呪術廻戦にP5のジョーカーぶち込んでみた   作:全てのイシを拾イシ者

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#22

 16.

 

「順平! 順平!!」

 

 桜里高校の校庭に、半径三メートルはあろう巨大な黒球がぽつんと存在している。それの正体を、虎杖悠仁は知っていた。知っていながら、順平が巻き込まれるのを止められなかった。

 油断していたというのもある。だがそれ以上に、建人から『真人は発展途上の呪霊である』と言い聞かされていた事も起因していた。無意識のうちに侮っていたのだ。まさかこの短期間で、真人が領域展開を習得するなどと……そんな有り得ないほどの才能を持ち合わせているとは、露も思っていなかった。

 だから、一手遅れてしまったのだ。

 

(クソ、クソッ! こんなクソな結末あってたまるかよ!!)

 

 諦める事など到底出来ない。

 鉄のように硬いその領域の『殻』の、一点突破を試みる。

 軋む拳と吹き出す血を、歯を食いしばって堪えながら。

 順平の無事を、祈りながら。

 

 一方で真人は、己の勝利への確信に酔いしれていた。

 

「知らないだろうから教えてあげるよ、順平」

 

 真っ暗な部屋に閉じ込められたような感覚に陥る吉野順平。否、真っ暗というのは少々語弊があるか。光源がないのに二者の姿が見えるくらいには明るい。

 足元を見ると、二人が立っていたのは不可視の鏡面の上で。その奥には、まるで蜘蛛の巣のように張り巡らされた『手』の数々。

 嫌な予感しかしない順平は、決死の時間稼ぎのために、真人の言葉を聞くしかなかった。

 

「これは〝領域展開〟。必中必殺の呪術の頂。才能のあるヤツしか届かない極地ってヤツさ。俺も届いたのは、今さっきだけど。

 感謝するよ順平。キミのおかげで、俺はまた一歩前へ進めた」

 

 真人の感謝は本物だ。この状況が、もはや順平ではどうする事も出来ない事態にまで陥っている証左でもあった。

 

「……《無為転変》が、僕に確実に刺さるって事か」

「花丸大正解♡」

 

 態とらしく和かに、真人はその両手から更なる小さな手を複製して花丸を模る。全くもって腹立たしい。順平に出来ることはもはや何も無いと分かっていてのその行動を、順平自身が理解出来ているからこそ。

 

「……ちく、しょう」

 

 唇を噛み締めて、行き場のない怒りと悔しさを、赤く吐露する。

 今、順平に出来るのは、悠仁を信じて待つ事だけだった。

 残り少ない余命に、心を絶望で満たしながら。

 

「順平ってさあ、それなりに頭は良いんだろうけど……キミが馬鹿にしてきた奴らのその次くらいには馬鹿だから。

 ──だから、死ぬんだよ」

 

 心に渦巻く黒い感情に、何か大切なことを忘れている事も気付かないまま……。

 

 

 17.

 かつて、クルスアキラは地獄を見た。

 人を人として扱わぬ天国の覇者を見た。

 生態系の枠組みから外れた神秘を見た。

 決してヒトの辿り着けぬ、神と(まみ)えた。

 宿儺のそれと似る、本能に語り掛けてくるような恐怖。

 全ての生物に植え付けられている、上位存在に対する根源的恐怖。

 

(……似ている)

 

 目の前のそれ(昊噓)から、『底知れぬ畏怖』をジョーカーは感じた。

 

 人を人と思わぬ者は、人の中であれ少なからずいる。

 性の捌け口、金の成る木、無限に湧き出るATM、権威に縋るハイエナ、政界入りを果たすための人柱……誰が人をどう思うかは、人それぞれだ。

 だが神の場合は、そもそも認識が違うのだ。

 

 神は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 全ての生命とは、己の作りしモノの一種に過ぎず。

 人とは、自然というシステムの中の最高傑作でしかなく。

 その気になれば軽やかに淘汰できるような──

 

「烏滸がましい」

 

 人に曰くの、『蟻』だ。

 

「貴様の怒りが、何だと云うのだ」

 

 蟻は『人』を畏るるが故に。

 

「嗚呼、実に烏滸がましいぞ、クルスアキラ」

 

 蟻は人を上位と覚ゆ。

 

「貴様のような愚かな蟻は」

 

 故に、蟻に曰くの『人』とは。

 

──我が直々に踏み潰してくれる」

 

 人に曰くの──正しく『神』に等しかろう。

 

 地獄に、血の雨が降っている。

 雨とは、人が古来より抱いてきた厄災の象徴だ。遥か昔、ありとあらゆる古文書にて、形を変えて描かれる『洪水伝説』が主だった例として存在するからこそ、昊噓は昊噓足り得るのだろう。

 昊噓が呪力を解放する。──瞬間、あらゆる場所で竜巻──否、雷電を伴う暴風雨が上がる。下で苦しむ認知存在の人間達は風の前の塵。昊噓という尋常ならざる呪力総量と緻密な呪力操作技術があれば、このような大道芸なら寝ていても出来る。

 昊噓の周囲に浮上する二つの球、吹き荒ぶ澁谷の街並み。昊噓のコンディションは、いつになく万全だった。

 領域を展開された以上、昊噓に出来ることは『自身の領域でジョーカーの領域を塗り潰す』か、『領域諸共ジョーカーをぶちのめす』かの、二つに一つ。領域から脱出という手段も取れなくはないが、そんな愚鈍な真似は昊噓のプライドが許さない。

