呪術廻戦にP5のジョーカーぶち込んでみた   作:全てのイシを拾イシ者

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 7.

 力が湧き上がってくる。全能感が心を満たしていく。身体中の血が(たぎ)っているのが分かる。早く暴れたいとうずうずしている。

 最高に良い気分だ。自然と笑みが溢れる。……それも、普段の彼からは想像も出来ないような、妖しい笑みが。

 手袋を締め直して、ジョーカーは改めて懐かしさに浸った。

 ──思えば、前もここから始まったのだ。どうしようもない絶望の窮地に立たされ、後に友となる男を助けたいがために叫び、そしてこの《アルセーヌ》が目醒めた。

 怒りの結晶、叛逆の決意。

 愚者のように、只管(ひたすら)に前へ。

 それが、アルセーヌというペルソナ(もう一人の自分)なのだ。

 

 ──腕は鈍っていないだろうな、我が契約者よ!

 

「無論だ。……蹴散らすぞ」

 

 ──良かろう。我が力、存分に振るうが良い!!

 

 そうして、戦いの火蓋が切られた。

 生前のジョーカーは、短剣とトカレフ(拳銃)、ペルソナの三つを駆使して戦っていた。前世でペルソナに目醒めた時は、敵が持っていた謂わゆる『脇差』に当たるナイフを拾って使っていたし、拳銃は友人から貰ったものを使った。

 辺りを見渡さずとも分かる通り、この二つが都合良く落ちている訳がない。素手とペルソナで戦う事になった。

 

(殴り合いか……)

 

 無い物を強請(ねだ)っても仕方がない。合気道をしていたかつての参謀の動きを思い出しながら、何とか補完するしかないだろう。

 ──では、状況を整理しよう。前方には二足歩行の蛙一体。後方には浮遊する蛸多数。前者の力量は知らないが、『群れる』という事は、それほど個の力が弱いという事。こちらの攻撃手段は素手とアルセーヌ。戦力は充分だ。

 以上を踏まえた上で、手始めに──

 

「じゅるるるるるる」

 

 大事な先輩方を襲う後方の化物から叩くとしよう。

 

「──背中は任せる。やれ、アルセーヌ!」

 

 スキルを選択する。広範囲に及び、かつ強力な技が良い。ならばコレが打って付けだ。

 アルセーヌの両手に呪怨のエネルギーが溜まっていく。敵を(なぶ)り、穿(うが)つ為だけに存在する赤黒い怨みの塊を、アルセーヌは思い切り床に叩き付けた。一瞬の内にそれは後方の床を伝播(でんぱ)して行き──無数無限の怨念の剣となりて、化物の群れを貫いた。

 ──《マハエイガオン》。それが、彼奴等を屠った技の名だった。

 またジョーカーも、ただそれを傍観していたという訳ではない。アルセーヌが大量虐殺をしていた間、ジョーカーなりの徒手空拳で二足歩行の蛙と戦っていた。

 右の手が来れば、こちらは右の拳を脇腹に突き刺す。左の手が来れば、今度は左の拳で顔面を(えぐ)る。巨口で喰らおうとするのなら、膝で強制的に塞ぐ。ある瞬間は掌底で、ある瞬間は肘で……その攻防の最中、ジョーカーはある違和感を覚えた。

 

(手応えが無い。それどころか……)

 

 先刻よりも明らかに肥大化している。出会(でくわ)した時は一五〇センチ程度の身長だったのだが、既に二〇〇センチを超えた。あまりにも異様だ。様子見を兼ねて、念のため一旦退がった。視野が広くなった事で、ジョーカーは唐突な肥大化の正体に気付けた。

 曲がり角の奥から来たる化物の群れ。それは芋虫であったり、四足歩行の蛙であったり、山椒魚(サンショウウオ)のようであったり、蜈蚣(ムカデ)のようであったり。それらを蛙は取り込んで、体の一部と化している。

 振り返ると、井口や佐々木を無視しつつジョーカーの横を通り過ぎていく化物の群れ。それらも、自分から取り込まれに行っている。今の所、狙われているのは自分だけらしかった。

 

(道理で効かない訳だ)

 

