呪術廻戦にP5のジョーカーぶち込んでみた   作:全てのイシを拾イシ者

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#16

 29.

 ──虎杖悠仁救出計画は、前提として『虎杖悠仁の中の両面宿儺』を、『虎杖悠仁ごと殺す』必要があった。

 だが、悠仁が今何事も無く生きていることで、計画は破綻してしまった。

 虎杖悠仁に受肉した両面宿儺は、悠仁もろとも『死んでも蘇る』。それが今回きりのことなのか、あるいは幾度でも可能なのか。

 ……いや、おそらく蓮の勘が正しければ、死後も呪力が蘇生に必要な分残存しているのであれば、それが可能だろう。

 悠仁は宿儺を受肉したことで、他の生命とは一線を画す存在と成った。呪霊とほぼ同じ体になったと言っていい。頭を潰すか、呪力を空にさせてかつ呪力で殺すかでしか、おそらく両面宿儺は完全に殺せないのだろう。

 だが後者はともかく前者の殺し方では、蓮ですらどうしようも無い。

 核のような何かで滅却? あるいは、封印でもするか?

 否、それでは悠仁が救えない。宿儺(奴隷)からの開放が、雨宮蓮の今生の目標だ。それだけは出来ない。

 宿儺を完全に殺す方法が何か無いものだろうか。

 奴を殺した後の『その先』だけは、最初から判っているのに。

 そのためだけに、今ある命を燃やすと誓ったのに……。

 

 


 

 なぜキミは戦うのだ

 私はキミが恐ろしい

 なぜ私は恐れるのだ

 私もキミのように戦いたい

 

 

 30.

〈2018年7月9日〉

〈放課後〉

 本日は曇空也。

 じめじめと蒸し暑い夏の高専。立て付けの悪い窓が風に当てられる音をBGMに、雨宮蓮はある場所へと向かっていた。

 教室の棟とは真反対の西方向にある、高専の職員室の隣にある事務室。そこで一人座り、パソコンへ文字を打ち込む一人の男性がいた。メガネの奥でパソコンと睨めっこをする、背広を着る痩せこけた彼の名を、蓮は窓口から呼んだ。

 

「伊地知さん」

「? ああ、雨宮くん。どうしました?」

 

 伊地知潔高。呪術高専生の補助監督であり、五条悟に最も近い奴隷(比喩に非ず)その人である。

 潔高は蓮を見るや否や、扉を開けて、窓口へと向かい蓮と対面する。

 

「オレの任務の斡旋をされてると聞いて」

「はい、しておりますよ。えー、と言っても、まだまだ数は少ないですが」

「意外だ。来てるんですね」

「今のあなたでは荷が重い案件もね……」

 

 苦虫を噛み潰したような顔で、更に老けたような様相の彼は言う。

 

「どんな任務なんですか?」

「……平将門(たいらのまさかど)公、その特級仮想怨霊の祓除です」

 

 ──それを聞いて、蓮は驚愕した。

 そして次に納得。最後に、武者震いを起こした。

 

 平将門。武士でありながら桓武天皇の子孫であり、日本三大怨霊の一柱でもある人物だ。

 平安の代、朝廷の要職を藤原氏が独占しやりたい放題であり、国司からの重税に民衆は苦しめられていた。そんな民衆を見て将門は憤慨し、朝敵となる。

 朝廷の悪政に苦しめられていた民衆を味方に付け、関東八ヶ国(上総、下総、安房、上野、下野、武蔵、相模、常陸)を占領。快進撃を決める将門であったが、しかし平貞盛と俵藤太との戦いで討死し、晒し首となる。この一連の騒乱を平将門の乱と呼び、藤原純友の蜂起とを以って承平天慶の乱と呼ぶ。