 

「何を言おうが、オレの答えは変わらない」

 

 ──ただし、相手がジョーカーでなければ。

 

「──蟻の底力を嘗めるなよ、呪い風情が

 

 塗り潰しにかかる呪力量があまりにも多いのと、ジョーカーの領域が呪術的に『塗り潰しにくい』というのがあって、昊噓は、自身も領域を展開することによる圧倒に踏み出せずにいた。

 

 そもそもだ。領域展開とは『術者自身の生得領域を術式を付与して現世に展開する結界術』で、呪術全盛期の平安では、呪術師呪詛師共に、誰しもが当たり前に使えていた技術だ。

 ではなぜ現代の呪術師のほとんどが、領域を展開出来ないのだろうか。

 その理由としては、『昔の領域展開と現代の領域展開ではその意味合いに違いがあり』、『その意味合いの差異にハードルを上げる要因がある』からだ。そしてその要因こそが、領域の特性である『必中必殺』のうち『必殺』の有無によるものだった。

 

 五条悟の《無量空処》は、領域内に連れ込んだ者の『視覚・伝達』を阻害し、ありとあらゆる思考や行動を不可能とさせるもの。例として、目の前のりんごを『りりりりりりりりりり』としか認識出来なくさせるのだ。そしてそうなった者の行き着く先は、廃人となって死を待つのみ。

 故に『必中かつ必殺』の領域。

 だが神童であり努力の天才であり最強でもある五条悟ですら、領域展開の確立には十年以上の歳月を要した。幼い頃から呪術師としての英才教育を経てきた五条悟ですら()()なのだ。現代術師には、その頭に刷り込まれた『必殺技』のイメージを崩せない以上、一生かかっても出来ない者が多いのも当然だろう。

 その一方でジョーカーの《啓龕廟堂》は、領域内にいる対象者に、『対象者の認知を元に何か一つの効果を強制する』というもの。ジョーカーは『縛りからの解放』を主に使用する。これは敵に使用する事も出来るが、自分自身だけを対象、あるいは両者を対象者とする事も出来る。その難易度としては、自分のみ<両者<相手のみ、の順だ。

 そういう意味では、《啓龕廟堂》には簡単な対処法がある。ジョーカーの領域を『必殺』だと認知しなければいいだけなのだ。それさえ出来れば、まず領域の効果で死ぬようなことはなくなるのだから。

 故に《啓龕廟堂》は、『必中であるが必殺ではない』領域。

 だからこそジョーカーの領域は、それが大きなアドバンテージを持つ。

 

 この世界における呪術は、共通して、『等価交換』を原則としている。

 例えば、ジョーカーが自身に大量の縛りを設ける事で、自分の体力や実力の底上げに成功している。特に縛り①(死に至る病)は、『自身の命』を対価に『レベルの大幅向上』もさることながら、拡張術式の確立成功に大きく貢献していたりもする。

 そしてその『等価交換』の原則は、何も術式効果だけでなく、帳や領域などの、基礎的な結界術などにも適用できる。

 現に真人が降ろした帳には、『外からは簡単に入れる』が『呪力のない者は内側から出られなくなる』帳を作り上げる事に成功している。呪術的な足し引きが成立しているからこそ、このような芸当も出来るのだ。

 では、『必中であるが必殺ではない』ジョーカーのような領域は、どのような特性を持っているのか。それこそが、『領域展開自体の難易度が低い』、『領域同士の押し合いに強い』という特性だ。

 これはジョーカー自身も知り得ない事だが──その特性を『易々と』打ち破れる者は、現時点では、結界で閉じない(押し合いが関係ない)タイプの両面宿儺と、熟練された術式による領域をぽんぽん展開できる五条悟をおいて他にない。

 それほどに、ジョーカーの領域は厄介なのだ。

 隙を考慮しない上で全力でかかれば、昊噓とて、どうにか押し潰せるであろうが。

 

 さて、恵との模擬戦の後、ジョーカーは新たにペルソナを合体・作成し、自身が所有するペルソナは、合計で八柱へと減っている。アルセーヌはもちろんのこと、吉野凪を救うために認知スキルを使った『悪魔』のアルカナ・ドッペルゲンガーを含めて、だ。

 まるで鳥が羽ばたくように、両手で弧を描きながら、互いに反対の目元を覆い──

 

「愛でよ奏でよ、アナーヒター、ブリジット」

「ウフフ……」

「アハハ……」

 

 そして呼び出すのは『恋愛』のアルカナを持つ、流水纏いしアナーヒターと、『節制』のアルカナを持つ、焔吹き上がる壺抱えしブリジット。〝清浄〟と〝高貴なる者〟の(あざな)を持つ、眉目秀麗……否、妖艶なる二柱の女神。

 相反すれど、六花と劫火の女神達ならば──ミックスレイド(合体技)に選ばれるには申し分ない。

 

 ──呪力がペルソナを介して、別の物質に変換されていく。

 

 奴が空を驕るのなら。

 

 こちらは星を傲るまで。

 

 ──真の地獄を、傲るまで。

 

《ヘルヘイム》……

 

 ジョーカーが嗤う。昊噓が軋る。

 その黒達を、翼の如く(なび)かせる。

 片方は、灼熱と紅蓮の大地を。

 もう片方は、(いかづち)纏いし大嵐を。

 二人の佇まいは、まるで──

 