 叩いた所で片っ端から強化され、結果的に無意味となるのだ。効かないというよりは『効かなくなっていく』という方が正しいか。

 ジョーカーはこの時知る由も無いのだが、呪霊達はこの時、呪物の取り込みを一旦取りやめ、ジョーカー()の息の根を止める事を最優先事項としていた。

 眼前の人間は危険だと、本能が告げている。事実、一瞬にして(三〜四級ばかりの有象無象ではあるが)同胞を十何体も葬り去った。少なくともこの人間には、今の我々の力では敵わない。

 ならばどうするか。導き出した答えは『共同戦線』だった。自ら有象無象の『群れ』を『個』に集め束ねる──すなわち融合する事で、本来であれば三〜四級程度の呪霊が、この時だけ準二級レベルの呪霊と成っていた。

 この敵を倒せれば、後は野となれ山となれだ。その後で、()()()()()()()呪物を取り込めば良い。そう考えた。

 ──そこに、新たな乱入者が現れるとも知らずに。

 

 

 8.

 杉三高校校門前。伏黒恵と別れてから、少しだけ時間が経過した頃。虎杖悠仁は、依然一歩も前へ進めずにいた。

 

 ──ここにいろ。

 

 恵から発されたその言葉が重石(おもし)となって、悠仁の足を引っ張り続けている。

 

(…………何、言う通りにしてんだ、俺は)

 

 頭が『動け』と願う。体が拒否する。神経が頭と体で分断されたような気がする。心の奥底にある感情──『恐怖』が、悠仁の全てを支配した。

 体は岩のように動かない。足は震えて意味を成さない。己を諭すために腕を振るう事も出来ない。

 

 

 濃厚な死の予感。一歩でも前に進んでしまえば、その重圧に体が呑まれそうだ。冷たい汗が流れる。呼吸が乱れる。

 学校にはまだ井口武志がいる。佐々木節子がいる。そして幼馴染である雨宮蓮がいる。ならば、助けなければ、助けなければ、助けなければ。

 

 ここで待ち続けるなど出来ない。

 

ここに居よう。

 

 皆を助けるために、恵は戦っている。

 

それがどうした。ここに居よう。

 

 先輩も、蓮も、生き延びるため、きっと戦っている。

 

向こうは危険だ。ここに居よう。

 

 なら俺は、今何をすべきだ?

 

俺は戦わない。ここに居よう。

 

 俺は、何のために戦うんだ?

 

そんなの知った事じゃない。ここに居よう。

 

 

──オマエは強いから、人を助けろ。

──特に蓮だけは死ぬ気で守れ。

 

 

 ……爺ちゃんは死ぬ時、怖かっただろうか。

 そのような雰囲気はしなかった。最期まで強情張りで、短気で、頑固で、口を開けば文句ばっかりの、いつもの爺ちゃんだった。最期まで、爺ちゃんは『爺ちゃんらしく』あろうとした。そして爺ちゃんらしく死んだ。

 見舞いなど、俺以外に来やしない。

 俺みたいになるな、なんて、言われなくても分かってる。

 蓮だけは死ぬ気で守れ、なんて常日頃思ってる。

 でもさ。爺ちゃん。

 爺ちゃんは、正しく死ねたと思うよ。

 ならば……理不尽の権化とも言えるそんな奴等に殺されるのは、正しい『死』だろうか。

 

 

「〜〜〜〜〜〜ッ! ああくそッ、迷うな虎杖悠仁!!

 人を助けろ! 蓮を守れ! 絶対死なせんじゃねえ!!

 ──そんなの、間違った『死』だ!!」

 

 

 己を鼓舞した所で、恐怖は消えない。

 しかし、少しだけ……ほんのちっぽけな勇気が湧いた。

 それが分かった時、悠仁は既に走り出していた。

 その顔に、もう迷いは無かった。

 

 

 9.

 彼奴の体には、様々な種類の化物が(まと)わりついており、先の二足歩行の蛙だった時の面影はおろか、原型すら無くなっている。肥大化しすぎた肉体は、もはや這いずりまわることでしか移動する事が出来ないだろう。ジョーカーは率直に、現在の彼奴を「ジョジョのポルポみたいだ」と思った。そして安易に攻める事は出来ないとも思った。

 肥大化する前であれば、ペルソナで対応出来ただろう。しかし強化されてしまった以上、ジョーカーは、アルセーヌでは一発で決めきれないと直感した。更に、後方にいる武志と節子の存在が、ジョーカーの不利に拍車をかける。生前から守りながら戦うのは苦手だった。

 切り抜ける方法──もといスキルはある。だがそれが決まらなければ、二人を危険に晒すことになる。どうにかして隙を作れないだろうか…………そう、思った矢先。

 

 ガシャアアアアアン!!!

