにならない消費呪力量だ。

 蓮の《認知操作》は、自己あるいは対象の認知を利用し、その認知を増幅させる術式だ。この術式さえあれば、己の考え方一つで世界が変わる……と、聞こえは良いだろう。

 だが事はそう上手くはいかない。雨宮蓮がジョーカーとして戦うには、『蓮の頭の中のジョーカーを現実に投影する』という過程が必要だ。

 その過程により結果(ジョーカー)を実現しているのが蓮の術式であるのだが、無から有を創るのは、古来より莫大な労力を要するものである。

 

 数多の術式の内、蓮の《認知操作》に類似する術式に、《構築術式》と呼ばれるものが存在する。

 無から有を生み出し、それを永遠に存在させる能力。脳内の骨子を己の呪力で構成、現実にて完成させ永続させるというもの……それが《構築術式》だ。

 だがジョーカーのそれは任意で解除が出来るが故に、《構築術式》ほどの呪力消費は起こらないが、それにほぼ匹敵するほどの呪力をジョーカー時の蓮は消費している。

 その上で、回復スキルを使う時は《認知操作》を『反転術式を使う』ことに使用していたのを考慮してみて欲しい。

 つまり逆説的に、これまでの蓮は、ペルソナを召喚しながら回復スキルのための《反転術式》を練るために《認知操作》の術式を使う……という、無駄に普段以上の呪力を消費していたのだ。

 

 呪力消費の要素を加味すると、現時点で蓮がジョーカーでいられるのは、非戦闘状態であれば一日につき凡そ二時間。ペルソナを使った場合、最悪三〇分間を下回る。

 加えてスキル使用の許容範囲は、《反転術式》に《認知操作》を使っている現状では、ジャックランタンの《アギ(火炎属性単体弱攻撃)》25回、ピクシーの《ディア(単体小程度回復)》10回分だ。

 味方全体の状態異常を治しつつ体力を全回復させる《メシアライザー》は、現時点では蓮は使えない。それどころか下位互換である《ディアラハン(単体全回復)》すらも使用できない。《ディアラマ(単体中程度回復)》も、せいぜいが二、三回が限度だ。

 

 だのに、あろうことか蓮は今《ディア》を使えるペルソナを連れていない。

 ではなぜ《ディア》のスキルを持っているペルソナを用意していないのかというと。

 単純に御マネーが足りないからだ。

 蓮の財布事情、諸行無常である。

 

 縛り③の一分間のインターバルは、術式効果を高めるためというのもあるが、ジョーカーがガス欠を起こさないよう調整するためでもあったのだ。

 蓮の膨大な呪力容量があるからこそ何とか成り立っているし、これからのジョーカーの成長を鑑みれば、おそらく戦闘可能時間は長くなっていくだろうが……この程度ではまだジョーカーは満足に至らない。

 

「(歪な子だ。反転術式での治癒をペルソナにずっと任せきりになっていたんだろう。吾郎は治癒の際にペルソナを頼らなかった……このままでは術式反転(吾郎のマネ)は到底出来ないだろうな)

 ともかく、どうやらお前は『反転術式=治癒の力』と認知している節があるな。まずはその固定観念を捨ててみろ」

「分かりました。……で、反転術式は具体的にどうやったら発動するんです? コツは?」

「んなもん、ひゅーっとやってひょいっ、だろ」

「ひゅー? ひょい??」

 

 蓮の疑問に対し、返ってきたのは擬音語による説明。

 感覚派でもあり理論派でもある蓮は、硝子の説明に戸惑いを隠せず。しかし言われたままにやってみる。

 

「……ひゅーっ、とやって、ひょい。ひゅーっとやってひょい……。

 ……チンカラホイ」

「いやーん、雨宮さんのえっちー……って言っときゃ良いか?」

 

 下らないギャグは置いといて。

 