 その偉業と生き様故に、古来より多くの伝説として、その威厳は遺された。その逸話の一つであり、彼を怨霊たらしめるのが、将門塚のエピソードだ。

 だが、晒し首となった将門の首は、何ヶ月経っても腐らず、目は見開いており、夜な夜な『俺の体はどこだ、もう一戦するぞ』と叫んでいたという。

 そして(諸説あるが)将門の首は故郷の東の国へと飛び、そして墜落したとされるのが、現在の東京の千代田区にある将門塚なのである。

 

「一級以上の術師全員に祓除任務が課せられているのですが、実害が出ていないため優先度は低く……つまり、急を要する任務というわけではありません。

 日本三大怨霊とはいえど、最近は東京の守護神というオカルト文化の影響が現れておりまして。領域に立ち入らない、あるいは領域に立ち入ってもお参りしてすぐに帰る等すれば、危険もないとのこと。

 ですが、この任務に赴いた一級術師が三名、帰らぬ人となっています。充分な実力が付くまでは、この任務は受けない方が良いでしょう」

「なるほど」

 

 そう言いつつも、蓮は別のことを考えていた。

 

(……もしかしたら、アレが出来るかもしれないな……)

 

 数秒の逡巡の後、蓮は一つの決断をする。

 

「その任務、今すぐじゃないけど受けます」

「はい、分かりました……って受ける!?」

「今すぐじゃないです」

「いやっ、でも、あの平将門公ですよ!? 日本三大怨霊ですよ!?」

()()()()()意味があるんじゃないですか」

「ダメダメダメ! 自殺行為です!」

「だから今すぐじゃないですって」

「ほら、これとか! この準二級案件! これならまだ達成可能かと!」

 

 そう言われながら、慌てて渡されたタブレット端末を、危なげなく蓮はキャッチした。

 

「呪物回収……愛知県の中学校ですか」

「回収するだけなので実質三級案件ですが、任務発生から少し時間が経っており……、呪霊発生の危険性が……」

「何で遅れたんですか?」

「五条さん曰く『下っ端の仕事』らしく、高専関係者以外は誰も受けないんですよ……それも学生を中心に与えられる任務ですので尚更。その上、近場である京都校の面々は癖揃いで……」

「要するに面子が立たない、ということですね」

 

 はい……としおらしく言う潔高。前世でも、このように気弱な大人は見たことがないな、と蓮は思った。

 

 


 TuToRiAL!!

 蓮が特級呪術師になった事により、蓮の実力云々に関わらず任務を受けることができるようになりました。放課後のターンを利用し、東日本(北海道、東北、関東、中部地方)のどれか一地方に限り、一日最大三件の任務に赴くことができます。

 任務には、蓮とコープを築いた高専生と同伴することができます。その際、報酬が減ることはありません。ただし、虎杖は9月の姉妹校交流会が終わるまで、高専生と同伴はできません。

 任務の難易度は、準二級から、二級、準一級、一級、特級の順に高くなっていきます。レベルに応じた任務を受けましょう。

 任務を遂行すると、報酬でお金が貰えます。任務によっては、呪具やアイテムが手に入ることもあります。また、任務を遂行すると蓮の知名度が上がり、更なる難しい任務が追加されるでしょう。

 ただし、任務後の夜のターンは疲労により、一切の外出やコープ活動が出来なくなります。注意して、計画的に任務を遂行しましょう。


 

 

「分かりました。この依頼、受けます」

「ああっ、でも雨宮くん、病み上がりでしたよね?」

「問題ありません。行けます」

 

 そう言ってタブレットを返し、準備のため、寮の自室へと向かおうとする。

 

「雨宮くん」

 

 だが、潔高に呼び止められた。

 まだ何かあるのか、と思い振り向く。俯いた姿勢から、やがて潔高は口を開いた。

 

 潔高には、雨宮蓮という少年がとても眩しかった。

 潔高は呪術高専出身であれど、その身分は呪術管理官に落ち着いている。潔高には呪霊を祓える微量の力はあれど、いざ祓除しようとすると足が竦んで動けなくなってしまうのだ。