 この世の終わりを、想起させた。

 

 二つの天変地異は混ざり合い、ぶつかり合う。

 然して、先ほどまで手も足も出なかったのが嘘のように、二大地獄の体現である《ヘルヘイム》は徐々にテンペストを押し潰していく。《啓龕廟堂》がジョーカーの縛りを、その恩恵を残したまま取り除いてくれているおかげだ。

 

「この程度か?」

「……嘗めるな貴様ァアッ!」

 

 やられる訳にはいかぬと、更に昊噓は【雲耀】と【冰壷】も用いて、真っ向から立ち向かう。テンペストとは別に、虚を突こうと試みる。

 バヂバヂバヂバヂ、ガヂガヂガヂガヂ、という耳を劈く嫌な音の連鎖。雷霆と冰霆が、ジョーカーの編み出したペルソナの力ごと、ジョーカーを貫く──前に、ジョーカーの体を女神達が庇う。

 アナーヒターが【冰壷】の、ブリジットが【雲耀】の前に仁王立ちする体勢となった。

 馬鹿なヤツだと、好機だと、昊噓はなんの躊躇いも無く放ち──瞬間、四つの属性が絡み合った事による呪力反応の爆発に、周囲は爆炎と煙に包まれる。轟々と鼓膜を劈く爆音が、その呪力反応の爆発が正しく爆弾の如き威力だったことを示していた。

 昊噓とて、これに巻き込まれればただでは済まない。ジョーカーとてそれは同じ事である。ならば一旦身を退き、事の顛末を見守ろうとして──

 

「──────、やはりな」

 

 ──予想通りの展開が待っていた。

 

 爆炎の陽炎で、粉塵による影が揺らめいている。

 何の影かなど、想像に難くない。普通の人間なら、あんな爆発が起きれば、その身は焼け死ぬ。いや、焼け死ぬどころの問題ではない。そのあまりの温度に、肉体は一瞬で融解してしまうはずだ。

 あの爆炎の中にいてなお、肉体を保つどころか無傷だなどと、あり得るはずがない。

 ──この男を、除いて。

 

「悪いが、()()()()()()()()()()()()()

 

 ──ジョーカーが刀を振えば、爆炎と粉塵が掻き消える。

 いつものように、頼もしく。

 不敵に嗤うジョーカーが、無疵のままで立っていた。

 

 昊噓はペルソナの存在は知っていても、裏・全書の存在は知らない。ペルソナには極端な弱点と極端な長点がある事を知っていても、ペルソナ一体一体が、何に弱く何に強いのかを知らない。

 裏・全書にて作成した二柱のペルソナ──アナーヒターが氷結属性の攻撃を吸収しジョーカーに還元出来る事も、ブリジットに電撃属性の攻撃に耐性を与えるスキルを覚えさせた事も、当然知らない。

 先に襲ってきた電撃を耐えれば、氷結による攻撃でダメージを中和でき、そして土壇場でそれを成したことも、また知らない。

 故に無知とは罪なのだ。

 

「カウ、《ヒートライザ》」

 

 その無知に故に、罰を受ける事になるとも知り得ないのだから。

 核融合炉を背負う三本足の白い火烏、中国古来より伝わる『太陽』の化身カウ。ジョーカーが所有するペルソナの中で、ジョーカーや味方を補助する事に特化したペルソナ。その太陽のエネルギーで、ジョーカーに熱を与える。

 ヒートライザで、ジョーカーのあらゆる身体性が上昇する。強靭にして(攻撃力上昇)堅固にして(防御力上昇)鋭敏なる肉体(命中率回避率上昇)を得たジョーカーならば、呪力抜きの体術だけの勝負なら、五条悟に追随できる。

 

(やはり、宿儺よりは格下か)

 

 そう率直に思いつつ、霞の構えを取る。

 ──合図は要らなかった。

 一瞬、そして一閃。左袈裟は簡単に右に避けられるのは分かっている。

 これが諸刃の剣であれば、叩き潰すために全ての力を振り絞って振るい、その振り下ろしを突かれるだろう。故に、諸刃の剣は一撃必殺を念頭に置かねばならないのだ。

 だが刀は違う。刀は折れず、曲がらず、よく斬れるというように、『切り付ける』ことを目的とした刀剣だ。とは言え、力加減を間違えれば刃毀れもするし、最悪折れてしまう。逆に言えば、丁寧に使えば何度でも相手を断ち斬れるし、刃毀れすらもする事はない。

 そして握る両手のうち、右手は謂わゆるハンドル、左手は謂わゆるエンジンだ。エンジンを調整すれば、ハンドルは切りやすくも切りにくくもなるというもの。刀とは、そういう技術的な要素も必要な武器なのだ。

 

 袈裟から、右一閃。胴を狙った剣先は、その刃を右手で止められた。ダメージが無いはずがないのに、何の躊躇いもなく握りしめている。呪霊特有の紫苑色の血液が手指から吹き出さない事に嫌な予感がして、迫り来る左手を避けるために、円卓のスポットライトを回してペルソナを召喚する。

 

「ペリ!」

 

 イランに伝わる妖精あるいは天女、女教皇・ペリ。昊噓とジョーカーとの間に展開された踊り子の彼女が手を翳せば、そこに純白の呪力が集結していく。ほどなくして一つの光線が、昊噓の心臓を貫く──

 

「ッ」

 