「……出来ないんですけど」

「まあ時間の問題だろ。お前の言い分じゃ、ペルソナを介してなら反転術式は使用できてるんだ。ペルソナで治癒するときの感覚を思い出してみろ」

「うーん……難しいな」

「なら、実験台を用意するか」

「実験台……?」

 

 そう言いながら、筆立てあったカッターナイフを手に取り、刃を出して──

 

「いって」

「なっ──バカっ、何考えてるんだ!!」

 

 ──己の利き手でない親指の腹を、何の躊躇いもなく、切った。

 切り傷はそこまで浅くない。だが、血が蓮の予想以上に溢れ出ている。やがてそれは机へと広がり、血溜まりを作っていく。

 

「ほら、どーするよ」

「──っ、ペルソナ!」

 

 硝子に言われるまで思考が止まっていた蓮は、一瞬にてジョーカーへと変貌を遂げ、マーメイドを呼び起こす。スキル選択の思考の余地など必要ない、早速《ディアラマ》を──

 

「待て、ただ闇雲に治癒するなよ。『どうやって』治癒するかを意識してみろ……」

 

 ──掛けんというところで、硝子はジョーカーに一つ念を押した。

 簡単に言ってくれると、焦りを孕みながらスキルを発動する。感覚を研ぎ澄ませ、ペルソナが『どうやって』呪力を変換していくのかを、体で覚える──。

 マーメイドの吹きかける優しい翠色の息が、親指に満遍なく行き渡って行き。やがて、傷は完全に、痕も残さずに消え去った。

 

「……はぁっ」

「へえ」

 

 溜息を吐きながら蓮へと戻ると、硝子は治癒の一部始終を見て感心していた。気苦労もあり、蓮は皮肉で返してみる。

 

「中々良い腕じゃないか」

「……あなたも、良い度胸をしている」

「褒めても血くらいしか出ないぞ?」

「止めてください、本当に」

 

 蓮は血が嫌いだ。

 魚を捌く時。肉を切る時。戦い傷つく時。自分のでも、誰のでも。溢れ出る血液が嫌いだった。

 いつだって、沢山の血が溢れていた。

 血は、最期まで身近に溢れていた。

 血を見るのは、今も嫌いだった。

 

「コツは掴めたか?」

「……とにかく、やってみます」

 

 先に治癒した時に、丹田から溢れていた呪力の奔流が『裏返った』と感じた。用は、反転術式に『裏返せ』ば良いのだ。

 問題は、どうやって『裏返す』か。それは先の治療で感覚を掴んだ。

 呪力とはマイナスのエネルギー。マイナスとマイナスを掛け合せば、数学上はプラスへと変貌する。『足す』のではなく、『乗算』……というよりは、『融合』。

 右手首を左手で押さえ、擬似的な血管をイメージ、接続する。二方向から流れてくる血液(呪力)が、右の手のひらで展開される──!

 

ひゅーっとやって(二つの濁流を)ひょい(一つに)!)

「ふうん……」

 

 赤い呪力とも、緑色の治癒スキルとも違う、純白の正のエネルギーが、蓮の掌を覆う。まるで暖かいゼラチンの中に手を突っ込んだような、むず痒い感覚が蓮を襲う。

 だが、段々と反転術式を維持するのが難しくなってきた。脂汗が蓮の目に染み、蓮は目を顰める。

 

「そこまで。……うん、中々良い腕だ。五条よりもセンスあるぞ、雨宮」

「っは、はあっ……それはどうも」

「ただし、時間がかかりすぎ。そんでその程度の反転術式に呪力を無駄遣いしすぎ。この調子だと、ペルソナも反転術式に使う呪力を無駄に食ってるんじゃないか? こんなんじゃ、まだ五条には及ばないぞ」

「……分かってます」

「うん、その意気だ」

 

 そう言いつつ硝子が腕時計を見やると、時刻は午後の四時を回ったところ。終業の頃合いだ。

 