 

 突如として、窓硝子(ガラス)が割れた。

 ジョーカーも流石に驚愕に目を潜め、顔面を両腕で庇った。──しかしその目は、別の意味の驚愕で見開かれる事になる。

 ()()()()()。硝子を蹴り破った張本人は、見紛うことなく、我が親友の虎杖悠仁であった。

 

「オオオオオオオオオオ、ラアッッ!!!」

 

 その勢いのまま、悠仁は化物の顔面を殴り飛ばした。直後にバランスを崩し、転がるように着地。しかし多少は効いたようで、怯む事はないものの、注意が悠仁に逸れている。千載一遇、またとないチャンス。この機は逃せない……!

 

「行け! 蓮!!」

「──アルセーヌ!」

 

 アルセーヌの持ち得る最大火力を誇る物理スキル。その双腕から放たれる一撃は、音の追随(ついずい)を許さない。それはもはや打撃ではなく、斬撃の域に達していた。

 ──《ブレイブザッパー》。ジョーカーが生前に愛用したスキルだった。

 惨い音。肉を無理やり裂いた音。一つの生命が消えていく。

 煙のような、霧のような、(ちり)となって還るのを見送った。手袋を締め直し、アルセーヌもまた、仮面へと戻った。

 

 

 10.

 誰かの叫声が聞こえる。男性にしては高い声だ。おそらく、虎杖悠仁と一緒にいた癖毛の男子学生のものだろう。既に部室を出ている事に、伏黒恵は焦りを感じ、疾る速度を更に上げた。階段を駆け上がり、渡り廊下の扉を開いた所で……ソレは、恵を嘲笑うかのようにそこにいた。

 野球のバットの形状をしているが、頂点に歪に生えた歯を持つ口があり、体に無数の目がこちらを見ている。まるで百々目鬼(とどめき)*1のようだ。これを呪霊と呼ばずして何と呼ぶのか。

 

「ちゅーる ちゅーる」

「チッ──邪魔だ」

 

 しかし相手が悪すぎた。喰らう側は自身ではなく相手だった事に、呪霊は気付く事が出来なかった。恵が呪霊に対し舌打ちをしたのは、余計な手間が増えたための苛立ちによるものだ。

 両手で犬を模るように掌印を結んだ。左手は中指と薬指を分ける事で口を、親指で耳を、右手は左手を握るようにして顔を表した。

 その直後、恵の足元にあった()()()()()()()、やがて影は二つの新たなる存在を生み出した。

 

「ウォォオオオオ────ンッッ」

「ガルルルルル…………」

 

 阿形と吽形のように二対で現れた、吠える白い犬と唸る黒い犬。白い犬の額には三角形の模様があり、黒い方の額の三角形は逆さになっている。

 伏黒恵は、影を介して式神を操る呪術師だ。手指の掌印を作ることで、自身の影から式神を呼び出す《十種影法術(とくさのかげぼうじゅつ)》を使う。これより眼前の呪霊を(ほふ)る二匹の犬の名は──

 

「【玉犬(ぎょくけん)】……喰っていいぞ」

『グルルアッッ!!!』

 

 命を下したその刹那。待ちきれんとばかりに飛び出した二匹が、バットの呪霊を斬り裂き──否、噛み裂いた。

 恵に止まっている暇はない。足止めにすら成りはしない雑魚を蹴散らしながら、やたらデカい学校を走り回る。──しかし途中で、恵は何か違和感を抱いた。

 

(呪霊が思ったより少ない……いや、()()()()()()……?)