 ──そのすんでの所で、刀を離して光線の回避に全力を注いだ。果たして《コウガ(祝福属性中攻撃)》は、昊噓の背後にあった天へ向かう巨大な肋骨の一本を破壊する事しかできず、霧散する。

 だが昊噓のその焦りようから、ジョーカーは手段を選ばず、ペリの《コウガ》による祝福属性の攻撃を続行する。

 

 ジョーカーは戦いに『正々堂々』というような騎士道精神めいたものは持ち合わせない。徹底的に相手の嫌がる事をしまくって、その戦い方に相手が怒り始める所を叩く……そうして怯んだ所を総攻撃でフィニッシュが、ジョーカーの頭にある戦いのシナリオでありハウツーだ。

 だからこそ、昊噓は回避しなければならないこの状況に、徐々に焦りと怒りとが織り混ざった感情を孕み始める。

 

 ちなみにペルソナが有する祝福属性攻撃の全ては、反転術式を介する事によって発動する。反転術式による攻撃は、呪力で肉体が出来ている呪霊とは相反する物質。故に対呪霊に最も効果的な攻撃手段であるのだが、ジョーカーがこれを知る事はついぞ無かった。

 

 閑話休題、昊噓の焦りようからして、祝福属性が効果的だと見たジョーカーは、ペリに《コウガ》を連発させつつ、文字通り骨を骨子とした天上に至る地獄の架け橋を駆け抜けていく。

 対する昊噓は《色即是空》で、不可視のブースターやスラスターを体に装着して空中浮遊する事が出来、現にそうやってペリの《コウガ》を避け続けている。このままでは呪力を無駄に消費するだけだと悟ったジョーカーは、更なる一手を用いる事にした。

 

「なら、《マハコウガ》!」

 

 ペルソナの魔法──云うならば呪法攻撃スキルには、『マハ』が頭に付くものとそうでないものがある。これはサンスクリット語で、『多くの』といった意味を持つ。

 所で、ジョーカーの銃によるエイムは下手ではない。下手ではないのだが、かの高名なガンマン・次元大介のようなファンタジーじみたエイム力も持っていない。当たる時は当たるし、外す時は外すのだ。

 察しの良い諸君らならばお分かりだろう。

 下手な鉄砲でも回数を重ねれば当たるのだ。

 

「フハハハハッ!」

 

 さあ、この関門をどう切り抜ける。

 そう言わんばかりに、ジョーカーは嗤う。

 砲門を増やした《コウガ》──否、ペリの《マハコウガ(広範囲祝福属性中攻撃)》が火を吹く──!

 

「──────ッ!!」

 

 だが昊噓とて特級呪霊。いかに先ほどよりも高密度の祝福属性攻撃とはいえ、こんなものに当たるほど特級の名は伊達ではない。下から噴き上げてくる即死級の光線をどうにか避け続ける。

 そしてたった今、【雲耀】と【冰壷】のリキャストタイムの消化が終わった。

 

「失せよ!!」

 

 苛々しながら叫ぶ。昊噓の最大瞬間呪力出力を以って降り注ぐのは、霹靂(へきれき)氷雨(ひさめ)。ペルソナがその担い手と痛覚を共有している事を知っている、ジョーカーを狙う余裕のない昊噓は、ペリを【雲耀】と【冰壷】で貫き消し飛ばす──

 

「戻れ、ペリ!」

 

 ──よりも早く、ジョーカーは昊噓の上を取っていた。

 この時、ジョーカーの声に反応せずペリを攻撃出来ていれば、昊噓はジョーカーに勝てていただろう。ペリを破壊されたその激痛に怯み、一気に詰められていただろう。

 だが、そうはならなかった。昊噓は心臓を刀で貫かれ、不意に浮力を失い仰向けに不時着してしまう。勝敗はもはや、決したと言っても過言では無かった。

 刀を引き抜き、今度は首元に刃を当てがうが、それ以上先には進まない。トドメを刺す事よりも、ジョーカーは気になっている事があったのだ。

 

「答えろ。なぜオレの前の名を知っている」

 

 返答は、沈黙によって行われる。

 だがそれは、ジョーカーの求める答えではない。故に、尋問ではなく拷問の手を取る事にした。

 まずは視界を奪わんと、予告もなくその布作面ごと眼部を刀で切り飛ばし──

 

「な──────に?」

 

 見えたのは、〝穴〟であった。

 昊噓の頭部の中央……そこには大きく〝穴〟が空いていた。その穴はフードの裏の黒を貫通して見せていた。目、鼻、口……容姿を語る上で外せないものが、その穴によって欠落してしまっていた。

 否、そもそもこの昊噓の頭は、頭というには角張りすぎている。まるで線対称の結晶体のような頭だ。顔の部位など付けようがないほどに、頭部として整形されている。

 ──そしてその衝撃の隙を、ジョーカーは突かれる。

 

「《色即是空・(ごく)(ばん)》【(あい)】!!」

 

 拘束された昊噓に出来る事といえば、このくらいしかない。

 【冰壷】の作成に際し込めた莫大な呪力を、《色即是空》で一気に解放して極小にして極大の乱気流を相手にぶつける、領域展開とはまた別の奥義《極の番》。【雲耀】でも出来るが、今回は比較的作成コストの低い【冰壷】を選んだ。