「何にせよ、良い時間で区切りも良い。今日はここまでだな」

「やり方はともあれ、良い経験になりました。またよろしくお願いします」

「ん、頑張れよ。私としても、五条のニヤケ面が歪むのを見てみたいからな」

 

 それを聞くのは蓮にとって二人目だ。五条先生は恨みを売りつけるのが趣味なのだろうか、と蓮は思った。

 まあ、あの腹の立つ笑みを崩してやりたいと思うのは、蓮とて同じこと。硝子からの激励を、蓮は快く受け取った。

 硝子からの微かな信頼を感じる……。

 

 


我は汝、汝は

汝、ここにたなる契りを得たり。

 

契りはち、

囚われをらんとする反逆の翼なり。

 

我、『運命』のペルソナの生誕に祝の風を得たり。

へと至る、更なる力と成らん……。


 

 

 医務室の戸を開き、自室へと戻ろうとしたその時、蓮は硝子に呼び止められた。

 

「ああそれと、雨宮。一つ聞いておきたいことがある」

「はい?」

「『アキラ』という名前に聞き覚えはあるか?」

 

 ──それを聞いて、蓮は息が止まる思いをした。

 聞き覚えなど、()()()()()()()()()

 なぜならば、その『アキラ』とは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「……いえ、知りません。

 その『アキラ』が、何か?」

 

 と、蓮は前髪をいじりながら答える。硝子のことを信用していないわけではないが、親しくもない相手に対し己の秘密を話せるほど、蓮は無用心ではない。心の怪盗時代からの癖だった。

 

「……いや、知らないなら良いんだ。すまん、時間を取らせたな。

 ああ、そう言えば、五条がお前を探していたぞ。何か渡したいものがあるとか」

「どうも」

 

 そう言って、蓮は戸を締め切った。

 

「何だよ……」

 

 蓮の気配がなくなったのを見計らい、硝子は一つ、ため息を吐いた。

 煙草は吸わない。吸う理由も無い。そもそも今は禁煙中だ。

 けれど、ただ、無性に。

 あまりにも明智吾郎と似過ぎる彼に。

 酷く、酷く、腹が立ったのだ。

 

「……嘘つき」

 

 

 26.

〈昼→放課後〉

「はい蓮、これどーぞ!」

 

 自室へと戻る最中、雨宮蓮は五条悟とエンカウントした。いつものゴムの目隠しを見て、蒸れないのだろうかと蓮は思った。

 どうせ面倒臭いことになるので無視しようと蓮は思ったが、硝子の言伝を思い出して、やむなく事情を聞くことにした。

 悟から差し出されたのは──

 

「制服と……学生証?」

「君の制服、宿儺との戦いでボロボロになっちゃったんだよね。だからこの際、デザインを一新しようと思ってね。まあ制服の色がより濃い黒色になっただけなんだけど」

「ありがとう。だが、何が『この際』なんだ?」

「まあまあ聞きなよ。

 ──実は! 君が新たに特級術師に任命されました〜〜〜!! いえいっ、パチパチ〜〜〜!! やった〜、わ〜い!」

 

 悟がコミカルな絵柄になって拍手する。若干頭身が縮んだような気がするが、さておき蓮はと言うと。

 

「そうか」

 

 温度差でインフルになるレベルで心底どうでもよさそうにしていた。

 

「えっリアクション薄っ。凄いことなんだよ?」

「称号なんて、後から与えられる評価に過ぎない。そんなハリボテに価値は無い。だからこそ興味も湧かない。

 ちなみに、どれくらい凄いんだ?」

「山で例えると、二級術師が飛騨山脈で、一級術師がロッキー山脈だとすると、特級はヒマラヤ山脈くらいかな。

 んで、君は序列で言うと……えーと、世界でろく──」

「チョ・オユーだな」

「今人外レベルの頭の回転見たんだけど」

「と言うことは、特級術師はオレ含め六人いるのか。誰がいるんだ?」

「ああいや、六人『いた』んだよ」

 