 人は助けたい。その責務を年端も行かぬ子供に負わせたくなどない。なのに、自分の力ではどうにもならない。分不相応な望みということは分かっている。

 だから、自分よりも力を持つ雨宮蓮を、潔高はとても羨んだ。そしてそんな力を以ってしても勝てない両面宿儺をとても恐れ……友を亡くしかけた蓮を悼んだのだ。

 

「はい」

「キミは……頑張り者ですね。

 ですが時々、キミが危うく見えます。生き急いでいると言いますか。

 キミが何を思い、何を感じ、何のために戦うのか……それは聞きません。ですが──キミの周りには、頼るべき仲間や、大人がいます。それを努努、お忘れなく」

 

 雨宮蓮は、恵まれている。ここ最近、ずっとそう感じる。

 悠仁と出会い、恵と邂逅し、悟を師事し、野薔薇と高め合う。ラヴェンツァの支援を受け、硝子から学び、葵から絡まれ、そして潔高から応援される。

 それだけでも、既に蓮は──

 

「そう簡単には死ねないんでね。もちろん頼らせてもらいますよ、伊地知さん」

「──ええ、存分に頼ってください」

 

 ──蓮はもう、幸せなのだ。

 潔高のまごころを感じる……。

 

 


我は汝、汝は

汝、ここにたなる契りを得たり。

 

契りはち、

囚われをらんとする反逆の翼なり。

 

我、『顧問官』のペルソナの生誕に祝福のを得たり。

自由へと至る、なる力と成らん……。


 

 

 去っていく蓮を見送り、潔高は一つ伸びをした。

 事務作業はまだ終わる所を知らない。だが、何となく、いつもより頑張れそうな気がする。自己満足の表れか、と一瞬自分を卑下したが、それでも、大人である己が言うべき事は言ったと、無理矢理に納得する。

 伸びをする背骨から、歳を感じさせる嫌なクラック音が鳴った。

 さて、一方蓮はと言うと。

 

「待ちなさいよ、蓮」

 

 恵と野薔薇とに引き留められていた。

 事務室の隣は、呪術資料室や理科実験室、家庭科準備室など、移動教室用の部屋が羅列している。その教室の一つの前で、二人は立っていた。

 

「任務行くんだろ。俺らも連れてけ」

「良いのか?」

「……何で悪いと思ったんだよ」

 

 だって呪物回収の任務だから一人で十分だし、と言おうとした矢先……

 

「積もる話もあるしね」

 

 ……そう野薔薇が言って、断るに断れなくなってしまった。

 まあいいや、と思い、蓮は構わないと言って、自室へと戻って行った。

 

 

 31.

 

「蓮……すまなかった」

 

 あな美しき紫幹翠葉、残映となり逢魔を知りぬ。

 新幹線の座席で、向き合う三人。謝罪を切り出したのは、伏黒恵であった。

 

「悠仁のこと、守ってやれなかった」

 

 そう言って、声を震わせながら恵は頭を下げる。

 

「ごめん」

 

 俯きながら謝罪の言葉を紡ぐのは、釘崎野薔薇であった。

 

「私、何も出来なかった」

 

 唇を噛み締めて、野薔薇は双眸から溢れそうになる後悔を言葉で堪える。

 

 悠仁の最も信を置く者、そして悠仁を最も信に置く者である雨宮蓮こそが、悠仁の喪失を一番悔しく感じていると、二人は思ったのだ。蓮は悠仁の幼馴染。付き合ってきた年月が二人とは全く違う。友を悼む気持ちは、誰よりも強いはずだと。

 己の弱さが招いた、敗北と喪失。

 謝った所で悠仁は還ってこない。

 拒絶されても構わない、罵ってくれても構わない。

 だからどうか、赦さないでいてほしい……と。

 

「悠仁はまだ生きてる」

 