 閑話休題、ジョーカーが最後に装備したペリは、疾風に対する耐性が無く、故にジョーカーは腹部にて吹き荒ぶ業風に吹き飛ばされてしまう。少なくない衝撃と苦痛に顔を顰めながら、しかし斃れる訳にはいかずギリギリで踏ん張る。鳩尾に深く突き刺さったそれに、ジョーカーは一瞬、呼吸の仕方を忘れてしまう。

 

「貴様は……貴様だけは必ず潰す」

 

 昊噓は悟る。

 ジョーカーに領域を展開させたままでは、勝てないと。

 

「我が名は昊噓。『宇宙』へと至りて、貴様の遍くを否定し、奪取する者……!」

 

 なら、呪力の大部分を消費する事になってしまうが──致し方あるまい。

 掌印を結ぶ。合掌のようでいて少し違う。片方の手を少しずらし、指横を互いの指横で挟む事で完成する。

 福音は何者にも齎される。その福音の示す先が、いかなる末路を辿ろうと、神からの祝福には違いはない。人々を救うメッセージに他ならない。

 だが得てして祝福とは、相応の呪い足り得るのだ。福音に込められたその祝福が、全人類の救済などと云うように、重ければ重いほどに。

 ──最大の救済が『死』であるように。

 

 

「領域展開──」

 

 

 18.

 吉野順平は今、己の人生を一から振り返っていた。

 思えば、後悔ばかりの人生だった。

 母が父と離婚してからというものの、順平は母の負担にならぬよう努めていた。我儘を言う事はなくなり、自己主張をあまりしなくなっていった。

 地元では最も偏差値の高い県立高校を選んだのも、高校卒業後は就職すると決めていたのも、全ては母を思ってのこと。

 だが高校に入ってからは、その全てが水泡に帰した。

 一年の夏にいじめを受けてから、全てが狂い始めた。全て……全て、伊藤と、その取り巻きと、外村と……学校のせいだ。よくある事だ。利益や名声を求るがゆえに、それ以外を蔑ろにすることなど、学校だけでなく社会においても、分かりやすいほどに存在する。

 けれど、僕が何をした。ただ趣味を分かち合える人と集まっていただけじゃないか。ただ友達と語り合っていただけじゃないか。

 

 ただ、生きていただけじゃないか。

 

 それすらも許されないのか、僕は。

 

(……はは、ろくな思い出が無いや。こんななら、映画以外にも趣味を持っとくんだった)

 

 浮かぶのは自嘲。そして後悔。

 そして最後に、出会った三人の人間と一体の呪いの顔。

 一般人には波瀾万丈すぎる人生だったが──

 

(けれどまあ……最後くらいは楽しかったな)

 

 その永遠とも言える孤独を、蓮達は取り払ってくれた。

 吐き出してしまったが、あのカレーは美味かった。また食べたいと思えたのは、今生においてはあのカレーくらいだろう。思い起こして仕舞えばつらくなるだけだと分かっているのに、まるで走馬灯のように脳裏に過ぎ去っていく。

 昨夜──作戦決行前の、虎杖悠仁と松岡瞳が帰った後。吉野凪が眠り、実質的に吉野順平と雨宮蓮だけになった晩。

 

 ──蓮は、怖くないの? 死んじゃうかもしれないのに……。

 

 そういう風に問うたのは、自信も紛れもない、吉野順平自身だった。

 吉野順平は怖かった。自分を救うための作戦が上手くいく保証はない。雨宮蓮は自分で自分の半身を大きく傷つける羽目になり、呪力と生命力が失われればゲームオーバーで、そうなれば母の凪は死に、その息子たる自分も死ぬと分かっていた。

 順平は、呪術をよく知らない。だからこそ蓮に頼るしかないのだが、蓮の生命力を甘く見るほど楽観的でもなかったのだ。いかに呪術界において実力者であるとはいえ、蓮とて人間。深刻なダメージを受ければ、普通に死ぬのだ。

 かと言って、何か別の作戦が思いつく訳でもない。この偽装作戦に変わる確実な手段は、順平の頭は閃かなかった。だからこそ不安なのだ。自分のために死ぬくらいなら、いっそここで迎え撃った方がいいと。

 

 ──なら、聞く。

 

 だが蓮からの返答はシンプルだった。暗に「それがどうした」と言っているように聞こえたのは、間違いではないのだろう。この作戦を蓮から聞いた時、順平は自身の耳を疑った。そして気がついたのだ。

 雨宮蓮は、自身の命を軽視している。

 まるでいつ自分が死んでも構わないというように、常に腹を括っているようで、しかしそれを表に出す事はなく、あっけらかんと言ってのけるのだ。

 吉野順平は、友に恐怖する。

 得体が知れないのだ。今までに会ったことのないような、ナチュラルボーンの正義の味方を張っている英雄は、友達から見れば破綻者だ。誰かを救うために自分の命を軽く捨てられるのは、ヒーローになりたいと思うのは、そういう奴のことなのだ。

 だから怖かった。母を喪う事はつらい。だが友に助けられて、その友は死に、自分だけが生き残る方がもっとつらい。

 自分のために命を賭してくれるのは、嬉しくもあり、そして自分にはそれほどの価値はないと思ってしまう。

 

 だが蓮は、たった一言で全てを覆してしまった。

 

 ──諦めるのか?