 悟のその物言いに、蓮はしまったと思った。

 

「……殉職されているのか」

「うん。まあ多分君は興味無いだろうからその辺の説明は省くけど、『今も生存している現代の特級』は四人だよ。

 東京校二年の先輩《乙骨憂太》、今もどこかをほっぽり歩いてるであろう《九十九(つくも)由基(ゆき)》、後は僕と君ね」

 

 どちらも聞いたことの無い人物だ。まあ蓮はこの界隈を知ってまだ二週間のため、知らないのも無理は無いのだが。

 

「学生で特級なのか」

「ちなみに僕もだったよ!」

「で、その乙骨先輩はどこに? サボタージュか?」

「いやいや、海外に出張中だよ。ちょっと野暮用でさ」

「ふうん」

「まあ何にせよ、君はこれで、君一人……あるいは仲間を率いて任務にあたる事が出来るようになった。ご指名の依頼も来るだろうけど、生徒の任務の斡旋は伊地知がやってる(にやらせてる)よ。明日顔を見せに行ったら?」

「分かった。……しかし疑問が残るな」

「どしたの?」

「なぜ今、こうしてオレに白羽の矢が立ったのかだ。あまりにも急過ぎるし、突拍子もない」

 

 そう言う蓮に、悟の見えない眉がピクリと動いた。

 

「鋭いね。答えは簡単、『君に首輪を付けるため』さ。

 君のポテンシャルとペルソナは、僕から見てもあまりにも高い。それこそ、頭の硬いジジイどもがその重い腰を上げる程にね。だから特級という椅子を用意し、そこに居座らせようとしている。その程度で満足させようとしている」

「……嘗め腐っているな」

「だね。──だからこそ、僕ら大人がいる」

 

 蓮は頭に手を置かれ、その後、無造作に撫でられる。

 

「安心しなよ。僕ら真っ当な大人は、君達の青春を奪いはしない。そして奪わせもしない。」

 

 その仕草が、その物言いが……蓮のかつての義父を思い出させた。

 

「君に会わせたい人がいる。夜、一人で職員室に来なさい。君の制服は、そのために僕が新たに発注したんだからネ!」

 

 会わせたい人、という言葉にもやっとしたが、それはこの夜に分かることと思い、スルーすることにした。

 悠仁のことか、と思ったが、それは無いと蓮は判断した。

 もとより虎杖悠仁は死んでいる。蓮が呪術師である理由も無くなってしまった。悠仁とは十年もの長い付き合いの親友だった。遺体を直視してはいないが、したらしたで、心が折れそうだったのだ。だから、悠仁の遺体を見れずにいた。

 

「分かった」

 

 だが、その会わせたい人が本当に虎杖悠仁だったのだとしたら。

 蓮の構想にあった『虎杖悠仁救出計画』が、大きく破綻してしまうことになる。

 

 

 27.

〈放課後→夜〉

 

 誰もいない高専の廊下を、ひたり、ひたり、という集中していなければ聞こえないような小さな音を立てて歩く者がいる。全身が真っ黒けなその者は、目を凝らさねばその輪郭すら拝めない。

 不審者か、泥棒か。果たしてその正体とは、新たに漆黒に染まった高専の制服を着る、雨宮蓮であった。

 やがて辿り着いた職員室の戸を三回ノックする。

 

「おっ、来たね〜」

 

 職員室の中には、机の上にその長い足を乗せる、マナーのマの字も無い五条悟がいた。夜だというのに、どうやらコンビニのスイーツを食べていたらしい。口元には、ケーキのスポンジのカケラがくっついていた。

 

「会わせたい人って?」

「まあまあ、着いてきなよ」

 