 けれど、蓮はその謝罪を受け取る。そして赦すのだ。

 

「ここが、それを知っている」

 

 蓮の拳が指し示すのは、己の心。

 悠仁は(本当の意味でも)まだ死んでいない。仮に死んでいたとて、蓮は同じ事を言うだろう。

 人は二度死ぬ。一度目は、その生命を全うして。二度目は、誰からも忘れ去られて。心の中に刻んだ悠仁の笑顔が消えない限り──

 

「──オレ達が潰えない限り、悠仁は永遠に死ぬ事はない」

 

 二人の目と心とを真っ直ぐに射抜き、蓮は静かに諭す。

 恵と野薔薇には、それが何よりも痛かった。

 

「……慰めのつもりか」

「なら一つ問う」

 

 腕と脚を組み直し、正面から二人を向き合う。

 

「諦めるのか?」

 

 何に対して、とは問わずとも、二人は分かっていた。

 

「……嫌だ」

 

 釘崎野薔薇は一度挫折を味わった。

 己の弱さは己が一番よくわかっている。だがそんなことより、蓮に申し訳が立たない。

 友を眼前で喪わせたのだ。悔しさや苦しさなんか、野薔薇には計り知れない。

 

 ……蓮は、私の醜態をどう思っただろうか。

 失望しただろうか。軽蔑するだろうか。それともほくそ笑むだろうか。

 ……否、蓮はそんな事はしない。たった二週間の付き合いだが、それだけは分かる。

 虎杖悠仁は死んだ。もういない。そして釘崎野薔薇は、その屍を超えなければならない。その屍を脳裏に、ずっと留めていくのだろう。

 重い。あの日から、鎚も釘もうまく握れない。だが、そんな弱音なんか死んでも吐きたくなんかない。

 だから。

 だからこそ、私は……!

 

「諦めたくない!」

 

 目元に溜まった水を拭う。

 釘のように真っ直ぐに、そして鋼のように美しく。

 薔薇のように強かに、そして棘のようにより靭く。

 もう折れないと、誓うのだ。

 

「……俺も」

 

 伏黒恵は、一度運命から見逃された。

 敗北し、死んでいた方がマシだった。口にすることは出来ないが、本気で恵はそう思った。悠仁の代わりに、自分が死んでいれば良かった、と。

 挙句の果てに、その敵から欠点をアドバイスされたなんて、恥以外の何物でもない。

 蓮に謝ったところで悠仁は戻らない。なら、せめて悠仁が遺した最後の希望だけは守りたい。

 そんな事を言える資格なんか、どこにもないのは分かってる。

 けれど……

 

「もっと強くなりたい……!」

 

 それを言い訳にして、惰性のまま生きていたくなんかない……!

 

「……それでいい」

 

 二人と向き合い、蓮は満足気に言う。

 

「オレだって、結局宿儺に敵わなかった。三日寝込んでいたらしいし、オレの容体は、宿儺に治されなければもっと酷かった。最悪死んでいただろう」

 

 手を握り、新たに蓮は誓う。

 

「だからこそ──もし次があるのなら、オレは今度こそ、アイツを倒したい」

 

 雨宮蓮は、苦渋を味わった。

 何のために生まれたのか、何のために生きるのか。その意味すら失いかけた。

 友を喪うことの辛さは、蓮は身に染みている。

 

「……強いな、お前」

「……その強さは、オレ一人のものじゃない。

 まだオレには、守るべき仲間がいて、祓うべき敵がいて、帰るべき場所がある。

 ──だからまだ、オレは戦えるんだ」

 

 だから、もう喪わない。

 もう誰からも、オレの宝物を奪われてなるものか。

 オレの道の邪魔をする者は、一人残らず蹴散らすまでだ。

 断崖絶壁の麓すら見ぬ愚者の旅。その幕を下ろすにはまだ早い。

 