 

 だからこそ、吉野順平は雨宮蓮を誇りに思うのだ。

 そんな心の強さに、憧れてやまないのだ。

 

「……身構えてどうするの、今更?」

 

 嗤いながら問う真人。

 だが意に介さず、笑って紡ぐ。

 

「死ぬ時まで、蓮の……ジョーカーの友達でいたいだけだ」

 

 真人がくっちゃべってくれる時間で、【澱月】の展開は終了する。

 

最後の一瞬まで、諦めたくないから。

 

 これは、吉野順平の憑き物を落とすための戦い(付物語)だ。

 

 真っ当な呪術師でない吉野順平にとって、死に際の覚悟など出来るはずもなく。

 

 だからこそ、生の渇望こそが順平の心の原動力となる。

 

 だって、初めてはっきりと思えたんだよ。

 

 皆と一緒に生きていたい……って。

 

「キッショ」

 

 不快感を隠そうともせず、しかし真人は順平を罵倒するしかなかった。圧倒的優位に立っているはずなのに、順平の顔色が絶望に染まらない事に懐疑心を持たざるを得なかったのだ。

 人の本質は『悪』だ。それ故に『人の呪い』である自分は生まれ、『人と同じように悪を成す』のだ。それは、ガワだけとはいえ共に会話していた順平もわかっているはずなのだ。

 有象無象に、そして中途半端に『悪』も成せず、惰性のままに他を貪っている『人』に意味はなく。故に我々呪いが人に成り変わるのだと。

 

 だが、もう順平はその領域にはいない。

 気付いたのだ。ジョーカーと真人は表裏一体である事に。それでいて、ジョーカーと真人の間に、決定的な格の差がある事に。

 

 ジョーカーは、真人は、同様に『悪』だ。目的のためならば手段を選ばない悪だ。

 しかしジョーカーは悪であって邪悪ではない。真人には無いものを持って、悪を成しているからだ。

 

 二人の格の差。それこそが、美学だ。

 

 ジョーカーの美学──星。星のように気高く、誰かの心に光を灯すような、遥か遠くにいても輝いている一等星。

 

 星を目指し泥濘に克つ愚者に、

 隠者は心を奪われたのだ。

 

 彼のようになりたいと、憧れたのだ。

 

 なら、ここでは死ねない。

 その星に手を伸ばしても、今は届かない。高望みだと嘲笑う者もいるだろう。

 けれど──

 

 

 そんなの、やってみなくちゃ分からないだろ!!

 

 

 手を伸ばす。真人は人に、順平は星に。

 諦めよ嘯く悪魔と、もう揺るがない不屈の魂。

 ……しかし。

 順平がこの《自閉円頓裹》で出来る事は無く。

 その拳と【澱月】の爪は、真人に届く前に──

 

「死んじゃえよ、お前──!」

 

 真人の《自閉円頓裹》が、順平を無惨に殺さんと──

 

 

「ォォオオヲオ、ラァアアア!!」

 

 

 ──発動するその寸前。

 順平にとっての福音が、その天井を破って舞い降りた。

 

「順平──!」

「──悠仁!」

 

 孔の空いた拳、塗れる血。──少年は意に介さない。

 何が出来るかは分からない。──諦める理由はいらない。

 虎杖悠仁、見参。──さあ、真っ直ぐにブッ飛ばす!!

 

(何で、入れる──)

 

 領域展開の『殻』は、『内側』からは強く、『外側』からは弱い。当然だ。領域展開とは、相手を自身の生得領域に『閉じ込める』ためのもの。呪術の原則『等価交換』に則れば、内側の硬度を上げる度に、外側の硬度は下がるのは当然のこと。

 なぜなら、侵入者にメリットが無いからだ。わざわざ底なし沼に飛び込むような愚かな行為なのだ。

 ほんの少しのアドバンテージとして、侵入時の結界が崩壊して、それが直るまでの間は、『必中』の効果を与えられないというのがあるが、それもほぼ一瞬程度だ。領域展開を出来るほどの実力者がその一瞬を警戒しない訳もないため、隙とは言えない。

 現にもう領域は直ってしまい、『必中』の効果が適用され始めている。

 

 そう。

 虎杖悠仁と吉野順平に『必中必殺』である《無為転変》の効果を適用したという事は。

 真人は、悠仁に巣食う『禁忌』に()()()()()()()()()()()という事……!

 

 

「言ったはずだぞ」

 

 

 不躾者を、見下す王。

 呪いの王の御前にて、

 土足で踏み入るその蛮行。

 その不敬は万死に値する。

 

 

「次は無いと」

 

 

 ──懺。

 それが、真人が《自閉円頓裹》で聞き取れた、最後の肉の音だった。

 たかだか軽く指を振るっただけだった。

 それだけで、真人の心臓に至るまでの肉を切断した。

 それだけで、真人にとって充分に致命傷足り得たのだ。

 

 そう、宿儺の興味は真人にも、ましてや吉野順平にも無い。

 誰が死に、誰が死のうと、宿儺の知る所ではない。

 雨宮蓮か伏黒恵以外の人間など──

 

 

心底どうでもいい……。

 

 

 ──世界が崩壊していく。手を取り合って構成していた絆を砕かれ、真人は苦痛に喘ぐ。あっという間に、順平が見慣れた里桜高校の校庭へと舞い戻ってきた。

 

(何だ、何が起こったんだ?)

 

 吉野順平は、両面宿儺を『すごくつよい』だとか『めっちゃ自己中』といった、アバウトに聞かされた分しか知らない。虎杖悠仁が宿儺の指を集めている事や、宿儺を受肉してしまったために死刑を受けている事は知らない。

 だが、先ほど真人の《自閉円頓裹》に悠仁が踏み入った事で、真人は宿儺の逆鱗に触れたという事は分かった。そして、その気になれば宿儺は日本中の全てを破壊出来るほどの実力の持ち主である事も。

 

(──あ、隙──、──!!)