 

 そう、少な過ぎる。本来ならば、残飯に(たか)(ハエ)のように、呪物へと集まっていくはずなのだ。呪霊数が多くなるのは当然だし、それも《特級呪物》となれば尚更の事。しかし、一定の場所を通り過ぎた時点で、その数が減った気がした。遭遇しなくなって来たのだ。

 援軍の可能性は低いだろうと恵は考える。そも呪物回収の任務に戦闘を想定してはいなかったし、何よりあのバカ上司が来るとは思っていない。

 

(……まさかとは思うが……)

 

 呪物を取込み、より強くなった呪霊が、他の呪霊を蹂躙しているのではないか。そのような最悪の事態を想像してしまった。そうなってしまえば、恵の手に余る任務になる。そうなる前に上司に連絡を……と考えたところで、恵は気付いた。

 

(あっ、(とばり)下ろしてねえ)

 

 恵、うっかり。

 それはさておき帳とは、『非術者から内側の様子を認識出来なくする』結界術だ。その結界は、内側から出ようとする意思を持つ者を、何人たりとも、どのような聖人君子であっても、決して出すことを許さない。また(これは副次的なものだが)電波障害も引き起こすため、助けを呼びにくいというのも特徴だ。

 ──そも、なぜ視認できなくする必要があるのか。それは、呪いが人々のマイナスの感情から生まれる事に起因する。目に見えない呪いに対する恐怖、不安を取り除き、新たな呪霊の増加を抑制するという意図のもと発動される……のだが、呪物を回収する事を考え過ぎるあまり、帳を下ろすのを恵はすっかり忘れていた。

 しかしそのうっかりが功を成した。帳を出していないという事は、救援を要請し易いという事。気に食わないが早速スマホを取り出して『五条先生』にコールした。

 

 トゥルルルルル

『お電話ありがとうございま〜ちゅ♡ あなたのGood Lookin’ Guy、五じょ』

「人違いでした」ガチャッ

 

 やはり自分一人の力で何とかするしかない。恵は強く思った。通話を切る時の親指の力が若干強かったように見えたのは、気のせいだろう。

 そうこうしている内に走り続けて、家庭科準備室に続く四階の廊下を曲がった所で──恵は異様な光景に邂逅した。

 甲高い音を響かせてガラスが割れる。その中にいたのは、先程待っていろと念を押したはずの虎杖悠仁その人だった。悠仁が呪霊の顔面を殴り飛ばし、その隙を突いて何者かが赤黒い何かに指示を出したようだ。

 

「──アルセーヌ!」

 

 赤黒い悪魔の、その両の巨腕と鋭利な爪から放たれた『打撃を超えた斬撃』が、惨い音を立てながら呪霊を屠った。残骸や紫色の血液が、壁や床を汚していく。

 

(──なん、だ、コレ)

 

 恵は、自身の目を疑った。悪魔が呪霊を屠る点においても──夕方に見た癖毛の学生らしき者が居るという点においても。……その学生が、何やら妙な格好をしているという点においても。

 術式は何だ。目的は何だ。味方なのか。敵なのか。そもそもコイツは何者だ……と、あらゆる思考が恵の脳内を支配していく。

 すると、赤黒い巨人が蒼い粒子となって仮面へと取り込まれ、完全に消えた。手袋を締め直して、振り向き──、恵を見て、硬直した。

 

(この反応……コイツ、呪詛師()か?)

 

 それならば、いざとなれば殺害する事も辞さないと、恵は覚悟を決め、玉犬を控えさせた。そして、ついに癖毛が口を開き──

 

「…………犬と、うに?」

「ぶん殴るぞお前」

 

 ちょっとイラっと来た。

 

 

 11.

 

「蓮、ナイスファイト!」

「そっちも、良い援護だった」

 

 掌を打ち合わせる。

 

「ってか、恵じゃん!」

 

 悠仁はこの青年と面識があるらしい。恵と呼ばれた青年は、頭を押さえながら悠仁に言う。

 

「(いきなり下の名前で呼んで()んのかよ……)はぁ……。何で来た、と言いたい所だが、良くやった」

なんでそんな偉そうなの?