「それに、ヤツには借りがある。オレは借りは必ず倍以上にして返す主義でね」

「何だそりゃ」

「初めて聞いたわ」

「初めて言ったしな」

 

 そう言うと三人は吹き出し、笑い合った。

 友の死を乗り越えて、少年少女は前へと向かう。

 挫折は終わっていた。だが苦悩だけはどうしても消えなかった。

 これからも、ずっと苦しんで行くのだろう。

 

 ──だが、もう迷いは無い。

 

 我々は、我々の進むべき道を、悠仁の思いと共に歩んでいくのだ。

 瞼の裏に彼の笑顔がある限り、我々はどこまでも足掻いていける。

 そして再び出会えた時、いっぱいの思い出を語ってやろう……。

 

 二人からの信頼を感じる……。

 

 


我は汝、は我。

汝、広がりゆくに気付きたり。

 

其の絆はとなりて、

更なるを掴みたり。

 

今こそ汝、『者』とともに歩む者らに、

遥かなるを見ゆるべし……。


 

 

『間もなく〜、名古屋〜、名古屋でございます』

「……もう着くわ」

「ああ」

 

 新幹線のアナウンスが流れ、野薔薇が反応した。

 

「シゴトの時間だ」

 

 

 32.

〈2018年7月9日〉

〈放課後→夜〉

 

 時刻は午後八時を過ぎ。夜が更け始める頃合いだ。念には念をと、管理官が帳を下ろしてくれたお陰で、任務遂行に支障は無い。

 名古屋のとある中学校。そこの運動場入口に並ぶはジョーカーへと変身した雨宮蓮、伏黒恵、釘崎野薔薇である。道中、現地の管理官による案内を経て、三人は体育館横校門前にたどり着いた。アスファルトと砂の境を歩み侵入する。

 地図上から見て体育館は西。だが目的地は中学校南東の運動場倉庫。そこにある呪物回収が本日の任務だ。呪霊を祓う祓除任務ではない。

 ……はずなのだが。

 

「絶対いるよな、呪い」

「いるわね」

「いるな」

 

 呪いの気配を、それはもうバリバリに感じるのである。何かオーラが漂っているのである。報酬金と内容が見合っていないのである。グラウンドに出てみると、やはりというか何というか。

 

「運が良いのか悪りィのか……」

「まあ、鍛錬にはなるだろう」

「にしたって、京都の奴らの尻拭いをする羽目になるなんてね〜」

「はあ、面倒くせえ……」

 

 と、駄弁っていると、三人は違和感に気付く。

 

「おいでなすったわね……ってぇ!」

 

 間違いない。この違和感は、呪霊の気配によるもの。ジョーカーはナイフを携え、恵は臨戦体制を取り、野薔薇は金槌と釘を握り、敵を見遣る──が。

 

「いやデカすぎんだろ……?!」

 

 そう、異様にデカいのだ。蓮がペルソナに覚醒した時のイグアナよりも、はるかにデカい。後者よりも一回り大きい体格だ。

 三階建ての校舎から少し頭がはみ出るくらい。おそらく三メートル……いや、四メートルは超えようか。校舎の裏から、ぬうっとその巨体が現れる。それは端的に、巨大なミルワームのようであった。ただし、全体的に毛むくじゃらで、その中腹からは二本の白磁肌の手が伸びている。よく見ると、その手は大量の小さな手で形成されていることが分かった。

 いや、そもそもアレは髪の毛で出来たように見える大量の呪霊の塊。アレはただの呪霊ではない。複数……それも大量の呪霊が『融合して』出来た集合体だ。恐怖症の人が見れば、吐き出してしまうかもしれない。実力にして、およそ二級は下らないだろう。

 

「呪物回収任務って何だよ……」

「ああ。それってハネクリボー?」

「何言ってんだお前」

「これもう祓除任務で良いわよね? 《窓》仕事しろや!」

「後できっちりシゴト分の給料は貰わないとな」

「お前今日情緒どうした」

「あー、アンタたしか金欠だったわね」

「おかげでペルソナを調整出来なくて困り果ててる」

「お前だけ金でペルソナが買えるのズルいよな。俺だって式神買いてえよ」

()()()()の間違いだろ」

「ぶふっ」

 