 

 そこまで理解出来た順平には、もはや躊躇いなど一片もなく。

 呪力の削られている真人を斃すには、今が絶好の機会だ。

 ──しかし。

 

 

 空を裂く雷霆の余波が、里桜高校全体を大きく震わせた。見ると、帳が掻き消え満点の青空が、その全容を表していた。

 そのあまりの衝撃に、さしもの虎杖悠仁ですら体勢を崩してしまい──

 

(──搾り出せ、最後の呪力を!!)

 

 それは、真人にとって逃げの好機。真人はまるで気球のように己の体を大きく膨らませた。全長はおよそ四メートルはあろうといった具合に、二人に祓除のチャンスを与えたのだ。

 体勢を立て直した二人。先手を打ったのは順平が展開したままにしていた【澱月】だった。その伸縮自在の触手の爪が、真人の腹部を貫き。

 ──パァン、と破裂した。

 

「ばいばァい」

 

 声の方向を見ると、そこには排水溝に体を捩じ込んで逃げつつある、真人の()()()がいた。あの気球真人は、本体を逃すためのブラフ。危機的状況を脱し、気が楽になっていた順平は、まんまとそれに騙されたのだ。

 

「楽しかったヨ〜〜〜」

「あ゙ァッ!!」

 

 悠仁がその剛拳で排水溝ごと真人を潰そうとするも、時すでに遅し。もう真人はそこにはおらず、故に二人にできるのは、真人を排水溝にて追いかけ、トドメを刺すこと。

 ──しかし。

 

(────────────あ、れ?)

「順平!? おい、順平!」

 

 順平は、どうやらここまでらしかった。【澱月】が霧散し、その場に倒れ伏してしまう。起き上がれない。手に力が入らない。

 気を張り詰める死地を脱した事で、緊張が一気に緩和したのだ。加えて、普段激しい運動をしないが故の、純粋な体力の限界が来ていたのだ。

 悠仁の安否を確認する声が遠くなっていく。

 その日、順平がその呼び掛けに答える事はなかった。

 

 

 19.

 ジョーカーのペルソナには、【合体事故】という概念がある。

 ジョーカーのペルソナは、別々のペルソナを掛け合わせ、別の存在に昇格させたものがほとんどを占める。最初から最後まで共にあったのは《アルセーヌ》をおいて他にないほど、ジョーカーは【ペルソナ合体】を愛用する。

 【ペルソナ合体】で作られるペルソナは、所持しているペルソナの組み合わせや、ペルソナ一柱一柱に定められているアルカナといった法則など、様々な事象が絡み合う事で、多種多様に変化する。

 更に合体先のペルソナは、合体元となるペルソナのスキルや特性を継承する事が出来る。それを利用する事で、かつてヒーラー要員として連れていた《マーメイド》の弱点であった電撃属性に耐性を付けることに成功した。

 【ペルソナ合体】を活用すれば、ジョーカーのペルソナは、アタッカーやタンク、ヒーラーもバファーも、ありとあらゆる戦法を充実させる事ができる。

 

「領域展開──」

「──祓え賜え

 

 しかし時偶(ときたま)、ジョーカーはおろか、【ペルソナ合体】を行う本人であるラヴェンツァですら予測出来ない現象が起こる事がある。それが【合体事故】である。

 【合体事故】とは、合体先のペルソナが別のペルソナとして転生してしまった事態を指す。

 何かしらのトラブルを起こさない限り、その合体先のペルソナそのものが別のペルソナに転生する事はない。

 だが、ラヴェンツァがその『何かしらのトラブル』をしてしまった時、合体先のペルソナは『予定していたものと全く別物で』かつ『ジョーカーが扱えないほどにレベルが高くなったり』、『本来ならば覚えないような強力なスキルを覚えたり』、『未登録のペルソナになる事もあれば登録済みのペルソナになる事もあったり』と、全くの予想外の事態を引き起こしてしまう。

 故に、【合体事故】なのだ。

 

 そしてジョーカーは今回、良い方向に【合体事故】を起こせたようだ。

 

 奴が、神の如くに物を云うなら。

 こちらも神で、事を為すまで。

 

ハチマン──」

 

 曇天の雨が割れ、太陽の如き肉を持つ一柱の神が舞い降りる。軍神として広く日本に伝わる古き神であり、ジョーカーが保有する八柱のペルソナの最後の一柱であるハチマンは、契約者たるジョーカーの指示により、その人差し指を空へと手向ける。

 

 認知スキルの制限は今はない。残存呪力の許す限り、何度でも打つことができる。だがジョーカーには、次を考える事はなかった。ここで昊噓を祓いきる事だけを考えた。

 

 ハチマン……八幡神(はちまんのかみ)とは、元々を辿れば素戔嗚(スサノヲ)である。そしてスサノヲとは、日本最古の雷神と言っても過言ではないほどの実力の持ち主だ。

 雷神の威厳という名の恐怖を称える認知スキル。《ヒートライザ》、縛り③、④、⑩の効果が相乗し、ハチマンのステータスが爆発的に向上する。数値化した場合、そのレベルは二〇九。

 かつてのヨシツネよりは低いが──昊噓を祓うには申し分無い。

 