「──それよりも、問題はオマエだ」

 

 恵がジョーカーを向いた。身に覚えが…………無い事も無い……というかありまくるジョーカーだが、シラを切るように自身を指差した。

 

「オマエは一体何者だ?」

「どうも、雨宮蓮です」

「真面目か! ……いや、そういう事じゃねえ!」

「ってか蓮、何そのカッコ!?」

「ハイカラだろ?」

「ハイカラだな!」

 

 良いツッコミが入った。裏で悠仁達が「良いなー、カッコいいなー、ねーねー、後で俺にも着せてよ」「後でな」と言い合っているのを、恵は無視した。

 

「頭が痛えよ……もういい、後にしよう。呪物はどこだ?」

「……こ、これの事?」

 

 恐る恐る、節子が先程お札を剥がした指を見せる。二人は柱の影と一体化し、出来るだけ存在感を無くしていたようだ。アルセーヌの攻撃や呪霊に当たらなかったのは、不幸中の幸いと言った所か。

 

「やっぱり(ほど)いてたか……」

「や、やっぱり本物なの……ですか?」

「あっ、先輩。コイツ俺と同年代(タメ)だよ」

「あっ、そうなんだ……」

 

 立てる? と悠仁が問う。武志は問題無かったが、節子は完全に腰が抜けていた。ジョーカーが手を取って引っ張り立たせる。なまじ足が長くスタイルが良いので、この一動作だけでも絵になる。初対面の反応もあってか、恵は更にイラっと来た。

 余談だが、お札を解く前にトイレに行っておいて良かったと思った事を、二人は心の中に留めておくことにした。

 

「ってか、その犬何よ? むっちゃ可愛いな」

 

 玉犬がおすわりの体勢で待っているのを見て、悠仁は問うた。

 

「俺の式神だ。やっぱ見えてんのか」

「式神?」

「……呪いってのは、普通は見えねえモンなんだよ。こういう死に際とか、特別な時は別だが」

「あー、確かに俺、幽霊とか見た事ないしな。でも蓮は? お前霊感強いっしょ?」

「ああ。見えてた」

「は?」

 

 伏黒が眉を(しか)める。

 

「小さい頃から見えてた」

「……何も思わなかったのか? 気味が悪いとか……」

()()()()……何か変なのがいるなーとしか」

「……ますますお前が謎だよ。生い立ちにしろ、術式にしろ、その変な格好にしろ……まあいい。後で聞く」

 

 恵は節子達に向き直った。その後ろで「変なとは何だ。カッコいいだろこのコート。本当は羨ましいんだろ」とジョーカーが無言で怒っているが、恵は気にも留めなかった。

 

「その指は危険なモノなんです。今は話している時間も余裕も無いので、後日話します。すぐに渡してください」

「うん……もう、懲りたよ。ごめんね、タケ、蓮。巻き込んじゃって……」

「いや、良いよ。……こんな事になるとか、思ってるわけねーし」

「あの、コレって結局何だったの?」

「──特級呪物《両面宿儺(りょうめんすくな)》……その一部ですよ。聞いても知らないと思いますが」

 

 質問をしながら、節子が恵に指を渡す──

 

「──────! 下がれ!」

「ひゃっ」

「うおっ」

 

 ──その時、まるで節子を狙っているかのように、()()()()()()()()()()()()。そう思った瞬間、ジョーカー含む悠仁達()()は、強制的に後退させられていた。

 胴体を襲う衝撃。見ると玉犬二匹が、唐突なる巨大な乱入者に潰されぬようにと、その身を挺して護ってくれたのだ。玉犬二匹も無事そうだが、しかし……

 

「恵っ!」

「っぐ、何、してる……にげろ……!」

 

 ……恵は、呪霊に捕らえられてしまった。ジョーカーが夕方に見た、イグアナのような、あるいはバッタのような外見をした巨大な呪霊に。

 計四つの紅い目でまじまじと見つめてくる。首だけを捻り、歯を鳴らす様は、爬虫類のそれにも見えた。

 

「──くそっ、【(ぬえ)】!」

 

 両手で『翼を広げる鳥』を模るように、片方の親指をもう片方の親指に引っ掛け、新たな式神を呼ぶ──

 

「おおおお゛お゛お゛お゛っっ」

 

 ──よりも疾く、六本足(あるいは六本腕)の内の、恵を握る一本が、思い切り壁に恵を叩きつけた。その衝撃で壁にクレーターが出来る。

 

「──────っ、か、は……!」

 

 一瞬、意識がトんだ。次の一瞬、肺の中の空気が全て外に放出した。恵の術式(思考)を乱すにはこれで充分だった。玉犬が闇へと溶けていく。更にダメ押しと言わんばかりに、呪霊は()()()()()()()()()()()()で恵を押し出した。

 