 野薔薇が吹き出し、恵が呆れ、ジョーカーは不敵に嗤う。いつもの戦闘前の緩やかな雰囲気がそこにあった。

 だがここは仕事場。すぐに切り替えた三人は、己の倍以上もある巨体を見遣った。

 三人に気付いた彼奴は、その無駄に長い腕を伸ばし、校舎をよじ登って移動してくる。あまりの質量により、握られた部分のコンクリートとガラスが罅割れ崩れる。

 

「散開しろ!」

 

 ただ、それをぼーっと見ている者はここにはいない。ジョーカーらは三方向に走り出し、各々の得意へと持ち込もうとしている。まず先陣を切ったのは、ジョーカーによるペルソナ攻撃だった。

 

「オンコット!」

 

 仮面が蒼き炎を発して、猿将軍《オンコット》を象った。ジョーカーが選択したスキルは──

 

「──《テトラカーン》!」

 

 そう唱えると、ジョーカーは緑色の硝子球体に包まれる。呪霊が狙うのはもちろん、無防備なジョーカー。芋虫の振り掲げる拳は、まさに隕星のごとく、大質量を伴って振り落とされる──!

 

「ジョーカー、避けろ!!」

「問題ない」

「うしきざんもいじちんゃわだえるよい!!!」

 

 空気さえも圧縮してしまいそうな拳が、オンコット諸共ジョーカーを押し潰して──甲高い反射音が響いた。

 

「いたこたすろいけすてぞ!!!」

 

 《テトラカーン》。オンコットの技量が上がった際、習得したスキル。その効果は、味方一体に物理反射効果を一度だけ付与するというもの。──そう、隕星のごとき衝撃は全て呪霊へと帰り、ダメージを与えたのだ。

 その結果、衝撃によりぱらぱらと腕部分が崩壊する。穢らわしい白磁の肌の姿をした呪霊の群れは、その余波で祓われてしまった。

 

「チートかよ……!」

「野薔薇!」

「おう、任せんしゃいっ!」

 

 翻り、野薔薇へと駆けたジョーカーが、野薔薇へと行動権を移した。バトンタッチによる力の受け渡しと増幅は、ジョーカーの認知操作がそれを促していた。

 さて、何故か湧いてくる力に疑問を抱きつつ、野薔薇は二本の釘と鎚を握りしめた。呪力をふんだんに込めた《芻霊呪法》ならば、速度はともかく、威力だけなら銃弾にも勝る──

 

「うげっ」

 

 ──が。そこは呪霊の猿知恵と言ったところ。二本の釘が進む先は芋虫の下半身の部分であったが、何と一時的に融合を『解く』ことで、野薔薇の釘が直撃するのを避けたのだ。流石の野薔薇も、この回避方法には少しビビった。

 

「……それなら!」

 

 そうして用意したのは、六本の新たな釘。(カン)、という金属音を連続させて、それらを芋虫の足元へと連刻した。しかし先ほどと同様に、芋虫はそれらを再び体を『解く』ことで回避する。──だが、野薔薇の目的はそこにあった。

 

「ごだでめいきんきそならこさいないい!!!」

 

 意味の無い言葉の羅列を叫びながら、芋虫は体勢を崩してしまう。

 簡単な話だった。あれだけの大質量を支える下半身を丸ごと解いてしまえば、支えるものは何もない。加えて、ジョーカーがテトラカーンで祓った腕型の呪霊の喪失は、さらに芋虫の体勢を無様に崩す。

 だが、もう彼奴は体裁を気にしていない。倒れ込むようにして、今度は体全体を使った圧縮を試みる──

 

「決めろ、恵!」

「ああ」

 

 ──しかし。それよりも早く、恵へと行動権が移った。

 《十種影法術》における式神が破壊された時、その式神を二度と顕現させる事は出来ない。だが、破壊された式神の力は、別の対応した式神に受け継がれる。

 【玉犬・白】は死んだ。だがその魂は、片割れの【黒】が受け継いでいる──!!