 言われるがままに悟の後ろを尾ける。蝋燭の明かり一つない、迷路の如入り組んだ高専の廊下の先に、地下へと続く階段があることに蓮が気付いた。

 ただ一つ疑問なのが、その階段の先から()()()()()()()()のだ。何やら金属音が聞こえてくる。まるで、鉄を打ちつけ合っているかのような、鼓膜が千切れそうな嫌な音だ。……何かのアニメか映画が放送されているのだろうか。

 先に進む悟に手招きされ、やむ無く地下へと侵入。一体どんなお宝が眠っているやら、と、若干眠気が差し、回らなくなってきた頭で考えてみる。果たして、その部屋にいたのは……

 

「──────ゆう、じ……」

「れ、蓮……」

 

 死別し、もう会えないと思っていた、蓮の今生の親友、虎杖悠仁であった。

 眠かった脳は冴え切った。下らない思考は晴れた。

 虎杖悠仁が、目の前で生きている。

 その事実に、えも言われぬ歓喜で心が溢れそうになる。

 ──だからこそ、己の浅はかさに苛立つ。

 

「その、ごめん! 俺、お前のこと……」

「違う。……頭を上げてくれ。あれはお前の仕業じゃない。宿儺がやった事だ」

 

 『宿儺に勝つ』……それは、三日前の少年院で、限りなく不可能に近いと悟った。現状のジョーカーでは、まだ両面宿儺には敵わない。足元に髪の毛のみが及ぶ程度。

 それでは悠仁は救えない。虎杖悠仁を救うには至らない。

 蓮の救出計画は、まだ不完全。

 遣る瀬無い。不甲斐ない。何もかもが、ジョーカーとしてまだ足りない。

 けれど……それでも。

 今はただ、悠仁が生きていることが嬉しかった。

 

「でも、俺ッ……」

「……オレはお前を守れなかった。お前はオレを殺しかけた。お互い様なんだ、悠仁。

 それに、オレ達はまだ生きてるよ」

 

 悠仁とて、苦悩していなかった訳ではない。

 このまま蓮が目覚めなければ……その先の未来を考える事すら嫌だった。

 だから、もう充分に。

 蓮と再び会えたこの奇跡に。

 悠仁はもう、救われているのだ。

 

「うんッ…………!」

 

 虎杖悠仁、雨宮蓮、再会。

 

 

 28.

 

「どう? びっくりした?」

「……正直、まだ信じられない。だが、本当に良かった」

 

 やるべき課題は山積み。見つめるべき先は程遠く。超えるべき壁は厚く高い。

 だがそれでも、進むべき光は確かにある。そう思えた。

 

「……僕としても、良かったよ」

「?」

「六人の特級術師内に亡くなった者は二人って言ったよね。

 その二人、僕の親友なんだ」

「……!!」

「ああ、気落ちさせるつもりは無いよ。僕の中では、もう気持ちの整理はついてる。

 ……でも、いや、だからこそかな。僕らが出来なかった事、君らには沢山してもらいたくてさ。

 青春しなよ、青少年!」

「とか言って、自分も楽しみたいんだろ?」

「あったりィ〜!」

 

 サムズアップする悟に、蓮は若干の苛立ちを感じた。

 だが、同時にある思いを蓮に抱かせた。

 

(オレも、腹を括るべきか)

 

 それがいつになるかは分からない。だが──

 偽りの体を以って、隠し続けるこの本心を。己が己たる、その所以を。己が仲間に、吐露したいと思うのだ。

 己の前世……ジ・オリジンを。

 怪盗とは、全てを騙し闇に生きる者なれど。

 友を騙したままでいられるほど、蓮は生粋の怪盗ではいられなかったのだ。それでは、あまりにも申し訳が立たないから。

 鉄面皮の決意は、今一度胸に刻まれた。

 今度こそ、悠仁は絶対に死なせない……と。

 

 

PERSONA5 in Jujutsu Kaisen

Let us start the game.

#15 A man who never cries




 コープ獲得:運命(家入硝子)
 習得:《反転術式》
 回復スキルを使用した際の呪力消費量が3倍に減る。
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