「恵!!」

 

 呪霊と共に恵は二階の渡り廊下の真上に漂着したようだが、頭部からの出血に加えて喀血(かっけつ)。おそらく骨も折れているだろう。どう見ても重傷。戦える状態ではなかった。

 しかし──しかし、そんな状況でさえも、恵は立ち上がろうとした。既に掌印は組んでいる。先程の【鵺】を召喚するつもりなのだろう。自身へと突進してくる呪霊を恵は睨みつけた。

 だがそれを静観出来るほど、ジョーカーは薄情でも、恩知らずでもなかった。

 暗雲の夜、闇の奥。破壊された壁から、ジョーカーは舞うように跳んでいく。

 

「ペルソナァッ!」

 

 アルセーヌを呼び出しつつ、スキルの選択を脳内で済ませた。再度掌に溜まる呪怨のエネルギー。この巨体を相手にするのであれば、広範囲に攻撃が届く《マハエイガオン》が適任だ。恵と呪霊との間に着地しつつ、地へ叩きつけエネルギーを浸透させ、爆発させ──瞬間、呪怨の剣が巨大イグアナの全身を、満遍なく貫く。しかし呪霊を祓うには至らなかったようで、悲鳴を上げつつもジョーカーに注意を向けた。

 

「お゛お゛お゛お゛お゛お゛あ゛あ゛ッ」

「無事……じゃなさそうだな」

「……見りゃ分かんだろっ、ゴフッ」

「援護する」

「逃げろっつったろーが……四人分荷物抱えてんだよ、呪術師(こっち)は」

「それでも、見てるだけで何もしないのは嫌なんだ」

 

 呪霊と真っ向から向き合う。もう一度何かしらのスキルを放てば倒れると、ジョーカーは見立てた。身構えながら仮面に触れ、アルセーヌを──

 

「──────ぅ、あ──────?」

 

 ──しかし、ここが今の雨宮蓮の限界だった。

 突然膝を突くジョーカー。電池の切れた玩具のように、床に手をついてしまう。蒼い炎に包まれて消えていく怪盗服と、嫌に冷たい汗。極度の疲労で震える脚と、痛む筋肉の節々。そして焦点の合わない目が、ジョーカーが──蓮の戦闘不能を示唆していた。

 

(な、ぜ………………)

 

 この時、蓮は忘れていた。ペルソナの覚醒には、体力や精神力を大幅に消耗する事に。蓮の肉体は(多少鍛えているとはいえ)覚醒及び急激な身体能力の向上について行けなかったのだ。

 また、アルセーヌのスキル発動にかかるコスト──前世における謂わゆる《HP(体力)》や《MP(気力)》、今世における《呪力》の消費量が半端ではなかった事も一因として挙げられる。そして、蓮の最大の失態は、上記の要因に気付けなかった事だ。

 今の蓮は、何もかもが全盛期のジョーカーとは程遠い。それなのに全盛期のペースで──蓮の身体能力を鑑みれば無茶と言えるペースで戦い続ければ、限界に到達するのは、何らおかしい事ではない。

 生前の蓮も、アルセーヌが目醒めた時はそうだった。後に最高の相棒となる化け猫の助けが無ければ、永遠に敵陣を彷徨(さまよ)って……おそらく、命を落としていただろう。助け舟を出した本人が一番の足手まといとは、笑えない冗談だ。

 

「せっちゃん先輩、指貸して!」

「あっ、ちょっ! 危ないってば!」

「こっち見ろや呪い! ──とぅおっりゃああああああああっっ!!」

 

 ──悠仁だ。悠仁も跳んだ。超跳躍を見せ、呪霊の後頭部をライダーキックで蹴り飛ばし、イグアナの背中に張り付いた。

 

「……ったく、どいつもこいつも」

「ンな事言ってる場合かようおぉぉおわああああっ!?」

おお゛お゛お゛お゛お゛ッ

 

 振り回される悠仁。どうにかしがみ付き、一発でも拳を叩き込もうと試みるも、振り落とされてしまった。地を数回転がってようやく止まった。額を擦りむいたようで、恵程ではないものの、ほんのり血が流れる。

 

「お前じゃ無理だ。いくらお前が強くても、呪いは呪いでしか祓えない。呪力の無いお前が戦っても意味ねーんだよ」

(……じゃああの時の肥大化した呪いは…………)