 

「【玉犬・(こん)】!!」

『グルルォオオオッッ!!』

 

 二足歩行の狼男。腹は白く、毛並みは黒く、そしてその瞳は紅く鋭く。そして額には、六芒星にも似た紋様が彫り込まれている。【渾】の鋭牙と利爪は、いかなる硬派なる鱗や鎧をも切り裂く。果たしてその爪は、崩れ落ちたその芋虫の顔面を二、四、六、八等分へと分断させる……!

 

「囲め!」

 

HOLD UP!

 

「さて、どう料理してやろうか」

「ンなもん決まってんでしょ」

「……とっとと済ませてえ」

「なら、やるべきは一択だな」

 

 フ、と笑い、指揮を担うジョーカーが命を下す。

 

「総攻撃タイムだ」

「待ァってました!」

「ブッ潰す」

 

 縦横無尽に皆が皆、思い思いに敵を斬り、殴り、抉っていく──!

 

 

Never show your face again...

 

 

 嘲笑。一人の暗影が闇夜に嗤い、次なる獲物を探し歩む。

 彼奴の無様な死に様を、恵は瞥見すらしない。

 

 

 33.

 

「アレが雨宮蓮……新たな特級術師にして、明智吾郎の後釜か。

 まだまだ発展途上だが、だからこそ成長性は計り知れないな。やはりペルソナ使いは、どいつもこいつも面白い」

 

 愛知県名古屋市、とある中学校。その屋上にて、二人の人外が佇んでいた。一人は頭に継ぎ接ぎのある五条袈裟を着る男、もう一人は闇夜に紛れ輪郭を失いつつある黒尽くめの男。夏油傑と呼ばれる男と昊噓であった。

 

「さて、観察はどうだったかな、昊噓」

 

 今回の二人の目的は既に達せられている。袈裟の男が昊噓に問うたのは、そもそも昊噓が、夏油にジョーカーを一目見たいと珍しく口にしたからだった。

 

「…………キラ」

「?」

「──()()()()()()……!!」

 

 無いはずの目が血走っているのが分かる。無いはずの歯茎が怒りに剥き出しになっているのを感じる。怒りに打ち震える昊噓の、なお抑え足りぬ呪力がその証左だった。

 

「……なるほど、やはりそうか……」

 

 深く、深く笑みを浮かべる。何よりも誰よりも、その存在に喜ぶかのように。

 

()()会える日を楽しみにしているよ、(あきら)

 

 愛おしく、煩わしく、蓮の前世の本名を口にして、二人は闇に消えた。

 

 

PERSONA5 in Jujutsu Kaisen

Let us start the game.

#16 Empty Lie




 コープ獲得:顧問官(伊地知潔高)
 習得:《伊地知の応援》
 控えメンバーが経験値を獲得できるようになる。
 コープ再編:愚者〔2〕(ラヴェンツァ+都立呪術高専一年)
 習得:《バトンタッチ・ランクアップ》
 バトンタッチをした際の攻撃力が上昇し、四人目までチェインさせるとHPが少量回復する。

潔高「まごころを、君に」
蓮「アザッス」

 あんな、7月って32日あんねん。
 というわけでエヴァ15に想いを馳せていた全てのイシを拾イシ者でした。
 ではここで伏線です。なぜ昊噓と夏油は蓮の前世の本名(フルネーム)を知っていたんでしょ〜か?
 答えは一年から三年くらい待っててね。なにしろネタはあるんだけど執筆速度がどうにもならないもんでね。てへ。

 2023/01/05 文章追加

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