霹靂神(はたたがみ)

 

 ──それを例えるなら、風を払い荒れ狂う稲光。

 

 閃光が駆ける。

 

 七海建人が受けた【雲耀】のそれよりも特大の雷霆。

 

 正しく一筋の神の怒りは、容易く昊噓の体を射抜き──

 

 そして、そこが今のジョーカーの──()()()の限界だった。

 

「……くそ、こんな時に……!」

 

 怪盗服が消え、漆黒の制服へと元通りになってしまう。膝を突き、変な汗を全身に流す蓮。見ると、かつて雨宮蓮がクルスアキラだった頃に見た地獄は掻き消えてしまっている。

 世界は跡形も崩れ去り、元の中庭へと風景が変わる。遠くには、眠ったままの七海建人。そして蓮と建人を挟んだ中間に──昊噓は、膝を突いて死に()()()()()

 

 なぜ祓えていない──蓮の頭の中は、その事で一杯だった。

 呪力を練れない今、蓮にはもう、どうする事も出来なかった。せめて出来るのは、相手を睨みつける事くらいだ。

 見ると、昊噓の頭上で球体が一つ展開され……そして力尽きるように霧散した。昊噓はせめてもの抵抗に、【雲耀】を犠牲にした《極の番:藹》による擬似防護壁を展開していたのだ。科戸風(しなとかぜ)が雷の威力を削っていなければ、昊噓は本当に危なかった。

 昊噓の着る衣服は破け、顔が全て露出している。パーカーはその余波で燃え盛っており、着用していた手袋とスラックスはそれぞれ散り散りに炭となっていく。昊噓の肉体の証明が出来なくなり、遂に四肢が掻き消え、土砂に崩れ落ちる。

 昊噓の祓除まで後一歩。

 なのに、体が動かない。

 

 ──吉野順平とその母の凪を救う作戦は、何一つ滞りなく成功した。真人を騙すためにペルソナ・ドッペルゲンガーを展開し続け、見事彼奴を欺くに至った。

 しかしジョーカーは、その作戦のために、呪力総量の大部分を消費してしまっており、更に体力の低下も相俟って、昊噓戦の前に完全に回復することは出来なかったのだ。

 ジョーカーは普段、ペルソナの召喚やスキル使用に掛かる呪力を節約するために、長時間ペルソナを展開することはない。いつぞやで解説したが、ペルソナの展開やスキル及び反転術式には、大量の呪力を消費するためだ。

 尤もスキルは一度発動させるだけならさほど問題はないし、補助系のスキルならば一度発動させてしまえば効果は持続するのだが。しかしスキルのグレードが上がってくるとそうも言ってはいられない。

 特に拡張術式である認知スキルは、ペルソナの潜在能力を強制的に引き出すためにジョーカー自身が編み出したスキルだ。であればそれ相応に呪力を消費するのは道理。

 ドッペルゲンガーの認知スキル〝百貌〟……ドッペルゲンガーこそ低級のペルソナであったが、その認知スキルの維持のためにジョーカーを苦しませたのだ。高位のペルソナであるハチマンであれば、その認知スキル発動にはジョーカーの呪力の大部分を喰らうのは道理だ。ましてやスキルの維持など、到底出来るはずもない。

 更には領域展開も相俟って、ジョーカーの戦闘継続力はもう底を突いてしまった。

 

「……認めよう」

 

 だが、その甲斐はあった。

 ハチマンの認知スキル〝霹靂神〟は、その余波で真人が貼った帳をも破壊してみせた。

 雨が降った後は、青い空が待っている。

 見上げた大空は、青く澄み切っている。三千世界の傲慢をも照らし、晴らさせてしまえるような──蒼い、蒼い空であった。

 【雲耀】が無ければ、あるいは無い真人ならば、その一撃で祓除されてしまっていただろう。昊噓は運良く生き残ったが、しかしそれでもなお、〝霹靂神〟は昊噓を死に体にさせるに至った。真人では確実に耐えられない……そういう確信を昊噓に残した。

 

「此度は退いてやる……!!」

「──っ、待て……!」

 

 故に、恥も外聞も捨てて、昊噓は自身に《色即是空》を施し『霧散する』。ちまちま作った【雲耀】【冰壷】、そして人々が恐れる事で生ずる呪力など、昊噓のほぼ全てを無為にしてまでも生き残る最後の切り札。

 後に残るのは、昊噓が着ていた洋服の残り滓だけ。

 追いかける事もままならず……そしてガス欠の雨宮蓮に出来るのは、七海建人の無事を確認して、気を失う事だけだった。

 

 

PERSONA5 in Jujutsu Kaisen

Let us start the game.

#22 Blooming Villain




 ミックスレイド解放:《ヘルヘイム》
 アナーヒターとブリジットを連れていることで発動可能。敵全体に火炎属性及び氷結属性の全体中攻撃。相手の耐性を貫通する。中確率で火傷状態か凍結状態を付与できる。
 認知スキル:《霹靂神》
 ハチマンの認知スキル。敵単体に電撃属性の特大攻撃。相手の耐性を貫通する。中確率で麻痺状態を付与できる。

 本来の主人公よりも主人公してる原作死亡キャラがいるって魔?
 幼魚と逆罰篇が終わったらジョーカーのステータスと昊噓の設定を出すよ
 つーか212話でやべーことが起こっちゃったよ…11話と12話でキャラに言わせた事が本当になるとか思わないじゃん…
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