 

 蓮の読み通り、悠仁は呪霊を弱らせたのではなく、あくまで隙が作れただけだ。つまり、あの時の《ブレイブザッパー》は急所に当たった(クリティカルヒットした)だけなのである。

 

「恵クン、それ早く言ってくんね?」

「大……丈夫か、悠仁」

「お前よか元気ビンビンだわ、蓮」

「虎杖、雨宮連れて逃げろ。あの二人とソイツを守れんのは、お前だけだ。このままだと全員死ぬぞ……!」

「……俺らが逃げたら、お前死んじまうだろ。そんなん夢見がワリーよ。俺が引きつけとくから、どうにかして『ヌエ』ってヤツ出してくれ」

 

 ──オマエは強いから、人を助けろ。

 ──特に蓮だけは死ぬ気で守れ。

 

「それにさ、コッチも面倒くせー呪いかかってんだ、よッ!」

 

 言いながら悠仁は飛び出した。──その左手に、特級呪物を握りしめて。

 

「おい(ひげ)ヤロー! (特級)(呪物)が欲しいんだろ!?」

 

 悠仁は恵と邂逅を果たしたあの病院で、呪物の役割や呪霊について粗方教わった。呪霊が人を苦しめる事、学校や病院が呪霊を溜め込みやすい事、手にある呪物が呪霊を惹き寄せる餌である事──より強力な呪力を得る為に寄ってくる事を。

 呪霊が前両腕を振るう。彼奴の右腕が左腕より早く振われたので、左腕の下を掻い潜り、横腹に蹴りを見舞う。しかしそれ以上の事はしない。悠仁は自身が囮である事を自覚出来ていた。ヒット・アンド・アウェイの要領で、刺しては離れを繰り返す。

 しかし、そう上手く事は進まなかった。

 

(頭回んねえ……フラフラする……、術式が安定して発動出来ねえ……。クソ、こんなトコで躓いてちゃいけねーのに……アイツはまだ、戦ってんのに!)

 

 血が止まらない。【鵺】を出そうと掌印を結ぶも、集中が乱れ呪力が練れない。

 呪力とは、術式を発動するために必要な、術師から流れる負のエネルギー。自身の負の感情を火種とし、捻出。術式に呪力を流し込み続ける事によって、術師は呪霊相手に戦える。故に呪力が練れなければ、術師はただの一般人と化す。

 時間稼ぎも虚しく、悠仁は巨拳を腹に喰らった。

 

「うぶごッ──」

 

 血反吐を吐く。そしてそのまま掌へと吸い込まれるように捕らえられた。その衝撃で指を手離してしまったが、何とか口で指の根元を噛み締めた。──しかし、絶体絶命の状況には変わりない。そのまま両手で体を押さえ付けられ、身体から嫌な音が聞こえてくる。

 

(ちく、しょう……どうする? どうすれば皆助かる? 何か方法は無いのか!?)

 

 その身体を呪霊は無理くり口へ放り込もうとするが、喰われまいと呪霊の歯を足場に踏ん張る。しかしジリ貧だ。いずれ根負けしてしまう。何か突破法は無いのか。顳顬(こめかみ)に血管を浮かべ、歯を食いしばりながら、悠仁は脳細胞をフル回転させる。

 そこで、悠仁は恵との会話を思い出した。

 呪霊が呪物を狙うのは、取り込んでより強力な呪力を得る為である。

 この特級呪物には、膨大な呪力が込められている。

 そして──呪いは、呪いでのみ祓う事が出来る。

 

「──あるじゃねーか! 皆が助かる方法が!!」

 

 そう言いながら、悠仁は口で器用に呪物を放り投げた。

 

「(まさか……!)ダメだ、やめろ虎杖!!」

 

 恵が悠仁の思惑を察し怒鳴った。しかし呪物は悠仁の──額へと当たって、後方へ。

 

「…………あっ………………ヤベ」

 

 完全に打つ手無し。悠仁は冷や汗が止まらなくなった。

 ──しかし、運命はまだ、悠仁を見放してはいないらしい。

 

 

「アルセーヌ…………《ブレイブザッパー》……!!」

 

 

 限界を超えた蓮が──ジョーカーが居なければ、本当に打つ手は無かっただろう。アルセーヌが呪霊の両腕を断ち切り、悠仁は自由を手に入れた。しかし、ペルソナを発現させる事さえも辛くなってきたようで、ジョーカーは──蓮は膝から崩れ落ち、怪盗服もアルセーヌも消えた。

 

「ごめん、悠仁……後、を、頼む…………」

「──サンキュー・ソーマッチ! 蓮!!」

 

 全身を投げ出して倒れる友人を尻目に、悠仁は指を拾い、何の躊躇(ためら)いも無く飲み込んだ。

 

(馬鹿か!? 特級呪物(猛毒)だぞ!? 確実に死ぬ!!

 ……いや、だが──万が一、万が一の事があれば──)

「おおおお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」

 

 呪霊が、悠仁目掛けて迫ってくる。重い足音を鳴らしながら、暴走機関車のように突進し、その大口を──

 

 

惨。

 

 

 ──音の無い斬撃が、ただ腕を振り上げただけの鎌鼬(かまいたち)が、巨大なイグアナの呪霊を葬り去った。

 勝手に弾けたようにも見えた。無理矢理に引き千切られたようにも見えた。一陣の風が全てを薙ぎ払った。あまりの衝撃に、気を失いかけていた蓮も目を見開いた。分からない。理解が追いつかない。蓮にはこの状況が理解出来ない。ただ一つの事実は、先の呪霊は、もはや形を成せない程の肉塊と化した事だけ。

 月のない夜の暗雲が晴れていく。

 

「ゆう、じ…………?」

 

 その返答は、笑い声で成立した。だがその笑い声に、蓮は納得がいかなかった。

 悠仁を昔からよく知る蓮だからこそ分かる。

 決して悠仁が出す事のない、汚らしい嗤い声だけが、辺りに響いた。

 

「ああ、やはり! 光は生で感じるに限るなァ!!」

 

 特級呪物の受肉。呪物を取り込んだ事で、悠仁はその身体を呪物に明け渡した。上着を鬱陶(うっとう)しく感じたのか、呪い(悠仁のような何か)はパーカーを、下に着ていた制服ごと引き裂いた。

 

(最悪だ……!! 最悪の『万が一』が出ちまった!!)

 

 恵はギリ、と奥歯を噛み締めた。

 ──悠仁の身体は変質していた。上半身から顔に浮かび上がった紋様。普段の彼よりも更に発達した筋肉と爪。そして両目の下に浮かび上がった、()()()()()()()。それは即ち、特級呪物の受肉を意味していた。

 

「呪霊の肉など、いくら屠った所で詰まらん! 人は! 女はどこだ!!

 …………──ほう」

 

 そこから呪いは、仙台の夜を見渡した。

 未だ光の灯っている家屋の数々。両の手では数え切れぬほどにいるらしい、人、人、人。平安の世には無かった、蛆虫の如く飽和する人間達。男も、女も、小童も、老人も、選り取り見取りだ。平安の頃など目ではない。それほどまでに──踏み潰したい人間が、湧いている。

 呪いはそれを、心の底から喜んだ。

 

「ああ────良い時代に、なったのだな……!

 素晴らしい……!!」

 

  ──鏖殺だ。

 

 特級呪物《両面宿儺(りょうめんすくな)》。

 千年の世を経て、最強にして最恐にして最凶の呪いが、今宵現代に蘇った。

 ──絶望の夜、終焉の鐘が鳴った日。

 宿儺の嗤い声だけが、響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハハハハハハハハハハハハ──んぐっ」

 

 汚らしい嗤いを放つ顎が、自身の手によって抑えられる。それも、()()()()()()()()()()()()()()()

 

────────あ?」

「人の体で何してんだよお前、さっさと返せ」

 

 絶望の夜。終焉の鐘が鳴った日。

 虎杖悠仁(一筋の希望)は、帰還を果たしたらしかった。

 

 

PERSONA5 in Jujutsu Kaisen

Let us start the game.

#2 Ryomen Sukuna

*1
腕に無数の目を持つ女の妖怪




日間ランキング1位ありがとうございます
精進して参ります
遅くなってすみませんでした

章ごとに情報が解放されていく形式の雨宮蓮の設定欲しい?

  • オ…オタカラァ…!
  • どうでもいい…
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